前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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スヴァジルファリの再編纂

「お久しぶりです、ユグ先輩」

「────」

「あー……うん」

「クロノちゃん、あなたもしかして」

「はい。アイさんのおかげで思い出せました。あの頃の思い出を」

 

 そっかあ……。

 思い出しちゃうかあ……。

 

「解りきっとった話やろ。アイがユグの走りしとったら遅かれ早かれこうなるんは」

「思い出さない可能性に賭けたかったです……とりあえず、どうぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 チーム部屋の戸を叩いたクロノジェネシスの一言に頭を真っ白にされながらも、何とか室内のソファへと案内する。

 

 ……クロノジェネシス。

 

 競い合った回数だけで数えれば他のどの馬よりも多く戦った相手。

 それこそ、アイよりも多く出会い、多く走った。

 僕の中で『ライバルの牝馬』を決めるなら彼女だろうとは思っているほどに、競い合った記憶がある。

 

 

 


 

 

 

「──こんにちは、先輩」

「君は……」

「クロノジェネシス、と申します」

「(……この子、若いぞ、僕よりも……。そうか、もうそんな時代なんだ──)」

「今回、このキョウトの舞台であなたと競う者の名前です。お見知りおきを」

「──わかった。僕はマネーユグドラシル、長いからユグでいい。ここからのレースの先輩として良いレースにしていくから、よろしくね」

「……はあ……?」

「よろしくね、クロノジェネシスさん!」

「……長いでしょう、クロノで構いませんよ。──ユグ先輩

 

 

 

 時代と時代の境界線を強く意識し始めたのも、彼女と出会ったタイミングだった。

 とはいえまだその年はアイが猛威を振るっていた時代であり、僕たちの時代だったらしい。

 僕がドバイで究極女帝にしてやられている間に、フィエールマンに春の天皇賞で負かされていたと聞いた。

 

『アーモンドアイ八冠達成! もはや彼女を止められる馬はいないのか!?』

「これが、先輩たちの力……それ、でも!」

 

 それでもめげず、諦めず。

 

「やっ……た!」

「すごいじゃん、クロノちゃん! タカラヅカ勝利おめでとう!」

「──はいっ! ありがとうございます!」

 

 挫けず、前へ。

 

『有馬記念の勝者はマネーユグドラシル! エフフォーリアを食い止めて! 1つの時代にピリオドを打ちました!』

「おめでとうございます、ユグ先輩。……これで引退、なんですね。私も、先輩も」

「うん。……ありがとね、クロノちゃん」

「私、あなたと競い合えて──嬉しかったです。本当に、本当に」

 

 僕が引退する前の年に、大きなレースを2つも勝ち取ったと聞いて先輩として誇らしくなったことは記憶に強めに残っている。

 それぐらいには印象強く、僕のレースに関わったのが彼女だったのだ。

 

 

 


 

 

 

ちょっと待って! 私が一番強くユグの前世レース時代に関わってるんじゃないの!?」

「アイはあれや、ラスボス枠なんとちゃう? 同世代の最強を打ち倒すなんてラスボス戦として相応しい展開だからなあ」

「嘘よそんなの、ねえそうでしょユグ!? 私メインヒロインだったでしょ!!?」

「……ノーコメントで」

「と言うかアイって秋の天皇賞でユグとようやく戦ったんじゃなかったか?」

「ヒロイン扱いされるにはちょっと出てくるのが遅すぎたんとちゃう?」

「そんなっ。あの年のドバイに行けさえできていれば、もっと、こう……!」

 

 アイが珍しく悶えている姿を横目に、クロノちゃんの姿をざっと目で見通す。

 以前学園内ですれ違った時よりも気迫が強めになっていて、印象だけならシニア級のGⅠに今から送り込んでも勝てるほどと言われてもおかしくないレベルだと言える。

 とはいえまだ本格化も来ていないためそんな暴挙はできっこないが。

 

「それで、クロノちゃんはいったいここに何の用で来たのかな」

「必要ですか? 先輩の下に来るのに理由なんてもの」

「まああの頃の話を振り返りたいからって理由でも構わないけど」

「それもやぶさかではないですけど……これです」

「これって──」

 

 そう言って、クロノちゃんが僕に差し出したのはチーム名にアケルナルと、名前の欄にクロノジェネシスと記載された『チーム入籍届』だった。

 

「え、いいの?」

「はい。ユグ先輩の下で、今再び私は新しい歴史を創りたいと思いましたので──ダメ、でしょうか?」

「いや、別に僕としてはいいんだけど……」

 

 

 


 

 

 

『行くぞ、クロノ』

「はい、キタジマさん! 私たちなら、負けません!!!」

「逃がすかクロノォッ!」*1

うおおぉぁぁッ、く、来るなー!!

 

 

「はぁ……」

「どうしたのクロノちゃん……って、アイのジョッキーさんがなんで背中に……?」

「はい。怪我をしたらしくって……もう、私には乗れないのだと……」

「……そっか」

「ショックでショックで、残念です……──でも、負けませんからね!」

 

 

 

「ユグ先輩、いつか私、また、キタジマさんと一緒に走りたいです。血の縁でも人間の姿になっても構いませんから、キタジマさんと笑顔で走る歴史になれるような、そんな姿になりたいです……」

「……」

 

 

 


 

 

 

「キ、キタジマさんは……?」

「……そうですね。ユグ先輩には随分と言っていましたし、先輩なら心配してしまいますよね」

「ジョッキーさんのことか? でも、この世界にいるのか?」

「いるわよ? リュメルって先生がいたじゃない。あの人、私のジョッキーだった人よ」

「ええっ!? あの人そうだったのか!?」

「この世界、いろいろと不思議なことが起こり放題やからなあ。前世でのジョッキーがトゥインクル・シリーズやウチらに関わる仕事をやっとる姿は割と多いっぽいわ。イシダシはんはジャーナリストになっとったしなあ」

「そっかぁ……後でイケゾノさんを探してみないとな」

 

 アイたちの言う通り、この世界ではジョッキーだった人間はトゥインクル・シリーズに関わる仕事を多く行っている。

 もしもクロノちゃんのジョッキーだったキタジマさんがトレーナーかそれにまつわる仕事をしていた場合、僕を選ぶのはあまりにも気が早すぎるのではないか、と思ってしまったのだ。

 

「問題はありませんよ、ユグ先輩」

「うん?」

「こちらを見てください」

 

 そんな僕の焦るような疑問に、クロノちゃんは落ち着いた様子でとある写真を僕へと見せる。

 そこには、クロノちゃんの隣で笑顔を見せる男の子の姿があった。

 

「この子は……?」

「実家の近所に住むキタジマくんです。可愛いでしょ?」

「キタジマ、くん………………え、この子が??」

「この世界では、私が生まれた少しあとに産まれたみたいなんです」

 

 本当にこの世界は不思議だ。

 僕がアイたちよりも年上として生まれたのもそうだが、前世でのジョッキーや調教師さんたちがこの世界だとトゥインクル・シリーズに関わるお仕事や、このトレセン学園のスタッフとして活動しているのだから。

 職員室にいる教職員たちの大半の人の顔に見覚えがあったのはビックリした。

 前世のどこかで1回は見たことがある人間ばかりだったのだから。

 

 アイのジョッキーだったリュメルさんとは、この世界では僕とはたまにトレーニングの様子だったり授業の様子だったりを聞く話し相手になっている。

 僕の言葉に何やら感慨深い表情をしているときもあって、思い出しているのではないかと疑ってもいるが……なんでも「自分の担当したクラスから三冠ウマ娘が出たことが嬉しい」とのことだった。

 もしかしなくても思い出しているのかもしれないけど、本人が何か言い出さないのなら、僕は追及するつもりもないのでこの話はここで終わり。

 

 もちろん、トレーナーたちのなかにも前世でジョッキーや調教師として勤めていた人間はいる。

 今コントレイル君と一緒にフランスに留学中のフクナギトレーナーなんかがその典型例といえる。

 そんな中で鉄扇トレーナーや哪吒トレーナーといった知らない名前のトレーナーも目立つけれども……きっと、彼らは僕たちが解らないぐらい遠い未来や過去の時代のトレーナーだったり、過去の時代に活躍したトレーナーたちの想いを受け継いだ全く新しいこの世界ならではのトレーナーなのだと思う。

 

 それぐらい、摩訶不思議。

 想いがまるでスクランブル交差点状態なのが、この世界。

 入り組み、入り乱れ、咲き誇る夢と想いの花の大地。

 それがこの世界だった。

 

 そんな世界で、クロノちゃんが好きだったキタジマジョッキーは……まだ子供だった。

 

「将来トレーナーになりたい、と言ってはいますけど……私が本格化する時期には到底間に合いそうにありませんし……」

「それは……まあ」

「その部分も含めて、私の記憶が戻ってからキタジマくんとお話ししまして……いいお言葉を貰っちゃいました」

「それって?」

『ぼくのことはいいから、クロノねーちゃんはすごいれきしを作って!』と……覚えているのか覚えていないのか、解らないお言葉ですけど……胸にスッと来ちゃいました」

 

 歴史、かあ。

 

「牝馬の歴史は競馬の歴史、牡馬の歴史と同じだけありますけれど……レダさんみたいに、素晴らしい大偉業を達成しても長い時間と共に忘れ去られてしまう。そんなの、私は許せません。私の過去が認めません。──だから、歴史を作りたいんです

「今から始まる、歴史を?」

「はい。今から始まる、新たな歴史の1ページ。レダさんのように忘れ去られることのない、鮮明に残り続ける、強い、強い歴史になりたい。それが──変わらない、私の願いです

「キタジマくんと、一緒に走れなくて……いいの?」

「ふふっ、走ってますよ?」

「えっ?」

「私の走った後をキタジマくんは懸命に、一歩ずつ歩んできています。キタジマくんは、私に憧れてトレーナーになりたいと思ったみたいですから──私はもう、キタジマくんの歴史の最初の1ページになっていたんです

 

 だから、私は大丈夫です。

 そう告げるクロノちゃんの目は、アイのように(とまではいかないかもしれないが)輝いており、その葦毛の髪は白金のように部屋の明かりを反射していた。

 

 まるで、歴史的にも価値の高い宝石や結晶のような煌めきだった。

 

 ……そこまで本気なら、断る理由はないなあ。

 

「今度、キタジマくんに会わせてほしいな」

「えっ──?」

「お礼を言いたいから。クロノちゃんに良くしてくれてありがとうって」

「──そうですね、たんまりとしてあげてください」

「うちのオモチャ、あげたら喜ぶかなあ?」

「喜びますよ、きっと。前世でもオモチャになったユグ先輩を見せてくれましたから」

「あれかあ。今の感性からすると恥ずかしいなあ……あの僕、変なメガネつけてるし」

「あれはゴーグルって言うんですよ? あるいは仮面です。メンコ付けてたんですから大丈夫じゃないんですか?」

「さすがにあんなヘンテコなメンコはちょっと……」

 

 そう言いながら、僕はチーム入籍届にハンコを押す。

 ポンと軽い音と共に、クロノちゃんはチーム『アケルナル』への入籍が完了した。

 

「──よろしくなっ! クロノ!」

「はいっ」

「これで記憶を戻したんも3人目やな。もうこれラヴズちゃんも思い出すんとちゃうんか? 配信で同じ場所におったんやろ?」

「ラヴズちゃんは……多分、アイさんの領域では目覚めない、と思います」

「え、どうしてよ?」

「アイさんの継承した世界樹の領域は完璧すぎて……ラヴズちゃんの前世の精神は多分それをユグ先輩の領域だと認めないんですよ。一応記憶の琴線に触れてはいるようですけど……」

「あー、ユグはんと合致せんのか」

「そうなんです。前世のラヴズちゃんならきっと『ふんっ、お前みたいな完璧な逃げ、あのマネーユグドラシルがするわけないだろう』って文句を言ってますよ」

「え? 前世のラヴズちゃんってそんな口調だったの??」

「まあ、うん。そうだね

「あはは……」

 

 ラヴズちゃんはなあ。

 むしろ今までのみんなに比べたら彼女こそ前世の記憶を思い出したくないのではないだろうかって思うんだけどなあ。

 

 性格に差がありすぎて、配信でラヴズの今を知った時は同名の別人だと思っちゃったぐらいだから。

 思い出したらそれこそ性格のギャップで頭がおかしくなりそうな気がするんじゃなかろうか。

 

 そう思っていると、歓迎の賑やかさに紛れるように誰かの着信音が鳴り響く。

 

「あ、私ですね。──ユグ先輩、キタジマくんからです

「えっ」

「もしもしキタジマくん?」

『あ、クロノねーちゃん? トレーナーとちゃんとけーやくできた?』

 

 ズバッと言葉を投げかけてきた幼い声の通話相手。

 彼がキタジマくん。

 

 クロノちゃんの、前世での……。

 

「単刀直入だねキタジマくん。……うん、ちゃんと契約できたよ」

『そっか、よかった! ねえ、トレーナーさんにかわってくれる?』

「いいよ。──はい」

……解った。──もしもし、お電話変わりました、この度クロノジェネシスさんの担当トレーナーになりました善財樹です」

『いつき、そっか。わかった! いつきトレーナーさん!』

「はい」

 

 

 

 

 

『──クロノジェネシスのこと、よろしくお願いします』

「っ!」

 

 

 解る。解ってしまう。

 キタジマくんが何かしらの強い覚悟と決意の上で、僕にクロノジェネシスを託したことが、解ってしまう。

 トレーナーになりたいという夢が故なのか、それともキタジマくんが前世の記憶を思い出しているからこそなのかは解らない。

 

 それでも言えることは、この小さな子供と、その魂の内側に宿る一人の男の想いを受け継ぐのだという事実。

 僕は、それに報いなければならない、ということ。

 

 これは、ハヤトよりも重い期待だ。

 

 それでも、成し遂げる。

 それがトレーナーなのだと、人間なのだと知ったから。

 

「……もちろんですよ。必ず、これ以上のない成果を挙げさせますから。キタジマくんは心配せずにゆっくりと、自分だけのペースでトレーナーを目指してください」

 

 だから、僕はキタジマくんを落ち着かせるように言う。

 託されましたという思いを込めて。

 受け継ぎましたと想いを受け入れて。

 

 僕の返した言葉にキタジマくんは何か感じ取ることができただろうか。

 ちょっと長めの沈黙の末に、小さく『はい』と言葉が返って来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──それと』

「はい?」

『けっこんしきになったら、よんでくださいね。てがみ、よみますから』

「トレーナーのことをなんだと思ってるんですか??」

「そうですよキタジマくん、まだお付き合いもしていませんからね? 順序を1つ越していますよ」

「乗らないでねクロノちゃん???」

ふふっ、面白いことを言うじゃないこの子

「なんでか知らないけどアイも買わないでね? 子供の言葉だからねこれ!」

 

*1
※ラヴズオンリーユー




ウマ娘が勝利するための知識を教え導くこと。
ウマ娘が勝利するための道筋を整え導くこと。
ウマ娘が勝利するための情報を纏め導くこと。
ウマ娘が勝利するための設備を拵え導くこと。
ウマ娘が勝利するための鍛錬を図り導くこと。
ウマ娘が勝利するための意志を支え導くこと。

全て違って、全て行きつくゴールは同じ栄光。
もしかしたら、2代目三冠ウマ娘の両隣に6人が並んで撮ったあの栄光の一枚の、そこにいた人間たちはそういう関係者だったのかもしれませんね。

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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