イアソンは、船の上から島を見る。
遅い。
ヘラクレスともあろうものが、塵芥を殺すのにこれ程時間を掛けるか?
いや、ヘラクレスが負ける筈がない。
大方ミノタウルスの迷宮に足止めを食らったのだろう!
だがまあ、時間をかけすぎるようなら援軍を送っても良い。
「メディア、ヘラクレスは今何処だ?使い魔を飛ばせ」
迷宮があれば幾つかキュータマを使ってやれば良い、幾つかアタランテに盗られているが問題は無い。
故にさっさとしろ、と何故か動かないメディアを見て──
「その必要は無さそうです、ヘラクレスは撃破されました」
は。と
その言葉にイアソンは固まる。
やられた、ヤラレタ?
彼奴が──無敵の大英雄が?
あんな、奴等に?
「船長、敵さんが迫ってきてますが」
ヘクトールの視線の先には、船に乗って此方へと迫るドレイク達の姿。
冗談だろ?
俺は今悪い夢を見てるのか?
ヘラクレスが撃破されて、しかも相手は誰一人として欠けちゃいない。
迎撃するか?
…………ヘラクレスを、倒した相手に?
「ふざけるな──ふざけるなあ!!
彼奴は不死身の大英雄だぞ!
こんな、こんな雑魚に倒されて良い筈が無いだろうがあ!!」
激情のままにドレイクを指差すイアソン。
ドレイクは何やら感心したように腕を組めば
「アンタにも一角の友情はあったんだね、酷く歪んじゃいるけどさ」
ドレイクの表情に、イアソンは酷く苛立つ。
聖杯を使って新たなサーヴァントを呼ぶか?
いいや、もう良い。
こいつらは今此処で叩き潰す。
どうせ卑怯な手を使ってヘラクレスを嵌めたに違いない!!
奴等を殺し、指輪を奪い、ヘラクレスを再び呼び、俺は王となる!!
「正面から蹴散らす──全員出ろ!!」
「アイアイ」
「了解したよ」
「腕の見せ所ね!」
船を方向転換し、真正面から突っ込む。
ヘクトールが槍を構え、シャイニングナイフとスイートケークが剣を構える。
「エンゲージ!」
イアソンもまたシシレッドへと姿を変える。
──最も前線には出ないのだが。
メディアを側に置き、テガソードを敵へと向ける。
「ふうん、突っ込んでくるのか
ちょっと意外だったけれど──好都合さ!
さあ、顔だけ男!最期くらいは良い所見せてみな!!」
互いの船が激突し、いよいよ最後の決戦が始まろうとした時──
「あえ」
イアソンの装甲が、剥がれ落ちる。
口から血が溢れ落ち、信じられないような目で──笑顔で腹部を刺している、メディアを見ていた。
「相手戦力は充実しており、逃げるだけならばヘクトールを犠牲にすればかないましたが……真っ向勝負となると、流石に無理でしょう」
グリグリ、と刃を動かして傷を広げる。
手からこぼれ落ちたキュウレンジャーの指輪を、メディアは拾い上げる。
「これも返して貰いますね?
イアソンの口から声にならない声と共に、血が溢れる。
センタイリングは黒き波動に包まれ、その絵柄を変えていく。
「──成る程、イアソンに嘘を吐いたのは君だったのか」
皆が言葉を失う中、ダビデは冷静に話しかける。
メディアは笑顔を崩さぬまま頷く。
「いえ、嘘ではありませんよ?
時代が死ねば世界は滅び、敵は居なくなるんですから」
イアソンが、ゆらりと腕を動かしてメディアの肩を掴む
最早途切れ途切れの呼吸音しか出せない口を開き、ヘクトールとシャイニングナイフ&スイートケークを見たが
「悪いな、俺のマスターは其方なんだ」
「いやあ恐ろしいお嬢さんも居たものだ」
「もうちょっとお話ししたかったんだけれどね〜」
ヘクトールはへらりと笑って槍を担ぎ
シャイニングナイフとスイートケークはどこ吹く風と言った様子。
ああ、俺は──船長として見られてなかったのか
「イアソン!!」
アタランテが矢を番え、放つがヘクトールにより弾かれる。
ドレイク達も漸く動き始めた──が、間に合わない。
「聖杯よ。我が願望を叶える究極の器よ。
顕現せよ、牢記せよ、これに至るは七十二の魔神柱なり」
イアソンの身体がドロリと溶けて
シシレッド──否、蛇の眼を胸に宿すヘビツカイメタルの力が宿され、魔神柱は此処に顕現する。
「さあ、序列三十、海魔フォルネウス。
宇宙の救世主達の星を糧に、アナタの旅を終わらせましょう」
「からだ、とけ、いや、たすけ」
イアソンの悲鳴を自らの口付けで塞ぎ、魔力を流し込んで
──イアソンは、異形の肉柱へとなった。
本来のシシレッドはメディアでした