前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
――僕はマネーユグドラシル。長いでしょ、ユグでいいよ。
「う、ん……」
――これかあ、この感覚。この『逃げ』が僕に似合う走りなんだね。ハヤト。
「ユ、グ……」
「……あの頃の夢でも見とるんかいな」
――そっか……でも、必ず勝てるよ。海の向こうのレースにも、必ず。
「ユグ……」
「えらいええ顔しとるなあ……」
――約束する。何があっても、僕は君の友達だよ。ブー。
「――ユグ!」
「うわぁっ! 急に飛び上がんなや! えらい驚くさかい」
「ご、ごめん……えっと、ララ?」
「ブーにララと呼ばれるようなウマ娘はウチしか知らんなあ」
ここは……救護室?
でも、なんというか、以前ここに運ばれた時よりも部屋が広いような……
「あそっか。
「その身長で小さいって言われても納得できひんわ」
僕の身体。
かつてのような鹿毛の身体ではなく、スベスベとした人の肌、頭からしか生えてない髪。
そして牝の証のような結構大きな胸。
僕の身体が、人間の牝になっていることを理解すると同時に、ここがどこなのか理解できた。
「そっか……ここが馬の天国なんだ」
「天国って言うにはわりかし前世と変わってへんけどなぁ。……記憶、戻ったんやな」
「うん」
『恵まれた馬は、人間の女になって再び競い合える理想郷がある』……とある人間たちが前世で教えてくれた世界。
半分冗談だと思っていたけれども、実在したんだ。
「あっ、ユグは!?」
「落ち着きや。ユグはんは今アイちゃんのライブを特等席で見るっちゅう仕事をしとるさかい。邪魔したらアイに蹴られるでー」
「そ、そっか」
思い出した。
アイちゃんがユグの姿で走って、それを見た僕がユグのことを思い出したんだった。
だんだん、この世界の事と前の世界の事の情報が整理されていくのを感じる。
「ユグは人間になれたんだ」
「あんまりユグはんのこと、うちら以外の場所で言いふらさへん方がええわぁ。もうわりかし手遅れに近いけどな」
「どうして――って、そっか。みんな、見てたんだもんね」
あの宝塚記念の走りは、すでに全国に放送されている。
ユグの走りが、ユグという
君がまた人気になる。
うふふっ、嬉しいなあ。
全然上手く走れない僕にとって、ユグの走りが人気になっていくことがとても楽しみだったから。
「とはいえ、まだユグはんのこと完全に知れ渡ったわけとちがうんよ」
「どういうこと?」
「ウマチューブでの話になるけどなぁ。ラヴズちゃんの放送ではわりかし大多数の視聴者がユグの姿を認識した。そやけど一方でとある年寄りの大御所解説者はユグの姿を認識できひんかったみたいなんやわぁ」
「それって、どういうこと?」
「ラヴズちゃんのファンは大抵若者やねん。――恐らくは、あの時代にレースを見とったか、知っとったかぐらいの」
「……そっか。その大御所解説者さんは
「この世界、わりかし昔の馬も同年代生まれにしてるらしいからな。そんなんもあるんやろなあ。パッと調べた感じ、ユグの姿を見たのは宝塚記念を見た人たちと、ラヴズちゃんのファン。ほんで……うちらと近い世代、もっと言うたら、ユグと競い合うた間柄の奴らってとこっぽいなぁ」
ユグと……ってことは、結構
クロノちゃんに、ラヴズちゃんも、ブーケちゃんもだっけ。
もしかしたら、僕と同じように記憶を思い出しているのかも……か。
「ユグが聞いたらショックを受けちゃいそうだね。年の近い牝馬ってユグ、割と苦手だったから」
「え、そうなん?」
「ユグは前世だったら年上の馬が好きだったはずだよ。レース引退後に年月が過ぎて落ち着いていて、安心感があるからって」
「初めて知ったわそんなん……うちとまぐわったときに若干落ち込んどったのはそれやったのか……」
この世界ではユグがどうなのかは分からないけど。
「てか、なんでそないにユグのこと知ってるん? 仲良しにしたっておかしない?」
「ユグの牧場に何度もお邪魔したことがあるからね。あそことはもう親戚みたいな関係だったんだ」
「そっか。……なんか、ブーの雰囲気変わったなぁ。前世を見てへんさかいわからへんけど、それが本来の
「……うん。ちょっと大人しすぎるかな?」
「よそから見るとえらいしょぼくれてるように見えるわ」
「そ、そっか」
さすがにそんなことは無いから、今までの性格を保たないと――って待ってよあの性格を維持し続けるの?
割と厳しいよあの性格を今からやるの。今の僕はおじいちゃんを経験したあとの僕だから、あんなに若い子の挙動を無意識でするの難しいんだけど……
「ま、そこはうちにはどないすることもできひんさかい、頑張ってな」
「う゛~……何とかしないと~」
「それよりもや、ブー。これからどないするん?」
「どうするって、何が?」
「前世を思い出した以上、ユグはんとの今まで通りの関係はややこしいやろ?」
そっか。確かにそうだ。
樹トレーナーがユグだって気が付いてもなお、今まで通りのことができるかどうかと言われると……
できることなら、ユグとは一緒にいたい。
ユグにトレーナーとして、僕の夢を支えてほしい。
…………
「あれ、思ったよりも難しくない???」
ウマ娘の私と馬の僕との想いが思っていた以上に嚙み合っているんだけど。
私って、こんなに樹トレーナーのこと気に入ってたんだ。
でもそうだよね。そうじゃないと何度も一緒に話したりしないよね。
「……やっぱりかあ」
「ララ?」
「うちは前世のブーのことをなんも知らんけど、少なくともユグに向ける思いだけは何も変わっとらんと思うわ。気付く前も、気付いた後も」
変わってない。ユグに向ける思いは。
……そっか。私はやっぱり、ユグのことが好きなんだね。
僕が見て、憧れた、あの栄光を求めない走りのように。
心のどこかでは消えなかったし、勘付いていたんだ。
彼となら、彼だから、栄光を求めないからこそ、とんでもないほどの栄光を得た彼のことを。
その姿は、人間になっても、消えなかったからこそ。
心のどこかで突っかかっていたものが外れた気がする。
僕の――私の身体が今まで以上に軽くなるような、風になるような感覚がしていく。
「――ありがとう、ララ。おかげでようやくすっきりしたよ」
「そうか。よかったわあ、ユグから言われとった通りやったけど上手くいって」
「ユグが?」
「せや。『ブーは男の子だから、ウマ娘になったと気が付いた時にいろいろ混乱しているかもしれない』って。実際うちよりも混乱しとったからなあ」
……本当に、ユグは困っていることをすぐわかってくれるんだから。
「ううっ、む、胸が……っ!」
「うおおおおーいっ! ちょっとおおおお!! セイエイさああああん!!!*1 ブーが、ブーが大変なことに!!」
『どうしたのユグ、そんなに嘶いてってうおわああああああ! ブーくんが倒れているううううう!!』
『は、早く応急処置をしないと!!』
「ユ、ユグ……」
「安心して。彼らなら助けてくれる。――僕を信じて」
ああ、やっぱり無理だ。
あの頃の、ユグをかっこいいと思ってしまった光景が頭の中に映し出される。
それを理解すると同時に、
「ララ、私、ユグの……樹トレーナーのチームに入りたい」
「(えらい牝の顔してんでー、ブー……ほんまにジブン、牡やったんか?)」
「まだ本格化は来てないけれど……それでも、彼となら必ず前世でできなかったことを成し遂げられるって信じてるから。そ、それに……ユグのこと、す、す……」
「(ほんまにジブン牡やったんか!? 【放送禁止用語】付いとったんか!!?)」*2
「えっと、だから、ララ、いい、かなあ?」
「(あかんわ女々しさでうち負けそうなんやけど)――あ、ああ。そのことならすでにアイもユグもそうなるだろうなって思っとったわ」
そう言って、ララは僕にとあるプリントを差し出した。
『チーム入籍届』と書かれたプリント。そしてチーム名の欄には……
「『アケルナル』?」
「URAからどやされてなあ。さすがに無名のチームがGⅠ何遍も勝ってるんはあかんってユグはんが必死に考えた名前やね」
「そっか……
アケルナル、伝説の川の名を持つ星座の一等星。
それは日本では見ることが難しいと言われる星。
海外に、海の外にでも向かわない限り、見つけられない果ての星。
高速で動く、伝説の星。
「アケルナルに入ってもよろしくな、ララ!」
「もちろん、ええ関係でいましょうな。ブー」
「おう! それに……負けないからな!」
「ふふっ、本場の女々しさ、教えたるさかい。覚悟しいや。(なんやねんその顔!? 初恋の女の子みたいな顔しよって! うちのヒロインレース人気一気に奪われそうなんやけどどないなっとんねんほんまにー!?)」
よーしっ、アイのライブに間に合うかな。急がないと!*3
そう思いながら僕はベッドから立ち上がり、サインを書き込んだチーム入籍届をしっかりと握りしめて、不思議と何かにショックを受けてそうな表情のララと一緒にユグの下に、アイのライブ会場へと向かっていくのだった。
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
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18年皐月賞
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18年日本ダービー
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18年菊花賞
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19年天皇賞春
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19年宝塚記念
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20年京都記念
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20年ドバイシーマクラシック
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20年天皇賞秋
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20年ジャパンカップ
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21年ドバイシーマクラシック
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21年宝塚記念
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21年有馬記念
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その他