前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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ウイポやってました
多分これからも遅れる


強き泡たちのエーリヴァーガル

 

「うーん……どうしたもんかなあ……」

「まさか年始から拵えたあの策略をああも見事に粉砕されてしまうとはねえ! アイ君の脚は想像以上だねえ!」

 

 トレセン学園内になぜか存在している薄暗い研究室、そこのソファに寝転がるウマ娘セイウンスカイとフラスコに変な溶液を注入しているウマ娘アグネスタキオン。

 彼女たちはニシノフラワーのサポーターになっていた。

 新年が明けたころからニシノフラワーの下で併走を行っていた。

 

 そこまでならまだ仲のいい友達なんだなで哪吒トレーナーも笑えたのだろうが、現実は思っている以上に奇妙だった。

 観察、研究に考察と哪吒トレーナーが解析したニシノフラワーの成長度合いと能力値に関する資料を盗み見しながらどうこうしたほうがいいなどのアレコレを勝手にニシノフラワーに助言していたのだ。

 トレーナーからしてみたら知らず知らずのうちに変な方向に成長を強制されているようで憤慨ものだろう。

 実際にはきょうせいはきょうせいでも矯正の方だったが。

 彼女たちはニシノフラワーの小さな体でもGⅠを勝ち取れるようにするための対策を考えてくれていたのだ。

 しかもその理論も割と納得できるものだと解り、結果的に黙認状態で今に至る。

 

 今では2人はニシノフラワーの担当サブトレーナーみたいな立ち位置になっている。

 

「笑っている場合じゃあないですよお。このままの状態だと」

「ああ。アイ君がトリプルティアラを獲得してしまうだろうね」

 

 アグネスタキオンはその目に不気味な明かりを灯しながら語る。

 

「あの走り――あれは領域(ゾーン)を理解しきっている走りだ。自らの領域(ゾーン)の一切合切を」

「そうだね。でも、それ自体は別にあり得るんだよ。私だって皐月賞の時に領域(ゾーン)のことは把握していたから」

「その通りだよスカイ君。だがしかし、そこじゃないんだよ。アイ君の――彼女の領域(ゾーン)への理解度は君を超えているぞ」

「は?」

 

 先程から眠たそうに瞼を半分閉じていたセイウンスカイの瞼が開き、驚いた表情を見せる。

 その顔を試験管の反射で確かめたアグネスタキオンはさらに語る。

 

「桜花賞の最終直線……あそこでニシノ君と競り合っていたアイ君だが、なぜ最後に3バ身も抜け出せたと思う?」

「そりゃあ領域(ゾーン)とかパワーとかがニシノちゃんよりも強かったからでしょ?」

「確かにそれもあるだろう。だがこの瞬間、アイ君の領域(ゾーン)が一層強化されたように私は感じたんだ」

「は? あのタイミングで!?」

「ああ」

 

 そう、あそこで、だ。

 あのタイミングで偶発的に、領域(ゾーン)が強化された。

 

「いやいやいやいや、そんな幸運な出来事、あり得ないでしょー?」

「スカイ君の言う通り、いくらサイコロを振り回したところで7の目が出ないように、最終直線でゴール300メートル手前という土壇場で領域(ゾーン)の強化なんて起こりうるわけがない。――でもここに例外を確認したよ」

「えっ」

「昨年度のグラスワンダー君のジャパンカップ。あれでグラスワンダー君はスパート中に領域(ゾーン)を強化していたことを確認したよ」

「嘘ぅ……」

「そこで彼女に問い合わせてみたんだけれどねえ、何て言ったと思うかいスカイ君?」

「…………『もののふたちと競い合う場で鎬を削り勝利を戴くこと、これ以上に走りにて思うところがあるでしょうか』……かなあ?」

「ふむ、概ね間違ってないね」

 

 要はこういうことだと言って、アグネスタキオンはそばにあったホワイトボードにすらりすらりと数式を書き込んでいく。

 高校生でも使わないような様々な記号の入り乱れた数式は、領域(ゾーン)の証明の難解さを雄弁に語っていた。

 

「アーモンドアイ君の領域(ゾーン)とグラスワンダー君の領域(ゾーン)は似ている。強敵たちと共に競い合うことで研がれ、鋭さを増す。まさに刃のような領域(ゾーン)を持つ……『実践型』の領域(ゾーン)だと言える」

「実践型……それじゃ、オークスでも!」

「そう! オークスでもアイ君は競い合うことだろう! 他の強敵たちとねえ! しかも今度はエアグルーヴ副会長もトレーナーと本格的に協力していると来た、強敵には困らない! そこで研がれる領域(ゾーン)は――まず間違いなく、アイ君の勝利を確実なものにするだろうね」

「……そんなことが」

「この結論は決してニシノ君の領域(ゾーン)が弱いということではないということは付け加えさせてもらうよ」

 

 少なくとも、ニシノフラワーが桜花賞の時に見せつけた花の領域(ゾーン)は弱くなんてない。

 桜花賞もオークスも、秋華賞でさえその気になれば手に入れられるものだろうとアグネスタキオンは考察している。

 ただ、アーモンドアイがそれ以上に大きな値を持っていただけなのだ。

 

 セイウンスカイは再びソファに横になる。

 

「もしその仮定がその通りだったとして、それをいったいどうやって何とかするんですかー? タキオン博士ー、言ったからにはなんとかしてくださいよー?」

「そうだねえ。少なくとも、スカイ君の草の根ためらい戦法はアイ君には効いてはいないが、他のウマ娘には効果的だ。そこは評価できるだろうから、その部分を伸ばしながら加速も鍛えて――ううむ、桜花賞からの短期間でアイ君を超えるとなるとなかなか厳しいものがあるねえ……」

「せめてアイさんも戦法にひっかけられたらいいんですけどねえ」

「そんな出来事はそれこそニシノ君の領域(ゾーン)がレース中に突然強化するぐらいのラッキーが必要なレベルだねえ?」

「だよねえ。……せめて魔法みたいな力があれば……」

 

「今魔法って言ったわね!!? つまり私の出番ね!!!」

「ス、スイープちゃん……!」

 

「……ありゃ、これはこれは」

「――なるほど。科学的な研究では少々行き詰っていたし、ここらで趣向を変えてオカルトに寄ってみるのも面白いかもしれないねえ」

「オカルトじゃないわ! 魔法よ!!」

 

 

 

 

 

「今日はご協力ありがとうございました、エアグルーヴさん!」

「ああ、あとは私たちで何とかできるだろう。今日はもう休むといい」

「はい! 鉄扇さんもありがとうございます!」

「うん、ゆっくり休んでね」

 

 太陽が沈みゆくトレセン学園に2人の影があった。

 エアグルーヴとそのトレーナー、鉄扇睦だ。

 

 鉄扇トレーナーはエアグルーヴの生徒会副会長としての仕事を確認していた。

 反省会でスピードシンボリたちから言われた誇りと想い。そこをキチンと確認するために。

 

 そして実際に確認して確信した。

 エアグルーヴは自らを女帝たらんと律し続けているがために、トレーニングの時間を碌に作れていないということを。

 他のウマ娘の走りのコーチング、他部活への協力、メンタルサポート。どれもをそつなくこなしていた。

 

 だからこそ、鉄扇トレーナーは今ムカついている。

 目の前で目を吊り上げているエアグルーヴよりも、内心でめっちゃムカついていた。

 

「…………して、なぜ貴様はここにいる?」

「手伝いに来たわ」

「なぜだ!」

「このままだとあなたはアーモンドアイに負けるからよ」

「っ、だとしても、それならばトレーニングの負荷を増せば良いだろう!」

「そんなことを今のあなたがしたら身体を壊すわ。今のあなたは可愛くてちんまいニシノちゃんよりも弱いの。ちゃんとした時間を用意してしっかり入念にトレーニングしないとこのままだと3着にも入れなくなるわよ」

「ぐっ……だが!」

「それよりも!」

「っ!」

「なんで私を頼らないのよ!! 私あなたのトレーナーよね!!? 他のウマ娘のトレーニングの様子を見ることとか本来私がするべきことなのよ!!? 何あんたが背負ってるのよこのマセガキめ!」

「え、は――?」

 

 エアグルーヴは呆然としている。

 目の前にいる女は誰だ?

 鉄扇トレーナーの名はトレセン学園にいれば聞かない人はいない大物トレーナーのはずだ。

 初代トリプルティアラウマ娘のメジロラモーヌを輩出した優秀なトレーナーだったはずだ。

 それがなぜ、こうも子供のように駄々をこねているのか。

 

「っ、ええい落ち着かんか! 大の大人がみっともない!」

「ちゃんと言わなかったあなたが悪いのよ! 多忙だから手伝ってくださいって、それさえ言ってくれればこうやって手伝うわよ私! こんなアオハルな生徒会活動やってみたかったし!」

「生徒会の活動を舐めるなっ!」

「それならアンタはレースを舐めんな! あーんな多忙なことしてたらそりゃトレーニングの時間割けませんよ! スケジュールびっちりですもんね! すごいわよ!」

「叱るか褒めるかどっちなんだ……!?」

「でもね――そのすごさをレースでも活かせないとどうしようもないでしょ!! 今のあんたただイキってるだけの悲しいJKよ!? GⅠも勝てないかわいそうな女帝(自称)なんて呼ばれ方したくないでしょ!?」

「それはっ……!」

「だからさあ……手伝わせてよ。あんたの走りに見とれてんだからさ、トレーナーとしてこれぐらいは付き合うっての」

 

 …………エアグルーヴは誤解していた。

 

 トレーナーとはただ単に、走りを支えるだけの知識のある存在だと思っていた。

 だからこそ、トレーナーとのノリが合わないならば自分がトレーニングメニューを考えてやればいいのだと思っていた。

 トレーニングとは、GⅠへの道筋とは、ただの知識なのだから。

 

 だからこそなのか。

 鉄扇トレーナーがこうしてエアグルーヴを担当することになったのは、知識を示せる以上の理由があったからなのか。

 

「(私を、ここまで信じてくれていたのか……)」

「トレーナーってのは……本よ。言っちゃえばなんかよくわかんないことだらけの本でしかないの。その気になればだれでも読める本なのよ。――そんな私があんたに見惚れたのはね、トレーナーじゃない部分があんたを好きになったから以外にないのよ」

「それは…………痛っ!!?」

 

 エアグルーヴ突然の奇襲を受ける!

 デコピンを躱せず可愛い悲鳴を上げる。

 

「あんたの女帝への道に惚れたからよ。言わせないでよバカガキめ」

「…………そう、か」

 

 鉄扇睦は炎を散らす女として知られている。

 それはウマ娘の間では()散らす(否定する)女だと思われているが……真相はまるで違うのだと、ここでようやく悟った。

 

 彼女は、鉄扇トレーナー、それはそれは夢を大事にしていたのだ。

 ウマ娘の夢の1つ1つを、しっかり叶えたいと両手で握りしめようとするぐらいには。

 

 鉄扇睦は(夢の邪魔するやつら)散らす(ぶっ壊す)女だったのだ。

 ウマ娘のためを思う、トレーナーだったのだ。

 

「それじゃ、これから暇よね? トレーニングを始めていくわよ。負荷は前回よりも弱くしたけど時間は割り増し。じっくり弱火でコトコト煮込んでいくわよ」

「ああ、わかった。……トレーナー、礼を言う」

「最初からそうしてなさいっての……」

 

 愚痴を零しながらもエアグルーヴへの協力する態度は変えるつもりは無かった。

 その瞳は、その手足は、エアグルーヴの夢を支える杖になる覚悟は決まっていたからだ。

 

「それじゃあもう時間も無いから一気に弱火で行くからね。――オークス、勝ちに行くわよ」

「ふっ――当然だ!」

 

 ――この日以降、夜までトレーニングを続けるエアグルーヴとそのトレーナーの姿が何度も見られるようになった。

 その関係に不穏な影は一切なく、相性が悪いのではという話はあっという間に泡に消えてなくなった。

 

「なぜ支柱を立てる!?」

「え、花ってこれが無いと上手く咲かないもんじゃないの??」

「それはアサガオだけだこのタワケっ!!」

 

 そしてその代わりに、エアグルーヴの尻に敷かれる鉄扇トレーナーの姿が見られるようになり、女帝の恐ろしさを学園中に震撼させたのだった。

 

 

 

 

 

 そして…………

 

「――領域(ゾーン)回帰率38%。やっぱりここから先へは実践投入しないと無理か」

「アイの領域(ゾーン)はえらくわかりやすくて扱いにくうて困りますなあ。ユグも泣いてまうで」

「心配しないで大丈夫よ。ユグはちゃんとトレーニングメニューを組んでいるもの。おかげで領域(ゾーン)以外は前世でオークスに挑んだころよりも私は強くなっているのだから」

 

 桜の花は散り行く5月。

 

「エアグルーヴもトレーナーと良好な関係を再び築き始めているし、ニシノフラワーのトレーナーの下にはまた1人優秀なサポーターが付いたらしい話がある。彼女たちも十分強くなってきているよ」

「さすがに領域(ゾーン)への対策も仕組み始めてる頃合いやろう。アイもここまでやろうか?」

「望むところよ。日に日に輝きを増していく私の新世界、次なる舞台――東京で見せてあげる!」

 

 東京レース場、芝2400メートル左回り。

 ――アルティメットシャイニングサバイブウマ娘のアーモンドアイは、今生初の中距離戦へと挑む。

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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