前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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The First Period
即バレまで3…2…1…


 ――人間とは、不思議な生き物だ。

 

 群れていながら強くなく、群れていながら争わず。

 

 他の獣を圧倒できる力を有していながらも望んで支配することを好まず、自らの、あるいは誰かの趣味嗜好に合ってようやく、支配する。

 

 他の獣にはできない、高度な知識。

 

 他の獣には成せない、器用な技術。

 

 それを認識して、僕は人間を把握した。

 

 

 

 ――人間とは、なんて賢くて……なんて厳しい生き物なのだろうか、と。

 

 人間は、己のみでは生きていけない。

 

 勿論、僕は僕一頭でも生きていけるか、と聞かれると肯定しがたいが……人間は僕以上に不可能なのだろう、と感じている。

 

 

 

 理由は、()()()だ。

 

 人間が生きるためにはオカネが必要なのだ。

 

 餌も、衣も、住処も、オカネが無ければ作れないし、使えない。

 

 オカネこそが人間が生きることに必要で、オカネこそが人間の本質であり思いの形なのだ。

 

 そして僕は、そんな人間が思い描いた『オカネ稼ぎのための馬』なのだ。

 

 

 

 ――だったら、頑張るしかないよね。

 

 

 馬は人間よりも大きい、こんな僕を養うために、相当な苦労(オカネ)をかけているのだから、恩を返すことに躊躇いはなかった。

 

 人間に連れられてやってきたレースの世界で、僕はオカネを稼ぐと意気込んだ。

 

 だけれども、まあ。

 

 馬の世界は世知辛く、勝てる戦いは少なく。

 

 大きい3つのレースには勝てず季節は巡る。

 

 何も返せないのでは、と思い始めていたけれど、人間たちはこんな僕のことを応援してくれていた。

 

 応援に押されて夏直前の戦いでは何とか勝った。

 

 でも、海を越えた先の戦いでは1着にたどり着けず。

 

 おっかない瞳をした牝馬には睨まれ。

 

 もう一度海の向こう側に挑みに行った。その時は年下の子も一緒で、誰が1着になるかで大変な争いになった。

 

 そして、僕の友達が軒並みレースから退いていることを知って。

 

 年の分け目のアリマキネンで、後輩たちを追い越して何とか1着を取った。

 

 

 

 控えめに言っても、僕は恵まれていた。

 

 この世には勝てず何もできないみんながいる中で、僕はこんなにも恩返しができた。

 

 生まれたころは何もなかった住処は人間たちがオカネを用いて改造した結果、後輩たちがやってきたり、新たな子が産まれたりするとても大きな住処になっていた。

 

 人間たちは忙しそうだが、その顔には満足しているような雰囲気があった。

 

 僕はとても幸せな馬なのだと思いながら、余生を過ごしていた。

 

 

 

 そんな僕は、恵まれた命の果てにとある噂を聞いた。

 

 『恵まれた馬は、人間の女になって再び競い合える理想郷がある』――そんな馬の天国の噂だった。

 

 そんな記憶を思い出しながら、かつての激動の恩返し時代を思い出して、僕は意識が薄らいでいく最中に思った。

 

 

 

「もう、レースは出たくない」

 

 

 

 トラウマとか恐怖とか、そういうものではない。

 

 ただ純粋に……走りたくない。

 

 それだけなのだ。

 

 もしも僕が人間の姿かたちを持てるのなら、僕は走らずにオカネを稼ぐ道を掴みたい。

 

 オカネを稼いで、稼いで、稼いで―――

 

 

 

 

 ――恩返しを、するために。

 

 そう思いながら、祈りながら、願いながら。

 

 僕は――『マネーユグドラシル』は、馬としての生涯を終えたのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 そして今の僕は『善財 樹(ゼンザイ イツキ)』という。

 

 れっきとした人間だ。

 

 だがこの精神は人間とは言い難い。

 

 僕の前世、マネーユグドラシルの生き方を、生涯を、そしてその人格もそっくりそのまま『ここにある』。

 

 僕は生まれ変わったのだ。

 

 最後の思いのまま、人間の男として、生まれ変わっていた。

 

 

 

 前世でまことしやかにささやかれていた噂の通り、馬の天国は存在した。

 

 もっとも、天国というにはかなり天国感は薄いが。

 

 都会があり、町があり、賑わいがあり、思いがある。

 

 

 前世同様に人間が暮らすこの世界には、珍しい存在がいる。

 

 馬の耳を頭に、馬の尻尾を後ろ腰から生やした女たち――通称『ウマ娘』が、この世界にはいるのだ。

 

 それが噂の正体だと理解するのはそう難しくはなかった。

 

 彼女たちウマ娘は日々レースに勝つために走り続けている。

 

 

 この世界ではレースは一大事業だ。

 

 年に数回しか行われない大きなレース“GⅠ”をメインとして、毎週各地で様々なレースが行われ、ウマ娘たちが競い合い、それは人々を白熱させていた。

 

 彼らはウマ娘になっても何も変わっていないのだなと、この事実を知った僕は苦笑したことは記憶に新しい。

 

 

 

 そんなこの世界で、僕は人間として産まれた。

 

 普通の家庭に産まれ普通に育って、今日から立派な社会人、という人間だ。

 

 この世界で僕は、前世で思った通りにオカネを稼ごうと考えたが……そこで1つ、思いがけない事態が発生した。

 

 人間は、あまりオカネを稼げない生き物なのだということだ。

 

 

 

 生涯年収3億円、という言葉が人間には存在している。

 

 これは人間が働いて得られるオカネの合計金額で、それだけのオカネをいかに若くして得られるのか、というのが人間の戦いの1つなのだと習った。

 

 やはり、人間は不思議と不自由な生き方をするなあと思いながら話を真面目に聞いていた時のことだった。

 

 ふと、その3億円という金額が少なく感じたのだ。

 

 

 

 はて、と感じてもしかしたらと思い、ウマ娘のレースを参考にして前世の戦績で得られた賞金を計算すると……

 

 その結果、示しだされた数値――約21億0134万円。

 

 この数値の大きさと、人間が生きるために必要なオカネの少なさに僕は二重にビックリした。

 

 なんてことだ、僕はわずか5年程度で人間の生涯年収を7人分も稼いでいたのだ!

 

 

 

 

 

 それと同時に驚いたのは、これだけの金額をウマ娘ならば入手することは難しくない、というところだった。

 

 前世と同じだけ走り、前世と同程度の戦績を収めるだけでも10億は容易く超えるのだ。

 

 その時だけはこの人間の身体に生まれ変わったことを後悔したが、即座にリカバリー案が頭に浮かんだ。

 

 トレーナーになる。という方法だった。

 

 

 

 ウマ娘のトレーナー。

 

 前世でいう厩務員や騎手、あるいは調教師のような関係で、ウマ娘を鍛えるサポートを行う職種。

 

 これは現代日本においてなりたい職業において男女問わずのトップ1で、10年以上その首位は変わっていないと言う。

 

 ウマ娘の栄光を掴むサポートという夢のような仕事で、そのお給料もドリームクラスだ。

 

 生涯年収が4億を優に超える、と言えばそのすごさが分かるだろう。

 

 とはいえこれは担当したウマ娘が優秀だった場合の話。

 

 GⅠに勝てるだけの実力と、実績を積んで得られる栄光だ。

 

 

 だがここで忘れてはならないのが僕の前世だ。

 

 

 僕は前世の記憶を持っている。

 

 どういうことなのかは解らないが他のウマ娘たちなどは前世の記憶を持っていないようなのだが、その気迫や素質などは前世のままだ。

 

 そこで少々ズルに近しいが、前世での強敵・難敵だった馬の生まれ変わりであるウマ娘の担当トレーナーになれば、GⅠに勝利することは何ら不可能ではない。

 

 そう考えている。

 

 

 もしもの時は僕がGⅠに勝てる走り方を教えてあげればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな理想的なキャリアを頭の中に描きながら、僕はついに職場の目の前に到達した。

 

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。

 

 困難極まるトレーナー試験を無事クリアしてたどり着いた、夢の職場だ。

 

「さて……」

 

 ネクタイは曲がっておらず、スーツに皴はできていない。

 

 ここから始まる夢の一歩のために、最大限身支度を整え、そして一歩を踏み出す――

 

「――」

 

「……っ!?」

 

 この視線は何だ!?

 

 ただ見つめられているのとは違う、ジッと、ギョロっと、ツンとした光線のように鋭い眼差し。

 

 ……

 

 いや、知っている。

 

 僕はこの視線を、知っている……!

 

「あのーすいません、お尋ねしたいのですけれども……お時間よろしいでしょうか?」

「……ああ、でも、僕はここに新しく来たトレーナーなんだ。先に理事長に顔を合わせたいのだけれど……」

「ああいえ、すぐに終わる話なので! ただの尋ね人についてですから」

 

 

 

 それは、僕が競走馬として終わる1年前の戦い。

 

 直線で激しい一騎打ちを繰り広げ、なんとか打ち勝った厳しい戦い。

 

 その相手――

 

 

「アーモンドアイ……!」

「えっ、どうして……私の名前を……」

 

 

 僕の馬生に大きくかかわった彼女がどうしてここで出会う最初のウマ娘なのか。

 

「ああいや、君の噂はかねがね聞いていてね。()()()()()()()()*1だとね」

「……ああ、なるほどね」

「それで、尋ね人……だったっけ? 教えてくれるかな?」

 

 内心突っ込みながら、僕は彼女の――アーモンドアイの話を聞く。

 

 相も変わらずの澄み切った瞳だ。

 

 心の奥底まで見つめられていそうな怖い視線を一身に浴びていた。

 

「いいえ……もう、見つかったから大丈夫よ」

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マネーユグドラシル、やっと見つけたわよ」

 

*1
誤字ではない。

自分がいない状態なら九冠獲得は必ずすると考えての発言




こちらがマネーユグドラシルの戦績です。



年代 レース名着順獲得賞金
(本賞のみ)

2017 新馬戦 1 7,500,000
萩ステークス 3 2,000,000
2018 京成杯 2 16,000,000
弥生賞 1 54,000,000
皐月賞 4 30,000,000
日本ダービー 7 0
菊花賞 3 50,000,000
2019 日経賞 1 67,000,000
天皇賞・春 2 120,000,000
宝塚記念 1 300,000,000
2020 京都記念 1 62,000,000
ドバイシーマクラシック 2 188,420,000
天皇賞・秋 3 75,000,000
ジャパンカップ 1 500,000,000
2021 ドバイシーマクラシック 3 9,420,000
宝塚記念 2 120,000,000
有馬記念 1 500,000,000
総合賞金 2,101,340,000

※2020年度のドバイシーマクラシックはこの世界線では存在した設定
※ドバイシーマクラシックの賞金は以下のリンク先のページを参考に2025年度のものを使用
https://keibadrive.com/entry/2025-dubai_sc-entry/


実際の競馬エアプなので賞金云々についてはかなり怪しいです。
正直自分でも本当にこれ合ってるのかって思ってます。
正しいよって言ってくれる人が現れたり間違いを指摘してくれる人が現れたりしたら続きを投稿するかもしれません

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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