Fate/ No.1order!   作:飲み屋蹴り注ぐ

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思ったより進まない……


所長と医者と銀の右手

 

「此処が中央管制室です。

先輩の番号は……一桁台、最前列ですね」

 

終わった。

ただでさえ何か眠いと言うのに、寝たら即バレする最前列とも来た。

ショックのあまり、軽く視界が白く染まったような気さえする。

 

「……先輩?顔の色が優れないようですが?」

 

「眠い。」

 

そりゃもうとんでもなく眠い、徹夜明けより眠い。

顔色が優れなくなる程眠いのだ。未だに表層意識が覚醒してないのであろうか?

 

「シュミレーターの後遺症ですね。

直ぐに医務室にお連れしたいのですが……」

 

ああ、本当に眠れるのなら眠ってしまいたい……が視線がめちゃくちゃ痛い、主に白髪オレンジの瞳を持っている女性の目が。

キッと此方を睨んでるようさえする、怖い。

 

「無駄口は避けた方が良さそうだ。

これ、もう始まってるようだからね」

 

だから我慢してくれ、と言わんばかりに此方に微笑みを向けるレフ。

腹を括ったは良いが耐えられる気がしない。

所長が此方を見て溜め息を吐けば

 

「──時間通りとは行きませんが、全員揃ったようですね」

 

やれやれ、と髪を払いつつ所長は言葉を紡ぐ

──眠い。マジで耐えられない気がする。

 

「特務機関カルデアへようこそ。

所長のオルガマリー・アニマスフィアです。

あなた達は各国から選抜、あるいは発見された稀有な──」

 

知ってるか、校長先生の話はガチで眠くなる。

今の俺はまさしくその状態だ、もう何言ってるか分かんなくなってきた。

視界が白黒になる、意識が徐々に落ちて──

一閃、バチーン!と景気の良い音が響き渡る

じんじんと痛む頬

眼前には、一目でわかる怒りの所長のお顔。

何か言うまでもなく、管制室から俺は叩き出されてしまった。残念ではなく残当な結果である。

 

「大丈夫ですか、先輩?」

 

「……やっぱ寝てた?」

 

「はい、眠っていたかどうかで言えば、どことなくレム睡眠だった……ような」

 

やっぱり寝てたらしい。

最前列で寝てる奴がいたらそりゃビンタの一発放ちたくなるだろう

に、しても良かった

 

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「はい、流石にそこまでは所長もしなかったみたいです」

 

「──にしてもアレ何?所長専用武器みたいな?」

 

銀色に煌めくあの武器。もし自分で作ったのなら相当センスが変わっているような気もする。

何を考えたら右手みたいな武器を作ろうと思うのだろうか……

 

「──実を言うと、所長はあの武器についてまだ説明をなされていません。

入手した経緯さえも良く分からないのですが……肌身離さず持っており、所長曰く"私の切り札"らしいです」

 

切り札……やはり特別な物らしい。

どんだけお金かけたんだろう、そしてやっぱりビームとか出るのかな……

 

「ともあれ、所長の平手打ちで完全に覚醒されて何よりです」

 

確かに、眠気はどこかへと吹っ飛んでいった気がする。

目もぱっちりと冴えた、と言うか冴えないと今度は斬撃の方が飛んできそうで怖い。

 

「先輩はファーストミッションから外されたので、いま先輩の部屋に──」

 

まあ妥当っちゃ妥当な判断である。居眠りするやつに大事な初回を任せる奴は居るまいて。

こんな所でもはぐれ者になる当たり、本当に自分は群れが向いてないのだなあと分からされる。

前途多難とはこの事か、と溜め息を吐こうとした時──

 

「きゃっ?!」

 

「フォーウ!!」

 

マシュの正面に立体軌道で迫って来るリス、即ちフォウの姿。

咄嗟に「危ない!」と警告するも回避は間に合う筈も──

 

「い、いえ、いつもの事です、問題ありません」

 

流れるように回避した。あまりのスマートさに俺でなきゃ見逃しちゃうね。

にしてもいつも突進してるのかこのリス……普通に危険では?

 

「フォウさんはわたしの顔に奇襲を掛け、そのまま背中に回り込み、最終的に肩へ落ち着きたいらしいのです」

 

ごめんそれなんて電気ネズミ?普通に肩に乗せてもらうのはダメなのか?

随分と手慣れてる辺りたぶん名付け親もマシュなのであろう、フォウフォウ鳴いてるしこの生き物。

 

「随分と慣れてるけど付き合いはやっぱり長いの?」

 

「はい、フォウさんが此処に住み着いて1年ほどになります」

 

待ってこれ誰かが連れ込んだとかじゃなくて不法侵入?カルデア緩すぎないか?

フォウ、と何故か自慢げ……自分の方が先輩だぞ、と言わんばかりに此方を見て鳴いてきた気がする。うわ、知能高いのが分かって嫌だ……

そのままマシュに向かって鳴き続けるフォウ。

ふむふむとマシュは頷けば、

 

「……どうやらフォウさんは先輩を同類として迎え入れたようですね。

しかし、人間をライバル視するリスのような生き物はアリなのでしょうか……」

 

うーんまさかの同類判定!え、俺の事リスっぽい何かだと思われてるのか?

歓迎されてると受け取るにしても複雑すぎる。

と言うかリス語(?)分かるんだマシュ……

 

「まあフォウさんの事ですから明日には忘れているでしょう。

それはそれとして……です」

 

やっぱり獣は獣だったらしい。明日には格下判定されてたらどうしよう。

 

「実はもう着いてます。

此方が先輩用の個室となっております」

 

と、歩きながら話してたおかげでいつの間にやら到着していたらしい。

足を止めずに会話を続けると結構な距離を苦もなく歩けるものである。

ふと、別れる前にマシュが何処所属なのか気になった。

予想はオペレーターである、似合いそう。

 

「因みにマシュは何処に所属してるんだ?」

 

「ファーストミッション、Aチームです。

ですので直ぐに戻らないと」

 

名前からして大先輩のチームである、なんで俺の事を先輩呼びするのか本当に分からなくなってきた。はぐれ者の俺がマシュに敵う要素無くないか??

 

「わざわざ有難う」

 

「なんの、先輩の頼み事ならランチをおごる程度までなら承りますとも」

 

ねえ俺達初対面だったよね?なんでこんなに優しいの??

一周回って怖くなってきた、俺この人の先輩やれる気がしないよ。

と、此処でフォウが一鳴き

マシュはホッとした様子を見せれば

 

「フォウさんが先輩を見て下さるのですね、それなら安心です」

 

うーんやはり俺がフォウの下に見られてる気がする、いやまあ上に立てる要素皆無なのだが。それにしたって悲しい。

 

「それでは。私はこれで。

運が良ければまたお会いできると思います」

 

と、お辞儀をすれば自称後輩は歩み去っていった。

不思議な人と出逢っちまったなあ、と思いつつ

俺は自室へと足を踏み入れた。

 

「はーい入ってまー……ってうぇぇぇ!?」

 

なんかもう人が居たのだが。シェアルームだったりするのだろうか?

オレンジ髪であり、緑色の瞳が驚いたように此方を見つめる。

マシュが部屋を間違えた……はたぶんあるまい、たぶん。

 

「誰だ君は!?

此処は空き部屋でボクのさぼり場だぞ!?

誰に断りを入れてるんだい!!」

 

凄まじい勢いで捲し立てて来る彼、まあたぶん此方があってるだろうし冷静に反論させて貰おう。つーかサボってるじゃんこの人。

 

「地獄からの使者──でも無く、この部屋の住民です」

 

「……君の部屋?此処が?

僕のさぼり場とすり替えられた……訳もないし、ついに最後の子が来ちゃったかぁ……」

 

あー、と残念そうに天を見上げれば

仕方ないかあ、と肩を落とした後微笑んで此方を見て来る。

優しい瞳を、してるような気がした。

 

「いやぁ、初めましてだね藤丸君。

予期せぬ出会いだったけど、改めて自己紹介をしよう。

ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。

何故か皆んなからDr.ロマンと略されていてね。

理由は分からないけど言いやすいし、君も遠慮なく呼んでくれていいとも」

 

と、ふわふわとして雰囲気を持って和やかにロマンは話す

何となくだが、レフよりも好ましい。レフには申し訳ないが。

 

「実際、ロマンって響きはいいよね、格好いいし、どことなく甘くていいかげんな感じがするし、」

 

何と言うか……この人、全体的に…………

 

「……ゆるふわ系だな」

 

「ふわふわ……あぁ、髪型のコト?

時間がなくてね、いつも適当にセットしてるんだ」

 

と、思わず呟いてしまったらしく、ロマンが不思議そうに首を傾げつつ自らの髪に触れる

なんか勘違いしてくれて助かった。

 

「あれ?君の肩に居るの、もしかして噂の怪生物?

うわあ、初めて見た……」

 

と、自身の肩を見てみるといつの間にかフォウが乗っていた

普通に気付かなかった。

俺が鈍いのかフォウが軽いのか……後者である事を祈ろう。

 

「マシュから聞いてはいたけど、本当にいたんだねえ……

どれ、ちょっと手懐けてみるかな。

はい、お手。

上手くできたらお菓子をあげるぞ」

 

何となくだが失敗する未来が見えた、フォウは知能が高い分プライドも高いのである。

 

「……フウ」

 

「あ、あれ……いま、すごく哀れなものを見るような目で無視されたような……」

 

本当に哀れんでるのか?

ふふ、同類扱いの俺よりフォウ認定が下の奴がいた……いや別に喜べねえ。

まあ仲良くなれそうな事は間違いあるまい。

 

「と、とにかく話は見えてきたよ。

君は今日来たばかりの新人で、所長のカミナリを受けたってところだろ?」

 

良く分かったな……あ、普通ならまだ説明会を受けてる最中だからか。

そりゃ人が来るとは思わないわな。

ロマンは少しだけ面白そうに微笑めば

 

「ならボクと同類だ。

何を隠そう、ボクも所長に叱られて待機中だったんだ」

 

まさかの同類であった。

間接的にフォウ=ロマンの方程式も出来上がる。だからなんだって話だが。

 

「もうすぐレイシフト実験が始まるのは知っているね?

スタッフは総出で現場に駆り出されている。

けど、ボクは皆んなの健康管理が仕事だから。

正直、やるコトが無かった。

霊子筐体(コフィン)に入った魔術師たちのバイタルチェックは機械の方が確実だしね。

所長に"ロマニが現場に居ると空気が緩むのよ!"って追い出されて、仕方なくここで拗ねていたんだ。

でも、そんな時にキミが来てくれた。

地獄に仏、ボッチにメル友とはこのコトさ。

所在ない同士、此処でのんびり世間話でもして交友を深めようじゃないか!」

 

……うん、この人はきっと癒し担当なんだろう。話してるだけでほっこりする気がする。

確かに現場を引き締める役には不適任かもしれないが、所長も何やかんやロマンの事は大切に思っていそうだ。空気が緩むって事はリラックス出来るって事だし。

俺みたいなはぐれ者にも優しいからな。

けど、まあそれはそれとして──

 

「此処俺の部屋なんすよねー」

 

「うん。つまりボクは友人の部屋に遊びにきたって事だ!

ヤッホゥ、新しい友達が出来たぞぅ!」

 

此奴……無敵か?!

いやまあ居てもらっても全然構わないのだが、このメンタルは見習うべきかもしれない。

取り敢えず何気ない事から雑談を始め……紅茶やクッキーを摘みつつもカルデアの設備やらにもついて軽く説明を貰い

数分経ってそうだ、と気になっていた事を話す

 

「そう言えばDr.ロマン。

あの所長の銀の手みたいなのって何なんですか?マシュは知らなかったみたいですけど」

 

「あれかい?

あれは"テガソード"

手がソードだからテガソード……だと思う」

 

「……」

 

「おやぁ!?ボクの新しい友人がボクのギャグが滑ったみたいな目で見て来るぞぅ!?

本当だからね!?

──とまぁ、所長には名前くらいしか教えてもらってないんだ。

その頃から不思議な指輪を一つ持ち歩くようになったから、たぶんそれも関連してるんだと思うんだけど……」

 

と、其処まで話した辺りで何やら機械音が鳴り──

 

「ロマニ、後少しでレイシフト開始だ。

万が一に備えて此方に来てくれないか?

Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れてない者に若干の不調が見られる。

これは不安から来るものだろうな。コフィンの中はコックピット同然だから。」

 

Bチーム以下……つまりマシュは万全らしい、流石後輩を名乗るだけある。もうマシュが先輩で良いんじゃないかな?

ロマンはクッキーを飲み込めば

 

「やあレフ。

それは気の毒だ、ちょっと麻酔をかけに行こうか?」

 

「ああ、急いでくれ。いま医務室だろ?

そこからなら二分で到着出来る筈だ」

 

緊張をほぐすのに麻酔を使うのかとも思ったがそれよりも

 

「此処、俺の部屋……」

 

「……あわわ、それは言わないでほしい……

此処からじゃどうあっても五分は掛かるぞ……」

 

あわあわ、と先程までと緩くても何処か頼れる大人の雰囲気は何処かに霧散してしまったのか。

大急ぎでクッキーを頬張り、紅茶を流し込む大人の姿を見せつけられた。

そしてぴたりと止まれば

 

「──ま、少しぐらいの遅刻は許されるよね。

Aチームは問題ないだろうし」

 

と急に落ち着いて紅茶を飲み始めた、ナンダコイツ。

 

「──あぁ、今の男はレフ・ライノールって言うんだ。

あの疑似天体(カルデアス)を観る為の望遠鏡

近未来観測レンズ・シバを作った魔術師だ。

シバはカルデアスの観測だけじゃなく、この施設内のほぼ全域を監視し、写し出すモニターでもある。

因みに言うとレイシフトの中枢を担う召喚・喚起システムを構築したのは前所長。

その理論を実現させる為の疑似霊子演算器……まぁ要するにスパコンだね。

これを提供してくれたのがアトラス院。

このように実に多くの才能が集結して、その上でこのミッションは行われる」

 

聞けば聞くほど凄まじい面子だな。

前知識こそ皆無でも、これがどれだけ凄い事なのかは何となく分かる。

はぐれ者が呼ばれたのは本当に奇跡みたいなものだろう。

或いは其処で運を使い果たしたのかもしれない。

ロマニは此処まで言い切ると軽く苦笑し

 

「ボクみたいな平凡な医者が立ち会ってもしょうがないけど、お呼びとあらば行かないとね……クッキー食べ終わったし」

 

しれっとクッキーが盛られていた皿が空になっていた。

真面目な話をしてる最中も食べ進めてたらしい、抜け目無いと言うべきなのかこれは。

 

「お喋りに付き合ってくれて有難う、藤丸君。

落ち着いたら医務室を訪ねに来てくれ、今度は美味しいケーキくらいはご馳走するよ」

 

「俺が食い損ねたクッキーの分まで頂きますよ」

 

「うっ……いやいや、元はと言えばあれ僕の──」

 

お互いに笑いつつ、実に和やかな空気で別れを迎えようとして

世界が、闇に染まる。

 

「……なんだ?明かりが消えるだなんて何が──」

 

聞こえるのはロマンの困惑した声。

レイシフト前に暗転する、とかそう言うのでは無いらしい。

トラブル?何があったのか──

その時、全てが壊れた事を告げる赤い光とけたましいサイレンが、自分を包み込んだ。

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