前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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「社長」

 夏合宿もだんだんと終わりへと近づいて来た。

 アイの走りはフサイチパンドラさんとの併走の結果、さらなる磨きがかかった。

 領域を獲得できたかどうかは明言してくれていないため解らないが、その表情を見る限り好感触だったのだろう。

 

「ふへぇ~」

「………………よしっ、ありがとうお母……パンドラさん。おかげでいい感じのものを掴めた気がするわ」

「まあ、天才だから? 本格化前でもデビュー済みのウマ娘のパワーアップぐらい天才だからお茶の子さいさいですしぃ~? 天才ですしぃ~?」

「…………(非常に複雑そうな顔)」

 

 ララもまた、他のウマ娘たちとの併走を積極的に行って生前の実力へと一歩近づいたようだった。

 あの調子なら、ホープフルステークスの難易度は下がること間違いなしだろう。

 恐らく、自らの領域の発動の鍵も既に掴めているはずだ。いくつかのレースでは負けることはまずないと見ていいだろう。

 

 ブーはまだ本格化が来ていないからそこまで本格的ではない簡素な水泳トレーニングを行っていたが、まあ本格化前の身体づくりとしては及第点、と言ったところ。

 ブーは心肺機能が弱かったはずだから、今後もプールを駆使してその点を拡充していくべきだろう。

 

 もちろん、僕たち以外のチームの動向もさらっと見通してみたが──スイープトウショウがスプリンターズステークスに出走することを表明していたところ以外には驚く点は無かった。

 もしこれを勝利すれば、スイープトウショウは前代未聞の三階級制覇なのだとか。

 過去に三階級に挑んだウマ娘は多いが、当時の短距離・中距離のトップに防衛され事実上未達成の難題だという。

 セントライトさんの時代にも似たようなことに挑んだウマ娘がいたらしいが、当時は短距離GⅠが無かったためにその栄誉を得られることは無かったのだとか。

 そのウマ娘は今は地方を股にかける『走る映画女優』を名乗っているらしく、セントライトさんが協力を呼び掛けていると聞いている。

 

 三階級制覇……前世で聞いたことのある言の葉ではあるが、今の僕と彼女たちには何も関係ない。

 スイープトウショウの出走理由は「ニシノフラワーへの宣戦布告」となっているが、彼女はニシノフラワーと協力関係をとっていたはず。

 仲違いでもしたのだろうか? 

 

「…………アオハル、それとも熱血ってやつかなあ」

 

 僕には遠く縁のない言葉だ。

 今生の学生時代、僕は青春と呼べることはせずにDIYや工作に勤しんでいた。

 あるいはトレーナーの知識を得るための勉強だ。

 

 その結果、僕は今生でもそういう部類のことは疎いのだ。

 熱血、青春、矜持。

 前世で彼らが抱いた物々の中でも熱く煮えたぎっていた強い意志。

 暑苦しすぎるほどの闘志。

 

 僕には息が詰まるほどの、陽気だった。

 

 僕みたいなやつを人間は陰キャだと言うのだと、今生で知った。

僕は陰キャだったのだ。

 

「ミドちーが聞いたら怒りそうだなあ」

 

 妹は僕を取り巻く環境になぜかはしゃいでいたが、僕の対応を聞いて僕に尻尾ビンタを顔に喰らったことがある。

『お兄ちゃんのバカ! アホ! 恋愛方面白アリの樹~!!』とは彼女の逃げ台詞だったっけ。

 どうしてそんなことになったのか、僕には最後までとんと解らなかった。

 

「……ふー。日報書き終わり、と」

「とても頑張ってるなあ。──樹君」

 

 夕焼けのビーチを背景にして今日の日報を書き終えた僕の隣へと近づいてくる初老の男性。

 その声色には聞き覚えがあった。その立ち姿には覚えがあった。

 僕が忘れるはずのない、人物だった。

 

「社長……ご部沙汰してます」

「かしこまらなくてもいいだろう? 親戚じゃないか」

 

 善財グループ代表取締役社長。

 僕の憧れた、人間だ。

 

 

 


 

 

 

「なぜ、こちらにいらっしゃったのですか?」

「なぜ、とは?」

「言葉通りですよ。お仕事はどうしたんですか?」

 

 社長は昔から仕事に明け暮れた毎日を送っていた。

 一に仕事、二に仕事、三四に仕事で、五にようやく家族へのサービスと言うレベルで仕事に勤しんでいた。

 

 善財グループの発展、子供たちの笑顔のために、と。

 

 そんな朝早くから夜遅くまで仕事たっぷりの社長が、仕事をそっちのけで僕に会いに来るなんて想定できなかった。

 

「君に会いたかったからだよ。樹君」

「……僕に、ですか? どうして、今……?」

「あの宝塚記念だよ」

「えっ、見たんですか!?」

「ああ。仕事を6()()()サボってしまったよ──おかげで、良いものを見ることができた」

 

 社長が、宝塚記念を、見た……。

 

 


 

 

『……ユグ。本当に、勝ったのか。お前が、GⅠを……!?』

『あなたは……?』*1

『社長だよ。うちの牧場のオーナーさ。喜びな社長。これが善財ファーム初のGⅠトロフィーだよ』

「シャチョー、やったよ。僕、勝ったんだって。大きなレースで」

『…………なんということだ。私は、知らなかった。先日にそんなレースがあった事も、勝ったことも、社員から聞いて、やっと知ったんだ……』

「シャチョー、どうして泣いてるの? 喜んでほしいな」

『……社長、あんた……』

『私は、バカだ……! こんなに傍で見れば愛らしいのに、私は君を、見ていなかった──!』

「シャチョー……?」

『……これから先、ユグは、勝てるんですか?』

『勝てます。ユグはもう、弱い馬ではありませんから。そうですね……今後はいったん放牧してから、秋の天皇賞やジャパンカップ、有馬記念に挑んでもいいかもしれません』

『そうか……! ユグ……私はもう、お前を見逃さないぞ。私は、決して……!』

 

 


 

 

 僕の時は──見逃しちゃってたもの。

 それを見ることができるようになるぐらいには、仕事に余裕ができたんだ。

 社長は毎日頑張りすぎていて体重がとんでもなく軽いって聞いているから、いろいろ不安だったけど……何とかなりそうな兆しが見えていてよかった。

 

「……何か勘違いしていないか?」

「はい?」

「宝塚記念を見たのは──直感だよ。心のどこかでなぜかこう思ってしまったんだ。『見なければ、必ず後悔する』と」

「それは──」

「おかげで──後悔せずに済んだんだ」

 

 社長……

 不思議な体験をしたと笑う社長の表情は朗らかで、まさに一人の老人と言った感じの風貌だった。

 でも、僕からすると。その言葉はまるで──

 

 まるで前世からの警告のように感じてしまう。

 あるいは嘆きの言葉。悔恨、と言うやつだろうか。

 前世の世界の社長の後悔が、今生の社長に移ったのだろうか。

 

「アーモンドアイちゃん……だったかな、君の担当するウマ娘の名前は」

「っ、はい」

「彼女が見せた幻影……とっても美しかったよ。目を奪われるような姿形をしていた」

「そう、なんですかね? 不思議な姿だったでしょう?」

「そうかもしれないね。私は学生時代に生物学を専攻していたが……あんな姿の生き物には初めて出会ったよ。キリンかラクダのように見えて、そのどちらでもない不思議な幻影だった」

 

 アイの領域の僕を見たのか。

 当然見るだろうなとは思っていたけどこの反応、間違いない。

 あの日宝塚記念に出走していた他のウマ娘よりも見えていたんだ。鮮明に僕の姿が見えていたんだ。

 

「名前は?」

「はい?」

「名前だよ。あの幻影、何て名前なんだい?」

「な、名前ですか?」

「考えていなかったのかい? ダメじゃないか、作り上げたものに名前を付けないなんて」

「あれは名前を付けるような代物だと思っていなかったので……」

「そうかい? なら、私が名付けても良いだろうかね? ……いや、アーモンドアイちゃんがいないこの場で名づけるのはあまりよろしくないかな?」

「いえいえ、そんなことは! 是非ともお願いしますッ!!」

 

 アイには悪いけど、社長じきじきの名づけだ。断れるはずもない。

 そもそも領域の名前は『○○の領域』と言うのがスタンダードな代物。

 それの名前が多少かっこよくなるだけだ。

 

 社長は玩具会社の社長だからなー。

 きっとカッコイイ名前にしてくれるだろうな。

究極獣ラグナとか? 

 

マネーユグドラシル、なんてどうだろうか」

「え……」

「彼女、新世界を志しているらしいじゃないか。なら、それに最も似合う名前を──世界の名をその幻影に与えたつもりだよ。マネーの名はウマ娘でいう冠名というやつだな。スポーツクラブに何人かいるだろう? 不要だったら外しても構わんよ」

「…………そんなの」

 

 

 


 

 

 

『社長……よくここに来れましたね。年末商戦に向けての調整で忙しいはずでしょう?』

『たまにの気晴らしさ。スケジュール的に厳しくはなるが……馬を見ると、心が落ち着く気がしてね』

『そうですか。まあ気持ちはわかりますけどね』

『おや、あの栗毛の馬は……?』

「あ、だれだろ!」

『おおい、イツキー! 勝手に駆けださないでくださいってもう……』

『イツキ、と言うのはこの馬の名前か?』

『え、ああ。幼名ですよ。この馬、暇なときは馬道の脇の大きな木の下で眠ってるんです。だから樹ですよ』

『ふむ……競走馬になるのかい?』

『ええ。来年には』

『そうか。親は?』

『マネーアップルと……マネースリーセブンですね』

『トリプルセブンと禁断の果実の子か……フルーツ、シード、プラントは違うな。スロットとラッキーとフォーチュンはすでにいただろう? マンドレイク、オオカムヅミ……キャッチーが悪いか。ミストルティンでは文字数オーバーだな。ヒカリアレ、ライトオン、ジェネシス、ビザンティン……仰々しすぎるな。トビウメではいささかかっこよさが足りないか……──よし。イツキ君』

「?」

『君はこれから先、マネーユグドラシルを名乗ると良い。この善財ファームの、金の成る世界樹になるといい! わっはっは!』

『ええー!?』

『そんな名前止めましょうよー、名前負けしますって』

『負けることなど日常茶飯事ではないかね? ──別に負けたっていいんだよ。時に勝って、私を驚かせておくれ。父のように、七夕賞を3連覇したスリーセブンのようにな』

『(この社長、競馬にあんまり興味がないくせしてうちの馬の勝鞍全部覚えてるのなんでなんだ?)』

「……それ、なに?」

『あっ、こらっ、やめないかユグドラシル君!? これは立派な諭吉扇子(本物)なのだぞ!! 君にやるには値が高すぎる! 諭吉8人を食べるなよ!』

『ダメですよイツキ君! そんなのペッしなさいペッ!』

『社長のお金にがめつい姿勢が移っちゃいますって!』

「オカネ? ──それが、シャチョーのニコニコのモトなんだね! 

 

 


 

 

 

「──そんなの、とってもいい名前じゃないですか……!」

「おいおい、泣くほどかい?」

「ちょっと、あの瞬間を思い出してしまって──」

「──ああ。宝塚記念は感動ものだったろう。後ろから攻めるウマ娘が前方から攻めることの難しさは知っているつもりだよ。よく成し遂げたね」

「はいっ……!」

「酒は飲めるかな? この海を背景にして、今日は飲み明かそうと思ってるんだが……どうだい?」

「え゛っ、大丈夫なんですかそれスケジュール的に」

「問題ないさ。一夜ぐらい何とでもなるとも! わっはっは!」

 

 ──その夜は、とっても楽しく過ごせた気がする。

 

 会社の状況や、年末発売の新製品の話、スポーツクラブの様子などで盛り上がりながら、夜を過ごしたのだった。

 

 そして夜が明けた。

 さらに夏合宿が終わった! 

 

 アルティメットシャイニングサバイブブラスターキングウマ娘のアーモンドアイは、秋華賞へと。トリプルティアラ最終戦の最終準備にかかる! 

 

 おっと、それと並行してララの東京スポーツ杯ジュニアステークス並びにホープフルステークスへの準備も取り掛からないとな……! 

 

やる気は十分!!! 

*1
ユグの調教師さん

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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