前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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幸運にも間に合いました。

うまぴょいはフルゲート派が多いようです。
ですので今後の展開は定まりました。アンケートありがとうございました!
一人旅派の方々も、アンケートありがとうございました!


雪花に狼煙を(ヘルヘイム)

 

「それがアイの勝負服なんだな」

「ええ。どうかしら?」

 

 ついにやって来た阪神ジュベナイルフィリーズ当日。

 選手控室で勝負服に着替えたアイの様子を見に訪れると、そこには水色の勝負服に身を包んだアイの姿があった。

 

「『不思議の国のアリス』か?」

「ええ。摩訶不思議で奇々怪々、不思議たっぷりな世界を巡る少女の旅路。――でもね、私、このお話気に入っていないのよね」

「なんでだ?」

「だって最後が夢オチなのよ! あそこまで頑張ってきたすべてが夢でした? 冗談じゃないわ! 果てにはその旅を伝えたアリスのお姉さんも不安がるし……」

 

 不思議の国のアリスという物語の名前は聞いたことがあるし、主要人物も概要ぐらいは聞いたことがあったが、その終わり方はずいぶんなものだったのか。

 ネタバレされてしまったが、同時に納得したことがある。

 

「自分に照らし合わせたんだな。九冠の夢を見た自分と」

「――ええ」

 

 不思議な世界を巡った旅路を夢とされたアリス。

 前馬未到の九冠の領域を僕に止められたアイ。

 

 どちらにも言えることは――夢は夢のまま、終わるということ。決して現実にならない、悲しい夢であるということ。

 

「それを否定するための、アリス(アイ)の夢を現実にするための勝負服――か」

「ええ。どうかしら、この勝負服? 感想を聞かせてほしいわ」

「――最高だよ。否定のしようがない」

 

 無謀ともいえる理想へ挑む心。

 子供らしさの赤いリボン。

 青空のような空色のドレス。

 清流のような青いグローブ。

 

 不屈の覚悟で理想を掴み取る心。

 星空のような黒いリボン。

 綺羅星のような黄色いリボン。

 一番星のような星飾り。

 

 そしてそれらを纏めるような、幼さ()と、将来(未来)の入り混じった虹色の裏地。

 アイにとっては――無念(前世)と、不屈(今生)の顕れ。

 

「アイの今までとこれから、それらすべてを詰め込んでいる気がするよ」

「…………そ、そう? まあそうよね?」

「アイ?」

「私、デザインセンスも超が九つ着くレベルだしね?? ユグぐらいならまあこれぐらい感動させることはできるわよね???」

「大丈夫かアイ??」

「平気、平気よユグ。私は平気。――驚いた……多分無意識なのよね今の声

「???」

 

 アイがとたんに赤面して顔を手で隠してしまった。

 熱とかあったりしないだろうか? アイに限ってそんな不健康は無いと思われるが……

 

「ねえ、ユグ?」

「どうした?」

「ウマ娘って、耳がいいのよ?」

「そうだな?」

「……耳が、いいんだけど?」

「うん??」

 

 何か聞こえてしまっていただろうか?

 そんなつもりは無いのだが。前世の時に独りごとをするだけの声量については熟知しているし、その通りに今生でも声のレベルを調整すれば問題はないはずだが――

 

「(そういうこと!? ユグの耳が人間レベルなことに気が付いてないのねこれ!)」

「本当に大丈夫か?」

「…………ふふっ、大丈夫よ! おかげでやる気も超絶好調よ!」

「ならいいんだけど」

 

 そうこう言っているとアナウンスが聞こえ始める。

 どうやらもうすぐパドックに並ぶ時間のようだ。

 

「もう時間ね、私、行ってくるわ」

「ああ。頑張れ」

「ええ! 最前列から応援しているといいわ! ――偉大な偉大な、九冠の一つ目を手に入れるその瞬間を!」

 

 

 

 


 

 

 

 

「樹トレーナーさーん! こっちだぞー!」

「おや、ブーとララさん」

「まいど、元気なようで何よりやなぁ」

 

 観客席には、トレーナーたちが心配そうに、あるいは勝利を確信しながらパドックの様子を眺めていた。

 その中にブーとララもいて、僕の存在を認識するとブーは大きな素振りで挨拶してくれた。

 

「なあなあ、樹トレーナーさん! アイはどんな調子なんだ? 勝てそうか?」

「勝つよ。アイは勝てる」

「ずいぶん確信しなはってまんなあ。まあ、アイの脚はえらいスピードを持っているんはその通りやけど……そないに信じられるんか?」

「信じるさ」

「……えらく信じとるんやなあ、アイのこと」

 

 それはそうだ。

 アイの今までを見ていれば、勝つことができると信じられる。

 前世の才能に囚われず、今生でのトレーニング理論を突き詰める愚直で真面目な努力家には。

 おかげで僕も最新の論文を読み解く羽目になった、努力の天才には。

 

「その目……アイの目とおんなじやなあ」

「え?」

「んー……? ……ララ、何を言ってるんだ? トレーナーの目はアイみたいにキラキラしてないぞ?」

「物の例えやわ!」

 

 

 


 

 

 

「…………」

「おや、あなたがここにいるとは珍しい」

「Oh, Hello. スピードシンボリ」

「Hello. セントライト。――あなたは偉大なる初代三冠。三冠ウマ娘も通る道の1つである朝日杯フューチュリティステークスかホープフルステークスを見に来るかとは思いましたが……こちらもご覧になられるとは」

「Do not misunderstand. 私は三栄冠の先駆け、それ以外の何物でもないのです。私がここに来たのは、予感がしたからです」

「予感? 三冠……いえ、三栄冠を頂くウマ娘がここから生まれると?」

「Probably for sure. ――それを祝うかのように、開戦のファンファーレも鳴っていますね。……いい音楽です。毎年、洗練され続けているのですね。ウマ娘たちのように」

 

 

 


 

 

 

 雪降る中、バ場は稍重。

 阪神ジュベナイルフィリーズが始まった。

 

『ウマ娘たち、纏まりながら走っています!』

『これは後続のウマ娘が詰まるか心配な状況です! 抜け出せるといいのですが!』

 

 向こう正面を抜け出し、第3コーナーを曲がる。

 展開は一向に変わるそぶりを見せない。

 出走したウマ娘たちの脚が後ろから溜めるタイプが多く、それゆえにウマ娘たちは散っていなかった。

 

 最先頭で逃げを取っていたウマ娘はバ場の影響もあってスタミナを削られ始めている。このままならスパートで十分なスピードを出せないだろう。

 そんな中で体勢有利なのは先行策で安定した走りを見せているニシノフラワー。

 次にデイリー杯ジュニアステークスを勝利しこのGⅠに足を進めたシーキングザパール。

 そして――外側から差し込もうと試みているエアグルーヴと続くのだろう。

 

「(煩わしいが、どうということはない。私は外ラチ側、このままの勢いを保てば……)」

「(展開はちょっと固まっている感じね……有力な子が多い証拠かしら)」

 

 アーモンドアイは内ラチを走っていた。

 だがその走り・表情に陰りは見えない。

 

 むしろ計画通りだとも思わせる余裕を感じさせた。

 

「(……何だ? アーモンドアイのその位置は……)」

 

 その雰囲気をいち早く察したのはアーモンドアイの後ろに控えていたエアグルーヴ。

 右手内ラチに潜んでいるかのようなその在り方に、何かただならぬ感覚を感じ始めていた。

 

「(何を企んでいる……? いや、例え何が来ようとも、序盤から挫けるわけにはいかんのだっ!)」

「(――っ、すごい気迫……後ろがっ、怖い……けどっ!)」

 

『最終コーナーをカーブ、各ウマ娘一斉にスパートをかけ始めました!』

『ここからが見所ですよ!』

 

「(――この位置は確かに危険ではある。垂れるウマ娘にスパートを遮られる可能性は無いわけではないのだから)」

 

 アーモンドアイは見えていた。

 自らの歩むべき世界の入り口が。

 この道が、自然と開けることを。

 

 前方を三人以上のウマ娘が塞ぐルートが、スパートによって崩れ始めようとしている。

 

 ――彼女たちが持っていなかったのはただ一つ『GⅠという大舞台において圧倒的な経験差を持つ敵に打ち勝つ手段』のみだった。

 それ以外はアーモンドアイの能力は他のウマ娘よりも少し強い程度……今しがたの壁で封殺できる可能性はあったのだ。

 

 だがそれはもう――過去の話。

 

『アーモンドアイ抜け出した! 内側から抜け出した!ニシノフラワーを追い抜いた!』

 

「えっ!!?」

「オーノー!?」

「(まさかそこを超えるとは――っ!)――だがっ!」

 

 アーモンドアイはシーキングザパールとニシノフラワーを抜き去り、一気に先頭を駆け抜ける。

 

『アーモンドアイがシーキングザパールを抜いた! ニシノフラワーは追いつけないか!? エアグルーヴが懸命に追いすがる! アーモンドアイ先頭に躍り出ているぞ!』

 

「私は――負けんッ! 負けるわけにはァッ!!」

 

 誰もがアーモンドアイへと追いすがる。

 エアグルーヴが必死にアーモンドアイの背を追いかけるが、その差は一向に埋まらない。

 届かない。

 

『アーモンドアイ先頭でゴールイン! 勝ったのはアーモンドアイ! 2着にエアグルーヴ、3着にシーキングザパール……』

 

 そして決着がつく。

 圧倒的なパワー。誰も寄せ付けないスピード。

 このレースを見た誰もが、アーモンドアイと言う年の瀬の王女の誕生を確信したのだった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「ま、楽勝ってところか」

 

 これで一冠目。道は遠いようで近い。次のGⅠでトリプルティアラの目標である桜花賞までもう5か月もないのだ。

 今のアイの走りを見て今まで以上にトレーニングに励むウマ娘も多く現れることになるだろう。

 僕もまた、アイが負けないようにトレーニングを考えないと……

 

「アイー! かっこよかったぞー! な、ララ!」

「――今の走りを、ウチは知っている……? アレは確か、桜花賞の、でも……いや、まさか……」

「ララ? なあなあ、ラーラー!」

ウチは、この姿は、つまり――……っ、あ、ああ、そうやな、かっこよかったな!」

「な! ブーも本格化が来たら、あれぐらい強くなるぞー!」

「ああ、その調子やねえ。…………樹トレーナーはん」

「どうした?」

「…………マネーユグドラシルって、聞いたことあるんとちゃうかなーって」

「え!?」

「ってかジブンとちゃうかて思っとるんやけど……」

「ええっ!?」

「……マネー、ユグドラシル?」

うまぴょいって?

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