前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】   作:ゲッテルデメルング

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ラタトスクの仰視

 

「――それで、目下の目標は前世通りトリプルティアラでいいのか?」

「ええ。それでいいわ」

 

 ある程度トレーニングも進んできたところで、僕たちはとあるレースを見に来た。

 今はパドックにウマ娘たちが集い始めた段階で、来年からシニアクラスに挑むことになるウマ娘たちの覚悟の表情がひしひしと見て取れる。

 

「今のところ、誰がライバルになりそうかしら」

「そうだなあ……」

 

 アイからの言葉に僕は手元のタブレットを操作して、数人のウマ娘を画面に映し出した。

 

「最初に気になったのはこの子、ニシノフラワーかな。マイルで強い子だね」

「マイル……グランちゃんみたいな子、かしら」

「彼女の走りを見たことが無いから解らないけど、来期にメイクデビューするウマ娘の中でマイルに対して強い能力を持っているという話だね」

 

 ニシノフラワー。

 見た目は学園中の誰よりも幼い小学生そのもので、なんでも飛び級をしてこのトレセン学園にやって来たのだとか。

 見た目は純粋無垢、あどけなさを感じる童女だというのに、他のウマ娘と大差ない走りを見せるのだから、ウマ娘は見た目に寄らないらしい。

 

「あの子なら食堂で見たことがあるわ。グランちゃんや成績の危ういウマ娘たちが勉強を教わっていたわね」

「……子供に?」

「天才みたいよ? 私には劣るけど」

「なるほど……なにかしら仕組んでくる可能性はあるかな」

 

 ……前世のレースと違うこととして、戦略を自分たちでより深く考える必要があるというところがある。

 

 前世では背中に騎手がいて、彼らが適時作戦を考え、僕たちがそれに合わせて走るという戦い方をしていたが、この世界では騎手はいない。騎手は自分たちなのだ。

 そのため、レースに対する直感、判断力、洞察力などなどはウマ娘が個別に習得する必要がある。

 つまるところ、ウマ娘個人の賢さに依存するのだ。

 

「アイは賢いんだよな?」

「ええ。テストは毎回100点よ。代り映えがしないぐらいにわね」

「なら、何とかなるか……?」

「でも用心は必須ね。……マイルには辛い思い出があるし」

「そ、そうか」

「ニシノフラワーね、わかったわ。それで次は?」

 

 グランアレグリアにしてやられたのを思い出しているのか、復讐の業火が燃え上がろうとしている。

 その瞳の輝きも蒼く輝きと深みを増し始めている。

 

「前世の気迫は抑えてくれ」

「ふふっ、ごめんなさい。こう、許しがたいことを感じるとつい」

「勘弁してくれ……話を続けるぞ。次はこのウマ娘だ」

「あら、副会長じゃない」

 

 タブレットで別のウマ娘の情報を表示する。

 

 鋭い目つきに凛とした厳かなウマ娘。

 エアグルーヴ。

 

「前々から評判は高かったと聞いているけど……どういうウマ娘なんだ?」

「そうね、他者に厳しく、自分にも厳しくな感じのウマ娘ね。母親が高名なウマ娘で、自分も同じような偉業を成し遂げたいって言っていたわね」

「母親……?」

「この母親って多分前世と同じよ。この世界ってどうなっているのかしらね」

「なるほど……」

 

 そういわれて納得した。

 確かに前世で競い合った馬たちの中には父や母の偉業を継ぐためにと意気込む者たちが割といた。

 このエアグルーヴもまた、その馬たちと同じような理想を背負っているのだろう。

 

「まず間違いなく、エアグルーヴはトリプルティアラを狙ってくる。要警戒対象だな」

「でも、前世で私が聞いたことがない以上ずっと昔の古参かそうなれなかった未練の馬か、でしょ? 私とユグとで勝てない相手ではないはずね」

「高評価ありがと。次で一応最後だね」

 

 次のウマ娘は僕もここでトレーナーとして働き始めて少しばかり関わりを持ったウマ娘だ。

 

「フジキセキ寮長じゃない。この人も出るのね」

「ああ。フジキセキは三冠路線に挑むそうだが……その走りはシニアクラスになって大きな敵になる可能性が高い。今は気にしなくていいけどー―ってところだね」

「なるほど、将来の敵ってことね。面白いじゃない!」

 

 フジキセキ。

 凛々しい顔立ちでウマ娘たちから高い好感を持たれているイケメンなウマ娘。

 まるで映画か劇場の俳優のような素振り振る舞いを日々見せており、平時・走りと共にウマ娘たちを魅了させている。

 

「三冠に挑むということは長距離に挑めるように鍛えてくるということ。下手をするとぶつかるかもしれないな」

「あら、その言い方だと私が長距離に挑もうとしているかのような物言いじゃない」

「いやだって、今アイはスタミナも鍛えているじゃん。スピードの強化の副次効果としてこっそりと」

「ふふっ、気づかれていたのね」

 

 最初はてっきり中距離の中でもやや長めな距離のために――かと思っていたけど、それにしてはスタミナも強化できるトレーニングを重点的に行っているそのスケジュールに目がいった。

 一体なぜそこまでスタミナの確保を考えているのか、前世の知識をもとに考察してみると……1つ思い浮かぶことがあった。

 

「クラシックの最後に有馬記念でも出るつもりかなって」

「有馬記念……懐かしい言葉ね。私が手に入れることのできなかった栄光。あなたがつかみ取った栄光」

「僕が勝った時はエフフォーリアが競ってきておっかなかったけどね」

「でも勝てて良かったじゃない。まあ、私は今生で勝ち取るけど」

「やっぱり有馬記念に出るつもりじゃないか」

「それだけじゃないのよ?」

 

 そう言っている間に、レース場に長い静寂が訪れる。

 ウマ娘たちがゲート内に入り、ゲートが開かれるその時を待っていた。

 

 京都レース場11R……菊花賞。

 三冠の最終局面のレースが始まろうとしていた。

 

 じっと、じっと。

 彼女たちがゲートが開くのを待っているように、観客よりも、僕は、アイも静かになる。

 

「……」

「……」

 

 無言。

 石の転がる音すらも響きそうなほどに静かになったレース場。

 

 その静寂は永く続くかのように思われたが――ガコンと大きな音が響き、ゲートが開かれる。

 ウマ娘たちが飛び出すと同時に、静寂は終わりをつげ、観客たちは歓声と応援を挙げ始めた。

 

「――いつもの癖ね。ゲートインを感じ取ると、つい集中しちゃうわ。ユグもそうだったのね」

「いやあ……競走馬の記憶はほんの5年程度だというのに、つい」

「話を戻すわ。シニアには、私もあなたも出ていないGⅠがいくつかあるわよね?」

「まあ確かに、予定してたり、距離的に難しかったりがあったりして出走できなかったレースは割かしあるけど」

「そのGⅠレースは基本的に春と秋の二つに区分され、URAはその二つにそれぞれを制したものにシニア三冠を授けることにしている……ということは?」

「春シニア三冠と、秋シニア三冠……それを狙うつもり?」

「正解よ」

 

 なるほど。

 大阪杯、天皇賞・春、宝塚記念の春シニア三冠。

 天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念の秋シニア三冠。

 これにトリプルティアラを足せば、あっという間に九冠だ。これほど数えやすい九冠もないだろう。

 

 それと同時に、今までのスタミナトレーニングの理由に気が付いた。

 

「天皇賞・春のためのトレーニングか……」

「ええ、今の内からやっておくべきだろうと思ってね」

 

 そういうことか。

 天皇賞・春は日本のGⅠの中で最も距離が長い3,200mを走る。

 今応援の声が飛び交っている菊花賞は3,000mで、これよりも長いのだから求められるスタミナは甚大だ。

 それを攻略するためにはかなりのスタミナトレーニングが重要になる。

 

「それにしても気が早いよ。もう少し先送りにしても問題ない」

「何事も前もって準備しておくべきなのよ。彼女みたいにね」

「彼女……?」

 

 そう言ってアイが指をさす方向……菊花賞を走るバ群の最先端。

 そこを落ち着いたペースで走るウマ娘。

 

「ミホノブルボン。彼女はマイルに強い足だったけれども、ジュニアの時から距離延長のトレーニングを行って……今、その成果を出しているわ」

「マイラーが長距離に出ているのか……!?」

「とあるトレーナー曰く『すべてのウマ娘は根本的にマイラーで、中距離を走るだけのスタミナがある』らしいわよ。中距離を走れるなら……長距離も行けると思わない?」

「……なるほど?」

 

 その発言をしたトレーナーが誰なのか非常に気になるところではあるけど、アイの言いたいことはわかった。

 バ群の先頭を突き進むミホノブルボンのように、距離延長を行い天皇賞・春を制したいのだろう。

 それに、春と秋のシニアを制したウマ娘は春秋シニア制覇と言う、きわめて大きな栄光を得られる。

 それも含めてアイはそこに挑もうとしているのだろう。

 

 だとすると、僕はそれを止める筋合いはない。

 アイの性格はここ数週間である程度把握できたと思っているし、前世から見てきたアイの負けず嫌いな気性は反対意見に頷くつもりは一切ないだろうから。

 

「――なら、僕が長距離を走ったトレーニングを教えるから……今はトリプルティアラを目指したトレーニングを行わないか?」

「あなた天皇賞を勝っていたかしら?」

 

 そこを突かれると何も言い返せないんだけど……

 

「一応天皇賞・春は2着だったんだ。1馬身差だったけど、勝ちの目は――あったはずだし」

「――でも、そう言うのはちょうど欲しいと思っていたところだったわ。有馬記念を勝ったトレーニング法と一緒に教えてちょうだい」

「少なくとも今はトリプルティアラに重点を置くからな。菊花賞に向けてのトレーニングとかも基本ダービー後だったし、そこから始めても問題ないはずだ」

「間に合うかしら?」

「僕もそこまでは中距離専門だったんだ。そこから距離を伸ばし始めても問題はないはず――だよな?」

「そこで私に振られても困るわよ」

「さすがに牡馬牝馬の身体能力の差がここに反映されたら僕でも厳しいかなって今更気が付いて……」

「それぐらい信じてほしいわ。私は最強になる新時代のウマ娘よ?」

「……まあ、アイを信じてみるか。桜花賞後から距離延長に手を付け始める。これでいいか?」

「ええ、大船に乗ったつもりで見ていなさい!」

 

 そう言っている間に、周囲から歓声が上がる。

 レースが無事に終わったみたいで、ゴール板を最初に踏み切ったのはミホノブルボンだった。

 減速している彼女の表情は硬くも、満足感が強く表れている。

 

 ……

 

「……?」

「どうしたのユグ?」

 

 ふと、気が付いた。

 何かがおかしいと気が付いた。

 何かが足りないと思った。

 

 その原因がやっと、わかった。

 

「――客が、少ない?」

 

 このレース場で、菊花賞という大レースを見に来る観客が……少ない。

 座席はちらほらと空席が見え、喝采も前世でフィエールマンが浴びたものよりも気持ち少ないように感じる。

 

「そういえばそうね。別に前世でもこれぐらいだったんじゃないかって気もするけど」

「にしても三冠の最終レースだぞ。立ち見する客も少ない気がするし……」

 

 でも確かに、あのころは何やらウイルスとかが流行ったらしく、その影響で観客が少なかったのもあったはずだけど、ここではそんなことはないだろう。

 にしてもこの違和感はいったい……そう思いながらレースの余韻を感じていると、横から緑色の服を着た女性が近づいてきた。

 

「――仰る通りなんです。善財トレーナーさん」

「あ、たづなさん」

「(私に気付かれず音もなくすぐそばに……!?)」

「それで、おっしゃる通りと言うのは……」

 

「はい。今現在、トゥインクル・シリーズは観客減少の一途を辿っていて……このままではそう遠くない将来、トゥインクル・シリーズが終わってしまうかもしれない状態なんです」

番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です

  • 18年皐月賞
  • 18年日本ダービー
  • 18年菊花賞
  • 19年天皇賞春
  • 19年宝塚記念
  • 20年京都記念
  • 20年ドバイシーマクラシック
  • 20年天皇賞秋
  • 20年ジャパンカップ
  • 21年ドバイシーマクラシック
  • 21年宝塚記念
  • 21年有馬記念
  • その他
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