前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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はじめよう、ここから、また

 

「解せないわ。私のトレーナーは決まっていると言うのに、レースに出場しろだなんて……」

 

 アーモンドアイが筋トレ前のストレッチを行いながらプンスカとした怒り顔で話す。

 

「まあ、無理もない話だとは思うよ? 信頼の皆無な新人トレーナーの下に就くなんてこと、教官的にはやらせたくないだろうし」

 

 事のあらましはこうだ。

 無事に研修も終わり、トレーナーとしての生活のスタートを切った僕のもとに先陣を切るスピードで契約書を片手にアーモンドアイが突っ込んできたのだが、それを彼女の走りを今まで見てきた教官が制止したのだ。

 

 『アーモンドアイの走りはGⅠでも通用するレベル。そんな実力のあるウマ娘を新人トレーナーに任せるのは問題がある』……と言うことだった。

 

 おっしゃる通りだった。

 GⅠを8勝か9勝もできる超有能な才能を、僕のようなニュービーに任せるなんて損失が大きすぎるのだから。

 アーモンドアイは教官の制止に対し猛反発したが、決して了承しようとする素振りを見せず……『模擬レースでスカウトしに来たトレーナーたちの話を聞いてから考えて』との条件に頷かざるを得なかったのだった。

 

「まさか私が舌戦で敗北を喫するだなんて……っ」

「いや、教官の意見ぐらい聞いてもいいでしょ」

「普通はトレーナーの意見が一番に来るのよ。それが常識。それなのに……」

「それで、その模擬レースの話に移るが」

 

 このまま話を続けているとあの教官の命が危ぶまれそうなので、話を変える。

 とはいえ、目先のことに対する話なのは変わりはないが。

 

「アーモンドアイが出走する模擬レースに関してだが……特にいうことはないな。このままで無事に勝てそうだ」

「本当に?」

「ああ。どれだけ向こうが優秀なウマ娘を用意していようとも、君がアーモンドアイである以上は……ね?」

 

 向こうはこれからGⅠを勝てるように育っていくウマ娘なのに対して、彼女はGⅠ勝利経験豊富な歴戦のウマ娘だ。

 ただ肉体のパフォーマンスが劣っているだけで、勝負に関する直感や判断力、洞察力、そして仕掛け処を間違えることはないだろう。

 

「まあ当然ね。でもそこを踏まえたうえで、マークするべきウマ娘はいるかしら?」

「気にするのか?」

「もちろんよ。レースは勝負! 勝負って言うのは、完全に勝てる戦いのことを言わないの。負けが1%でもある以上、私はそれに対して警戒するべきなのよ」

 

 その発言を彼女はまるで経験したかのように力強く言ってくる。

 まるで、というかまさに僕がそうだったと言わんばかりの眼差しと共に。

 

「そういうことなら、一応2番人気的な子は教えるけど……敵わないと思うよ?」

「ドンと来なさい。強敵っていうのは、そういう思いがけないところから現れるようなものなのだから! あなたみたいに!」

「そう……」

「あなたみたいに!!」

「聞こえてる聞こえてる」

「私とタクトちゃんとコントレイル君を追いつかせなかったあの走り。私たち三冠馬の猛追を躱し切っての大歓声。何十年経っても覚えているわ。そして思い知ったわ。ユグ、あなたこそが私にとって史上最大のライバルだったって!」

 

 あの時は本当に精一杯だった。

 後ろから迫りくる三倍の巨大な気迫。

 それが僕を刺し殺すのではと恐れてしまっていた。

 

 運よく覚悟できたから良かったが、もしできていなかったら4着以下に落ち着いていたことだろう。

 視界にアーモンドアイの鼻先が見えた時は終わったかと思ったほどだ。

 本当に、僕としては何で勝てたのか解らないレースだったのだ。

 

「前世最大のミスだったわ。あんなミスはもうしない。そのためにも情報戦も制する必要があるのよ、私は!」

「わかった、わかった。それじゃあ2番人気から順に注目ポイントを説明していくからな」

「ええ、望むところよ!」

 

 そうして、アーモンドアイと同じ模擬レースに出走する子たちの説明を軽くしながら、模擬レースへの対策を行っていく。

 

「レース場はシンプルな東京レース場型で左回り2000メートル……そういえば右回りは苦手だったっけ?」

「そっちは4歳以降選ばなかっただけよ。ちゃんと走れるわ」

「そうか。……そう言えば聞きたいんだけど」

「何?」

「コントレイルはどこにいるんだ?」

 

 気になっていたことだった。

 アーモンドアイがいて、デアリングタクトもいる。

 なら、コントレイルがいないわけがない。なのに学園中を探してもどこにもいないのだ。

 

「ああ、コントレイルなら今は留学中よ」

「留学?」

「そ、フランスに」

「フランスに? どうして……」

「凱旋門賞で勝つためには敵の懐を見ないといけないから――って、颯爽とトゥインクル・シリーズで三冠ウマ娘になってフランスへ向かっちゃったわ」

「へぇ……って、ちょっと待って!? 『三冠ウマ娘になって』!? なったの、もう!?」

 

 おかしい。

 コントレイルは世代的には僕やアーモンドアイの2つ下になる。

 そんな彼がアーモンドアイよりも先にトゥインクル・シリーズで三冠を獲得して制覇した?

 

 まさかそんなことが。

 

「……ああ、そういうこと。これに関してはあなたでは気づきにくいわよね」

「え?」

「そうね……説明するのが難しいのだけど……この世界では世代がごっちゃ混ぜになってるのよ」

「ごっちゃ混ぜ?」

「ええ。ずっと昔の世代のウマ娘が今かこれからデビューだったり、私たちの後輩世代のウマ娘が私よりも先にデビューしているの」

 

 もう滅茶苦茶ね、と肩をすくめながら苦笑する。

 

「この手の事で一番驚いたのは……母さんのことね」

「母さん?」

「ええ。フサイチパンドラ……馬時代の私の母さんなんだけど、この世界では年下なのよね」

「……年下?」

「そう、年下の母親。気が付いた時は目が点になりそうだったわ。そのうえ、本格化が私よりも後になりそうだと言っていたし」

「本当に滅茶苦茶なのか……」

 

 啞然。

 世代の年齢差はともかく、本格化の時期がバラバラだったのは予想外だった。

 

 馬の知識上、ずっと昔の馬について詳しい情報を知る機会はないのだから、そのウマ娘がどの世代の馬なのかを把握できないのだ。

 

「それじゃあ、君のこれからの戦いは」

「前世と同じようにはいかないわね。まあ別に問題はないわ。同じ道筋をたどるなんてそんなの、つまらないと思っていたところだったから」

 

 そうなるといろいろと難しくなってくると思っているのは僕だけなようだった。

 これから先、アーモンドアイが戦うのは過去の時代に猛威を揮い、歴史に、そして血統に名を遺した馬の生まれ変わりと戦うことになるということなのだ。

 もしかすれば、ずっと昔の猛者と競い合うかもー―

 

「問題ないわよ」

「残念だけど、僕はそこまで挑戦的になれない。その意欲を止めるつもりはないけど」

「人間は私たちを勝てるように調整してきた。過去から、未来へと。勝てる血統を私たちに注ぎ込んだ。こう考えればいいわ。――過去の老いぼれが新時代の血統に勝るはずがないでしょ?」

「過去の方々にもう少し配慮してくれ……――でもまあ、そうだな」

 

 アーモンドアイが。

 これだけ新世界がーって言う彼女が。

 彼女が負けるほど、僕のいた時代は優しかったつもりは無いだろう。

 

 彼女の瞳がそれを雄弁に語る。

 

「頑張れ、アーモンドアイ」

「……その言い方、気になるわね」

「え?」

「私の事、いちいちフルネームで呼ぶの面倒じゃない? ブーちゃんみたいに略してくれて構わないのだけど」

「いや、そこまで仲良しだったつもりは無いけど」

「前世ではただの仲良しに収まらない関係になっていたはずだったけど?」

「それ君が言い出すの?」

 

 それに関しては黒歴史だと思っていたけど。

 くっ殺せって言ってた記憶があるよ、僕。

 

「別にいいでしょそんなこと。それで、私のことはアイって呼んで。みんなそう呼んでるから」

「わかったよ、アイ。――頑張って」

「もちろんよ」

 

 

 

 

 

 ――その後のことはご察しの通り。

 

 レースでは唯一無二の走りを見せつけ、後続を切り離してゴール。

 その後雪崩のように先輩トレーナーたちがアイに押しかけて来たけど、それら全員に先約がいたと言い切って彼らを押しのけ。

 

 そして――

 

「2番人気が完封されてるじゃないか。意味あった?」

「あったわ。じゃないと完封できなかったもの」

「そうか。――アイ。僕というトレーナーと共に走ってくれるか?」

「ええ。ユグ。行くわよーー新世界へ!」

 

 改めて、アイは僕が持っていた契約書にサインを書き記して、僕の担当ウマ娘になったのだった。

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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