前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
あっという間に冬は終わりを迎え、桜の咲く季節になった。
つまり、桜花賞の季節である。
「――今回一番マークするべきなのはニシノフラワーだな」
「あら、エアグルーヴ先輩とちゃうのん?」
「エアグルーヴについてはちょっとマークを緩めてもいいかもしれないって状態だな」
気を付けることには変わりはないがとはつけ足しておく。
最近エアグルーヴの担当トレーナーが愚痴をこぼす姿を良く見受けられている。
どうやらトレーニングをおざなりにして生徒会の職務を全うしているらしい。
トレーナーは桜花賞もオークスも勝たせようと努めているが、それに彼女が乗ってこなければただの卓上の空論でしかない。
「あらあら、確かに生徒会の仕事を頑張ってるんは聞いとったけどそないに……樫の冠を貰いたないんかな」
「生徒会もレースも両方制してこその女帝なんでしょうね。最も、そんなのにやすやす勝利をくれてやるほど私は弱くないけど。――それで、ニシノちゃんの方が強敵だって判断した理由は何かしら?」
「ああ。ニシノフラワーに強力なサポーターが付いたことを確認したからだな」
「サポーター?」
「アグネスタキオンとセイウンスカイ……特にセイウンスカイについては2年前の皐月賞*1で勝利したウマ娘だ」
セイウンスカイ。トリックスターとして策略でレースに勝つという稀有なタイプのウマ娘だ。
手八丁口八丁、馬ではできない所作の数々と走りとを駆使してライバルを翻弄するその走りを、ニシノフラワーに教えている可能性がある。
そこが1つ。
「アグネスタキオンは……マッドサイエンティストって聞いている。なんでもウマ娘の限界を超える技術の開発を試みているとか」
「タキオン先輩の話は聞いたことあるなぁ。前に科学室を丸焦げにしたえらいとんでもない人やったかしら」
「科学知識に関してはトレーナーを超えるレベルだと聞いている。その知識をニシノフラワーに行使している可能性は捨てきれないというのが、マークする理由かな」
「なるほどね、よくわかったわ。……で、対策も考えているのよね?」
アイの問いかけに僕は応える。
別に大したことじゃない。
セイウンスカイもミホノブルボンの安定した走りを乗り越えることはできなかった。それと同じことをすればいい。
「純粋に動揺されなければいいんだよ。幸い、対策はすでに出来ているからね」
阪神1600、桜花賞。
最初は極めて普通のGⅠだった。
各ウマ娘揃ってスタートを切り、スムーズに第3コーナーを曲がり始める。
しかし第3コーナーの中盤ぐらいから急にウマ娘たちの表情から余裕が消え始めたのだ。
「(なんだべこれ、急にペースが狂って!?)」
「(これは――こんなこと今まで――!)」
「(なんてバッド・エフェクト! でもこの成長はアワサム! 一緒に走っていてとても喜ばしいけどお辛いわねこれ!)」
「(やっぱり、スカイさんの教えてくれた草の根ためらい戦法はアイさんには効いてない……)」
ニシノフラワーは背後から様子をうかがうアーモンドアイが自らの作戦で何一つ動じていないことに感心しながら走っていた。
まさかエアグルーヴが引っかかるとは思っていなかったが、強者の一人でも引っかかってくれれば御の字の作戦だとセイウンスカイは言っていた。
この作戦は一応は成功、しかし肝心の大敵相手には不発と言ったところで終わった。
「(くっ、ペースが揺らぐ……っ! ニシノフラワー、何かしでかしたのか……!?)」
「(見た感じ、ほかのウマ娘もニシノちゃんに動揺されちゃってるわね……スカイさん、いい作戦を考えるわね。彼女にもそれを実行できるだけの判断力があるし)」
普通の精神力、エアグルーヴのような強い精神を持っているウマ娘でも揺るがす大きな先手に動じなかったのは――アーモンドアイが更に先手を打っていたからに他ならない。
冬の間に、アーモンドアイは滝修行を行っていたのだ。
それを見ていた善財樹トレーナーが風邪を引くほどに何度も何度も滝に打たれ精神を統一し続けてきた。
その結果、アーモンドアイは小手先に動じない精神力を身に宿すことに成功していたのだ。
「(滝修行が功を奏したわ! ありがとうララ!)」
「本当に功を奏すことになるとは思わなかったなあ……」
「いやほんまに」
『さあ第4コーナーももうすぐ終わり最終直線が近いぞ! 最初に仕掛けるのはニシノフラワー攻めの姿勢だ! もうスパートをかけているのか!?』
「(こうなったら最後の直線での勝負です! タキオンさんから教わった真っ向勝負での方程式を――)」
「(――動きが変わったわね! ここからがあなたの本領ってことね、ニシノちゃん!)」
寒かった今年の冬を乗り越えるのは誰になるのか。
北風を浴びた海水を受けてなお咲く一輪の花か。
それとも冷水の滝に何度も何度も打ちひしがれてもなお輝く
つぼみが綻ぶのは、どっちだ。
「(勝ちたい! いいえ、勝つんです! 私を支えてくれたみんなに、感謝の気持ちを見せるためにも――!!)」
「(私の新世界は、ここもまだ前哨戦なのよ!! 前世と同じ勝ちをできないで、新世界なんて創れないのよ!!!)」
2人の
陽光降り注ぐ花畑の道と、光り輝く新世界の道。
どちらが先にゴールに到達するのか、どちらが先に足を踏み込めるのか。
『アーモンドアイ飛び出した! ニシノフラワーと並んでいるぞ! どっちが抜け出す!?』
「やあああああああっ!!」
『ニシノフラワーか!?』
「はああああああああっ!!!」
『アーモンドアイか!! 白熱している! どっちが勝つのか!? あと300メートル!』
最後の一手を、アーモンドアイが強く踏み込む。
アーモンドアイの
それは純粋な強化とは違い、前世のパワーへの回帰。
アイが強くなれば強くなるほど、
そして今ゴールへと全力疾走している彼女の
樹トレーナーはこれを桜花賞前までに9分の3まで引き延ばしたい考えだったが、結果は振るわなかった。
どうすれば更に強化できるのか、それは樹トレーナーにも解らないという状態だ。
あくまで身体能力だけを強化すればよいというものではないのが、難解さを挙げていた……が。
しかし、アーモンドアイには解っていた。
自らの事なのだからわかっていて当然と言うかのように、アーモンドアイはその手法を提案した。
分が悪い賭けではあったが、樹トレーナーはそれを否定しない。
それをしてこそのアーモンドアイだという信頼があったからだ。
勝負は勝つか負けるか。勝つことに全力で挑むなら、それが分が悪かろうとも全力で支援する。
それが善財樹というトレーナーであり……マネーユグドラシルという馬なのだと、アーモンドアイは知っている。
だから一歩、強く踏み込めた。
「(ありがとう、ニシノちゃん。おかげで私は、さらに強くなれる――!)」
だからもう一歩、さらに強く踏み込めた。
アーモンドアイの
回帰率31.11%、分数にして9分の2.8。
この想いの強さが、そこに込められた勝利への貪欲さが、勝利を決める。
アーモンドアイが、ニシノフラワーを追い越す決め手になる。
『アーモンドアイ抜け出した! アーモンドアイ、ニシノフラワーを超えて1バ身、2バ身! まだ伸びる!!』
「(っ、まだ足りないのですか……!)」
『アーモンドアイ1着でゴールイン! 勝ったのはアーモンドアイ! 3バ身差をつけて2着ニシノフラワー!』
「まあ勝つのはわかっていたとはいえ……怖いなあ、こういう賭けは」
「せやなあ。けどまあこれまだ二つ目やからな。今後も肝を冷やさんための予行にはなったんとちゃう?」
「そうだなあ……」
――アーモンドアイの
実際に勝負の舞台に立つことでぐんぐん成長していく、超が九つ連鎖しても足りないほどの超実践型
ライバルと鎬を削る過程でのみ磨くことのできる、強烈ながらも弱点も多いものだ。
もしもライバルがいなければ、あるいは見当違いのライバルと鎬を削ってしまえば、肝心の強敵に立ち向かえなくなってしまうのだ。
それをアーモンドアイは前世で実感している。
それに賭けてこそ勝負。
それに駆けてこそレース。
そして、それに勝ってこそ勝利。
「ふふっ、応援ありがとう!」
勝利が大好きだからこそ、賭けに臆せず挑む。
その勇敢さに感服しながら、樹トレーナーはアーモンドアイを見つめる。
アーモンドアイは勝利の実感とトレーナーの冷や汗だらだらの喜ばしい視線を感じながら、観客にその手を掲げるのだった。
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
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18年皐月賞
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18年日本ダービー
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18年菊花賞
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19年天皇賞春
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19年宝塚記念
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20年京都記念
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20年ドバイシーマクラシック
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20年天皇賞秋
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20年ジャパンカップ
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21年ドバイシーマクラシック
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21年宝塚記念
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21年有馬記念
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その他