前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
「さて、有馬記念か……」
「ここで私の今までのトレーニングの結果が現れるのよね……燃えてきたわ」
「一応言っておくけど、今のアイはあくまで有馬記念を走りきれるように適性は伸ばした状態なんだ」
「解ってるわ、ちゃんと走りきれるように調整してくれたこと、本当に感謝してる。──だから、その感謝に応えないといけないわね」
「アイ……」
「勝って来るわ、ユグの努力の集大成になって」
「ああ。行ってらっしゃい、アイ」
「………………いざ、尋常に」
| 1 | ケンガミネドラマー | 10 | ギャラガバンキング |
| 2 | セイウンスカイ | 11 | サムワンズラビュ |
| 3 | ムギルセファルス | 12 | ゴールドシップ |
| 4 | ヒシミラクル | 13 | ジェシストンレヴェ |
| 5 | シリウスシンボリ | 14 | ジャイアントアロハ |
| 6 | グラスワンダー | 15 | ダイダルキング |
| 7 | コモックスバレー | ||
| 8 | アーモンドアイ | ||
| 9 | スカイフラグメント |
『スタートしました! 各ウマ娘綺麗なスタートです、2番セイウンスカイ、早くも先頭に躍り出た!』
「(今回もまたアイちゃんが逃げを仕掛けるんだろうなあ……)」
『シリウスシンボリ、続いて前を狙う。ギャラガバンキング、それに続く。13番ジェシストンレヴェはその後ろ、先手を取ったのはセイウンスカイ』
「……」
『間が開いてグラスワンダー、外を通ってアーモンドアイ。今回は差しで挑むのでしょうか、この位置は逃げというには後ろ寄りです』
『逃げはスタミナを使いますからね。盤石の体勢で挑むつもりなのかもしれませんよ』
「(あら……──グラスさんね?)」
「…………」
「(は? アイちゃんが……上がってきてない?)」
「アイさんの逃げが……失敗、してる?」
「あれって──」
「まさか、あり得るのか……!?」
「あの走り、まさか!」
「ねえねえ、トレーナー! これってまさか!?」
「ここまで上手く成功しているのはだいぶレアよ……!? よくやったわねグラスワンダー!?」
「ユグ、これってどうなってるんだ?」
「アイの逃げが封じられた。あんな封じ方があったなんて……」
「スタート直後にデバフを仕掛ければ、どのウマ娘でも引っかけられる──いざ実践してもらうと納得できるんやけど……いやあまりにも無茶が過ぎるやろ!? 逃げを仕掛けるアイをピンポイントで止めにかかっとったで!!?」
スタートラインは皆一緒。それを利用した開幕直後のデバフ走法。
出鼻をくじけば出る杭は出てこれなくなる。
グラスワンダーはそれを編み出した。
他ならぬ強敵のため、アーモンドアイを倒すために。
「……」
「(──感じるわ。そこにいるのは……)」
グラスワンダーの放つ修羅のような気迫には覚えがある。
自らを倒さんと意気込む同朋、後輩、先輩方。
そして……倒されたリベンジマッチに気合を入れる、自分自身の姿に重なった。
グラスワンダーのその姿はラッキーライラックでもあると同時に、フィエールマンでもあり、マネーユグドラシルでもあると同時に、アーモンドアイでもあった。
その姿は──自分が成りたくてたまらなかった姿と瓜二つだった。
「……」
グラスワンダーの思想はもはや表面からは読み取れない。
明鏡止水とでも言うべきか、その表情は氷のように冷たく凍り付いていた。
あるいは般若の面とでも言えるだろうか。
鬼の顔だとは解るが、そこに込められた真意は読み取れないのだ。
周囲に広がるその気迫、威圧感は足音を通じてスタート直後から周囲のウマ娘にただならぬ緊張感を感じさせた。
特に、アーモンドアイに対してはより入念に。
「(──そう、気合十分ってわけね。受けて立つわ! あなたの全力、見せてみなさい!)」
「……」
「(ま、前に鬼がいますよぉ……)」
「(へえ……羅刹かと思いきや鬼武者に至るとはな)」
結果として、アーモンドアイのポジションは逃げというよりも先行の位置に落ち着いた。
グラスワンダーも同じぐらいの位置について、徹底的なマークを張り続ける。
その眼差しは鋭く前方を見つめながらも凝視されているかのような感覚をアイは感じ続ける。
その瞳はターフの彼方を睨み続ける。
その先に、打ち勝ちたい新世界があるかのように瞬きをせずに、グラスワンダーはそこを見つめていく。
「(はー……一周回って天晴だよグラスちゃん。わたしのデバフ走法をこうも見事に上回るレベルの技術を見せつけるだなんて……)」
セイウンスカイもグラスワンダーの気迫に負けじとデバフ走法を見せつけるが、グラスワンダーのそれにかき消されて効力は消えてしまっていた。
彼女のデバフ走法はかなりの出来栄えなのだが、それを凌ぐ完成度にセイウンスカイは喉を唸らせたい気持ちになった。
もはや自分は用無し、年老いた老兵なのだろうかと一瞬頭を過ぎり……そのようなことは無いと先頭の風を浴びて思考をリフレッシュさせる。
「(私の技が効かないなら、もうやることは1つだけ。──脚で勝負だ!)」
残されたものはそれだけ。
本当にそれしかないのか、何度も考えたがそれ以外にセイウンスカイに残された技は無かった。
累計4年半のレース経験、それによって鍛え上げられた歴戦の脚。
今が人気なウマ娘より衰えていると言われようが、それ以上の経験がこの脚には詰め込まれている。
全ての戦いで得た知識・経験・技術。
通用しない能力の一滴でも多くため込み、全てぶっかける勢いで走る。
これ以上は無い、これ以上は極められない、正真正銘の全身全霊。
セイウンスカイもまた、今までの集大成の走りを繰り出す。
それはお世辞にも強い走りとは言えないが、それでも負けたくないその想いは、ファンたちの心にどことない新鮮さを与えていた。
「(……いい、いいわ、これなのよ。これが、この熱気が、私を負けさせない気持ちにさせてくれる)」
前方のウマ娘も、後方のウマ娘も最後の力を解放せんとする最終直線が迫る。
アーモンドアイは懐かしむ。
かつての強敵、かつての苦戦、かつての敗北、かつての勝利。
その陰にある、この重圧。
他のレースでは感じられない、有馬記念唯一の気風。
1年間の総決算、有馬記念だからこその、最強決定戦としての気迫。
このレースに集いしウマ娘たちはこの距離が走れることもそうだが、それ以上にファンたちから望まれてここにやってきている。
このレースは、ファンたちの願いの叶う場所でもあるのだ。
「アイちゃーん!」
「アイー勝てー!」
「負けないで、アイちゃん!」
耳を澄ませば、感覚として伝わるファンたちの想い。
それがアーモンドアイの背中を懸命に押してくれる。
そしてその力は前世の過ちの比ではなく、それ以上の力で背中を押している。
ファンたちに押されているそれは、今日までに徹底的に鍛えなおした長距離の適性であり、彼との共同作業の成果でもある。
2人と歩んだ道のりを、ファンたちはこんなにも祝福してくれている。
それが嬉しくて、喜ばしくて。
前世ではどうにもできなかった長距離という世界で、こんなにも綺麗に走ることができる自分が素敵で。
その感覚に足はさらに詳細な世界を刻み始める。
「(前世のようなヘマはしない。もう、負けたくない! 私は勝つ! 応援してくれるみんなのために!)」
「アイっ、行けー!!」
「(そして──ここまで行かせてくれた、ユグのためにも負けられない!!)」
今のアーモンドアイにその過ちは無い。
このアーモンドアイに適性不足は無い。
アーモンドアイの新世界が、盤石さを増してターフ上に構築される。
蒼くきらめく新世界の上を駆けていき、最終直線へと入っていく。
「(…………いざ、尋常に……!)」
その新世界を切り刻まんとグラスワンダーの武練の領域が猛威を振るう。
その姿、もはや百戦錬磨の大武将神。
走りが生む風はもはや鎌鼬のように、千軍万馬の大軍団のように、斬れる風と化して周囲を、新世界を切り刻んでいく。
「(っぐぅッ……でも、それでもだぁッ!)」
「(セイウンスカイ、お前……)」
「(前に行けないっ! な、波がっ! 前にさえ、行ければ──)」
「(ヘヘヘ……こんなんでも、パイセンなんですよッ!!)」
青空の領域は巻き込まれ、ぼろぼろになりながらも後続たちに最後の先頭を譲らせまいと根性を見せる。
先人として、最後の務めは果たす。セイウンスカイは限界までその脚を加速させていく。
「(──ありゃ?)」
そして、その走りが一種のダンスのようだと錯覚できたその瞬間には、2人はずっとはるか先に行ってしまっていた。
2人ははるか先に、ゴール直前まで。
「(いやあ……遅いですよ、目覚めるのが)」
「やああああぁぁぁあーッ!!!」
「はああああぁぁぁあーッ!!!」
苦笑を内心浮かべながら、セイウンスカイはゴールを切る。
セイウンスカイは3着。
限界まで酷使した足がガタガタと震える。
汗はダラダラと垂れ流れて行き、心臓の鼓動も忙しない。
「はぁっ、ぜえっ、はぁっ……?」
「……」
「……」
「……あれ?」
そんな中で、セイウンスカイは歓声が上がらない会場を不思議に思い、着順の表示される掲示板を見る。
するとそこには自分の番号が3行目に刻まれているが……上2行が空欄のままだった。
「……判、定……?」
2人は最後まで、一歩も前を譲らせないデッドヒートを繰り広げていた。
後ろから見ても解るぐらいの激しい競り合いだったそれを、最後までどちらも優勢に転じさせることなく2人もつれてゴールインした。
それがあまりにも完璧すぎて──その結果は空欄のまま、歓声が消え、ざわめきへと変わっていく。
「もう、20分は経つで……?」
「なあなあ、これって長くないか?」
「ここまで長くなるなんて……とんでもない大接戦だぞ、文字通りどちらが勝ってもおかしくないレベルの──」
『判定結果を、お知らせします』
そして下される、運命の結果。
それは──。
『グラスワンダーが、ハナ差で1着、1着となります。続いて2着にアーモンドアイと決定いたしました』
「アイが、負けた……」
「いつかはこうなると思てたけど……いざ見ると心にクるもんがあるな。ユグは平気か?」
「……ああ。問題はないよ。織り込み済みのことだったから」
「アイ、大丈夫かな……ぼーっとしてるように見えるけど……」
「負けた時のアイはあんな感じだったよ。そして──」
「……あーっ、負けたーっ! こんなにもギリギリで!」
「アイさん……」
「でもここまでしっかりと時間取って判定してくれたんだもの、文句なんて言えないわよね! でも悔しいわ!! なんで最後の一歩を強く踏み込めなかったのよ私のバカ!!!」
「えっと、アイさん……?」
「グラスワンダー! ──おめでとう、私に勝ったこと、そして、有馬記念で勝ったこと」
「……はいっ!」
「ほら、あんな感じになるんだ。だから大丈夫だよ、ブー」
「そっか……!」
無敗トリプルティアラ、そしてそこから続く無敗最強の道は途絶える。
しかしそれは終わりではなく、むしろ新たな一歩の始まりなのだとアイは敗北を飲み込んだ。
アーモンドアイの顔には屈辱がしっかり読み取れるほど色濃く顔に出ていたが、それと勝者への祝福とは別の話。
グラスワンダーに手を差し伸べ、そして差し出された手はギュっと掴まれて、勝利を祝う大歓声が鳴り響く。
有馬記念での敗北は、アーモンドアイに様々なものを残した。
最後の一歩を踏み込めなかった末脚の改善、長距離では限界ギリギリのスタミナのさらなる強化。そして今回受けた逃げを封じる作戦のカウンター。
やるべきことは多く、そして難しくもある。
しかしアイは難なく成し遂げようとするだろう。
彼女のトレーナーが、善財樹であるかぎり。その目の輝きは失われることは無いだろう。
「今回は負けてしまったけれど次は負けないわ、グラスワンダー。──次はどこを走る予定なのかしら?」
「あ、えっと……」
「大阪杯かしら? それとも天皇賞春? 視野を広げてドバイか……それとも香港かしら?」
「その、ええっと……」
「どれでもいいわ、そのレースに私も必ず出るから。そして、次こそは勝ってみせるわ!」
「ご、ごめんなさい!」
「……はい?」
「わ、私……この有馬記念で……」
「──え、ちょっと待って、嘘でしょ。そこから先私聞きたくないわよ。なんかすっごく覚えのある展開なんだけど──」
「この有馬記念で、トゥインクル・シリーズのラストランでした……っ! これから先はドリームトロフィーリーグで走る予定だったんですっ!」
「嘘よおおおおおおーっ!!!」
「あれって……」
「アイ、崩れ落ちちゃったぞ……」
「…………この世界でもトラウマから逃れられないのか……アイ……」
ここから先の更新、多分かなり鈍行化します。
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
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18年皐月賞
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18年日本ダービー
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18年菊花賞
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19年天皇賞春
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19年宝塚記念
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20年京都記念
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20年ドバイシーマクラシック
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20年天皇賞秋
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20年ジャパンカップ
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21年ドバイシーマクラシック
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21年宝塚記念
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21年有馬記念
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その他