前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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レース描写がウイポっぽくなってるせいで今回長めです


霧と樫の丘(ニヴルヘイム)

 

「あれがアーモンドアイね」

「この1か月の間にどれだけ伸びているのか……タキオンさん、計算はできる?」

「正直変数が多すぎてわからないんだよねえ。トレーナーも新人なせいでデータがあまり集まらないし、アイくんの領域も領域だからねえ」

「未知数、か……スイープちゃんが教えた魔法……期待していいよね?」

「……全然教えられてないわよー! 

ええっ!!? 

「仕方ないじゃない! 私がトレーニングに加わったのいつだったと思ってるのよ! もう2週間もなかったのよ!! そんなタイミングで魔法を覚えるなんて無茶に決まってるでしょ!!?」

「それもそっかあ……」

「教えられたのはいくつかの初心者向け魔法だけ! それを覚えるだけでも大変だったんだから! 哪吒トレーナーも魔法のレッスンに時間をあんまり割こうとしなかったんだから!」

「なるほどねえ。哪吒君は小手先も大事だけどここで走りきるためのトレーニングに重きを置いていた。さすがにそこに割くべき時間は譲らなかったというわけか」

「これでニシノちゃんが勝てなかったらあのトレーナーは私の使い魔としてコキ使ってあげるんだから!」

 

「おーい! ラーラー! 樹トレーナーさーん! こっちだぞー!」

「ありがとう、ブーちゃん」

「ブーの身体はおっきくて目立って、とても見つけやすうて助かるわぁ」

「えへへ! 褒められたぞ!」

 

「おや、件のトレーナーだねえ」

「あれが善財トレーナー? なんだかへなちょこな感じね」

「でも、知識自体はかなりのものだよ、彼。彼女の領域に対しての理解も優れていたし……新人とはとても思えないんだよねえ」

「まったくだねえ。立ち振る舞いは確かに新人トレーナーのようだと言うのに、内蔵している知識は一線級ときた。──彼の才能だけ見るなら、彼はとっくのとうに中央のトレーナーたちの中でもトップ層にいるのだろうねえ」

 

「なあなあ樹トレーナーさん、今日もアイが勝つんだな!」

「ああ、さっき情報の擦り合わせを行って来て、アイの様子も確認したよ。──このレースも勝てると、僕は確信してる」

「そっか! 頑張れーアイー! …………あれ?」

「どしたん、ブー?」

「なあ、アイの入るゲートって14番だよな? あそこはアイの入るゲートじゃないぞ?」

「あら、ほんまに。16番なんかジッと見て……どしたんやろか」

「──あのゲートは」

 

 大外の16番ゲート。

 そして、東京レース場2400。

 

 ……そっか。

 アイにとっては、ここは本当に思い入れの深いレース場だよな。

 

「樹トレーナー、何か知ってるのか?」

「……あのゲートは、ジャパンカップですごい走りをした()が入ったゲートだね」

「ウマ?」

「……ああ、なるほどなあ。ジャパンカップもおんなじレース場やったなあ」

「へー! アイのあこがれの存在なのか、そのウマ娘って!」

 

 そうなんだろう。

 アイの中では、その新世界を映す瞳に幻として出てしまうほどにまで印象深かったのだろう。

 

 僕という馬は。

 

 

 


 

 

 

「(……ユグ)」

 

 東京レース場の16番ゲート。

 私がこの世界で記憶を思い出すきっかけの1つとなったもの。

 霧のようにおぼろげに覚えていた記憶*1を明確なものにさせたもの。

 

 ジャパンカップで16番ゲートのウマ娘が逃げを見せたあの光景。それが私に既視感をもたらした。

 私の魂に刻まれた、決定的な敗北という記憶を思い起こさせた。

 

「何をしている、アーモンドアイ」

「あら、エアグルーヴ先輩。どうしました?」

「どうしたもこうしたも、お前が今見ていたのは16番ゲートだろう? そこはお前が今回はいるべきゲートではないはずだが」

「ああ、そういうこと」

 

 確かに16番ゲートをジッと見つめすぎたのかもしれないわね。反省しないと。

 ここはウマ娘の世界。競走馬の世界ではない。

 あそこにジッと佇む栗毛の彼は、私の魂が呼び起こした幻影。

 それにしては出来が良すぎるのだけれどもね。

 

 本当に、あなたは私に消えない傷を残してくれたのね。ユグ。

 

「──ジャパンカップでここから走ったとある伝説を、思い出していたのよ。気に障ってしまったかしら?」

「いや、ただ気になってしまったからな。このオークスにおける最大の敵が腑抜けているだなど、決まりが悪いからな。──しかし、ジャパンカップか。確かにレース場もコースも同じだ。だが、ジャパンカップにはないものがここにあることは忘れるなよ」

「へえ、それは?」

「女帝として、本気も本気な私の存在だ」

「それって、ジャパンカップでは本気じゃないって言ってるように聞こえるのだけれど?」

「ふふ、ジャパンカップを挑むウマ娘に劣らない気迫である、ということだ。──今回は覚悟しろ、アーモンドアイ」

「ええ、受けて立つわ!」

 

 桜花賞のころの不調は完全に消えたみたいね。

 エアグルーヴの気迫も覇気も、確かに女帝と呼ぶにふさわしい風格を見せつけている。

 トレーナーとも仲良くやっている話を聞いているし、敵として申し分ない状態ね。

 彼女の宣言通りに女帝としての風格を発揮してくること間違いなしね。

 

デュー・ミライ・ナインセブン……デュー・ミライ・ナインセブン……──よしっ」

 

 ニシノさんも呪文を唱えて精神統一していたみたいね。

 彼女の未熟な肉体を支えようと集まったセイウンスカイとアグネスタキオンとに加わった2年前のエリザベス女王杯の覇者、スイープトウショウの教えでしょうね。

 魔法使いのような勝負服に、呪文やらを唱える根っからの魔法少女。

 

 彼女は自らの技術を魔法と呼称して取り扱っている。

 普通の走法やスキルとは形が違う可能性は捨てきれない。

 ニシノさんは今回も強敵なのは間違いないでしょうね。

 

…………

「──解ってるわ、ユグ」

 

 瞳の中に見える彼の姿に告げる。

 

 前世の私は愚かだった。

 敵を三冠馬のみと断定してしまっていた。

 私と同じ風格を見せる三冠馬2頭に心を動かされて、周りを全く見れていなかった。

 

 あなたの覚悟の籠った視線にすら、気が付かないほどに舞い上がっていた。

 

 同じ過ちは二度としない。

 知らないことほど弱いことはない。

 解らなかったなんて言い訳はしない。

 

「ユキノビジンさん」

「あ!? アーモンドアイさ!? あだすにいったいどんな用で」

「期待してる」

「え──」

「それだけよ。オークス、楽しみましょうね」

 

 だからこそ、私は勝つ。

 全てを把握してこその勝利。

 フロックなんて望まない。九死に得る一生に価値はない。

 

 掴み取るならば完全勝利。

 敵を知りつくしてそれらを超える。

 そうしてこその勝利。有無を言わせない絶対的な勝利。

 それが私のレース。

 

 それができなかったのが、私の敗因。

 だからこそ──あなたと組んだ私ほど、強いタッグはいないと確信している。

 負けた理由になったあなたと一緒に挑むから、私は更に強くなれる。

 

「──見ていて、ユグ。私の勝利を!」

 

 


 

 

『スタートしました! 各ウマ娘見事なスタートを切りました。先手を取ったのはカチドキジョウモン、さらにはアーモンドアイ、1番イクノディクタスその後ろ』

 

「アイが前に! 大丈夫だよな!?」

「バ群に潰されないためだね。外側のゲートだったし、最序盤は前方で様子を伺いながら、後方の良い位置へと位置づけする常套手段だよ」

「まだ出だしも出だしやし、そこまで心配する必要あらへんやろ」

「それもそっか! 頑張れーアイー!!」

 

『カチドキジョウモンの内を通ってエアグルーヴ、外にはニシノフラワー、内を通ってウキウキビート、その後ろに白い勝負服ユキノビジン』

 

「エアグルーヴ……信じてるわよ」

 

『デコカジその後ろに続いています、その外にアルフォンソ、ここに付けたのがシーキングザパール、その外からアガニッペー、内からオウカンノース、すぐ後ろのラブリーウタカタ、そのうちからアズマワイルド、殿からユキョウヤナギ。各ウマ娘、鮮やかなターフを駆けていきます!』

 

 第1コーナーは終わり、第2コーナーを曲がっていく。

 

 先頭はニシノフラワーがつかみ取り、桜花賞と同じくデバフ戦法を後続のウマ娘たちに行う構えを取っている。

 その結果として、最序盤にハナを取ったカチドキジョウモンがペースを狂わされ始めている。

 だが、エアグルーヴには効いている節はない。

 

「(エアグルーヴさんに効いてない……!)」

「(二度も狂わされる私だと思うなよ!)」

「(──でも、勝てないと今から決まるわけじゃないっ!)」

 

 先頭3人の後方に少し離れた一塊。

 ユキノビジンとイクノディクタスが塊の先頭から様子を伺っている。

 

「(何を仕掛けられても問題ない。メンタルトレーニングによりペースの不安定さは改善済みです。さあ、ニシノフラワーさん、何をして来ます……?)」

 

 1000メートルを通過した。

 レース展開は普通と言ったところか。1分とコンマ9秒の平均ペースでレースは進み、向正面へと舞台は移る。

 

 全長8バ身差の列の先頭から、ニシノフラワーがデバフ戦法の種を蒔く。

 しかも今回はスイープトウショウの魔法も組み込まれている。

 

「(っ、ニシノフラワーのあの顔……何を今回は企んでるのよっ!)」

「(掛かったウマ娘の疲れがちょっと濃くなってる。これが魔法少女の教えた魔法ね)」

「決まったわ! チューベローズ・トリックよ!」

「なるほどねえ。所作は所作でも表情やまばたきといった表情の変化で相手を魅了する……か。掛かりと言うのはレース中の不利的な状況によって発生する気の焦りだが、それをわざと強力にさせるのがこの技術なのだねえ」

「魔法よ!! ま・ほ・う!!!」

 

 最後方……追い込みのウマ娘たちはニシノフラワーの余裕そうな笑みの表情から掛かってしまい、そしてその掛かりはニシノフラワーが更に何かしでかすのではないかと言う思考から落ち着けなくなってしまう。

 思考の迷路。それこそが魔法少女が教えたトリックだった。

 

 第3コーナーを曲がり、第4コーナーも中盤。

 ここからが勝負所。

 

「(見えた! 私の花畑っ!)」

 

 誰よりも先に、ニシノフラワーの領域が発動する。

 花畑の路。つぼみ開きゆく花々の咲き誇るターフをニシノフラワーは駆け始める。

 その領域は桜花賞でも猛威を揮った。今回もまたと思われたし、先頭を走りながら最終直線へと入ったその姿に観客たちも思い始める。

 

 今度こそ、ニシノフラワーが勝つのではないか。

 

 だが、その期待は打ち破られることになる。

 すぐ後ろで構えていた、女帝によって。

 

「え──」

「(このレース、勝たせてもらう……母から受け継がれた、この(誇り)で!! )」

 

 誇り高き蒼炎の領域に、花畑の領域が塗りつぶされる。

 それは錯覚か、現実か。ニシノフラワーの領域は崩壊し、徐々に後ろへと垂れていく。

 

「ニシノちゃん!」

「ちょっと! 何へばってんのよー!!」

「最終直線前の上り坂とエアグルーヴの領域を介しての気迫とに押し負けたみたいだね」

「ちょいと適性不足感は否めんなあ。ニシノちゃん、本質はマイラーとちゃうんか?」

「なあなあ、アイは! アイは行けるのか!?」

「ああ。──もう、射程範囲内だ

 

「(来たか──アーモンドアイ!)」

「(私が勝つわよ、エアグルーヴ!)」

 

 アーモンドアイは、もうすでに領域に入っていた。

 最終直線に入ったそのタイミングで、光り輝く新世界の道を駆け始めていた。

 その脚の回転は速く、鋭く、力強く。

 

『アーモンドアイ、一気に足を延ばしている! エアグルーヴ躱せるか!?』

 

 刻一刻とエアグルーヴへとアーモンドアイが迫ってくる。

 ゴールまではもう距離はない。

 

 ゴールまで20メートル、アーモンドアイとエアグルーヴが並んだ。

 

 ここでエアグルーヴが粘ればエアグルーヴの勝ち。

 アーモンドアイが更に脚を伸ばせば、アーモンドアイの勝ちだ。

 

「(アーモンドアイ!)」

「(?)」

「(貴様は何のために、このオークスを勝ちに来た!)」

「(エアグルーヴ……?)」

「(私は今日この日のために全てを鍛えた! 母から受け継いだ全てを賭して、この樫の女王にならんと極めて来たのだ! 貴様は何のために此処に来たのだ!!)」

 

 瞬間アーモンドアイの耳に聞こえた言葉。

 領域がぶつかり合ったことで起きた幻聴か、あるいは魔法か。

 エアグルーヴの叫びに、アーモンドアイは当然と言わんばかりに言葉を意気揚々に返す。

 

「(そんなの、決まってるわ)」

「(なんだ!?)」

「(新世界を、創るためよ──!!!)」

 

 燃え盛る誇りか、輝き止まぬ覚悟か。

 どちらが勝ってもおかしくない最後の5メートル。

 

「うおおおおおおおおおーっ!!」

「はあああああああああーっ!!」

 

 その瞬間に、誰もが固唾を呑み──そして、歓声が上がった。

 

『アーモンドアイ、アーモンドアイ! 勝ったのはアーモンドアイ! これでダブルティアラ達成です!』

 

 抜け出したのは──アーモンドアイだった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「……最後は互角だった……それでも、足りなかったのか……っ!」

 

 最後のあの瞬間に、アーモンドアイの領域がエアグルーヴの領域より強化されたなんていうことは無かった。

 むしろその瞬間までにアーモンドアイの領域は成長していた状態──レース前の回帰率38%の状態から成長した回帰率45%。全盛期の9分の3を超える状態だったのだ。

 あの瞬間のアーモンドアイの領域とエアグルーヴの領域とはイコール、同火力の代物だった。

 

 それはエアグルーヴにも感じ取れたし、それ無しにも自らの領域を最後まで振り絞れば勝てるという確信めいたものもあった。

 それでも、負けた。

 アーモンドアイは、勝った。

 この瞬間に全てを賭けて、全てを振り絞ろうと覚悟を決めてもなお、届かない遠い壁だった。

 

 なぜ負けて、なぜ勝ったのか。

 エアグルーヴの脳内では疲労もあって答えが得られなかった──が、アーモンドアイが答えを呟く。

 

「…………2分23秒5、か」

「──アイ……?」

「──遠いなあ、ユグの背中は」

 

 


 

 

『マネーユグドラシル先頭を譲らなかったーっ!!!』

『勝ったのはマネーユグドラシル!!! こんな展開誰が予想できたでしょうか!!!』

「…………嘘……」

2()()2()0()()3()! アーモンドアイよりも早いレコードタイムを叩き出し、三冠馬三頭の猛追を凌ぎ切りました!!』

「エボカドーロ、ワグネリアン、フィエールマン……」

「…………」

──みんな、見てくれたかな……僕たちの三冠(きみたち)の時代を

 

 


 

 

「3.2秒オーバー……もっともっと強くならないと……!」

「(そうか……私とお前とでは、背負っているものの()()が違うのだな)」

 

 オークスに誇りを以て自らの総てを賭けて挑んでいたエアグルーヴと、とても大きな過去の過ちを背負い今一度新時代を目指す長い旅路に挑むアーモンドアイ。

 

 一瞬に賭けた蒼炎よりも、未来を求める輝きの方が強かった。

 エアグルーヴの領域が魅せた炎は高さ強さこそ果てしなかった。

 だがそんな炎よりも、一直線に果てしなく先へ伸びて輝くアーモンドアイの新時代、新世界の方が広大だった。

 

 ゴールに届くのは、横に広い方。

 真相はわかってしまえば、あっけないものだった。

 

「完敗、だな」

 

 今にして思えばそうだろうとエアグルーヴは負けながら笑う。

 何もこんなところで全てを燃やそうとしなくてもいいではないか。

 ガタガタに震える脚は無茶をしすぎた証だ。おそらくウイニングライブも踊れないだろう。

 

 こんな心構えで挑むとは、万全を謳いながらなんと疵瑕の多いことか。

 本当にバカなことをしたとエアグルーヴは苦笑する。

 まだ、私には次があるのだから。

 

「(母上、オークスを勝てず申し訳ない。だが──次こそは、秋華賞こそは、必ずこの手に──! )」

 

 そして、その先の栄光をも。

 エアグルーヴは駆けつけた鉄扇トレーナーの肩を借りながらレース場を後にしていったのだった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ユグはん。さっきの……」

「ああ。──秋華賞での敵は決まった」

 

「はぁっ、はぁっ……よし、()()()()()()()()()()()()べ! オークス勝でながったのは悔しいども、秋華賞勝って故郷のみんなに喜んでもらうべー!」

 

「ユキノビジン。──彼女を超えなければ、秋華賞は勝てない」

 

 

*1
一応転生したという認識はあったし、自身が競走馬だったこともわかっていたけどどんな馬だったかが分からなかった状態だった。

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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