「見えてきました、ティエールの街です」
陸王達と別れて早数日
藤丸達は漸く次の街へと辿り着いた。
此処に竜殺しが居れば楽なのだが……また移動している可能性もゼロじゃない。
「その前に休憩しましょう。
私、歩くの飽きましたわ」
清姫がうんざりした様子で扇子を閉じれば
「賛成だ、マリア達とも定時連絡をしなきゃならないしね」
軽く伸びをしつつ、近くの良い感じの丸太にアマデウスは腰掛ける
旅の途中で……アマデウスから、マリー・アントワネットの話を聞いた
彼曰く、ただの史実を。
それは悲劇といえよう。
全てを奪われて処刑されてしまった王妃
しかしてマリーが民達へ向けたのは、希望と喝采だったと言う。
藤丸はそれを聞いて、凄い人だと思った。
恨んでいてもおかしくはない仕打ちを受けて尚、フランスを守る為に戦ってくれる王妃の事を。
その感想を聞いた時、アマデウスは笑って言っていた
「まあ本人はそんな目に合う前の姿だし、実感は薄いんじゃない?
とはいえ……うん、凄い人か。
僕には、分からないな……」
その時の、何処か遠い目をして青空を見つめていたアマデウスが
妙に印象に残っていた。
……と、そんな時陸王から通信が届く
《朗報だ──》
少し時間を遡り、移動中の事。
エリザベートが疲れたー、馬車乗りたーい。など駄々を捏ねつつ
陸王達はひたすらに歩いていた。
「──
どうしましょう、ジャンヌ」
マリーが困ったようにジャンヌを見れば
ジャンヌは顎に手を添え、何やら深く考え込んでいた。
「ジャンヌ?」
ひょっこりと顔を覗き込むように、マリーがジャンヌの顔を見れば
「わぁっ!?!?」
びくっと驚いたジャンヌは呼ばれてた事に気付いて慌てて頭を下げる
そんなジャンヌにマリーはくすりと笑えば
「竜の魔女の事?」
とジャンヌに尋ねる
陸王は会話が聞こえていたのか、エリザベートを引き連れて少し先へと歩き出した。
「──はい。本当に、何一つ見覚えがないのです。
彼女の言葉も。彼女の憎悪も。
私には何一つとして……」
ジャンヌの憂いた表情を見れば
マリーは微笑みつつ
「やっぱりとっても綺麗ね、ジャンヌ」
「な、なんでそんな!?揶揄わないで下さい……!」
突然の褒め言葉に、ジャンヌは頬を染めつつ少し怒ったように話す
しかしマリーは
「いいえ、真実よ?
だって私なら、
「マリー?」
ふふ、と自嘲するかのようにマリーは笑いつつも
言葉を紡ぐ
「私は、私を処刑した民を憎んでいません。
それは9割の確証を持って言えます。
けれど、残り1割……いいえ、もっと小さいのでしょう。
それでも……私の
だから、納得出来るの。
フランスを……祖国に1000年の飢えと1000年の戦乱を齎そうとする私が居ても」
こくり、とやはり自分はもう1人の自分の存在に納得するだろう──と頷きつつも
「けれど、ジャンヌはそうじゃないのでしょう?
人間が好きなのよね?」
そう尋ねる
ジャンヌは、迷わず頷いた
「大好きです、好きだから恨める筈も無かった……」
と答えた後に
ふと脳裏を疑問が掠めた
しかしそれを言葉にする前に
「2人とも、モンリュソンが見えたよ!」
と言う陸王の声に遮られてしまった。
《──
通信越しに、陸王は頷いて見せる
今居る場所はある民家だ。
「ええ、彼等はモンリュソンに避難していたみたいです」
ジャンヌが言葉を続ければ、彼等という言葉に藤丸は首を傾げる
「そこからは私が」
茶髪の銅色の鎧を身に付けた男が、凛とした態度で藤丸へと話し掛ける
「貴方も未来から来たマスターですね?
サーヴァントライダー、真名をゲオルギウスと言います」
ペコリと一礼をすれば、藤丸も通信越しとはなるが立ち上がり
《藤丸立香です、宜しくお願いします。
──その、竜殺しは?》
「此方こそ宜しく頼みます。
ジークフリートは此方に、実際に見て貰った方が早いかと」
互いに礼をすれば、通信越しにゲオルギウスはジークフリートの姿を見せる
「──彼はリヨンに居ましたが、竜の魔女の配下によって酷い手傷を負ってしまいました」
マジレッドの力でありったけの強化を施されたサーヴァント達の前に、流石のジークフリートと言えども重傷を負わざるを得なかった。
市民を守ると言う役目もあった為、遅れをとってしまったのだ。
「セイバー、ジークフリート……こんな姿での挨拶ですまない……」
息を吐くのも精一杯、と言った様子で頭を下げるジークフリート
全身を呪詛が侵食しており、時おり背中から黒い炎が溢れ出る。
《傷……これがか?!》
「正確に言うと呪い──それを魔法で強化した物です」
「彼には複数の呪いが掛けられており、解呪しなければ
しかし私とジャンヌには解呪の力があるので、その点はご安心を。
時間は掛かりますが解呪は可能です。》
不安そうな藤丸を見て、ゲオルギウスは微笑みつつ言葉を付け足す。
藤丸はほっと胸を撫で下ろし──
「不味いな、魔力を抑えて急いで隠れた方が良い。
邪竜が来るぞ……この嫌な音は間違いない!」
アマデウスが空の彼方を見据えつつ、そう警告を飛ばす
一旦通信を切断し
魔力を抑えて藤丸達は叢へと隠れる
数秒もすれば、ワイバーンの群れと巨大な翼を広げたファヴニールが悠々と飛び去る光景を見る事になった。
気付かれる事もなく、そのまま邪竜を見送れば
やれやれ……と言った様子で息を吐く藤丸達
しかしてマシュは、気付いてしまった。
「……あの方角、オルレアンとは少し外れてます……」
《……あかん、彼奴等は……ジャンヌの居る街、モンリュソンに向かっとる!》
研究がひと段落した巡が、愕然とした様子で報告をする
陸王達は頷き合えば、即座に避難をするように市長へと向かった。
元々軍事の要衝として発展した街なだけあり、落ち着いて毅然とした様子で避難は進められて行く。
市長はゲオルギウス達を竜の魔女の反乱分子と知って尚、匿ってくれた存在だ。
マリーはそれを聞けば
「──そう、当たり前のように居るのですね。尚諦めない理不尽の弾劾者達が……」
と、避難する人々を見つつ呟いた。
ジークフリートは、役に立たない我が身を侘びつつも、選択を提示する
「市民を見捨てて撤退するか、抗戦をして全滅するか──」
テガソードブルーを持ってしても、おそらくファヴニールとの相打ちが関の山だ。
ジークフリートは戦力してカウント出来ず、相手の戦力は未知数。
そうなれば、やはり全滅は免れない。
どうするべきか……全員が考えれば
「でしたら、誰か1人が残れば良いのでしょう?」
マリーは笑顔で、至極当然の事のように提案をする
「市民の避難が済むまで、この街を守る。
残る方はアマデウス達と合流して各々の使命を全うする。
──うん、そうなると残るのは必然的に私になるわね」
陸王は4人のマスターである以上死ねず
ジークフリートはファヴニールを
ゲオルギウスとジャンヌはジークフリートの解呪を
エリザベートはカーミラの相手を
やはり、自分しか残れるのは居ないとマリーは頷く
「ま、待って下さいマリー!一緒に闘いましょう!
1人ではダメでも2人なら──!」
ジャンヌは思わずマリーの肩を掴む
ジャンヌの手は、震えていた
マリーはジャンヌの手をそっと取り、握り締めつつ
「ノン、駄目よジャンヌ……貴女には貴女の役割がある。
でも、とっても嬉しいわ……私、生前から貴女に憧れていたの」
「……え?」
「私は宮廷で、貴女は戦場で少女でありながら戦い抜いた
無論、私の方が劣るけど……いいえ、劣るからこそ憧れたの。
300年以上前に、そんな女の子が居たんだって」
ジャンヌは、震える手でマリーの手を握り返す
「友達になれて、本当に嬉しかった。
だから……ねえ、ジャンヌ」
マリーは、優しくジャンヌを抱きしめた
「堪えて見送って?
それが、女友達の心意気でしょう?」
「……待って、ますから」
ジャンヌは顔を俯かせ、何かを堪えるようにしつつ強く抱きしめ返す
マリーはその言葉に
「ええ、直ぐに追いつくわ」
と答えてみせる
「──アタシ待ってるから!
……友達でしょう、アタシ達」
エリザベートが自らの胸に手を当てつつ、マリーに話す
「ええ、エリーと清姫と旅が出来て……とても楽しかったわ」
マリーはそう微笑めば
自らのマスターの方へと向く
「ごめんなさいね、マスター」
「──いいや、この短い付き合いながら……君らしいと思うよ」
マリーの言葉に対して陸王はそう言って、笑って見せた。
ジャンヌ達と別れを告げ、マリーは城門の前へと立っている
銀のテガソードを握り締めて
夥しい程のワイバーンの群れから感じるのは──サーヴァントの反応
目を凝らせば、その姿を……見てしまった。
「会いたかったよ、白雪の如き白いうなじの君……」
血濡れた処刑人が、王妃に対して笑ってみせる
「まさか貴方まで呼ばれるなんて……それに、なんて格好……
もう、何人も殺してしまったのね……」
既知の存在の血濡れた姿に、マリーは動揺を示してしまう
サンソンはその動揺に対して狂気的な笑みを浮かべれば
「失礼を、しかし全て貴女の為なのです」
「──そう、全てはもう一度」
血濡れた剣を振るい、血一つ着いていない剣として握り締めつつサンソンは叫ぶ
「貴女の首を──斬り落とす為に」
「──ッ!」
【クラップユアハンズ!】
サンソンが凄まじい速度で背後に周り、首へと刃を振るうと同時
【キラメイジャー!】
赤き煌めきが、マリーの身体を包んだ