走る、走る、走り続ける。
辛い所では無い。
一瞬のミスがそのまま死に繋がるような、極限の緊張状態。
背後より迫るは大英雄。
──しかし、足を止める事は無い。
《ヘラクレスとの距離は後500!このまま行けば逃げ切れる!!》
ロマンの通信を聞いて、より一層気を引き締めて走る。
振り向く訳には行かない、万が一目が合えば──気圧される。
遠方の契約の箱が藤丸の視界に入る。
此処からは最悪ウルフデカリバー50の空間移動を使えば良い!
故に藤丸は剣を取りださんとし──
「あ?」
呼吸が、出来ない。
ゴジュウウルフの装甲が剥がれ、藤丸立香の姿が露出されてしまう。
身体が、動かない。
──大英雄がこの特異点で放った、純粋な殺気。
サーヴァントでさえ身がすくんでしまうような、威圧。
「藤丸!藤丸!!」
エウリュアレが必死に声を掛けるが、藤丸の耳には届かない。
スーパー戦隊の力を宿したとて
はぐれものだったとしても
彼は、ただの人間であった。
本能は恐怖より逃れる為に、その意識を手放さんとする。
身体がぐらりと傾き──
【目覚めろ!藤丸立香!!】
テガソードが、辺りを照らす程に強く光り輝く。
強烈な閃光により藤丸立香の意識は叩き起こされる。
無論、ヘラクレス殺気は継続しており目覚めた側から気絶したとておかしくはない。
──しかし、藤丸は再び駆け始める。
まだ何も見せちゃいねえ
どんな願いかさえ、分かっちゃいねえ。
だからまだ終わらない。
責任でも義務でも無いが、それでも──信頼に応えたい。
《アークは目の前だ!そのまま飛び超えろぉ!!》
「行きなさい……!藤丸!!」
英雄でも英霊でも一般人でさえない逸れ者。
そんな中途半端な俺でも──"マスター"として
期待には、応えたい!
契約の箱を飛び越え、真後ろに迫って居たヘラクレスの殴打をギリギリで回避する。
「──!」
ヘラクレスは壁へと激突した藤丸を追おうとして、眼前に置かれている箱を見ると同時──即座に離脱せんとする。
しかして、もう遅い。
「このまま触れさせる!押せぇぇぇぇぇぇ!!!」
マシュ、陸王、角乃、竜儀、ドレイク、アステリオス、アルテミス、ダビデ、アタランテ、黒髭が既にヘラクレスの背後へと迫っており、大英雄の身を契約の箱へと触れさせるべくマシュの盾を全員が掴み、一気に押し込まんとする!!
──しかし
「■■■■■■■■■■■!!」
無数の斬撃が、地下墓地全体を斬り裂き始める。
大英雄は箱に触れず、押し止まりひたすら斬撃を放ち続ける。
「諸共埋めるつもりか──!」
ダビデが相手の狙いを察し、より力を込めるがやはりビクともしない。
「汝、まさか……!」
アタランテが何かに気付いたようにヘラクレスを見る。
そう、ヘラクレスは最初から箱の欺瞞に気付いていた。
故に世界を守る為に──エウリュアレを殺そうとした。
それだけではない。
どれだけ狂気に塗れようとも、拭い去れない記憶があった。
神の栄光、或いはバケモノ。
オレと共にいる間だけ君は化け物じゃなくなるよ
未来の王を護りし大英雄だ!!
傲慢で愚かな男はそう言って笑った。
その記憶、その輝きは決して忘れはしない。
勇者ヘラクレスは時代の消滅に決して加担しない。
ましてやそれを──"友"にやらせるなど!!
大英雄の渾身の力が、炸裂する。
マシュの盾こそ残ってはあるが、地下墓地は徐々にひび割れ、壊れ始める。
止まらない、止まりはしない。
ロマンが、退去命令を下そうとした時
その海賊は、飛び出した。
「──黒髭」
斬撃が、止まる。
黒髭と言う男の身体に突き刺さり、大英雄の宝具が受け止められる。
「動けねえだろ?
ナンバーワンを極めた者には……力技が効かねえんだとよ」
霊基を修復する際に、黒髭はトレジャーハントノーワンの一部を強奪し、己が物とした。
不完全な性質は力を完全に弾き飛ばすのではなく、こうして体内で攻撃を止めさせる事しか出来ない。
「さあ……やれ!ドレイク!!」
ドレイクは既に、黒髭の意志を理解していた。
【ゴーカイジャー!】
光り輝くセンタイリングをテガソードへと嵌め、豪快な海賊へと姿を変える。
マシュが意図を理解し、即座に道を開ける。
ドレイクが構えるはガレオンバスター。
藤丸、陸王、角乃、竜儀が持っている指輪が輝き──それは大いなる力を秘めた鍵、レンジャーキーへと変化する。
藤丸がマシュにレンジャーキーを投げ渡す事により
ゴジュウウルフ、マジレッド、ドンモモタロウ、オーレッドの4本のレンジャーキーが装填される。
【レッドチャージ!】
ドレイクがゴーカイレッドのレンジャーキーを挿入すれば、赤き光がガレオンへと集まる。
即座にヘラクレスが脱れんとするが、深く突き刺さった棍棒は海賊の身体から離れる事は無い。
一瞬の判断、それが生死を分けた。
【ライジングストライク!!】
赤き光が船──ゴールデン・ハインド号の形となりて、大英雄へと直撃する。
大きく、大きくヘラクレスは押され──等々、契約の箱へと触れてしまう。
今際の際にヘラクレスが思い返したのは──
「そうさ!お前が俺の呼び声に応えない訳がない!!」
久し振りに会った友の、相変わらず傲慢で愚かで──
相変わらずの、夢の綺麗さだった。
「──ま、奪えねえなら壊しちまえってな」
大英雄が消え去ったのを見た後、黒髭は頭を掻く。
全身から血が溢れ、身体の端から光の粒子へと還っていく。
前に起こった、ノーワンとの融合のような奇跡はもう起きないであろう。
しかし黒髭は満足そうに笑う。
決着を邪魔された借りは、返してやった。
「──んじゃあなエドワード。
その首、きっちり忘れずに持って行きな」
ドレイクが、笑って黒髭へと声を掛ける。
黒髭は──初めて純粋に驚いたような顔を見せれば
「……そいつは良い!最高だ!」
豪快に笑う、笑って笑って笑いつつも片腕を掲げて見せる。
「さらばだ人類!さらばだ海賊!
黒髭が誰より尊敬した女が──誰より焦がれた、海賊が!!
黒髭の死を看取ってくれる上にこの首をそのまま残してくれるなんてな!!」
しかも、大英雄殺しまで成し遂げられた!
これほどまでにめちゃくちゃやって、満足出来た死を送れる奴は早々居ねえだろう!!
「……じゃあな、野朗ども!
黒髭は死ぬぞ!!!!」
そう言い残し、黒髭は光の粒子となって完全に消え去る。
ドレイクは静かに黒髭が居た場所を見れば、一つ頷いて踵を返す。
「それじゃあ、行こうか!
目標はアルゴー号、連中が持ってる財宝──自由の海!
奪ってみせようじゃあないか!!」
大英雄を撃破し
黒髭と言う海賊の死を見届けて
ついに、英雄集う船との最終決戦が始まろうとしていた