前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
「──領域時の感覚について、か。……チーム『プロキオン』のトレーナーもまた同じ考えに至っているのだな」
「おや、ということは君たちもかい?」
「ええ。今後のレースで勝つためには領域の突破が必要不可欠になってくるわ。その際に何にもできないだなんてトレーナー失格でしょう?」
プロキオンのトレーナーもまた、トレーナーと同じように領域への理解を求めていた。
それと同じように私たちのチーム『ハダル』のトレーナーもまた、私から領域とは何かという理解見分を深めようと聞き取りを行おうとしていたタイミングで、タキオンと出会い……今に至る。
私としても情報の整理は願ってもないことで、領域というそうであるだけのものをより詳細に掴み取ることができれば、より私は先に歩めるのだろうという確信めいたものがある。
前回の秋華賞……勝つことはできなかったものの実りは多く、得られたものも同時に多かったと言える。
特に、領域についての見解は。
「ユキノビジンによる本物のダブルゾーン、アーモンドアイによるトリプルゾーン……本当に圧倒されたよ。さながら台風のようだった」
「ふむ? 副会長もダブルゾーンを発動していたように見えたが?」
「ああ、あれか。あの時の私はダブルゾーンを使うことに
領域と領域の合わせ技、それこそがダブルゾーンであるならば秋華賞での私の走りはダブルゾーンから逸脱している。
なぜならば、蒼炎の領域と薫風の領域の二つの領域を合わせられていないのだから。
あの時はイクノディクタスにより蒼炎の領域を打破されてしまい、二つ目である薫風の領域に重ねることができなかった。
何とか薫風の領域自体を発動することはできたが、あれではダブルゾーンとは言えないだろう。
あの時の走りはまるでロケット鉛筆のようなものだ。連続して領域を発動するが、重ねたものでは決してなかった。絵筆のように色と色とを混ぜ合わせられなかったのだ。
重ねるのではなく、順番に発動する領域だったのだ。
「試走では上手くいったのだが……本番ではあの様だ。ものの見事にダブルゾーンに失敗したよ。あれでは領域の連続発動としか言えんな」
「まーでもその問題も何とかできそうでしょ? 二つ目の領域だってつい3週間前にようやっと習得できたんだから、あれは仕方がなかったわよ」
「ふ、かのアーモンドアイは数日前に目覚めた三つ目の領域を本番に組み込んで成功させていたのだぞ? 誉め言葉にしては少々弱いな、トレーナー」
「むぐぐ~アイちゃんと善財君のコンビがおかしすぎるのよ!!」
そう言ってトレーナーは子供のようにじたばたとし始める。
みっともなさ過ぎるのだが。
「これが君のトレーナーかい?」
「学園でも有数の優秀なトレーナーであることには変わりはない。……気がふれると変になるのは見ての通りだが」
「しかし、その学園有数のトレーナーですら手も足も出ないのが善財トレーナー……アーモンドアイのトレーナーと言うわけか」
「そう言われると気になって来たな……トレーナー、善財トレーナーと言う男について何か知っていることはあるか?」
「えー? えっとー、トレーナー試験では割といい点数を叩き出していて、逃げと先行に強い知識を持っていて、私たち先輩としては興味深いやつが出てきたなあって感じで人気だったわね。──あとここのトレーナーの中でも飛び切りに若かったはずだよ」
「そうなのかい?」
「そーそー。確か二十歳なり立てだって! 普通はそんなに若いタイミングで合格できないから、私含めてみんなで驚いてたっけ」
「……プロキオンのトレーナーは見た目が非常に若かったように思えるが」
「彼、もう四十代後半だと言っていたねえ。とんでもない若作りだよ」
「私がここでトレーナーやり始めた時からいるよ哪吒君」
あの子供としか思えない見た目で四十代の後半だったのか……
「まあその話も興味は尽きないが別の時間に聞くことにしよう。今私が聞きたいのは領域への見識なのだからねえ」
「領域への……何を話せばいい?」
「そうだねえ、いろいろと聞きたいが個人的に1つ聞きたいことがあるねえ……アイ君は今回の秋華賞でトリプルゾーンを披露してみせたが、今後トゥインクル・シリーズで領域四つの合わせ技──クアドラブルゾーンは見られると思っているのか、というのはどうだい?」
「──クアドラブル、か」
秋華賞以降ウマ娘の間ではそんな話題が飛び交っていたな。
それはあのレースを見たウマ娘なら誰もが想像するだろう。
領域を重ねに重ねれば、どのレースでも勝つことができるのではないかと夢のような理論が生まれてしまったのだろうし、領域を積みに積んだアーモンドアイがあの結果を見せたのだから、それも止む無しだろう。
「私個人としては、日本では不可能に近い、というところだ」
「ほう? どうしてだい?」
「簡単な理由になる。日本のレース場は最終直線が短く、領域を4つも発揮できる構造ではないからだ」
こればっかりはレース場の形状が故の問題と言うほかにないだろう。
もし仮に、最終直線前のコーナーで発動するような領域を手に入れることが叶ったとしても、それを最終直線・ラストスパートまで維持し続けるのはかなり困難なことになるだろう。
「経験していなければ解らないが領域1つをしっかりゴールするまで維持し続けるというだけでもかなり強い精神力を必要とされるのだ」
「って言うことは、アイちゃんは……」
「強い精神力を、3回分と言うことになる。私でも2回分がやっとだし、それぞれを維持し続けるというだけでも更に気を遣うのだから3つの領域を駆使するということの難易度は相当なものだろうな」
「領域ってもともと1人1つがやっとって話だったわね。今になって1人で複数の領域が使えるって話が出てきたわけで──つまり1人3役ってこと?」
「概ねその解釈であっている。元来1人につき1つであるべき領域を3つ分宿すには──当然、3人分の精神力が必須なのだ」
正直、そこまで強い精神力を私は有せる気がしない。
たとえ己の志を分解し組み上げた領域だったとしてもその法則は避けられないのだ。
私がそうであったように。
「なるほど。それを聞くと領域を突破されるという言葉の意味も何となく掴めて来るだろうね」
「……領域を突破すると言うのは、相手の精神を突破すること。つまり相手の精神を打ち砕くこと、かな? 今の話を聞く限り」
「それで間違いないだろう。領域を用いたレースでは求められる物はパワーとスピードだけではなく精神も鍛える必要がある。現に桜花賞ではそれが原因で負けてしまったからな」
「アイちゃんがシーズン初めに滝行したのはあながち間違いじゃなかったんだなあ」
「となると──マルチゾーンは精神力を複数個重ね合わせた強烈な一撃という感じなのだろうねえ。ふむふむ、なるほどなるほど……ならば聞くが、マルチゾーンは習得するべきだと思うかい?」
「習得するべきか、だと?」
「必要だろう? たった1つの領域か、それとも複数の領域か。トレーナーとしても気になることではないかな鉄扇トレーナー君?」
「まあ、そうだね。教えてくれるかな、エアグルーヴ」
1つか、複数か。
確かにこれもまた悩むところではあるが、答えはすでに決まっていた。
「1つで構わないだろうな」
「おや、それをマルチゾーンを使える君が言うのかい?」
「無論マルチゾーンが使えることも良いことなのはその通りさ。だが領域とはどこまで行っても各個人に一番見合った走りなのだ。マルチゾーンを習得するということは、複数の得意な走りすべてをまんべんなく鍛え上げることになる。──それが難しいウマ娘はまず間違いなくいるだろう。それなら、複数の領域を鍛えるよりも──たった1つの領域をどこまでも鍛え上げる方が、より建設的だ」
「なるほどねえ」
「確かに、イクノディクタスさんは1つの領域であなたに迫っていたものね。そもそもが精神力の顕れだというのなら、何事にも動じない鋼の精神を持っていれば領域を複数持つのはむしろムダになるかもしれない、と」
「そうだな。複数の領域の飛び交う鉄火場に石像の如く鎮座する1つの領域、というのも不可能ではないと感じている。私も、彼女のその練度には敬服しているよ」
「おや、その言い分、まるで君では無理だと言っているように感じるが?」
「私は彼女ほど屈強な精神力を有しているとは思っていないさ。それができていれば勝てたGⅠがいくつあるのやら、なのだからな」
「んー、でもさ、それってあなたもできるんじゃないの?」
「…………何?」
「あの走り、秋華賞での失敗したダブルゾーンってやつでそれ真似できないの?」
想定外の追及に驚きながら、トレーナーの方を向くと、何やらぶつぶつと呟いている姿があった。
どうやら今までに出た情報を整理して、先ほどの指摘に対する独自の解釈を行っているようだが……
あの失敗した走りにアドバンテージがあるというのか?
「いや、あるでしょ。ダブルゾーンを使わないっていう選択肢は普通に考えておくべきじゃないの?」
「使わない、だと?」
「そりゃまあバンバン使いたいって気持ちも解るけど、領域で相手の領域を1個壊せるのならあえて別の領域への対処のために取っておくってのは十分なアドバンテージだと思うよ? あえて一個の領域を出しとくことで相手の領域を誘う囮にもなるし」
「そうか……あえて使わないという選択肢。そういう手段もあるのか……!」
「(この思考の回転力、機転を活かし、非常識な領域への理解度と応用を閃く発想力……なるほど。優秀なトレーナーであることは間違いないのだねえ)」
ほのぼの、あるいは能天気ともいえるその雰囲気の裏からひしひしと滲み出るトレーナーのあまりにも強すぎる考えている際の気迫。
まるで嵐、それも刃の嵐とでも言えるようなぎらつきだ。
それから程なくして、トレーナーの中で答えがまとまったのか顔を上げた。
「…………マルチゾーンは領域の乗算でハイリスクハイリターン、連続ゾーンは領域の加算でローリスクで時と場合によって効果は変わるローリターン、シングルゾーンだと基礎のパワーアップなどに余力を割けるから他者を追随しない走りを成立させやすい(まあ厳しいけど)……こんな感じかな?」
「ふむ、わかりやすい要約感謝するよ。マルチゾーンはリスクは十分にあるがその分リターンは絶大、と」
タキオンのその言葉には納得できる感覚があった。
アーモンドアイのあの強者の風格。あれはそのリスクを受け入れている顔だったように思える。
そのうえで、リスクを踏み倒しリターンで大儲けする。
そういう覚悟の詰まった顔だったように思える。
もしも失敗してしまえば敵わないであろうトリプルティアラというタイミングで、それをしてのける勇気、そして根性。
「アーモンドアイ、やはりお前は私の宿敵だな」
もし、私が3つも領域を有していたとして、それができるほどの強い精神力を兼ね備えていたとしても、成せるかと聞かれたならば……答えるのは難しいだろう。
それほどの高難度な走りなのだ、得意な走りを順々に3つ連続で行うというのは。
もはやそこまでできるというのは曲芸の類と言われても納得できる。そういうレベルなのだろう。
曲芸、か。
そのような常人では生半可には理解できない未知なる世界なのだろうな。貴様の抱く新世界とやらは。
それほど強く賢しく、そして恐れを知らない勇敢なるウマ娘。
貴様には必ず追いつかなくてはいけない。
いや、追い越さなければいけない。
そのためには──もう休憩は不要だろう。
「トレーナー、おしゃべりはもうそのくらいにしないか? トレーニングを再開したい」
「あ、そうだね。タキオンはこれで満足?」
「ああ。少々不足しているが問題ない量のデータが集まっただろう。これであのトレーナー君も満足するだろうね。礼を言うよ」
「どうもー」
「それと……副会長はこれからエリザベス女王杯に挑むのだろう? せっかくだ。意気込みを聞いておこうじゃないか」
「ほう?」
エリザベス女王杯。
ティアラ路線のレースであり、ティアラ路線の最強を決めるシニア級との混合レースだ。
2連覇しているスイープトウショウを始めとして、ユキノビジン、カワカミプリンセスなどのティアラ路線の強豪が集うことになる。
ウマ娘の中で最も気高き者が勝つと云われるこのレース。
「勝つさ」
「アーモンドアイがいないから、かい?」
「ふん、そんな理由ではないさ。──私が、女帝だからだ」
勝つのは無論、女帝であるこの私だ。
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
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18年皐月賞
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18年日本ダービー
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18年菊花賞
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19年天皇賞春
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19年宝塚記念
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20年京都記念
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20年ドバイシーマクラシック
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20年天皇賞秋
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20年ジャパンカップ
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21年ドバイシーマクラシック
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21年宝塚記念
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21年有馬記念
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その他