前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
『エリザベス女王杯、安田記念に続きスプリントのGⅠへ。夢の三階級制覇なるか、3番人気スイープトウショウ』
『中距離、マイルで好走しているウマ娘ですね。短距離ではそこまでいい成績を残せていませんが、その可能性に期待したいですね』
「……意味が解らない。このレースに、君にとって何の意味があるというんだ?」
スイープトウショウ、君の言いたいことは解っているつもりだ。
確かに卓上では計り知れないデータというものもあるのだろう。想定外のパワー、可能性はゼロではないだろう。
だが、それはあくまで不可能を可能にできるならの話だ。それも──ニシノフラワーの肉体で。
「不可能だ。無茶苦茶なんだよ、君の言っていることは……!」
「何が不可能なのかい?」
「っ!? あなたは……」
背後から感じた、間違いない強者の気配。
GⅠタイトルを勝ち取り伝説に至ったウマ娘だからこそ発せられるような、トレーナーだからこそ感じられるような『超大物』の気配。
「私たちの時代には割といたわよ。そういう不可能を可能にしたウマ娘」
「……魔女……?」
「まあ、アタシなんかよりもコイツがその1人なんだがね。
「何言ってんだか。あんたほど後継に道筋を残した奴もいないだろが」
そのウマ娘の雰囲気はまるで大人になったスイープトウショウと言った感じだった。
魔女と言葉に出してしまったが、雰囲気はどちらかと言うとニシノフラワーが大人になったかのような大和撫子感もある。
栗毛山吹色のロングヘアーと控えめに言っても美麗な顔立ちは現実離れしているようで、魔女は魔女でも美魔女という感覚が正しいのかもしれなかった。
そんな美魔女の背後から現れたのは同じく栗毛で飴色の髪をしたウマ娘。
風格からしてかなりの強者だろう。しかも彼女の胸元に付けてあるのは少々独自アレンジが施されているがトレーナーバッジだろうか。
トレーナーとしての指導も行っているようだ。
「魔女……か、まあアタシは現役時ジュニアアイドルやらせてもらってたけど、フラワーちゃんとスイープちゃんを足したらそんな感じになるのかなあ?」
「……感じる限り、あなたはかなりの大物ウマ娘、伝説の1人になりうるウマ娘だとお見受けしますが……」
「伝説ぅ? いやいや、そんなんじゃないよ。それどちかと言うと初代安田勝者の先輩でしょ。な、
「ンなわけあるか。つかなんだその呼び方」
「あんたは私と違って名が売れてんだから、偽名使わなきゃアカンだろ?」
「そりゃアンタの方だっつーの。嫌味かこの菊花二着の走る映画女優が」
初代安田勝者の先輩?
現役時ジュニアアイドルで、菊花二着の走る映画女優?
ナルビーちゃん……?
「まさか、あなたたちは──!」
「おおっと、ストップストップ。今回は別に有名になりにここにやって来たわけじゃないんでねえ」
「今回ここに来たのは──あんたにスイープちゃんからの言伝を伝えに来たんだよ」
「言伝ですって?」
スイープから?
この期に及んで、何か言い足りない文句でもあったのでしょうか……?
「アタシがスイープちゃんから貰ったのはただ一言『逃げるな』だぜい」
「逃げるな……? 何から逃げていると思っているんですか、彼女は……」
「アーモンドアイからでしょ? 勝てないと思って、自ら離れている」
またその話に戻りますか。
さすがにトレーナー業をしているとこういうことに出会うことはありますが、さすがに何度も同じ説明をするのは飽きてきましたね……
「──その上、逃げた先でも勝利から逃げている」
「なんですって?」
その言葉はどういう意味ですか?
返答次第ではただでは済まさないですよ。
「勝ち筋がない、勝算がない、足が合わない……そんな弱音を吐けるのはいいことさ。私らの時代じゃそんな都合のいいレースはどこでもやってなかったからなあ」
「だが、その時代の変化が君から勝利に飢える感触を、勝利を味わうその瞬間の至福を失わせてしまった」
「忘れてしまったんだよ、君は。ライバルと切磋琢磨し合うバチバチの戦場を。激しく火花散るレースを!」
「…………忘れたからなんだというのですか。勝たせたいと思うことの何が悪いのですか。彼女は天才だ。あなたたちに並ぶ可能性のある大物だ。そんな彼女へ栄光を1つでも多く手に入れられるレースがあるのなら、それを選んで何が悪いのですか!」
「でも、その先で勝てる見込みがあるとは言っても、信じてはいなかっただろ?」
「何をですか」
「マイルでアーモンドアイに勝てる可能性」
──なんですって?
「スイープトウショウは察していたんだよ。もし仮にニシノフラワーがマイラーとして大躍進したとして……アーモンドアイがマイルGⅠに攻め込んできた際にどれだけタイトルを守り通せるのか──ってところを」
「確かにマイラーの脚をミドルに転向するのは険しいさ。だが、長い時間をかけてでもアーモンドアイのライバルとして経験を積み、研鑽を積んだ先になら──彼女に勝てる可能性は見える。デバフ戦法を継いで、伸ばして、新世界とやらを超えるきっかけを実践で掴んで……さらなる高みにたどり着く……今までの努力全てを捨てずに、な。それがスイープトウショウが考えていた戦略だった」
「……そんなもの、あまりにも時間を無駄にしている。それをする余裕があるのなら、元々の適性距離で高みを狙うべきでしょう」
「かもな。──それで、そうした先でアーモンドアイには勝てるのか?」
「勝てます。そう、信じているんですよ。そのためのトレーナーなんですから」
静寂。
ウマ娘たちが続々とゲートに入っているのだろう。
観客たちが固唾を呑んで様子を見守っていた。
そんな中で、僕は二人のウマ娘に視線を突き付ける。
僕の選択は、彼女に最善の結果をもたらすと信じているのだから。
もしそれがよろしくなかったら……僕が責任を負う。
その覚悟はできているつもりだ。
それが、トレーナーとしての僕の覚悟だ。
例え夢を犠牲にすることになったとしても、勝てるレースを選ぶことこそが正道なのだと、僕は信じている。
「──それなら、自分を信じなよ」
「はい……?」
「中距離を走れるような調整、できるんでしょ? 今のトレーナーはそれができて当然だって成美から聞いてるぞ?」
「それは──」
「何も今すぐってわけじゃないさ。秋華賞の後にちょっとずつでもいいんだよ。スイープが憤りを隠さなかったのは『中距離への挑戦意欲を急激に落としたから』なんだぜ?」
「君はオークスには間に合わせたじゃん。負けちゃったけどそんなのたった1回程度の負けでしかない。アタシの黒星なんか数えきれないぐらいだ」
「…………」
「勝てるレースなんか最初から存在しないだろ?」
「それは──!」
「何事もトレーニング第一なんだよ。アタシらの時代は多少無茶してたけど、君の時代はそうじゃないだろ? 少なくとも同僚がいて先輩がいて後輩もいて、そしてレジェンドウマ娘までいる。ワオ。豪華メンバー勢ぞろいじゃんか!」
…………勝てるレースは最初から存在しない、か。
その通りだ。
何事もトレーニングの繰り返しで、できるように鍛えていく。
その通りだ。
中距離を走れるようにするトレーニングを時間をかけて行うことはできるし、今のトレセン学園には理事長が用意した贅沢な人員とトレーニング用の機材各種が導入されている。
問題は、何一つとしてない。
本当に???
僕が記憶しているデータを読み解き、足りていないものを把握して、欠けたパーツを埋め合わせ強靭にする手段を見つける。
今までやって来たことを、今回も行う。
トレーナーとしての知識をフル活用する。
そうすれば、本当になる。
一体いつからだ。
不可能を可能にすることを忘れたのは。
無理だからと、無茶だからと切り捨てるようになったのはいつからだ。
そんな挑戦をするウマ娘とトレーナーに憧れて、この世界にやって来たというのに。
ああ、どうやら僕はまだ見た目相応の子供だったようだ。
こんなにもできっこないと決めつけていただなんて。
確かに、過去の事例にはマイラーが長距離GⅠを勝利した事例があるというのに!
それも……ニシノフラワー並みの体躯で!
前例は、ある。
ならできない道理なんてもの、どこにもないはずだ。
「………………私の予想が正しければ」
「ん?」
「あなたたちの力をお借りすることができれば、ニシノフラワーはシニア秋の天皇賞には中距離2000メートルを走れるようになると今考えました」
「速っ、2G回線か?」
これがニシノフラワーに対する解決策であり、スイープトウショウを納得させる妥協案だ。
時間はかかる。それでも、確実にオークスの時よりも走れるようになる。
かなり急ピッチのトレーニングメニューになることになるだろう。故障するリスクは跳ね上がるだろう。
……それに対して、僕が言えるのはこれだけだ。
かかって来いよリスク野郎。
覚悟決めたらもう怖いもんなんて無いんだよトレーナーには。
何徹してでもやり遂げるぞ。
「ヰ、今は6Gだぞ? ──悪いが私は無理だ。今は教え子が山ほどいる時期でな。今回はこの阿呆の付き添いなんだ」
「そうですか……」
「でも、こいつは暇だ」
「ゑ? アタシも女優仕事で忙しいんですけど!?」
「安心しろ。今のお前はハイセイコーよりもオファーが少ない。最近歌手の方も売れなくなってきたんだったろ? ここらで本業を引退して代わりにグラライトップの人気の秘訣を伝授するついでに中距離走法を教えるコーチに就職しろ」
「ひっど!! あんた3200走って天皇賞レコード勝ちしてるからあんたが適任でしょうが!!?」
「もうとっくのとうに塗り替えられたレコードに価値なんざあるわけねえだろが!」
「ヰヰ……それ他のウマ娘の前で言ってみろよ? ぜってーぶたれっからなお前??」
「ええっと……?」
「──おい、お前。こっち見てていいのかよ」
「え?」
「レース始まるわよん」
「うわおっと。──最後に一つ、聞かせてください」
「なんだ?」
「あなたたちがここに来たのはスイープさんのお願いで、ですか?」
「…………いや、彼女よりもおっかない魔法使いの
「アタシらの喧嘩は基本殴るか蹴るかで手足が先に出たもんねえ。当時はいと野蛮なお時代でした」
「……それはそれとして──アーモンドアイにニシノフラワーがマイルで勝つ姿、期待してるよ」
「ヰヰ……アタシらは君がレースの魔法にかかりやすくするためのちょっと濃いめの媒体ってやつさ。スイープちゃんのこと、ちょっとは信じたくなって来ただろ?」
「かぶせるなお前。……それとついでに、中距離でも勝つ姿っていうのもな」
…………魔法、か。
珍妙で、摩訶不思議で、それでいて現実味のある技。
こうも伝説にその名を遺したウマ娘を使わせて僕の心を掌握させるとは。
……いや、それ以上の魔法が目の前で始まるのだ。
見せてもらおうか、レースの魔法を。
そして教えてくれ。スイープ、お前の想いを。
そして勝て、フラワー。
今のお前なら勝てるはずだ。
戻ってきたらその先の予定を伝えるから。
『勝ったのはスイープトウショウ! 惜しくも2着にニシノフラワー……』
「それで? 私のレースの魔法を受けて考えは変わったかしら?」
「ああ。おかげさまでちょっとだけ方針を切り替えることにしたよ。ニシノフラワー、中距離用のトレーニングをこれから毎日少しずつ行っていく」
「え──?」
「……いずれ、中距離に出向くことになるかもしれないからな。夢は大きめに繕うことにした。念のために、だ。安心してトレーニングを受けてほしい。全責任は僕が取るから」
「……はいっ!」
「──うんうん、そうよ! こういう感じよね! 面白くなってきたわ!」
『もしもし? こちらレダ。スプリンターズステークス無事に終わったけど……どうだったの?』
「あーレダ? こっちは終わったよ。良い感じにトレーナーも根性論を理解してくれたよ。……スイープちゃんのおばあさんも酷だぜ。私らにこんな面倒な役回りさせるだなんてよ……」
「ヰヰヰ、根性は根性でも古い時代のバカ根性みたいなもんだけどな」
「喧嘩売ってるなら買うぞこの野郎」
『それなら良かった。ヰとナルビーは早く戻ってきて。セントライト先輩とシフトの組み方を考えないと』
「あ、アタシは今から映画の撮影期間に入るんでパスでー」
「心配すんな。私とレダが入れない部分は全部お前のシフトにしてやる」
「それって平等!? ちゃんと平等なの!!? 三六協定通ったのかこれ!!??」
「さっさと行くぞ」
「やだー! ヰぐーたらしたーい!! 好きなポーズして歌って踊って不労所得で生きていきたーいー!!」
「ニートになりたいのかなりたくないのかどっちなんだお前……!」
『変わってないね、あの頃から。ヰをシバくその勢い。おっきくなってもナルビーはナルビーのまま。あのニシノちゃんぐらいだったあなたが懐かしいなあ……』
「いや、それはどうなんよ……?」
勢い任せな点はありましたけども、出来る限り早めに哪吒トレーナー周りの問題を解決したかったのです。
この結末に異論のある読者もいるとは思いますけど、哪吒トレーナー周りは一旦こういう締め括りとさせてもらいます。
どこまで言っても結論が出ない問題ですからね。
最終的に覚悟を振り絞るか、覚悟を封じ込むかの違いなだけで。
哪吒トレーナーは覚悟を振り絞る選択をした、と言うことでご理解ご了承ください。
ちなみに今回登場したレジェンドウマ娘3人の内、成美ちゃんの遠い子孫にラヴズちゃんの幼馴染のウマがいるらしいよ。それと葦毛の怪物ちゃんも子孫になるみたいだね。
血統ってワンダフル!
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
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