前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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幼少期の先へ(エリューズニル)

 

 Dream Festが発表されてから早半年以上が経つ。

 その間に得られた人気の量はぼちぼちと言ったところで、最近のGⅠレースよりはちょっと注目量が多いかと言うところだった。

 とはいえ、広告に見向きする人々は少なく、レース場にも空席が目立つ。まだ問題点は山積みだ。

 考えることは多いが、そんなことを集まった世代のオールスターウマ娘たちは知る由は無い。

 彼女たちが集められた理由はただ一つ。

 走るためなのだから。

 

 阪神レース場1600右回り。

 Dream Fest 3番人気、Stellaのレース場は他のPrideとLegendを開催しているレース場に客を多く獲られ空いてはいたものの、そんなものはウマ娘の覚悟に何ら影響は与えない。

 むしろ「こんなレースを見逃しただなんて!」とがっかりさせてやろうと意気込むウマ娘は多い。

 

 そしてそれは、アイも同じことだった。

 

 

 

 

 

 

「(――やっぱり阪神ジュベナイルフィリーズでマークを付けられているわね)」

 

 現在第3コーナー中盤。

 アイは前回と同じようにウマ娘たちの中団を走るが、前回走った時よりも前後の間隔が広い。

 先頭のウマ娘たちから最後尾のウマ娘まで13バ身ほどの差があり、展開はハイペースと言える。

 

「(シーキングザパールさんとユキノビジンさんが逃げの手を打っているのね)」

 

 見れば、先頭では複数人の逃げのウマ娘が先頭争いを繰り広げていて、彼女たちが戦況をリードしているのだと確信できる。

 この展開は後続のウマ娘の体力を早めに削ることができ、終盤でスパートの入りを弱くすることができるだろう。

 それを知ってか知らずか、確かに他のウマ娘たちはスピード感のある展開に急激に体力を削られ始めているが、アイにそれは効くことはない。

 アイは冷静に、この展開のスパートに対応できるだけの脚を残しながら走っている。

 

 そしてそれは、他の集いしジュニア級オールスターウマ娘の中にいるさらに秀でた将来GⅠを獲れる可能性のあるウマ娘たちも同じこと。

 エアグルーヴ、ニシノフラワー、そしてオープンとGⅢを複数回出走しこのDream Festに駒を進めたイクノディクタスも動じていない。

 

「(やはりアーモンドアイにはこのハイペースは効いていないか……やはり貴様こそが私の最大の敵!)」

「(アーモンドアイさんには効いていない……! いえ、わかりきっていたことですよね。落ち着いて……落ち着いて……このまま最終直線で――!)」

「(なるほど、これがアーモンドアイですか。確かに強敵ですが対策できないことはないでしょう)」

 

 そうこう思っている間に最終コーナーへと入り込む。

 

 


 

 

「――やはり彼女たちもそれぞれこのパターンを考察していたっぽいな」

「せやなあ。あのえぐい差し込みを防ぐにはバテさせるのが一番手っ取り早いのはそうなんやけど……それで動じてくれるほどクラシックに挑む気持ちは鈍っとらんてことやねえ」

「うん。みなさんこの展開に対応できるように息の整え方や効率的なペース配分を習得している。――それに……イクノディクタス、さんでしたっけ」

「うん? 彼女がどないしたの?」

「――彼女、領域(ゾーン)に入りかけてる」

「……ああ、さっき話しとったやつな。それにシーキングザパール先輩も領域(ゾーン)に入ろうとしとらん?」

「ですね。やっぱり誰かしらこの段階から習得してくる可能性はありましたので警戒していたんですけれども……」

「せやな」

 

「――これなら勝てます」

「――こんなんで負けるわけあらへんもんな」

 

 


 

 

 レース直前、控室で。

 

「アイ、ちょっといいかな?」

「何?」

「ここから先、おそらく領域(ゾーン)を使うウマ娘が現れ始めると思う」

領域(ゾーン)? 何よそれ」

「トレーナーとして知った()()()()だよ。すでに僕たちは経験している『()()』のこと」

「……なるほど。そういうことね」

「はー、便利な名前が付いたもんやね」

 

 前世では、僕たちそれぞれが何ともわかっていなかった走りの極致。

 理想の走り、覚悟の塊、決死の思い……呼び名は色々あった。

 

「今のアイの能力は大体どれぐらいなん?」

「……約16.67%。全盛期の9分の1.5ね」

「なんでそこで小数点刻むのか解らんけど……使えるんか? 今のアイに領域(ゾーン)は」

「使えるはずだよ。僕がそう調整しきったつもりだから」

「は?」

 

 普通のウマ娘なら、使うために様々な試行錯誤が必須だろう。

 でも、僕はアイの領域(ゾーン)の条件と、それを使えるだけの体力を前世での経験から計算し終えていた。

 今のアイが全盛期の9分の1.5であるということは、アイの領域(ゾーン)の威力が9分の1.5程度になる以上の弊害はない。

 

「アイ、領域(ゾーン)を使って勝って来て。君のクラシックへの挑戦にふさわしいレースにしたかったから」

「ユグ……――ええ! ユグにそこまで期待されちゃあ仕方ないわね!」

「尻尾ブンブン丸見えやでー」

 

 


 

 

 

 

「(私は今、ユグに期待されている。ユグが私の勝利を願っている……)」

 

「(これよこれっ! この走りで一気に~~『世界』へっ!!! 『I'm possible』(ン〜!ポッシブル!!)) この可能性、世界に示すわ――!」

「(百錬成鋼。未だ未熟なれど、鍛えたこの脚ならば――!)」

 

 前方で領域(ゾーン)に入っているウマ娘は2人。

 それ以外はまだ入り口寸前ってところ。

 他のウマ娘も最終直線でスパートをかけ始める。

 

「(――だったら、見せてあげなくっちゃ! 私の創る――新世界!)」

 

 その中で、蒼い瞳が世界を映し始めた。

 

 瞬間、ターフを走るウマ娘たちに少々の動揺が走った。

 見間違いか。錯覚か? 幻覚かと、動揺がウマ娘の脳裏をよぎった。

 

「(何だべ? 今のは……?)」

「(まるで、おとぎ話の世界みたいな……?)」

「(一瞬……別世界がターフに見えた、のか……――っ!?)」

 

「(新世界よ!!)」

 

 それは、アイの思い描く新世界の形。

 それをターフに見せたもの。転じてアイの勝利への道。

 

 映し出された新世界の断片は、アイが駆け進むに相応しい理想郷。

 

 アイの瞳は、決して新世界を見逃さない。

 線のようにたなびく新世界の光の道を踏み進み、するりと先頭争いにアイは加わる。

 いや、先頭に向かって力強く加速してゆく。

 

「(っ、これは――ここまでとは――しかしっ!)」

 

 イクノディクタスは首位を譲らぬと全力で疾走するが、加速度が足りない。アイが追い抜ける。

 アイの脚は、新世界を蹴り掴んで離さない。

 

「(やるわねアイちゃん! その輝きとってもエクセレンツ!! だけど、私こそが、ン~~グゥレイツ・ガール! なのよ!!!)」

「(また負けるものか! 母の栄光のためにも!! 私は勝たねばならんのだっ!!!)」

 

 シーキングザパールが追い抜こうと脚を加速させるが、それは届かない。アイはさらに速くなっている。

 アイは、新世界を踏み進む。瞳に映る新世界を、この世に足跡として刻んで。

 

「(私は負けないわ! だって――トレーナー(ユグ)が勝ってと言ったのだから――!)」

 

 アイは駆ける。その身に、確かに果てしないほどに強き思いを背負って。 

 

 

 

『アーモンドアイ先頭! アーモンドアイ先頭! 後続は追いつけないか! どんどん離れていくぞ! イクノディクタス追いつこうとするが足りないか! エアグルーヴも届きそうにない! アーモンドアイ先頭でゴールイン! アーモンドアイ1着! 3バ身離れてイクノディクタス! 3着はエアグルーヴ!』

 

 ――アーモンドアイ、1着。3バ身離れてイクノディクタス。そしてエアグルーヴ。

 

 その日、ターフにいたウマ娘たちの誰もが彼女の夢見る新世界を垣間見た。

 

「――凄まじい末脚だな、アーモンドアイ」

「お褒めにあずかり光栄よ、副会長さん」

「その名を使うな。今ここにいる私はお前に負けた身でしかない。――次の目標はトリプルティアラで間違いないな?」

「ええ。あなたと同じものよ」

「そうか。――なら、桜花賞を楽しみにしておけ。その日、お前に真の“女帝”を見せてやる」

「ふふっ、期待して待ってるわ」

 

 そうして各々のレースは一区切りを迎え、日本は静かな年末へと向かっていく。

 それと同時に、アイのジュニア級でのレースが幕を閉じ……クラシック級としての激動の1年が幕を開けようとしていた。




次回番外編、ラヴちゅーぶっ♡
ご期待ください

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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