自身を守るマシュを見て、アマデウスは驚愕の声をあげてしまう
「──マシュ、君……どうして!」
言うまでも無いが僕はただの音楽家、ユニバース戦士でも何でもない。
優先度は間違いなく1番低いだろう、僕を助けるくらいなら黒幕を叩きに行くべきだ
しかしマシュは盾を構えつつ、アマデウスの顔を見て答える
「貴方が教えてくれたからです、偉大なる
──選びたいと思ったのです、自分が感じる……正しいと思った事を!」
盾とギロチンの刃が、激しく打つかり合う。
しかして勝るのはマシュ。
相手の斬撃を防ぎ、確実に相手を砕いていく。
アマデウスはその激しい戦闘を眺める事しか出来ずにいた
「うわ……すご……
──ていうか僕が弱いだけか」
ふと気付いたが、そもそものサンソンの霊基は完全にボロボロ。
そりゃ万全のサーヴァント……戦闘系の奴に敵う筈もない。
こりゃもう僕の出番は無いかな──と、思っていたのだが
アマデウスは見てしまった
処刑人の目から溢れる黒い液体が、透明な液体と混ざっているのを
半身を穿たれ尚、サンソンは生きている
いや、生かされてしまった。
魔法と魔術と外法の多くにより、使い捨ての兵器へとされた英霊……それが今のサンソンだ
最早自意識さえ無く、ただ刃を振り回すだけの玩具に過ぎない存在
「……そうだった、そうだったよな。
全く……手間の掛かる」
やれやれ、と痛む傷口を一旦気にせずに起き上がれば
マシュがサンソンを大きく吹き飛ばした隙を見計らって声を掛ける
「ストップだマシュ。やっぱり僕がやるよ。
……そんな顔せずとも、安心しなよ
僕も勘違いしてたけど──そもそも闘う必要なんて無かったんだ。
終わりたい奴を、終わらせてやるにはさ」
マシュはアマデウスの傷を見れば、戦闘が出来るような状態では──と口にしかけたが
アマデウスの言葉によってそれは遮られてしまう
アマデウスはごく普通のピアノを呼び出せば、その席へと着く
「ピアノ……?
アマデウスさん、何を……」
「僕は確かにろくでもない人生を歩んだ
だけど後悔はない、自分で選び続けたからね。
だから例えどんな場所であろうとも──誇りを持って
マシュの疑問の声を気にせずに、アマデウスは鍵盤へと指を置き大きく息を吸う
一瞬の静寂が辺りを包み──
「僕が選んできた──この音楽を!」
魔力反応もない──ただの音楽
しかしてその音色は、霊基さえ揺さぶる。
サンソンは、思い出した。
かつての過去を。
自身が処刑されるかもしれないというのに、祈りを捧げ続けた事
革命の嵐の中、我が王や王妃も其処に居たと言うのに──無実の人々まで処刑してしまった事を。
鎮魂を安寧を──その魂に安らぎを
しかし幾ら祈り願っても……足りる筈が無かった。
彼等の嘆きは、こんな事で報われる筈が無いのだから。
だから僕は贖罪をしようとして──
あぁ、でもその為に……僕はなんてことをしてしまったのだろう。
刃が血に落ちる
サンソンの身体が、光の粒子へと還る
「……気付いて、いたんだ」
サンソンは言葉を溢れさせる
「あの方に敗れた時点で……自分が歪み、また罪を重ねてしまっていた事を」
「其処で終われば良いものを、今の今までこんなザマで──」
ピアノの音色は、既に止まっていた。
「それを──君の
サンソンは俯けていた顔を上げ、アマデウスを見る
目から透明な液体が溢れんばかりに流れ続ける
「……なんて皮肉だ、君の
口には、思わず笑みが浮かんでしまうが
涙は溢れ続ける
「だって、そうだろう……?
処刑人にとって死は尊いものなのに、君はそれを音楽という娯楽に落としてしまった……
だから、本当に……こんな事を言うのは癪なんだけれど」
サンソンは笑っていた
そして感謝を込めて──音楽家に言葉を贈る
「終わらせてくれて……ありがとう……」
そう言い残せば、そのままサンソンは光の粒子となって消え去った。
マシュがそれを見届け
「霊基消滅、確認しました……」
とサンソンの笑顔を思い出しつつ盾を構え直せば
アマデウスはピアノに突っ伏してやれやれと息を吐く
「……バカな奴だな、有難うだなんて冗談じゃない。
でもまぁ……マシュも彼奴の聴きっぷりを見てたろ?
嫌い嫌いと言いながら……好きだったんだぜ、僕の
何処か満足げに笑うアマデウスに
マシュはこくりと頷いた
「僕はちょっと休んでから行くよ、先に藤丸の元に──いやアレだと巻き込まれるか。
まあなるべく近くに居てあげな」
ひらりと手を振り、アマデウスはマシュを送り出す
抱き抱えて連れて行こうかとも思ったが、確かに今のアマデウスには休息が必要なのは間違いないし…退去するようにも見えない
「アマデウスさん、貴方が無事で良かったです」
と満面の笑みを浮かべてみせれば、そのままマシュは藤丸の元へと走り去る。
アマデウスはそのマシュの後ろ姿を見届け
「多くのものを知り、見て、学ぶ。
そうやって君の人生は充実していく。
その中で君は世界に自分が居た証を残し、その証は巡り世界そのものを成長させる。
だからマシュ、君は選び続けるんだ。
──自分の未来を恐れる事なく」
「人間というのは、そういうものだからね」
ポロン、と鍵盤を押し込んで
少し寝ようかな……とアマデウスは肩を伸ばした