前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
──イギリス。
「……hmm?」
『Grand Prix de Saint-Cloud Hero Doctor Raffaello Eyes Shock Japan Raid!(サンクルー大賞勝者ドクターラファエロ次なる舞台はなんと日本!?)』
「Japan……?」
『Japan's Star Filly Almond Eye Prepares for Foreign Invasion(日本の新トリプルティアラウマ娘、アーモンドアイに挑む)』
「……Almond Eye……?」
「勝ち筋、どこに!!?」
「こうなることぐらい考えられなかったの?」
「考えてはいたよ、でもその上を行かれたんだよ! トリプルゾーンなんて例外極まりないじゃないか!」
「そんなのあって当然って思うべきでしょ! ダブルゾーンがあるんだから!」
「確かに、スイープの言い分はその通りだが……ダブルゾーンを習得するにもかなり難儀するのだ。それをもう一つ重ねるなんて無茶苦茶なのはその通りだろう?」
「でもエアグルーヴさんはできてたじゃない」
「副会長さんのことを言ったらダメだよお~」
セイウンスカイさんはこれからジャパンカップに出走予定なのだが、アーモンドアイへの対策があっという間にご破算になりかねない状態に陥って阿鼻叫喚。
なんとかダブルゾーンへの足掛かりをつかみかけたと思ったその瞬間には既に向こうはダブルを通り越してトリプルへと至っているだなんて、何をどう考えようともこちらの想像を上回っていたとしか言いようがない。
今、セイウンスカイさんは完璧に詰みの状態だった。
このままレースに出てもきちんと釣りあげられるかどうか解らない、荒波に挑むことを余儀なくされてしまったのだから気の毒としか言えない。
「まあそれはそれとして……レダさん、このトレーニングについてですが……」
「んー? これよりはこっちをベースにしてトレーニングを発展させる方がいいと私は思います」
「なるほど……勉強になります」
フラワーに中距離を走らせる。
決意したはいいが多すぎる課題を解決するのは困難を極める。
そこで協力して頂いているのがレジェンドウマ娘のレダさんだった。
その時代、距離延長はして当然、できて当然だったという。
なぜなら、シニア級のGⅠが3200メートルの天皇賞しかなかったのだから。
それゆえに、そして今の彼女は日本ウマ娘療法審査会の会長という最先端・最古含め全てのトレーニングを熟知する立場の者であるがゆえに、その知識は僕を優に超えている。
最短で最大の効率、そして最高の安全性と最小の危険性を保証してくれているのだから頭が上がらない。
「どーっしたものかなあー……」
「アイさんのあの領域、突破法が解らないですからね」
「……セイウンスカイさんたちにお尋ねしたいのですが」
「んー? 何かなー?」
「『領域を突破する』とは何を意味するのですか?」
僕が投げかけた疑問に、セイウンスカイさんたちは全員「何を言ってるんだ?」とでも言いたげなきょとんとした顔をする。
彼女たちのその反応は仕方がないだろう。
なぜなら彼女たちはウマ娘。しかし僕は人間だ。
認識に差がありすぎる。
彼女たちの理解を僕は理解できていないのだ。
この差は今後大きな障害になる可能性がある。そんな気がした。
「ウマ娘にとって、領域が『そうであるべきモノ』であることは大いに理解しているつもりです。認識……視覚にも、聴覚にも、触覚にも影響せずに認識のみを改変するウマ娘の走りの極み」
領域によって視界が塞がれてもそれは視界が閉ざされたわけではない。ただ、そうであるだけなのだ。
領域によって耳をつんざくような音が聞こえたとしてもそれは聴覚への攻撃ではない。ただ、そうであるだけなのだ。
領域によって大地の質感が変わろうとも、それでもウマ娘にとって走っている場所は間違いなくターフなのだ。そう。ただ、そうであるだけなのだ。
まるでそれは決して変わらない大鉄則の上に注釈をつけるかのような無法。
それでもそれを違法だとするルールは存在しない。
あくまでエフェクトなのだから。
領域とは、走っている際に飛び散る土くれや砂埃のようなもの。
わざわざ飛び散るだけのものにルールを制定するようなことはないのだ。
それが、トレーナーとしての見解。
無法のエフェクトではあるが、それはあくまでエフェクト。
そう理解しているつもりだった。
「ゲームにおける遠距離武器のような投擲物でもなければ爆発物のような当たり判定もない。ここのトレーナーは皆領域についてそう認識しています。……それなのに、あなたたちは時としてこう言います。『領域が衝突した』『領域が競り負けた』……まるで存在しているかのような物言いだ」
「……」
「最初のころはただの競り合いをそのように認識しているのかと思っていましたが──秋華賞を見て、認識が変わりました」
あの領域。
アーモンドアイの見せた『大樹の領域』。
トリプルゾーンの3つ目として出された宝塚記念の際の領域の改良版と思わしきそれは、前方にいたウマ娘の領域を止めていたという。
僕はウマ娘ではないためあの瞬間に何が起きたのか決して解らない。
それでも、理解し続けなければならない。
「ラヴズオンリーユーさんのライブ配信でもこのようなコメントがありました。『まるで異能バトルだ』『漫画アニメの世界?』……あなたたちの走りは常人には理解できない領域なのでしょう」
「そんなに、なんですか?」
「少なくとも、一般人にとってはそうだと言える。──でも僕にとってはあれでもレースだと、そう信じています」
「なるほどねえ。確かに、領域を駆使したレースというのはただの観客からすれば『普通のレース』なんかより遥かに異常なものになるだろうねえ」
「私たちからすれば、ただただ全力で走ってるだけなんですけどねえ」
そう言って肩を竦めるセイウンスカイさん。
「その認識が、僕は今欲しいんです」
「はい?」
「ウマ娘の認識が無ければ、その認識に合わせられない。その認識の上でレースを成り立たせなければ──きっとこれから先の時代のレースでウマ娘を勝たせることのできるトレーニングを用意できなくなる。そんな予感がするのです」
「回りくどすぎよ! つまりこの天才魔法少女スイーピーちゃんの魔法を教わりたいということじゃない! それならそうだって言えばいいのに!」
「……そうだな。その魔法も同時に教えてもらいましょうか。……科学でも魔法でもなんでもいい。とにかくウマ娘の持つ認識と価値観を僕の脳内に詰め込みたいんです」
「え、本当に?」
「望むところです。雑用使い魔、なんでもやりますのでご教示お願いします」
「そ、そう……そうなの、ね」
「スイープが引いてる」
「さすがに真正面から使い魔になると言い出すような物好き、そうそういないだろうからねえ」
「あの、トレーナーさん。最近頑張りすぎてると思います。一回休憩を挟んだ方が……」
「問題はありません。これから先、激戦区に入ることになるであろうあなたたちの負担に比べたらこれぐらいどうってこと」
どうってことない。
そう言い切ろうとしたその時、軽めな痛みをこめかみに感じた。
一体何がと想い、痛みの方向を向くと。
「はいストップ」
「レダさん?」
「それ以上はオーバーワーク。ドクターストップです」
「しかし、フラワーへのトレーニングを拡充させるためにはこれぐらいの負担は」
「それでトレーナーが倒れてしまってはどうしようもないではないですか。何も1人で背負い込まなくていいんですよ。スタッフはたくさんいるんですから」
「……」
「あの、トレーナーさん」
「フラワーさん」
「私、トレーナーさんにとっても気苦労させているのは解ってますし、身体を壊さないラインでたくさんトレーニングをさせてもらえているのも本当に、本当にありがたいです。ですけど、そこまで助けられている私、ですけど……お手伝い、できないでしょうか?」
「……お手伝い、ですか?」
「はい。例えば……ゆっくり、くつろげる空間を提供したり、とか」
…………くつろぎ。
トレーナー業とは、ブラックだと言う話があるそうだがそうは思っていない。
なぜならそれが好きでやっているからだ。
ウマ娘のために全力で、寝る間も休む間も、余暇の全てを注いでウマ娘のために専念する。
そしてそれが結実する。
それこそトレーナー業の醍醐味。
そのはずだ。
だが…………
「……トレーナー業にも働き方の見直しが必要ですか」
「トレーナーさん……」
「みなさん、恐縮ですがあなたの思う領域に関しての認識を簡潔でも構いませんのでレポートにしてくれませんか? 後で目を通します」
「ふむ、承知したよ哪吒トレーナー君。他のウマ娘の領域への認識・見解……まだ見ぬ発見がありそうだね。せっかくなら別のウマ娘の認識も纏めてしまって構わないかね?」
「できるならお願いしようか。──レダさん」
「はい」
「少々仮眠を取ります。その間フラワーさんに適切なトレーニングをお願いしま──」
「ト、トレーナーさんっ!?」
この部屋に置いてあるソファに腰を掛けた──と思ったその瞬間に、僕の意識は一気に崩れ始める。
あれ、こんなに疲れていたのか……?
「……既にオーバーワークでしたか。この学園、ブラックの影が色濃いですね……」
「……あの……」
「フラワーちゃん、今のあなたの体調を考えると……いったん休憩、これがベストかな?」
「えっと、そう、ですか?」
「でも休憩にも適切な休憩の仕方って言うものがあるの。──これとか」
「これは?」
「1週間前に承認印を捺したばっかり! 最新のアロマセラピーによるリラックス&マッサージ術の手引きだよ。これでフラワーちゃんもトレーナー君も、疲労を抜き去ってマイルチャンピオンシップに間に合わせよう、ね?」
「……はいっ!」
「タキオンくん、ちょっと実験器具を借りるねーってもういない」
「学園のみんなにインタビューをしに行ったよ。……レダさん、まさか今からアロマを作る気ですか?」
「素材はあるんだけど調合方法が特殊でね。まだ製品化もされていないからアロマボトルもないし、自分で作るしかないの。市販のもので埋め合わせちゃうと効率がガタ落ちするかもだしね」
「魔法の薬の調合ね! 私にも手伝わせなさい!」
「わ、私もお手伝いしますっ!」
「うーん、こりゃ私もいったん考えをほぐすためにお手伝いしちゃいましょっか。セイちゃんにできることがあったら何でも言ってくださいねー?」
「──ありがとね、みんな」
──その仮眠は、トレーナーになってからの仮眠の中で非常にぐっすりと長く、どっぷりと深く、それでいて……すやすやと落ち着ける眠りになったのだった。
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
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18年皐月賞
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18年日本ダービー
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18年菊花賞
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19年天皇賞春
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19年宝塚記念
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20年京都記念
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20年ドバイシーマクラシック
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20年天皇賞秋
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20年ジャパンカップ
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21年ドバイシーマクラシック
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21年宝塚記念
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21年有馬記念
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その他