前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
今回のお話はギスギス、ムカムカ、ムシャクシャ、イライラ等のストレス要因が含まれている可能性が大いにあります。
読む際にはその点をご了承して頂くことをお願いします。
ウマ娘もトレーナーもどちらも良い子なの!
それは絶対に変わらないから!
トレーナーはウマ娘のためを思ってのことだし、ウマ娘は友達思いなんです!
悪い子は今回誰もいませんから!
「フラワーちゃーん、どんな感じだい?」
「スカイさん。瞬発力に、スピード。スプリンターとして必要なものはだいぶ鍛えられていると思います」
そりゃよかった。
そういうフラワーちゃんは汗だくだったので、私のスベスベタオルを貸してあげよう。
ついでにそこの海の家で売られていたアイスはちみードリンクも与えてあげよう。
「こ、これまでしてもらうなんて悪いですよ。いくらだったんですか? 私が払いますよ」
「いやいや、フラワーちゃんに立て替えてもらうほど私のお財布事情は悪くないって。これぐらいのサポートなんて何も問題ないよ~」
「そうなんですか……? それならいいんですけど……」
「それより、飲んでみようよ? 喉越しばっちり、ウマ娘の夏にはこれ! ってセントライトさんからのお墨付きだよ」
「セントライトさんが、ですか?」
「このアイスはちみードリンクにはセントライトさんの実家の牛乳が使われているらしいよ~? 初代三冠ウマ娘の実家の味、飲んでおかないと損じゃな~い? もしかしたら、ご利益なんてのがあるかもしれないんだよ~?」
「確かにそうですね……! わかりました。私、飲みます!」
そう言って、ごくごくと勢いよくアイスはちみードリンクを飲んでいく。
栄養素たっぷり、成長性抜群でやる気アップも見込めるパワードリンク。
学園の購買にも売り出してほしいレベルの代物で、その効果は見る見るうちにフラワーに軽めにあった疲労が解けてなくなっていき、耳がピンと立ったことからもうかがえる。
「すごいですコレ……! さっきまでのトレーニングの疲れが、あっという間に消えてなくなっちゃいました!」
「ホント、とんでもないよねえ。レジェンドウマ娘って言うのはこういうサポートも万全にやってくれるんだもの。もう足を向けて寝られないや」
「よぉっし、それじゃあまたトレーニングの続きを──」
「ちょいちょい、さすがに疲労が抜けたとはいえ休憩した方が体に良いって──」
「だーかーらー! なんでフラワーを秋華賞に出走させないのよー!」
「何度も言ってるでしょう。今のままじゃ分が悪いんですって」
怒り声と冷静な声がビーチの一角に響き渡った。
その声の出どころはフラワーをサポートする協力者のスイープトウショウちゃんと、ニシノちゃんの担当の哪吒トレーナー。
スイープちゃんはトレーナーに対して怒っていて、トレーナーはそれを冷静に凌いでいる。
周りのウマ娘やトレーナーたちもなんだなんだと様子を伺い始めている。
「はぁ……またかあ」
もうかれこれこれで何回目になるだろうか。
トレーナーはフラワーがオークスで大敗した後から出走するGⅠの方針をティアラからマイル・スプリント方向に切り替えた。
その結果、トレーナーは秋華賞はスルーする方針を固めてしまっているのだが……それに待ったをかけているのがスイープちゃん、と言うわけなのだ。
「何度も言っているじゃない! フラワーが今まで走ったのは1600と2400、この中間の2000メートルが不可能だと初めから決まったわけじゃないでしょ!?」
「そうかもしれませんね。ですが出走するメンバーが駄目なんですよ。アーモンドアイにエアグルーヴ、ユキノビジン……それぞれが強豪。そしてダブルゾーンなる新──いえ、復活した技術。それらを纏めて相手することは
「何よそれ!? 哪吒トレーナー、あなたニシノちゃんのことを信じてないの!!?」
「信じるだけで勝てるならそうします。ですが現実はそうではないんですよ」
「それじゃ勝てないのは当然でしょ!?」
周りの人たちもこの喧騒になんだなんだと視線を向け始めている。
さすがにこれ以上口論をさせていたらニシノちゃんの評判に関わりかねないし、止めてあげないと。
隣でやれやれとしたしぐさをしていたタキオン先輩にアイサインを渡して……と。
「ストーップ。スイープちゃん、それ以上やったらまずいことになるよ」
「何よスカイ!? 今からこのアタマカッチカチなトレーナーのアタマを柔らかくなる魔法をかけてやるつもりなのに!」
「でもここは観衆が多い。魔法とはクローズドな術なのだろう? もしここで魔法を使ってしまったら、西洋の魔女狩りよろしくスイープ君の魔法は胡乱なペテン師扱いをされてしまうかもしれないねえ」
「ちょっとお!? タキオン! あんたどっちの味方なのよ!?」
「スイープさんの言い分も解るんですけど、さすがにここでは迷惑です。いったん誰もいない場所に行きませんか?」
「それだったら私、良い場所を知ってるよー」
ちょうど近くに、良い感じの釣りのできる隠れ渓流スポットを見つけたんだよね。
そこだったら問題はないっしょ。
そんじゃあしゅっぱーつ。
「もうすでに決まった話です。ニシノさんは秋華賞には出走させず、スプリンターズステークスとマイルチャンピオンシップに専念させると」
「どうしてよ!」
「アーモンドアイと競い合ったあなたなら、解るものだと思っていましたが……ここまで解らず屋だったとは」
スイープちゃんはなんでだなんでよと駄々をこねるようにトレーナーの判断に文句を言う。
哪吒トレーナーは言っても聞かないその様子に溜息を吐きながら、レンタルした釣り竿の針に餌を付けて川へと放り込む。
「秋華賞の勝者は解り切っています。アーモンドアイです。こればかりは変わりようがありませんよ」
「やってみないと分からないじゃない! あんたは結局テーブルの上でデータだけしか見てないからそんなことしか言えないのよ!」
「まあまあスイープちゃん。でもまあスイープちゃんのいうこともその通りだとは思うよ? やってみないと分からない。なんてったって人生に一度きりのティアラレースだしね」
「そうだねえ。トレーナーも冷たくあしらうのではなく、きちんと理屈付けて説明するべきではないかね?」
「そうですか。ならばこう言いましょう。──
それが、哪吒トレーナーの導き出した結論だった。
哪吒トレーナーは釣り竿を片手で持ちながら、スマホでとある映像を見せる。
それは、先日繰り広げられた宝塚記念。
私とスイープちゃんが負けてしまったレース。
「このレースでアーモンドアイに負けたあなたたちなら解っているでしょう? アーモンドアイは、今このトリプルティアラに挑む誰よりも……いや、クラシック級の誰よりも強いことは」
「だったら何だって言うのよ! そんなので諦めろって言うの!?」
「勝者の解りきったレースに出すよりも、ニシノフラワーさんが勝てるレースを僕は選びます。──例えそれが、ティアラを見逃すことだったとしても」
アーモンドアイは、強すぎる。
それゆえに哪吒トレーナーは秋華賞を回避して、それ以外でクラシック級の期間中にフラワーが勝てそうなレースを選んだのだ。
別に哪吒トレーナーはフラワーのことを過小評価しているわけではないと言うのが話をちょっと拗らせている。
フラワーは天才だ。とっても頭が良くて、才能もある。末脚もキレがあるし、レース中に繰り出す策略にも幅を利かせられるほど機転も利く。
それでも、フラワーはGⅠを勝てていない。
阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞、オークス。3つのレース全てでアーモンドアイに先着を許してしまっている。
「アーモンドアイに勝てるか勝てないかなんて、今決まるわけじゃないでしょ!? 勝手にフラワーの才能に見切りをつけてるだけじゃない!!」
「とは言え勝ち筋は限りなく薄いんですよ。ニシノフラワーさんはもともとマイラーです。例え2000メートルでも中距離は長すぎる」
アーモンドアイに先着を許してしまってはいるものの、阪神ジュベナイルフィリーズと桜花賞ではフラワーも入着している。
これが意味するのは……マイル以下なら、フラワーは強いということ。
そして逆に、中距離ではフラワーは……弱いということ。
「距離延長のトレーニングを行って中距離を走りきるスタミナを得ることは、スプリンターとして求められる瞬発力を捨てることに等しい。適正距離のバランスは複雑なんです。私はニシノフラワーさんのトレーナーとして、天才少女と言われ入学してきたニシノフラワーさんにGⅠの勝利という栄光への道筋を舗装する義務があります」
三階級の壁、と言うものもトレーナーは危惧している。
ミドルディスタンス、マイラー、スプリンター。3つの距離を走る際にウマ娘が鍛えるべきポイントは異なる。
とあるマイル王トレーナーは言った。『マイラーは短距離と中距離レースを征する才能がある』と。
しかしそれは極めて難しい難題だった。
三階級制覇を妨げる難題として出されたのが、トレーニングのバランスだったのだ。
マイル、中距離、短距離。それぞれに見合ったトレーニングを振り分けることはとてつもなく困難なものなのだ。
もし、何か間違えてしまったら、GⅠを勝てるほどの逸材であろうとも──どの距離でもGⅠを勝てなくなってしまう、諸刃の刃。危険な行為に等しかった。
それぞれの長さのGⅠ全てを制覇できるウマ娘は未だ現れておらず、その難易度は極めて高いものになっている。
「確かにそうだねえ。フラワー君はもともとマイラーで短距離もそこそこよくやれていた。けど──」
「はい。中距離だと……オークスではあんな結果に終わってしまって……」
「それだったらこれ以上無理に身体を酷使するよりも、自らの適正範囲内に収まる舞台で走る方が良い。つまり、中距離は切り捨てた方が良い……それがニシノフラワーさんと話をして決めたことです」
「……なによそれ」
シンと静まり返る。
辺りには川のせせらぎが響き渡る。
この選択に異論がないかと言われると、私もちょっと待ってと言いたくもなるけど……でも、身体を変に壊すよりはいい。
それに、哪吒トレーナーは一度も『アーモンドアイには絶対に勝てない』とは言っていない。
少なくともマイルでは今後の成長次第で勝てる見込みはあるのだと確信しているのだ。
今年中にぶつかることはないだろうけど、ヴィクトリアマイルか安田記念か。シニア級に上がってからどちらかのレースでアーモンドアイとぶつかれば、勝ち筋はある。
それなら無理に中距離にこだわる必要性はない。
今までも何度かぶつかっているが、その都度小分けにしてこれらをスイープは説明されている。
さすがに今回の説明で哪吒トレーナーが考えていることはある程度理解できることだろう。
何もスイープはわがままなだけじゃない。きっちり割り切ることだってできるはずだ。
哪吒トレーナーの浮きに、魚の影が近づいてくる。
これで今回も終わったか……とみんなが思った。
「……つまんない」
「はい?」
「つまんないつまんないつまんない! つっっっっっまんないのよっ!! このデータメガネ似非名探偵トレーナー!!!」
でもそんなことはなかった。
スイープは大声で駄々をこねるように文句をぶちまけて、哪吒トレーナーの釣り針に引っかかりそうだった魚はそれに驚いて下流へと逃げてしまった。
「中距離の適性がないって何よ! 短距離のほうが適性があるから何よ!? マイルだと勝てるからって何よ!!?」
「いきなりなんですか急に」
「三階級が難しいって何よ!!? それなら短距離を切り捨てればいいじゃない!!! そんなに難しい問題じゃないでしょこれ!!? そこを何とかするのがトレーナーっていうお仕事じゃなかったの!!?」
「スイープさん……」
「フラワーもフラワーよ!? 1回中距離で負けたぐらいで何をウダウダウダウダ萎れてるのよ!!? 今まで何度マイルで負けてるのか数え直しないよ!!! 自分に強いレース場で!? 自分に強い距離だから勝てる!!? そんなのがレースだったの!? それがGⅠっていうレースなの!!? そうじゃないでしょ!!? そんなのとってもつまんなぁぁーいのよっ!!!」
「…………」
「でも、それでもアイさんに勝てるかどうかは……」
「──なら証明してあげるわ。適正的に無理な舞台でも、努力を貫けば勝てるんだって。私が!」
「……とは言うものの、どうやるつもりだい? アイ君は秋華賞までの間にシニア級との混合レースへの出走登録をしていないじゃないか」
「何よタキオン、その科学の知識は飾りなの? 叩き直すのはフラワーとそこの探偵気取りのトレーナーよ?」
「うん?」
「私がスプリンターズステークスに出るのよ。見せてあげるわ、レースの魔法!」
「スイープが……!?」
……スイープは今まで中距離GⅠである宝塚記念とマイルのGⅠを複数勝利している。
もしもこれでスプリンターズステークスを勝ってしまえば、マイル王の夢見た三階級制覇が成し遂げられることになる。
でも、スイープは短距離のレースではそこまで大きな成果を出せていない。
勝てるかどうかで聞かれると……
「──先ほどの文句は聞き入れましょう。ですが……不可能な賭けに出るのはおすすめしないですね。あなたの脚は中距離とマイル用。スプリンターのまねごとをしてしまえば魔法の杖代わりにはならない」
「あんたには解らないわよ! 覚悟を決めたウマ娘の本当のパワーを! 私の魔法の実力も!! 見せてあげるわ三階級制覇。そしてぶっ壊してあげるんだから! あんたたちの諦めムードなんて!!」
そう言って、スイープは颯爽とこの場を立ち去ってしまった。
この場に残った私たちの心に、不可能と可能性との疑念を魔法のように植え付けながら。
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
-
18年皐月賞
-
18年日本ダービー
-
18年菊花賞
-
19年天皇賞春
-
19年宝塚記念
-
20年京都記念
-
20年ドバイシーマクラシック
-
20年天皇賞秋
-
20年ジャパンカップ
-
21年ドバイシーマクラシック
-
21年宝塚記念
-
21年有馬記念
-
その他