前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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巨大な秋の花冠(ヨトゥンヘイム)

秋華賞 京都レース場 芝2000m 稍重

1カチドキジョウモン

10ウイニングセラー

2フレンジーピークス

11セットアップ

3シタマチマテリアル

12イクノディクタス

4アーモンドアイ

13シャインネックレス

5ユキノビジン

14ミッドナイトクイン

6ホールドスピア

15アクアフェリーチェ

7エアグルーヴ

16マリーナ

8ウタカタピレイン

17プリンセスカンナギ

9レディーハイジ

18ユキョウヤナギ

 

『スタートしました! イクノディクタス綺麗なスタートを切りました! 続いて前に行くのはカチドキジョウモン、さらにはエアグルーヴ、5番ユキノビジンはその後ろ』

 

 秋のティアラ、秋華の冠。

 クラシック級の三栄冠のラストレース、そのティアラ路線が幕を開けた。

 

 飛び出したイクノディクタスは眼前、周囲にアーモンドアイの気配を強く感じないことを確かめ、このレースではオークスまでと同じ差しを選択したのだと把握。

 しかしその判断は自身の走法を乱すものではないとしてターフを駆ける。

 

「…………」

 

 そのコンディションは、決して揺るぐことはない。

 

『先手を取ったのはカチドキジョウモン、この辺りで各ウマ娘第1コーナーに殺到していきます! 大きく離れてシタマチマテリアル、この位置にホールドスピア。内を通って4冠女王・アーモンドアイ、外側にアクアフェリーチェ、ウタカタピレイン、その内に続いています』

 

「(レースの展開は比較的穏やか、か……)」

「(んだども、それはづまり誰にでも可能性があるってこと!)」

 

 夏の間決して姿を見せなかったユキノビジンは、秋華賞当日にポンと姿を現した。

 その走りにさらなる磨きをかけて。

 

 まるで別人みたいだと誰もが思った。

 人相、表情、感情、気迫、声色。どれもが今までのユキノビジンでありながら、何かが違った。

 誰かが乗り移ったかのような、そんな違和感。

 この人ってこんな感じだったっけと思うような、確かな違和感。

 

 だが、それこそがユキノビジンの鍛え上げた強さなのだとエアグルーヴは理解した。

 ただただ岩手の可愛い美人さんなだけではいたくないという思いそのものなのだと、エアグルーヴは把握した。

 

「(ユキノビジンは後ろか……ダブルゾ-ン、どう使ってくる……!?)」

 

 この日のために彼女が築き上げた摩天楼、何時見せる。

 エアグルーヴは集中力を切らすことはない。

 

『ここに付けたのがフレンジーピークス、外にはウイニングセラー、更にプリンセスカンナギ、ユキョウヤナギもこのグループです。シャインネックレスすぐ後ろ、オレンジ色の勝負服ミッドナイトクインその後ろ。──1000メートルを通過! ここまでほぼ平均ペース、これはいったいどうなるでしょうか?』

『ここから後半戦ですが、このレースはスパートのタイミングが重要になるでしょうね。これは各ウマ娘我慢比べを強いられることになりそうです』

 

 このレースで重要になる物は決まっていた。

 

 領域であり、つまるところ思いの強さに帰結する。

 もちろん、パワーもスピードもスタミナも、根性だって知識だって必要だろう。

 

 だがそんなことは今このターフを走っているウマ娘たち全員が解りきっていることなのだ。

 そのうえで、このレースを征するために切るべきモノ──それこそ領域だった。

 

 どのタイミングでスパートを仕掛けるのか。

 何時誰が出るのか、何処で誰が仕掛けるのか。

 どのタイミングで自分の得意な走りになるのか。

 その答えこそが領域。

 解りやすく感覚に見せてくれる、単純明快な二重丸こそ領域だった。

 

 この場にいるウマ娘たちは皆が皆、領域を持つ、あるいは出せる可能性のあるウマ娘なのだろう。

 それだけの気概と覚悟、そして志を以て、この最後のティアラに挑んでいるのだ。

 

 アーモンドアイはそれを認識している。

この場には力の優劣なんて覆しかねないほどの強大な感情がうねりうねっているのだと。

 

 誰もが勝つ可能性がある。

 

「(それでも、私が勝つのよ)」

 

 負ける可能性だってある。

 

「(考えたことないわね、そんなの)」

『ここで各ウマ娘第3コーナーに入ります!』

「(不思議なほどに展開は順調。……問題はありませんね)」

「(もう、負ける理由などどこにもない)」

「(やってける、あたし、このレース勝ってけるんだ!)」

 

 それでも勝てるウマ娘というのは……

 

「……なるほどなあ」

「ユグ?」

「これが……三冠かあ」*1

 

「(もう頃合いだろう。この冠、私が頂く! 女帝の名に賭けて!! )」

『さあここから最終直線だぞ! 後続のウマ娘たちも追い上げ始めている!』

 

 最初に仕掛けたのはエアグルーヴ。

 ターフの上に女帝としての蒼炎の道が出来上がる。

 感じるはずのない仮初の熱気を肌で感じ取れるほどにまで熱き蒼い炎をエアグルーヴは疾走する。

 

「(っ、何て熱気……ですが、まだ私の身体は──鋼です! )」

 

 これに喰らいつくのがイクノディクタス。

 自らを鉄人が如き肉体へと自動調整する健康志向の領域。

 熱気など、ただの錯覚に他ならない。なぜならば、己の鉄が溶けていないのだから。

 エアグルーヴよりも前にいる私が、そのような熱気で敗れるはずがない。

 

 自問自答、冷静沈着。

 数々の実践に勝る仮説無し。

 無茶だともいわれたレースを介したトレーニングによって、イクノディクタスは領域を看破する。

 それは、己の脚で超えられるものだと証明していく。

 

 イクノディクタスは領域1つで秋華賞に勝ちに来ている。

 そのための実証は成った。

 

『先頭を掴んだのはイクノディクタス! だが後続はすぐそこだイクノディクタス! エアグルーヴは躱せるか!』

 

 あとは、後続の他の2人の領域を──

 

「(いいや、これで終わらんさ)」

「(これは、風……?)」

「(私が走るのは──女帝であるためであると共に、母のように、子に自慢できる走りをしたかったがため。そこに女帝である理由は無かった)」

 

 それは、エアグルーヴの二つ目の想い。

 鋼に打ち消された蒼炎を上書きするかのように、温めの風がエアグルーヴの背中を押す。

 その風の正体を、オークス以降から3週間以上レース出走を休まなかったイクノディクタスには解った。

 

「(春風、夏風……いえ、薫風?)」

「(木っ恥ずかしい話だが……ここからの私は、女帝ではなく……一人の女として、走らせてもらう!! )」

 

 瞬間、イクノディクタスは空目した。

 エアグルーヴの服装が、青と黄色のものから純白のウェディングドレスに変わった気がしたのだから。

 だが、その認識はつまり領域に魅せられたということの証左に違いない。

 鋼が如き冷静さは解ける。

 熱を帯びた鋼が冷めゆくように、イクノディクタスの体中を覆っていた鋼の領域は薫風の領域によって、風に散って消えていった。

 

「(──くっ、錬鉄が溶けた……それでもっ!)」

「(行くでがんす。カフェさ。そしてカフェさのそっくりさ)」

「(しまったっ──彼女を完全に忘れてしまっていた!!)」

「(これが、あたしの……あたしたちの全力でがんす!! )」

 

 そして現れたのは件のダブルゾーン、雪降る摩天楼と誰かが名付けたもの。

 間髪入れずに迫りくる領域によって、完全にイクノディクタスの脚は彼女たちを超えられなくなっていた。

 漆黒の夜景にしんしんと降り積もる雪と、その中を駆ける幻影。

 幻影の輝きによって雪は光を反射して、さらに、さらに反射を繰り返す。

 

 その領域は──ダイヤモンドダストと呼ばれる現象を纏った、魅惑的な領域だった。

 

「(これほど、とは……くっ、無念っ)」

 

 もはやこれまで。

 イクノディクタスは完全に彼女たちにはもはや追いつけない。

 

 先頭を駆ける三人には、もう──

 

「(……三人?)」

『アーモンドアイ追い越せるか!? ユキノビジンが勝つのか!? エアグルーヴ悲願成るか!? 勝負はこの三人に委ねられたぞ!!!』

「(あんな場所に、い、いつのまに──!?)」

 

 薫風に背中を押され疾走するエアグルーヴ。

 降る雪すらも輝く摩天楼を走るユキノビジン。

 そして──希望満ちる新世界を駆けるアーモンドアイ。

 

「(アイさ、雰囲気が違う……やっぱし覚えだんだな、ダブルゾーン!)」

 

 ユキノビジンの考察は正しい。

 前世での母フサイチパンドラとの併走の結果、アーモンドアイは母の領域の継承に成功した。

希望の領域と、新世界の領域

 二つが合わさり生まれた希望に満ちた新世界。

 

 言葉では形容することのできない希望。

 それを組み込んだ新世界は、今までのような青い輝きから一転して金色に輝いていた

 まるで母の毛色のように。

 

 それが、エアグルーヴとユキノビジンを追い抜こうと迫る。

 

「(やはり手に入れてたか。しかし、この秋華賞だけは──断じて渡さんっ!!)」

「(秋華賞は──あたしが貰うでがんすっ!)」

「(いいえ、私が勝つのよ。ねえ──そうでしょ?)」

 

 アイは確信している。

 ゴールまであと500メートルを切った。

 ここから加速できるのか。

 ここから二人を追い抜けるのか。

 

 可能性はあるが、あり得るのか。

 

 大きな歓声をかけ続ける観客たちの想いの中に──一つの声を聴いた。

 それはアイにとって大切な、大切な……屈辱の形であり、憧れの形であった馬の生まれ変わり。

 

 膨大な観客たちの大応援の中に確かに在った彼の言の葉を、ほんの微かな応援をアイは決して聞き逃さなかった。

 

「──勝てえっ!! アイっ!!」

「(──ええ!!)」

 

 瞬間、アイの領域はもう一つの領域を纏った。

 

 それは前世で負けた大敵マネーユグドラシルが放つ世界樹の領域──

 

「(──その『改良版』よッ!!!)」

 

「(なんだ、これは!? 目の前を、幹が……いや、根っこが遮って──!?)」

 

 アーモンドアイがフサイチパンドラの領域を継承するトレーニングと並行して行っていたトレーニングがあった。

 トレーナーもある程度は容認してトレーニングにも協力したりしていた。

 だがそれが『マネーユグドラシルの領域の強化』だとは一切想像していなかった。

 

 それを認識したのは、本番直前の数日前に行った模擬レース。

 しかもそれがちょうどそのタイミングまでギリギリまで調整し続け、今しがたようやっと完成した『私だけの世界樹』だと言うのだから、樹トレーナー(マネーユグドラシル)の驚き様は計り知れない。

 

 先行用に改良されたその世界樹は、前後(特に前方向)に根を広げその偉大さを知らしめる。

 二人の視界に入ったのは、根っこの大波。

 まるで旗がはためくように、布がひらひらと舞うように、うねりうねって根を伸ばす。確りと大地に根を張るために。

 

「(そったな!? 領域が崩れた……っ!!)」

 

 風も雪も都市も全てを飲み込んで、1つの大きな世界樹と成る。

 

 そして、根によって崩された領域たちの隙間を縫うように、新世界が伸びていく。

 

 世界樹から伸びるように、金色の新世界がゴールへと広がっていく。

 

「……まさか、僕の領域を習得するだけじゃなく、改良するだなんて思わなかったなあ……」

「うおおおおおーっ!! アイ、すごいぞー!! 行っけええ!!」

「──アイ、勝て!!」

 

「(っ、んだども!!)」

「(勝つわよ、ユグっ!!)」

 

『エアグルーヴ離された! ユキノビジン持ちこたえるか!? アーモンドアイ躱せるか!?』

 

 最後の勝負はユキノビジンとの根性比べ。

 領域を剥がされてもなお粘るユキノビジンを超えるか、それとも超えられないか。

 最後の最後まで、どっちが勝つのか解らない。

 

「うぅあああああああああぁぁーッ!!!」

「はあああぁぁぁぁぁぁああぁーっ!!!」

 

 応援もフルスロットルの中で誰もが誰かの勝利を望んだ秋華賞。

 三栄冠トリプルティアラ。

 その最後の冠を手に入れる、最後の一歩をゴールへと先に踏み込んだのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アーモンドアイ抜いた!! アーモンドアイだ、アーモンドアイだ!! アーモンドアイゴールイン!!! アーモンドアイトリプルティアラ無敗達成!!! トゥインクル・シリーズの歴史に名を遺す、大偉業を成し遂げました!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーモンドアイ、無敗トリプルティアラを達成。

 

 誰もが誰かに美しさを見出したトリプルティアラ、秋華賞。

 完全勝者の影に崩れる敗者すらも美しく、麗しく。

 

 そこにみすぼらしい姿はない。

 見るもの全てがシンデレラだったこのレース。

 誰もが美しかったこのレース、制したのはアーモンドアイ。

 

「おめでとう!!! やったなあ、アイ!!!!」

「アイ……」

「ユグ」

「おめでとう」

「……それだけ?」

「これ以上の賛辞が思いつかないんだ。それほどに、鮮烈だった。三冠って──こんなにも、痺れるものなんだな。そりゃあ……憧れるなって思った。それ以上は今のところは思いつかないんだ。本当に」

「そう。……なら、これから思いついた時に何度も言ってくれればいいわ。それでどう?」

「──なら、そうさせてもらうよ。本当に、おめでとう。そして、ありがとう

「ふふっ、少なめの祝福でもだいぶ嬉しいわ。ありがと、ユグ

 

 こうして、最高の幕引きと同時にアイの新世界の第一歩が成ったのだった。

*1
ララは学園で1人トレーニング中。「見なくとも誰が勝つか解りきっとる」とのこと。

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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