前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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暑き芝の妖精たち(スヴァルトアルフヘイム)

 

「正直に言って、宝塚記念では正攻法で挑むと痛い目を見ることになると思う」

「やっぱり?」

「セイウンスカイからのマークが厳しすぎる。このままだと彼女の仕掛ける罠を残さず喰らう羽目になる」

 

 今年の大阪杯でも、天皇賞春でも、セイウンスカイのデバフの猛威が揮われた。

 大阪杯ではシリウスシンボリを大きく垂れさせた。天皇賞春ではウマ娘たちを大きくバテさせることに成功し、勝利を掴んでいる。

 普通に考えても敵に回したくない厄介極まりない難敵と言える。

 

「とはいえ弱点らしきものも見つけた」

「本当? どんなのかしら」

「大阪杯ではシリウスシンボリのいる箇所……つまり『先行』のウマ娘を中心にデバフの罠を敷いている。天皇賞春ではゴールドシップをマークして『追い込み』に……」

「……これ、同時に別の場所にデバフを撒いてないのかしら?」

「そこだね。さすがのトリックスターでも、後方から迫りくる複数のウマ娘たちの脚質全てを対象にデバフを撒くことはできなかった……いや、一点特化にしているとみるべきだろうね」

 

 あくまで全体用のデバフは習得自体はしているのだろう。使っていないだけで。

 とは言え彼女が出走した直近の1年間のレースを確認しても全体を対象にしたデバフを行使している場面に遭遇することはなかった。

 セイウンスカイのクラシック級時代にさかのぼってもその様子が見受けられなかったことから苦手分野にしているのかもしれない。

 

「もしこのまま出走すると、『差し』に強力なウマ娘が2人現れることになる」

「私とグラスワンダーさんね」

「現状中距離最強格と名高い彼女と無敗ダブルティアラのアイ、2人を1発で仕留めきれる可能性がある。セイウンスカイは一石二鳥(それ)を狙っているんだろうな」

「――なら、()()()()()()()()()のね?」

 

 アイの視線は物理的にキラキラしているのか、キラキラエフェクトが背中をチクチクと刺していた気がする。

 それぐらいアイは期待に満ちた目つきをしている。

 

 無理もないだろう。

 ずっと前から僕と秘密裏に特訓していたあれを表舞台に引っ張り出す許可を得られたというのだから。

 

「あくまで実践可能なレベルになった、と言うだけだよ。領域はまだ――」

「それで充分よ。手掛かりは掴んでいるもの」

「いつの間に……まったく」

 

 とはいえ、そこまでわかりやすかったというのなら問題もないだろう。

 

「アイ、今回の宝塚記念は歴代最上級の猛者が集っているという話だ。視聴率もDream Festを超す可能性だってあるらしい」

「ふふっ、そうみたいね」

「だから……アイ、全て搔っ攫って往くと善い

 

 さながら、僕みたいに。

 

 

 

 

 


 

 

宝塚記念 芝2200m 右 晴 稍重 16人

1ヴァンクール10スイープトウショウ

2ベターステイツ11ヨウテイヒラリー

3チェインホッパー12インゼルクローネ

4メガトレイン13アーモンドアイ

5シリウスシンボリ14セイウンスカイ

6キングブレイキン15スーパーブライト

7サハブネフティス16カワカミプリンセス

8グラスワンダー

9ゴールドシップ

 

 

『スタートしました! 各ウマ娘好調な走り出しを決めています。好スタートを決めたのはアーモンドアイ、綺麗なスタートを決めました』

「(やっぱスタート上手くなってる。すごいな~)」

 

 でも、そこが狙い目だよ。

 そう言わんばかりに始まったばかりのこの段階からセイウンスカイがアーモンドアイに向けてデバフを振りまく。

 とはいえこれは自分が優位に立つための仮の餌。

 『逃げ』の私よりも先頭を走るなんて生意気な面を叩き落とす、軽い牽制程度の意味合い――

 

「(――ふふっ)」

「………………は?」

 

 笑った? なんで?

 セイウンスカイの撒いたデバフは軽微ではあるが確実にアーモンドアイに何らかの影響を及ぼした。

 たとえ凌いだとしても、そこまで余裕そうな表情ができるはずがない。

 

「(待って、アイちゃん……いつまで先頭にいる気なの?)」

 

 もう目前に第1コーナーが控えているこの状況で、これ以上アーモンドアイが先頭にいる意味はない。

 前回のオークス同様に、ウマ娘たちの中団へ引っ込むべき頃合いになってきている。

 それなのに目の前で先頭を突き進むアーモンドアイはハナを手放すつもりがない。

 

「(……ねえ、ちょっと、待って、嘘でしょ!?)」

「(おいおい、アーモンドアイ……面白いことをする)」

『アーモンドアイ先頭を行きますがこれはどうなんでしょうか?』

『かかっているかもしれませんね。一息つけるといいのですが』

「(これっぽっちも掛かってなんかいないじゃない!? アーモンドアイ、まさか――『逃げ』で走ってるの!!?)」

 

「(これが、先頭の景色……これが、ユグが見た景色!)」

 

 セイウンスカイとスイープトウショウは驚愕を隠せない。

 今まで差しで桜花賞、オークス、ジュニア級からのレース全てを征している彼女が、逃げで走ることができたなんて話を聞いたことがなかったからだ。

 

 だが、そうとしか考えられない。

 先頭を走る際に必要になる『周囲にウマ娘がいないが故の孤独感』を制御しているのはそれ以外にはありえない。

 

「(それに……私のスキルを躱すためか!)」

「(アーモンドアイさん……何という奇策、天晴です。――ですが)」

「(っ、まずい!)」

 

 瞬間、セイウンスカイに重圧が伸し掛かる。

 グラスワンダーが会得した技法。日本武術にて強く知れ渡る『居合』の応用。

 相手が仕掛ける前に仕掛ける。それによりレースを手中に収める独占力のスキル。

 

「(しくったっ! アイの逃げに油断した……っ!)」

「(グラスワンダーさんからね。さすがに厳しい――けれどもっ!)」

「(……これを凌いだ? なるほど。その走りは仮初の代物ではないのですね)」

 

 まさか私がと油断を後悔できないほどひっ迫した展開をセイウンスカイは強いられることになった。

 後ろから迫る前年度クラシックの戦士たち、前方にはダブルティアラの王女

 どちらにも対応することはできない。デバフ戦術に精通しきったセイウンスカイでも、デバフは前後どちらか一方にのみ。

 それが限界だった。

 

 どちらかは切り捨てて実力で勝負するしか無い。

 

「(クソっ、これじゃあ私――完全にオマツリ*1じゃないか!)」

 

 セイウンスカイはこの状況をリセットするため、背後に――グラスワンダーのいる差しのウマ娘たちへと罠を仕掛けていく。

 目の前を走るアーモンドアイはまだ逃げを会得してからそう長くない。かならず捉えられると信じて。

 

『1000メートルを通過しました、ここまではほぼ平均ペース!』

 

 舞台は向こう正面へと渡っていく。

 アーモンドアイが仕掛けた逃げと言う作戦でも乗り越えきれるとセイウンスカイと同じ思考をしているウマ娘は多い。

 しかし、スイープトウショウはその思考に否と突きつける。

 

「(相手はあのよくわかんないトレーナーなのよ!? 誰も知らない不思議な何かを覚えさせてるかもしれないじゃない! それに、アーモンドアイなら逃げを完璧にしてるかもしれないじゃない!!)」

『このあたりで各ウマ娘第3コーナーへと入っていきます! 先頭は依然としてアーモンドアイ、シリウスシンボリ良い脚で伸びてきた、セイウンスカイ3番手、後続集団も追い上げにかかります!』

「(だから、攻めるなら早くしないと! なのに……)」

「(…………)」

「(うっひゃー怖ええーっ! ゴルシちゃん大混乱エマージェンシー! ワーニンワーニンパニックでーす!)」

「(この気迫の厚さは何なのよっ!!?)」

 

 スイープトウショウが感じたのはまるで和室に入るときのような厳かな雰囲気。

 グラスワンダーの、領域が張り詰める気配だった。

 まるで鬼か悪魔のような気迫をした武者が、そこで座して機を見計らう。水の一滴すらも見逃されない強固な気迫だった。

 スイープトウショウはこの気迫により、前に進むことが厳しくなっていた。

 

『その後ろ、差が開いてキングブレイキン、その外からはスーパーブライト、さらにその外ヨウテイヒラリー! 各ウマ娘緩やかに下りつつ急坂が待ち受ける直線に挑みます!』

「(まだだっ! まだやり様はある! 逃げは私の方が上手い! なら――)」

 

 ここからのラストスパートで自分がより鋭い末脚を発揮すれば、勝ち目はある。

 悪あがきのようだがそれしかない。アーモンドアイの逃げが未熟で末脚を残せていない可能性に賭けるしかない。

 

『先頭を躱したかセイウンスカイ!』

「(よし、このまま――っ!)」

「(行くわよ、ユグ)」

 

 その瞬間、セイウンスカイは隣からアーモンドアイのものとは思えない強い気配を感じた。

 背後のウマ娘たちは幻視した。栗毛の誰かをそこに見たのだ。

 今までトゥインクル・シリーズを走ったことのない誰かの姿が、そこにあったのだ。

 

 誰だ、その栗毛の何かは。

 四足歩行で走るその栗毛の何かは沈黙を貫く。

 ただ、アーモンドアイに合わせて――いや、アーモンドアイが幻影に合わせて走っていく。

 

「(ユグの領域は――ギリギリまで迫られてようやくできる。あの時と同じ、私に迫られたように――)」

「(嘘でしょ、こんなことが――)」

「(これが、ユグの、領域よ――!!)」

「(2つ目の、領域なんて――っ!)」

 

 姿かたちの何もかもが違う二つの姿が、一致した。

 瞬間形になる、巨大な植物の影。

 ウマ娘たちの往く道を遮り、先頭を渡さない、自然の防壁。

 

 マネーユグドラシルの、世界樹の領域。

 

『いやアーモンドアイが先頭だ! アーモンドアイ引き離しにかかるがどうだ!?』

「(蔓……いや、根っこ!?)」

「(でっけー木!?)」

「(大樹ってやつか!? にしても雰囲気がそれじゃねえな……なんだこれは!?)」

 

 後続から迫るウマ娘たちの目にも見えるその巨木が、進路を大きく塞いでいく。

 あくまで領域、あくまで気の持ちようなだけなのだが、足がそこより先へと進まない。乗り越えられない。

 彼女の走りを超えられない。

 

 魔法少女の箒星の領域でも。

 黄金の船のアンカーの領域でも。

 一等星の領域でも。

 お姫様の領域でも、打ち破れない。

 

 強固にして不壊。

 それがマネーユグドラシルの領域。

 八冠馬でも勝てないほど頑強な世界樹が、そこにあった。

 

『200を切った! 一気にとらえるかアーモンドアイ! グラスワンダーが仕掛けている!』

「(……やはり、アーモンドアイさん。あなたこそが最大の関門でした)」

 

 いざ、尋常に勝負。

 そう思わずとも発せられた思いと共に、グラスワンダーの領域が開帳される。

 

 斬る、突く、刺す、薙ぐ、拂う。

 薙刀の、彼女が覚え身にした武が走へと転じる。

 

 精神一到何事不成(何事か成らざらん)

 

 極限まで研ぎ澄まされた精神力は、全てを凌駕できる。

 

 グラスワンダーによる中距離最強の領域(走り)アーモンドアイによる繋ぎ受け継がれた領域(走り)

 2つが激しく火花を鳴らして衝突する。

 植物が、世界樹の根が斬られていく方が先か。

 世界樹の根が薙刀の刃を欠けさせるのが先か。

 

「(ユグの走りが、負けるもんかああああああああああっ!!!)」

「(それでも、私が――!)」

「はああああああああああああっ!!!!」

 

『アーモンドアイかわせるか! グラスワンダー迫る迫る迫る! セイウンスカイ粘るがどうだ! アーモンドアイだ、アーモンドアイが抜き去った、アーモンドアイが勝った! アーモンドアイ1着! 前人未到、クラシック級ウマ娘が宝塚記念を勝ち取りました! アーモンドアイこれで4冠目! 新世界を創り出すその実力を遺憾なく発揮しました!!

 

 アーモンドアイ、1着。

 かつての宿敵の領域を携えて、栄光を掴み取ったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

「まったく……ヒヤヒヤするなあもう……」

「ジブンの領域を継承させるなんて、かなり無茶なことさせてたんやなあ……」

「あそこまでできるとは思わなかったけどね。――想定以上だよ。本当に」

「やったなあ!! ()()!!!」

「うん、そうだね。――――……えっ」

「ブー、あんたまさか!?」

「……あれ? なんで、ユグがこっちにいるんだ?? 今そこを走ってたのは、ユグじゃないのか???」

「ブー、お前……」

「まさかジブン、記憶思い出したんか!?」

「そもそも、ユグって一体……? ()、どうして……この、記憶は……――?

「ブー!」

「――こらあかん、知恵熱や! 救護室があるさかい、ユグはん、そこへ連れてくで!」

「ああ! ――うわっ、すごい重い*2……!

「乙女に何言うてんのやドアホ!」

 

*1
※釣り用語。釣り糸が絡まっている状態の事

*2
背丈からして……ね?

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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