前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
「ララー、もう止めにしないかー?」
「…………」
「見てるこっちが寒いぞー? こっちで美味しいシチューを用意してるから戻って来いよー!」
「…………」
「おーいーラーラー!!」
「──あの、ユグ先輩。疑問なんですけど……」
「何かな?」
「どうしてララさんはこの12月の寒い日に滝行を行っているのですか???」
「僕も知りたい」
──もうすぐホープフルステークス、ウチの激動のリスタート地点や。
ジャーニーさんに、テイオーはん、そして未だ素性が明かされない謎の地方出身ウマ娘。
三冠路線に挑んでくる猛者は多く、誰もがGⅠを勝ち取れる可能性がある。
その中で重要になってくるものが、やはり領域。
あくまで想いが形になったものとはいえ、レースに対して真摯に目を向けているその思想こそが勝敗を決するといえる。
…………領域。
思えば思うだけ、身体に冷えた水と共にアイのあの走りが思い返される。
ユグの走りをコピって我が物にしたあの走り。
自分こそがユグの走りの正当なる後継者だと言わんとしとるかのような振る舞い。
それを見ているウチが、何にも思わんかったと思うとったら大間違いや。
ウチだってユグと寝た間柄。
そんにウチとユグの仔はアイの仔に勝ったと聞いたこともある。
ユグと相性が良いんはウチのはずや。
それやのに……ユグの領域をウチはちっとも継承できてへん。
「(なんかあるはずや……ユグの領域を掴み取るための、何かが……)」
あくまで精神性、想い、感情的な話になることは百も承知。
ユグの想いを解りきっていない可能性だって重々承知の上。
そのうえで、ウチはアイにどこまでも勝ちたいんや。
GⅠ勝利の数はもちろん。
ユグの力を使いこなせるか、でも。
アイのことごとくをギッタギタのコテンパンに叩き潰したい。
アイのあらゆるもんを魅惑させるあの瞳の輝きを陰らしたい。
その役目は今アイと競い合ってる奴らにもあるやろうけど──ウチが一番あるんやで。
アイへの雪辱、屈辱。
唇を嚙んだ回数はウチの方が多い。
負け続ける度にアイの姿が脳裏を過ぎった前世の日々は、忘れていたことすらも恥になるほどの辱め。
ここから先は、負けられへん。
勝って駆って狩って──そして克る。
ウチの、前世という過去を乗り越える戦い。
負けられへん。絶対に、絶対に──。
そう強く思いながらウチは冷たい滝にシバかれながら瞑想に耽る。
アイに勝つ手段、ユグの領域を得る道筋、ホープフルステークスを勝つ算段、三冠路線を制覇する計画。
それらを冷えていく頭と湧き上がる熱意で整理していく。
…………
「…………──」
「…………い」
ん、なんや?
「……ーいっ」
誰か呼んどる?
ブーではないな、アイでもユグでも、クロノちゃんでもなし。
誰や?
「おー……いっ!」
ああもう、少し黙っとき。
今このいと冷たい滝にシバかれて精神統一しとる真っ只中──で。
「──……はあ?」
気が付いた時、ウチはもう滝を浴びておらず。
温うて涼し気な風が吹く、爽やかな平原の見える場所におった。
「いや、いやいやいやっ。夢やろ? あるいは質の悪いドッキリか?? だって、さっきと──いうか、今の今までウチ、滝を浴びて──」
混乱。
拉致とか誘拐とかじゃ説明がつかんほどの急展開。
何が起きとるんかさっぱりな、謎の状況。
……せやけど、なぜかこの場所にいることに不思議と安らぎを感じる。
なんでや。
そう思いながら、どうしようかと悩んでいると……。
「おーいっ、ララちゃーん! こちらですよー!」
「……茶会か?」
明らかにウチを呼ぶ声。
そして謎に馴れ馴れしく、それでいて不思議と安心感もある声。
ここで目を開ける少し前から聞こえた声が、眼下の草原の一角にあったテーブルの傍で立っているウマ娘から放たれとった。
あそこに行くしかあらへんか。
そう思いながら、ウチはこの謎の空間を歩く。
「ここ、樹なんか……? それにしてはバカでかい樹やな」
歩いてみて解ったが、今ウチが立っていた場所も、歩いていた場所も植物やった。
地面では断じてない。樹皮でできた床と、ツタでできた道を歩いとった。
そして頭上には空を覆い隠さんとするほどのバカではい葉っぱの雲。
いや、ホンマに葉っぱなんやろうな。
雲のような葉っぱ。
「まるでアイの世界樹みたいやな…………──ん、アイの世界樹?」
これが世界樹やと? しかもアイの??
確かに、アイの領域で見えた世界樹は確かに世界樹と言えるほどバカでかいスケールしとったし、大ケヤキを超える大きさやったけどもここまでではなかった。
それなんに、ウチはこのバカでかい樹をアイが使っとる世界樹の領域と同一か類似するもんやと認識した。
なんでや?
「それは、これが源流だから、だな」
「っ! ──って、アンタは……スリーセブン、さん?」
「よう、久しぶりだな」
マネースリーセブン。
ユグの馬としての父であり、この世界ではウマ娘でもある存在。
樹トレーナーをユグだと解っとる側の存在で──それ以外は一切謎。
ゼンザイスポーツクラブの会員ではあるんやろうけど、情報が一切得られんかった謎のウマ娘が物陰から現れた。
「悪いな、ちょいとアドバイスをしたくてな。精神だけをちょいとここに招き入れたんだ」
「(精神だけって……どんな技やねん)……アドバイス……?」
「息子の領域、使いたいだろ? ララちゃん?」
「──教えてくれるっちゅうことかいな?」
「まああくまでヒント程度には、な? 素質は見たところアイちゃん以上にありそうだし」
アイ以上に素質がある。
ウチの耳はその言葉を聞き逃さなかったで。
少なくとも、ウチの方がユグの領域に視野が近い。
うすうす解っとった。アイのような連戦連勝牝馬が負けの多めだったユグの想いを受け継ぎ切れるわけがあらへんことは。
アイが使てるんはクロノちゃん曰く……ユグの領域に近しくともそれはユグの領域ではない。
アイが万全に使えるようにと魔改造した結果、それはもうユグの領域ではない別の何かになってもうてる。
完全に自分のものにしてもうたソレは、本質的にはアイがウマ娘として手に入れた二つ目の領域に近いものになってもうてるのだろうと感じてはいた。
ユグの想いをきちんと受け継ぎ切れとらんまま、アイはユグの領域を
その仮定はスリーセブンさんの言葉でほとんど確信に至った。
まあ、それをアイに伝えるつもりも、アイのことを追い詰めるつもりも微塵もあらへんけどな。そんなん脅しのネタにしてはつまらんし。
アイにとって、それほどユグに魅せられたっちゅうことなんやろなあ。
本気になって、二つ目の領域を、新世界の姿形を世界樹にしてしまうぐらい印象強かったってことやろうしなあ。
ホンマ、エグいぐらいの執念や。いやそれはウチもおんなじか。
それに、今歩いてる場所をアイの世界樹だと思ったのも納得できる。
アイの世界樹の理想形がこれやからや。
アイが見た『世界樹の領域』は、おそらくこれやったからこそ、これを再現しようとしとるんやな。
つくづく惜しいわ。
前世でユグと同じレースを走れなかったことがなあ……
「まあそれはともかくとしてや……ここは一体何なんや? いきなりこんなところに連れてこられて訳わからんのや」
「ここは……息子に宿る『世界樹の領域』、その
「根本……?」
「領域はウマ娘の想いから生まれる。その想いは、この精神空間で形になる。──言うなれば領域の製造工場だな」
「──私たちはここのことを『ディープゾーン』と呼んでいるの」
ようやっと世界樹を下り切ったところで、目の前に現れた林檎の耳飾りを付けた青鹿毛ロングヘアーのウマ娘。
穏やかそうな口調なのに、雰囲気がスリーセブンさんと同じ。不思議な存在という感覚。
「あんたは……」
「私はマネーアップル。いきなりあなたを招いてしまってごめんなさい、ララちゃん」
「ユグはんのお母さんか……!」
「今回、あなたをここに招いたのは私なの。あなたとお話ししたくって……許してくれるかしら?」
「いや、それは別にええんやけど……」
「ああ。息子の領域のアドバイスだろ? 解ってる、そう焦るなよ。彦星もそう言っている」
「は、はあ?」
「落ち着いてお話できるようにと思って美味しいお茶を用意したの! ……ここ、精神空間だから味だけ楽しんでお腹には入らない感じだけど、どうかしら?」
……まあ、確かにいろいろ驚かされてばかりやし、いったん腰を据えて落ち着いて話をさせてほしいとも思うとったからその誘いは受けるんやけど。
そうして草原に用意された椅子に座り、カップに注がれた紅茶を飲む。
ウチ緑茶派やけれども、まあ美味い風味の紅茶やった。
それにしても……この草原、世界樹の真ん中ぐらいの位置から眺めていた時はただの草原やと思うとったけれど……なんか、普通の草原やないな。
芝生はなんか透き通っとるし、大地の内側に星空っぽいもんが浮かんで見える。
上を眺めれば青空と世界樹、下を見れば芝生と星空。
これがユグの精神空間……ディープゾーンなんか?
「一応補足しておくとだな、ここのディープゾーンはもともとただの一本の世界樹だけなんだ。そこに俺たちが親の特権を使ってちょいと手を──『七夕の領域』と『楽園の領域』を加えさせてもらったってトコだ」
「いや、何勝手に息子の精神空間弄っとるんや」
「今の樹君には影響はないはずよ。それに私たちは魂で繋がった親なんだから、悪影響なんてあるはずないわ~」
「ほー……──この空間って、他の奴らにもあるんか?」
「もちろん君にもある。──だが、ここほど安定はしていない」
「は? どうしてや?」
「ディープゾーンはウマ娘たちの精神が形になる以外に、ウマ娘たちの前世の関係性が如実に形になっているのよ」
「関係性って言うと……」
「君にとっての前世での父親、母親、父父と父母そして母母に母父。そしてそこから先も。前世での深い血縁がこの空間の礎になっているんだ」
「そして、あなたたちのいた時代においてユグは稀な存在だった。血が重なってなかったのよ。少なくとも、5代前までの間は決して」
……なるほど?
確かに前世ではナントカのナニ×ナニとかそういう話はしょっちゅう聞いたなあ。
心で「これ受け継ぐモンの話なんやな」っちゅうのは解っとったつもりやったけど。
まあ強い牡と強い牝とで仔をこさえるんは獣の定めやし、それが
「言いたいことは解ったわ。……それがユグの領域のヒントなんか?」
「それだったら誰にも真似できないじゃないか。そうではないさ」
「サンシチ*1が言ってくれたと思うけど、ララちゃんはユグに近いのよ。在り方と言うか、その性質が」
「それがどういうことなんかを教えてほしいんやけど」
「そうだな……──!」
それを聞き出そうとしたその瞬間、この空間が一気に白く霞んでいく──って、霞んどるのはウチの視界か!!?
「おっと、どうやら時間切れらしいな」
「ちょいちょいちょーい!? まだなんのヒントも全然聞けてないんやけど!!?」
「ごめんなさい! 今度は世界樹の上に転送しないように調整してみせるから!」
「いやそこんとこよりもアドバイスを──」
「大丈夫ですよ、ララちゃん」
「はっ──ほわゎぁぁ~」
そう言って、アップルさんがウチを抱きしめる。
リンゴの香りが鼻を包み込む、リラックスできる香りやった。
今までの焦りも、戦意も、野望も欲望も、なんもかも忘れそうなほどくつろげそうな香りやった──と気付いて即座に我に返る。
「──っぶなあ!」
「ごっ、ごめんなさい! 私の領域、近くにいるウマ娘の戦意を喪失させちゃうらしくって──」*2
「おっかないもん拵えとるなあ!? アイの領域よりも恐怖感あったで今の!!?」
「イヴ*3の領域はエデンの果実、食べるまで気づかぬ無知を生む領域だ。落ち着くにはうってつけだと織姫は言っている」
「いやそらすごいしよろしければそれの使い方もぜひ教えてほしいんやけど今はそれよりもユグの領域について──」
もうとっくに視界の7割が白に染まっとるんやから!
早よう教えてほしいんやけど!?
「心配しなくて大丈夫さ」
「スリーセブンさん……?」
「言えるのはこれだけだな──勝ちに固執せず、自分だけの走りをやっていけばいい」
「──勝ちに、固執せず……?」
「お前はラッキーライラックだろう? アーモンドアイじゃない」
「──!」
「自分だけの道のりを進んでいけば、自ずと世界樹にたどり着くだろう」
「……負けても、辿り着くっちゅうことかいな?」
「もちろんよ! 勝っても負けてもウマ娘は必ず成長するもの! それが前世から続くゼンザイスポーツクラブの教訓だもの!」
勝っても、負けても……か。
その言葉になんかを掴みかけたような気がしながら、ウチの意識はちょっとの間フッと闇に消えて──
…………
──そして、バァッという滝の轟音と身体に浴びる冷や水の感触で共に目が覚めるって寒ぅ!!!
「ラーラー! もう30分経ってるぞー! もう風邪ひいちゃうぞー!!」
「……せやな。もうここらでいったんやめにしよか」
「やったー!!!」
一気に目が覚めたわ。
こんな寒すぎる滝で何で滝行なんぞしとったんやウチは。*4
滝から離れるウチをブーがバスタオルをわんさか抱えて駆け寄ってくる。
「風邪ひかないようにちゃんとあったかくしないと! ヌクヌクフカフカのバスタオルだぞ!!」
「ああそれはおおきに──いや多い多い多い! 埋もれてまうから!!」
「ちゃんと水を拭き取るのとあったかくなるのを同時にできる優れ技だぞー! ちゃんとあったかくなったらシチューでよりあったかくなるぞ!!」
バスタオルに埋もれながら、身体を拭いている最中に考える。
先ほどのあの光景は夢やったのか?
それとも現実?
ウチとユグが似ているっちゅうのはどういうことや?
両親公認嬉しいわあ。
様々な思いと共に、ユグの領域継承への答えの取っ掛かりが掴めたからこそ──ウチはホープフルステークスへと足を進める。
こっから先、勝とうが負けようが最後に行きつく先は変わらず、打倒アーモンドアイのまま。
そこに至るためのウチだけの……いや、ウチとユグとの旅路がこれから先、本格的に始まる。
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
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18年皐月賞
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18年日本ダービー
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18年菊花賞
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19年天皇賞春
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19年宝塚記念
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20年京都記念
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20年ドバイシーマクラシック
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20年天皇賞秋
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20年ジャパンカップ
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21年ドバイシーマクラシック
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21年宝塚記念
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21年有馬記念
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その他