前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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屈しても、屈さずに(ヘルヘイム)

「さて……ララちゃんは俺たちの言いたいことが伝わっているのやら」

「伝わっているわよ。だって──ユグが気に掛けるほどの女の子だもの」

「まったく……──妹ちゃんの言う通りなんだろうなぁ。そこは」

「ええ♪」

 

 

 


 

 

 

「ドリジャ! 解ってるだろーな!」

「ええ。ここが最初の関門であることは重々承知していますとも。ゴルシさん、あなたは有馬記念の最終調整に忙しいでしょうに……激励に来てくださりありがとうございます」

「あ? そんなもん、タコがラッコを捕まえるよりも楽勝だっつーの!」

「……姉上。このレース、ララが来ていると聞いたが」

「ええ。彼女、本気で三冠を目指すおつもりのようでして。私もうかうかしてはいられませんね」

「ってかよー、なんで朝日杯キャンセルしてこっちに来たんだ?」

「ララとは遅かれ早かれ衝突する。でしたら、それが数か月早くなったとしても何も問題は無い……そう思いませんか?」

「ララのトレーナーは……アイのトレーナーだったか。…………」

「おや、オルフェはわたしの勝利が不安かな」

「……何を言うか、貴様は余の姉上であろう。余が姉上に対してそのように見縊ることがある訳が無いではないか。それとも……余の信頼では不満か?」

「いえ、そのようなことはありませんよ。……ですが、姉として妹を思う心を以て一言伝えておきましょう。──応援したいなら、好きに誰でも、応援してもよいのですよ

「……ふん、姉上に言われずとも、余が誰を応援するかを余が定めるのは天が定めし当然の摂理よ」

「それなら良かった。では、そろそろ発走時間ですので、これで失礼します」

「ちゃんと見せつけろよー!」

 

 

 


 

 

 

「ララ、準備はいいかい?」

「ここで勝って、ジュニア王者になるんだな、ララ!」

「もちろんや! ──と、言いたいところやけど」

「ん?」

「あらかじめ言うとくわ。ウチ、そう言うんにもう興味はないんや

「えっ?」

「ジュニア女王とか、王者とか、三冠とか……そんなもんぶっちゃけ邪魔やと思い始めとる。ウチはただ、勝ちたいだけや。ここにいる皆に、そして……アイにもな」

「へえ?」

「そこにそういう代物はあっても無くてもどうでもええわ。──今のウチは、勝ちに挑む貪欲なウチでいたいんよ

「……あくまで、勝ちたい気持ちはそのままってことでいいかな?」

「当たり前やろそんなん、それが無ければただの腑抜けやんか」

「それもそっか。……ララ、勝って来ると良い。やれることは全てしたと思ってる。領域を使うための調整もできる限り施したつもりだ

「ほんにおおきにな、ユグ。ウチの領域に必要な能力なんて実際に走っとる姿を見たことないはずやのになぁ」

「それが、トレーナーの仕事だよ。このレースがアイに勝つ道筋になれるといいね、ララ

「──ああ、ほんまにな!」

 

 

 


 

 

 

『年末の中山レース場、ホープフルステークスのゲートが今、開かれようとしています。未来の名ウマ娘たちがここから歴史を刻み始めます!』

『ホープフルステークス、いよいよ発走です!』

 

ホープフルステークス 中山レース場 芝2000m 良 17人

1ドリームジャーニー

10ホガラカアサヒ

2ガーネットタカサゴ

11ユウキノサト

3ラッキーライラック

12インクリーズラヴ

4ノーザンクラウン

13レディユーエル

5ブリザードパーティ

14リジェントヨシフサ

6アグラデシード

15ストライプドアビス

7リトルマーカス

16ハビタブルランド

8シャイニーパス

17ギガニケ

9ラーシュザアラキ

  

 

「(負けてもええレースなんてこの世のどこを探してもそんなん見つからへん。負けるレースっちゅうんは負けてからできるんや)」

「(なんと。ララさん、どうやら雰囲気が以前よりも大きくなっていますね。……ジュニア級でここまでとは……さすがは新進気鋭の彼の下でトレーニングを受けていただけはありますね)」

「(やることは前世からなんもかわっとらん。──勝つ。それだけや。結果は後から付いてくる!)」

「(ですが──それでいい。それこそ、アネゴが挑んだ道程なのですから。アネゴが皇帝に挑んだように、私もまた、熾烈な争いを繰り広げることができるのですから──)」

 

『──スタートしました! 好スタートを決めたのはストライプドアビス、その後ろからはガーネットタカサゴこのウマ娘も上がっていく構えです。ラーシュザアラキと6番アグラデジートその後ろ! 少し間が開いてハビタブルランド、ラッキーライラックその内に続いています。外にはホガラカアサヒ、その後ろにインクリーズラヴ』

『この辺りで各ウマ娘第1コーナーから第2コーナーへと向かいます!』

 

 ラッキーライラックにとって二度目の初GⅠ。

 彼女は感じる。最初から感じる強い違和感を。

 

 前世で勝ち取った阪神ジュベナイルフィリーズのような雰囲気はここには無くて、気品・美麗・可憐さといった要素はこのレースから取り払われたような、除け者にされてるかのような感覚が肌を突き刺して来る。

 

 この感覚が、牡の気迫であることは即座に理解できた。

 大阪杯で感じた梅のような老練な輩たちとはまるで違う、若駒らしい若葉のような、甘いニンジンのような柔らかさ。

 

 それでありながら──こうも鋭く突き刺さる、この純粋な気迫。

 姿形は変わろうとも、決して変えられない漢の心構え、とでも言うべき張り詰めた空気感。

 エリザベス女王杯では見られない、冷や水ではない、灼熱による緊迫感。

 

「(──これが、漢の世界っちゅーもんなんやなあ、ユグ?)」

「(くっ、こいつのポジション、どうして揺るがせられない!?)」

「(へっ、そないなデバフでウチを嵌められると思うなやケツの青いとねっこがァ!)」

「(ヒッ、さ、殺気!?)」

「(これは……なるほど。彼らのデバフ走法は物ともせず、むしろデバフし返すとは……)」

 

「なんで威嚇してるんだララ……?」

「レース中のララってあんな性格だったのかあ……」

「──ララさんはレース前は今のような優し気な馬、でもレース時には獰猛さをけして隠さない猛獣のような馬でしたからね。その無自覚な威圧は今も健在みたいですね、ララさん」

 

「あの威圧、血から来るものかしら?」

「だろうな。さすがは黄金郷を目指した先駆者様の血脈、息子のように重ならない血統の因子ってやつはこんなものを生むんだから世界ってやつは面白い……!

「(そこだけじゃないような気もするのだけれどね)」

 

「おー! すげーなララ、あの睨み! まるでお前そっくりだぜオルフェ!」

「何だと? ゴルシよ、ララめが余の真似事をしたと申すか」

「真似事ってゆーほど意図的に真似たつもりはねーだろ。サンゴがワカメのマネをするぐらい無意識っぽいぜ?」

「無自覚、とな……?」

 

『これに続くのがリジェントヨシフサ、内からブリザードパーティ、外を追ってギガニケ、内からはリトルマーカス。並んで13番レディユーエル、内にノーザンクラウン、ユウキノサト。シャイニーパスはその後ろ、更に後ろに黒い勝負服のドリームジャーニー!』

『1000メートルを通過、ここまで各ウマ娘一塊に進んでいます』

 

 第3、第4コーナーを曲がり観客席がすぐそばに近づく。

 最終直線が近づいて来る。

 

「もうすぐ最終直線だ、行けるぞ、ララ!」

「うおー! 行っけー!!」

 

 道は見える。

 既に先頭近くにいるラッキーライラックには勝機が掴める。

 栄光は近い、後ろから迫るドリームジャーニーの膨らみ始めた気配も解ってる。

 なら、後は──実力勝負。

 

『さあ直線に入るぞ! ここから誰が抜け出すのか!』

「(行くで、ユグ……アイ……これが、ウチのッ──花道や!)」

 

 ウチの領域が花開く。

 ライラックの花道が先頭を超え、ゴールへの道を結ぶ。

 この軌条の上で、ラッキーライラックは強くターフを踏みこみ、そして、駆け抜ける。

 無二を言わせぬような、圧倒的な気品を見せつけて。

 

「(なんだ、これっ──)」

「(っ、まるで、美しい──)」

 

 その本質は、アーモンドアイのそれと近しく、それでいて異なる物。

 新世界にこそ阻害されたこの花道だからこそ、この領域こそがララがラッキーライラックである所以。

 ララが想い願い、そして形にせんと駆けて創り上げた『ウチの新世界』であり、ラッキーライラックの克己心そのものでもある。

 

『ラッキーライラック一番前だ! しかし後ろからドリームジャーニーがやってきている! 追いつけるか!?』

 

「っ!!?」

「(それが、あなたの走り、あなたの見せる想いの形なのですね)」

「(ジャーニーさん!? なんやその、気迫は──!?)」

 

 あまりにも太い。

 気迫が太い。

 

 まるで拳銃を背中から突きつけられているかのような、首筋にナイフの切っ先を向けられているかのような強くて太い気迫。

 それがラッキーライラックの背後を襲う。

 

 ドリームジャーニーが、ララを襲う。

 

「(あなたのその想いに応えなければ。それが礼儀。それこそが矜持……)」

「(これか。この気迫こそが──)」

「(……では、参りましょうか。旅の先へ──!)」

 

 それはララが感じたことのない気迫。

 否、感じたことぐらいは少なからずあれどここまでではなかった気迫。

 それが太く厚くなって、背後からぶつかって来たのだとラッキーライラックは理解した。

 

 若葉のような気配に隠れ、機を伺い牙を剥く血染めの兎のような凶暴性。

 抜き身の猛獣のように走っていたララではとっさの対処が叶わない狡猾性。

 それでいて、まるで自分のような獰猛さを兼ね備えて。

 

 獰猛であり、狡猾であり、凶暴である。

 ラッキーライラックには無く、ドリームジャーニーにはあるもの。

 土砂降りの雨のように静寂と轟音とを兼ね合わせた、漢らしさの極致ともいうべきもの。

 さながら任侠映画のような勇気と仁義。乙女らしいとは決して言えない、血生臭さすら感じるような泥の味。

 炎のように熱く、鋭く、そして冷たい。

 

 ラッキーライラックのいたあの時代には感じられなかった――否、見つけられなかった漢の強者という概念、その強さ。

 ドリームジャーニーはその在り様を見せつけるかのように、領域を投影した。

 

『ドリームジャーニー抜け出した! 残り200メートル!』

 

 ドリームジャーニーの姿がセピア色に染まる。

 あるいはそれは金色ともいえるのかもしれない。色褪せた金色と。

 

 しかしその走りは、輝きは、決して色褪せてはいない。

 むしろ、これからだと言わんばかりに彩を放つ。

 

 当時が牝馬最強世代であったが故の、認識の誤認から来る本物の漢への動揺により、ララはドリームジャーニーの領域を強く感じ取ってしまう。

 魅せられてしまう。

 

「っ、だああああああーっ!!」

 

 花道の領域は塗り潰される。

 また再び、今度もまた。

 蒼き新世界から変わり、今度はセピア色の黄金に。

 旅路の領域が、牙を剥く。

 

 それでも、とララは吠える。

 

「(──なるほどなあ)」

 

 しかし、それだというのに。

 目の前に敗北が在ると言うのに。

 負けを認めまいと抗いながら、踏ん張りを見せながら走るラッキーライラックはその歯を食いしばる表情の裏で思う。

 

「(これが──漢の世界なんやなあ。──なんとまあ、かっこええやないか──)」

「はああああああああああああーっ!!!」

『ラッキーライラック届かない! ドリームジャーニー1着ゴールイン! 2着にラッキーライラック!』

 

 ラッキーライラックは、牡馬の世界をその身を以て──敗北という形で実感したのだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「あらら、ララ……」

「ララ、負けちゃったぞ……」

「ドリームジャーニーが想像以上に強かったなあ。ドリームジャーニーの牡馬としての気迫に押し負けた感じかなあ……でもあれ以上トレーニングをやると今のララの身体の負担がなあ……厳しいなあ、トレーナー業」

「さすがはララの伯父にあたるウマ娘、ですね。……これを引きずらなければいいのですけど」

「あら、それに関しては大丈夫だと思うわよ。ほら──」

 

「ハァ、ハァ……フゥ……」

「……ジャーニーさん」

「──ララさん」

 

 ウチがこうも見事に負けるとはなあ。

 ジュニア王者なんて称号もはもう手に入らんだろうし。

 完敗やわ。

 

 ……いざ思うと悲しゅうなってきたな。

 

 でも、心の中では失ったもんよりも得られたもんのほうが多いと叫ぶかのように満ちる感覚がある。

 ……敗北を受け入れるなんてこと、前世でちゃんとできとったかな、ウチは。

 

 アイは……言うまでもないか、今のあの姿を見るに。

 ユグは……できとったらしいな。ウチが思っとる以上に

 

 競走馬やった頃、ユグのことをブーとワグネリアンはんから聞いた時は──。

 

 

 


 

 

 

「ユグのことか? とっても頼りになる、兄貴のような存在だぞ!」

「──自分が負けても勝った俺やフィエールマンのことを称賛してくれる、弟みたいなやつだよ」

「言っとることチグハグなんやけど」

「勝ったやつの視点と、負けた奴からみる視点では印象が違う……その典型例なんだろうな、ユグは」

「……負けは負け、抗うもんやないんか?」

「ユグにとって、負けは抗うのではなく、受け入れ先へと進むもの……らしい。俺にもできない精神性だな。事実俺は今お前に負けたことで非常に腹が立っているからな……!

「おおこわ。……変わり者なんやなあ、クロノちゃんが言うてたユグはんっちゅうお馬さんは」

「そうだな……でも」

「?」

「──俺は信じてる。ユグは変わっているからこそ、俺たちとは違うものを見ているからこそ……必ず、すごいことを成し遂げ、俺たちの時代の頂点に登り詰めるって」

「……なんやそれ。そんな逸材なんか?」

「さあな」

「さあな──て、ジブン正気か?」

「信じることに、理由なんかいらないだろ?」

「…………アホらし。理由もクソもないやんか、それ」

「そうさ、理由なんて無い。──信じられる、信じてしまえる。そんな馬だよ、ユグは。お前も会えば解るかもな?」

 

 

 


 

 

 

 とっさに思い出した大阪杯の記憶。

 負けは、受け入れるもの。

 受け入れ、認め、先へと進むもの。

 

「……」

「くそっ、ちくしょう……」

「ごめん、ごめんなさい……!」

「(ウチも、昔はあそこにいたなあ……特にアイに負かされてた頃)」

 

 辺りを見渡すと、そこには膝を崩すウマ娘。

 悔し涙を流すウマ娘。

 絶望、諦観、阿鼻叫喚。

 

 最初の勝利を手に入れられず、辛いと、苦しいと感じるウマ娘の姿が多い。

 理想の世界に身体が付いていかず、現実が深い沼に落とし込む。

 それこそが普通の姿なんやと、信じて疑わなかった。

 そこでグッと堪えるんが、ウチら牝馬(オンナ)にとっての強者の在り方なんやと思うとった。

 

 でも……そこで堪えて勝ちを褒めるんがユグの在り方なんやな。

 敗北を認めるまでは良い、そっからさらに勝者を認めるなんてこと、普通はできない。

 そんなことをしてしまえば、無様な馬だと揶揄われる、そないな環境やったのだから。

 レースに出た以上、負けに価値があるなんて思うてはいかんのやと、環境からそう教わったんやったか。

 

 でも、確信に近い答えなんやろうなと思う。

 

「(それができるユグだからこそ……アイに打ち勝ったんやな。きっと)」

 

 これが、スリーセブンさんが言うとった『負ける』っちゅうことなんかな?

 確かにこれはええ感じの負けやなあ。

 成長に活かせそうな、すっきりする負けやったわ。

 過去のウチでは考えられないこの感覚は……間違いなく、全て終わった後にユグと出会って思うようになった感情なんやろうな。

 

 やっぱり敵わんなあ、ユグには。

 思えば思うだけ、アイに勝てなかったジブンの理由も、アイが負けた理由もだんだん解っていく。

 世界樹の輪郭を、形作れるようになっていく。

 

 せやから……ウチはジャーニーさんに手を伸ばす。

 

「──ええ走りやったな。ジャーニーさん」

「……いえいえ。まだまだこれからですよ。私の旅路は」

「ほんでも今はこう言わしとくれやす。──優勝、おめでとさん。ええ走りやったで?

「でしたら、こう返しましょうか。──どういたしまして。良いレースでした

 

 

 

「……あれなら大丈夫そうですね」

「だな!」

「それにしても……ユグはララから1つ冠を奪っちゃった分、ここから地獄よ? 準備は良いかしら?」

「……承知の上だよ、それぐらいね。アイに勝たせるトレーニング、確実なものにしてみせるさ。アイは期待して待ってるといいよ」

「ふふっ、もちろんよ。ララがユグと一緒にいて、どんなふうに化けるのか……期待してるわよ、ララ!」

 

 ホープフルステークス、敗北。

 しかしながら実りは多く、未来に希望を多く託して幕を閉じた。

 

 

 




ここから先はこういうレース展開も少しずつ増えていきます。
成長には必要な要素だからね。

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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