前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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The Second Period
炎と霧と黒い妖精の住まう舞台へ


 

「ずいぶん厚着してるわねユグ。そんなに着込んでたら暑くないかしら?」

「君たちより体温がやや低いから……」

「そうなの? それは初耳ね。そんなことより、あけましておめでとう、ユグ」

「ウチからもあけおめやね、ユグはん」

「あけましておめでとう。今年もよろしく」

 

 元旦。

 前世では上手く理解することがなかった一年と一年の変わり目。

 ここ府中も雪が降り、少々寒さを感じる季節となっている。

 

「今年からがアイの本番で、ララも今年デビュー。忙しくなりそうだな」

「せやねえ。アイは一個も負けられない、過酷できつぅいお時間やなあ?」

「別に平気よ。勝てばいいんだから。それで、今日のトレーニングは?」

「さすがに年始にトレーニングは行わないよ」

「えー!?」

「いや、そらそうやて言うたやんか……」

 

 アイが何でーと駄々をこねるけど、トレーナーの中でも社会人的にも年末年始は休む、と言うことが決まっているのだ。

 この1月2月にレースがあるというのならトレーニングを行うこともあるが、現状その予定もないので社会人的な休暇をじっくりと味わいたいつもりではある。

 とはいえアイはこれでもう3日連続でトレーニングがお休み状態。そろそろ爆発しそうな頃合いかもしれない。

 

「私、これで3日もトレーニングをしてないのよ……」

「ストレッチはしてたじゃん」

「あんなのウォームアップにしかならないわよ……身体は温まってるのにトレーニングしないなんて燃料の無駄よ……」

「それやったらハナからトレーニングをせんかったらええやん」

「日々トレーニングをしないと勝てるレースも勝てなくなるじゃない! ていうかそれをララが言うの!?」

「ウチはストレッチだけで満足できる派やからなあ。年末の特番、大いに楽しみたかったしなあ」

「くっ、人間の娯楽に浸ってるぅ……」

「アイは特番とか見なかったのか?」

「そんなの見る暇があるならレースについて鍛えていった方が良いわよ」

 

 相変わらずアイは勝利に貪欲で、それ以外に興味を示そうとはしない。

 と言うより、この世界に産まれた時から前世の記憶を持っていたが故だろうか。

 僕はウマ娘ではなかったから人間の娯楽を軽々と受け入れられたけど、アイは前世と同じように走ることのできるウマ娘だった。

 そのころからアイは前世で叶えられなかった夢に向かってひたすら真っすぐ全速力で走っているのかもしれない。

 踏みとどまること、寄り道するという娯楽を知らないまま。

 

 とはいえ一応改善はしているほうなのだ。

 アイの友人たちと楽しく遊びに行くこともあるし、美味しいカフェやレストランに行くことも増えてきてはいるのだ。

 ただ、その時も友達を悦ばせるような最適なローテーションを求めて様々な店舗巡りやメニュー選択のパターンを考案していたが。

 

 要は息を抜くのがすごいヘタクソなのだ、アイは。

 

「ユグ、今なにか心の中で私の事をバカにした気がするわよ?」

「なんでわかるのかなあ……?」

「なあユグはん、さすがに寒うなってきたから部屋の中に入りたいんやけど……」

「ああ、そうだな」

 

 ララの言う通り今日は寒い。

 さっさと部屋に入って温まらないといけないだろう。

 

 ――僕に用意された、新しいトレーナー室で。

 

 アイがDream Festを勝利してくれたことで学園のトレーナーたちやURAも僕のことを認め、無事にララが僕の担当ウマ娘になった。

 それを祝して、たづなさんが複数人のウマ娘に効率よくデータの提供ができるトレーナー室を用意してくれたのだ。

 

「今までのトレーナー室よりもだいぶ広いわね」

「12畳ぐらいあるんとちゃう?」

「レースに関する資料も用意してくれたし、ありがたいことだよ。たづなさんには感謝しかない」

 

 新年のお年玉として良いものを貰ってしまった気分だ。

 

「それで、私たちを集めたのってこれを披露するため?」

「それもあるけど、ちょうどもうすぐお正月の特番があってね、一緒に見ようかと思ってたんだ」

「特番? そんなの別に……」

「今年のクラシック戦線に関する討論会だよ」

「今年の敵を知るのにちょうどええやろ?」

「………………敵情視察なら、まあトレーニング……ね?」

 

 すーっ、と垂れさがっていた耳がピンと張り気分を良くするアイの様子は、含み笑いをするのに十分だった。

 

 

 


 

 

 

『今年のティアラ路線は熱いですよ! なんてったってジュニア女王アーモンドアイによるトリプルティアラ宣言がされていますからねえ』

『ですが、ライバルの面々もかなり実力をつけ始めています。無事にトリプルティアラを制することができるかどうか……』

「できるわよ! 生意気なテレビねえ……」

「まあまあ」

『現状で私が期待しているのはエアグルーヴですね! 阪神ジュベナイルフィリーズで2着、Dream Festでは3着と好走を続けています。それにエアグルーヴの母はオークスを制しています。親子揃ってオークス制覇! 期待したいですよねえ』

「やっぱり現状私がライバルとして注目しているのはエアグルーヴ先輩ね。Dream Festでも最後で領域(ゾーン)の発動に片足を入れていたから、桜花賞では完璧に仕上げて来るでしょうしね」

「今までもだいぶええ走り見せとったしなあ。こっから確実に化けるのは間違いないやろ」

 

 確かに、エアグルーヴは最後の直線でシーキングザパールを追い抜く際に見せたあの走り。

 あれはまさに領域(ゾーン)であり、その卵ともいえる代物だろう。

 彼女の走る想いはトリプルティアラに向けられている。遅かれ早かれトリプルティアラで出会う際には領域(ゾーン)に覚醒していてもおかしくない。

 

 現状一番の要警戒ウマ娘と言ったところだろう。

 

 しかし最近、トレーナーと上手くいっていないようだと同僚たちが呟いているのを聞いている。

 何かしら不調なのだろうか。少々不安になるところではある。

 

『それなら、シーキングザパールさんも外せないでしょう。阪神ジュベナイルフィリーズでは3着、Dream Festでは3着以内には入れませんでしたが非常にいい戦績だと思いますよ』

「ウチが驚いた先輩やな。なんで領域(ゾーン)を使えとるんやーって」

「彼女の目標は海外のレースらしいし、言動以上に計画は割と緻密に組んでいるのかもしれないな。精神が安定しているんだと思う」

「はーっ、そか……割とトンチキしとる人なんやけどなあ……」

「彼女もクラシック級の間はティアラ路線を中心に組んでいるみたいだから、十分強敵になるかもしれない」

 

 シーキングザパール。

 彼女はレース後に勝った相手にも負けた相手にもみな平等に好走を褒めている。

 共に走った好敵手への感謝を忘れることは一切していない、ファンからの評価ならエアグルーヴを上回っている状態だ。

 

「さすがに年上なだけはあるみたいね。ユグ、精神力トレーニングの計画立てお願い」

「…………座禅でいいか?」

「今の時期なら滝修行がおすすめやな。京都にええ滝があるしどうや?」

「極寒の時期がおすすめの滝??」

「いいわね、じゃあそれで」

「はいはい」

 

 見ているだけで寒くなりそうなトレーニングを予定に入れときながら、番組のキャスターたちが次の注目ウマ娘を紹介し始める。

 ちなみにそのキャスターの中にはハイセイコーさんの姿も見受けられる。

 

「そういえばDream Fest Legendで今回出走したのってハイセイコーさんだったわよね?」

「そうだな。テレビでの集客を高めるためにファンが元から多い彼女が選ばれたらしい」

「あれから数日しかたってへんのに……タフやなあ」

 

 Dream Fest Legendではトゥインクル・シリーズで偉大な功績を残したウマ娘たちが再び集結し、今の時代を支えるウマ娘とレースを行った。

 そのなかでもひときわ人気だったのがClassicを走ったハイセイコーだった。

 しかし、いくら伝説とも呼べるウマ娘と言えどもそれは現役中の話。現在ではブランクもあり、レジェンドウマ娘たちの戦績はあまり好ましくなかった。

 それでも彼女の出走時間中は番組の視聴率が35%を超えていて、ハイセイコーというウマ娘の人気を感じさせることになった。

 ちなみにStellaの視聴率は7%程度だったという。

 

『ハイセイコーさんは誰かおすすめしたいウマ娘はいますか?』

『そうですねー。私、Dream Festで走ったみんなを応援したいんです! だって、彼女たちは1人1人がこれから先の時代を作っていく重要な光なんですから!』

『なるほどねえ、これは質問を間違えたかもしれないなあ』

『ではここからはもう少し視野を広げてみましょうか。ニシノフラワーさんなんてどうですか?』

「阪神ジュベナイルフィリーズでは4着、Dream Festでは5着……アイが出ているとはいえちょっと前情報よりも難しさはない気がするけど……一緒に競い合ってみてどうだった?」

「そうね……彼女もエアグルーヴ先輩と同様に領域(ゾーン)には目覚める可能性は高いわね。今の段階で実力がちょっと鳴かず飛ばずなのは多分プレッシャーとかの問題じゃないかしら」

「プレッシャー?」

「一応ニシノちゃんは学園最年少になるからなあ。トゥインクル・シリーズでもその煽りは大きいし、なんかプレッシャーになんやろなあ。最近教室でもちょいと落ち込んどる感じするし」

 

 なるほど。

 つまりプレッシャーが消えればその限りではない、と言うことか。

 領域(ゾーン)にも目覚めるかもしれないとなると、今は雌伏の時という感じか。

 

 花開くときは近い、そんな気がする。

 恐らくそれはアイも同じだと思うし、彼女の小さい体躯から想定されるスパートのスピードを超えることのできる速度とパワーを重視してトレーニングを組むべきだろう。

 

『お花と言えば、ユキノビジンさんはどうですか? 岩手のめんこいお花さんです!』

『アルテミスステークスでアーモンドアイに2着のウマ娘ですね。Dream Festでは惜しくも7着に沈んでしまいましたが……』

「彼女も気をつけないといけないわよね」

「そんなにか?」

「ええ、ユキノさんはララみたいなタイプよ。渾身の努力家って感じ」

「あーそういう感じなんや。負けをバネにしてくるタイプってことやね」

「それもだいぶ強いバネにしてきそうね。どこかしらで今までの黒星を返しに来そうな気がするわ」

 

 彼女の強さは今のところ僕にはわからないが、アイが言うならそうなのだろう。

 今後の動向に注視しておこう。

 

『ちょっと待ってください! イクノディクタスはどうしたんですか!』

「イクノさんね。あの人ってGⅠを勝ってたりしたのかしら?」

「いや、勝ってなかったはずだし、GⅡどころかGⅢも上手くいってないらしいが……まさか領域(ゾーン)を扱うほどだとは思わなかった」

「さっきのユグはんの言葉を借りるなら『精神が成熟してる』てことなんかね?」

「そうかもしれないけど……あの領域(ゾーン)、おそらく負け続けることが発動の鍵になってる可能性がある」

「負け続けることで……?」

「アイにはわからんタイプやな。『次こそは! 次こそは! 次こそはてっぺん獲っちゃる』って心があるからこその強いパワーっちゅうことやな」

「うん。それだから下手をすると勝ってしまったタイミングで領域(ゾーン)が使えなくなる可能性すらある。心の持ちようの問題だね」

「なるほど……」

 

 まあニシノフラワーと同じく、そこも直してしまえばどうということはない箇所ではある。

 とはいえこの手の反逆心は精神面の大きな支えのようなものだ。前世の三冠路線でこの手の領域(ゾーン)を使う馬を見たからわかることだが、勝ってしまえばその後は途端に崩れてしまうし、そこからの立ち直りは難しい。

 走り方を1から変えるようなものなのだから、難易度は普通ではないだろう。

 

 だからそれを克服出来たら、あるいは今後も負け続けるならば――という感じだろうか。

 

「…………考えてきたら身体を動かしたくなってきちゃった。ちょっとランニング行ってくるわね」

「待て待て待てアイまだ特番は続いてるんだぞ」

「イヤホンで聞きながら走るわ。時間は効率的に使わないと――」

「この後夜からトレーニングに付き合ってやるから、なあ?」

「それなら……まあ……」

「……ユグ、夜からマイナス5度になるんやけど?」

「……防寒具の準備はできてるから」

「ララ、併走をお願いできるかしら?」

「……せやな。ウチも巻き添えを喰らうんは当然やったな。しゃーないわ、三冠ぶん獲るにはこの寒天の下で走れるぐらいにならなあかんやろうしな。とことん付き合うたる!」

「ええ、三冠を取るのはその調子よララ!」

「上から目線むかつくわー!」

 

 この夜滅茶苦茶トレーニングに付き合った。

 

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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