前世競走馬だけどウマ娘になってない【未完・現在作り直し中】 作:ゲッテルデメルング
1つのことに熱中していれば、あっという間に時間が過ぎていく。
クラシック戦線を突っ走ったミホノブルボンがシニア級に挑み始めたのももう半年前になろうとしている。
あっという間に、アーモンドアイがメイクデビューを出走する日になったのだ。
その間にもいろいろなことがあった。
ハイセイコーの人気の秘訣を探るためにアイに連れられて職場体験をしたり、セントライトから勝負のコツを教わったりと、忙しい日々が続いた。
「そして、ここからが本番……か」
「ええ、ここで躓いてなんかいられないわ」
「まあ、アイなら勝てるだろ」
なんてったって前世の記憶があるのだ。
身体のパフォーマンスも現状クラシック級でも通用するレベルになっているため、これで勝てない理由はないだろう。
「…………」
「アイ?」
「あ、どうしたのよ。ユグ」
「いや……まさか、緊張してるのか?」
そう僕は思っているのだが、アイはどうにも余裕そうではない。
ここに訪れた時からずっと、目を閉じて集中と瞑想を繰り返していた。
アイらしくないその雰囲気が意外だが……何があったのだろうか。
「ユグ、私ね。前世のメイクデビューを一回負けてるのよ」
「……は? いやいや嘘だあ」
「疑いたくなる気持ちはわかるけど本当よ」
「誰に負けたんだ? ララか?」
「ララじゃないのよねこれが。その馬とはGⅠでは会ったことはなかったわ。──もう、あんなミスはしないためにって、ちょっと集中しちゃっていたみたいね」
「──後学のために聞くけど、どうして負けたんだ?」
「……斤量よ。私よりも3キロ軽かったらしいわ」
「ああ……」
「思い出したらムカついてきたわ! ユグ、これから先は重りを背負ってトレーニングするから準備お願い!」
「メイクデビューを勝てたら考えるよ」
それもそうねとアイはちょっとだけ落ち着きながら、パドックへと向かっていった。
まったく。
やっぱりアイは変わらず平常運転の方が良い。
何事にも変わらず真摯に取り組みすぎる、生真面目で負けず嫌いのアルティメット。
そんな彼女と共に駆けるこの日々は、今までの日々よりも何倍も輝いていた。
「やっぱり……いや」
そこから先を言うのは止そう。
その先の言葉は僕以上にアイが叫びたい言葉のはずだから。
この言葉はアイが僕以上に言いたくて仕方がない言葉のはずだから。
だから、言わない。
この気持ちはここでおしまい。
それでいいんだ。
結果から言えば、余裕の快勝だった。
「まあ、予想の通りだったな」
問答無用の大差勝ち。
他者を追随させない圧倒的な走り。
「あれじゃあ蹂躙だな」
観客席から見えたアイの顔はどうやら物足りなさそうだった。
アイが好むのは血沸き肉躍る激戦のようなレースを制することであって、弱い者いじめではないのだから。
タブレットで今後のスケジュールを確認していると。
「できる限り早急に重賞に出れるように調整するか……」
「あー、いたぞ! 樹トレーナーさん!」
「おお、ホンマに。ブーちゃんの嗅覚はあなどれんなあ」
ブラストワンピースとラッキーライラック。アイのメイクデビューを応援しに来てくれたのだろう。
「アイのことを見に来てくれたのかな。ありがとう」
「すごかったなアイの走り! 他のウマ娘をビューンって追い抜いて!」
「ええ、ええ。ほんまに末恐ろしい走りやねえ。樹トレーナーはん、アイのGⅠはどこを予定しとりますか?」
「桜花賞だよ。トリプルティアラを目指してる」
「やっぱりか。──アイ……」
……ララは鋭い眼差しで、アイを見つめていた。
ララの脚はまだ本格化が訪れておらず、出来上がっていないと聞いている。
そのため、デビューするのがアイよりも後の時代に流れている。
それについて、ララは受け入れているようだとアイから聞いていたが、今アイを見つめるその眼差しからはそんな雰囲気は見えなかった。
悲しみ、苦しみ、疎外感。
ララが握る手すりに強い力が加わる。
「……ああ、すんません。少し物思いにふけってしもたわ」
覚悟、逆転、勝利への欲望。
そんな入り組んだものではなく……純粋な『負けず嫌い』なのだろう。
アイはトリプルティアラを手に入れる。
そんなアイと競い合う場に、立つことさえできていない。
そんな自分が憎らしい。
……僕は、実際にレースを走るララを前世で見たことがない。
出会ったのはレースが終わってからだった。
「うらやましいなあ。アイが恨み節をなんべんも呟いたジブンのことが」
「ウチはおっきなレースに勝てたのにな、アイには一回も勝ててへんのや」
「ずっとずっと、頭の中から離れへん。アイが勝ったあのレースの光景が」
「……きっとこれは、ウチが死んでも忘れへんやろなあ……」
そんな時代の彼女に感じたのは、アイへの執着。
トリプルティアラを手に入れたアイの陰に追いやられてしまった自分への怒り。
それらは前世で彼女が言ったとおり忘れることはなかったのだろう。
その瞳には、アイの持つそれとはまた違った、メラメラと燃える覚悟の炎が宿っているようだった。
「……アイは、挑戦を待っているよ」
「さよか。……なら、そん時を心待ちにしとくように伝えてやトレーナーはん」
「うん」
「なあなあなあ、これからウイニングライブだろ! 一緒に見に行かないか? なあ!」
「──そうやね、ブーちゃん。ほな、ウチらは先に失礼しますわ」
「あれ? 樹トレーナーは一緒に来ないのか?」
「トレーナーはんは先にアイと話すだろうし、ステージ裏から見るだろうからなあ。ここはウチらだけで見るようにしましょか?」
「そっか!」
ララの気遣いを受け入れて、僕は彼女たちとは別方向の待合室へと向かうため、荷物をいったん整理していく。
「それじゃあまたな! 樹トレーナー!」
「……ああ!」
大きな両腕をブンブン振るブーが人々の陰に隠れるまで見守った後、僕も観客席を離れるように動き出した。
相変わらずの言葉にあっけにとられてしまっていた。
「――響けファンファーレ、届けゴールまで、輝く未来を君と見たいから――」
「本当に踊るんだなー」
「あれ? 樹トレーナー?」
「アイちゃんのところにいったんとちゃうのん?」
「どうやら僕もウイニングライブをちゃんと見ろとのことらしくって」
控室で待ってると言っているのに、絶対に最前列で見ろと言って聞かないのだ。
そんなに踊っている姿を見せたいのだろうか。
今生からできた趣味?
「そっか! じゃあいっしょに見ような!」
「あらあら。アイちゃんはホンマにトレーナーはんのことがお気にらしいなあ」
――歌声がステージ中に響き渡る。
他のウマ娘が霞んでしまうぐらい、キレのある踊り。華やかな歌声。軽やかな演技。
それらがステージのライトに包まれて、普段とは違う輝きを見せていた。
「――I believe. 夢の先まで!」
ライブが終わり、歓声に包まれる。
さすがにデビューしたてのウマ娘のファンはそうそうできない。観客は自分たちを含めてもそう多くは無い。
それでも、ここにいる彼ら全員を魅了させ切ったのだった。
ブーも、ララも拍手を送る。
なるほど。これが彼女が見せたかったダンスか。
そう思っていると、アイが僕のいる方に目を向けてきた。いつの間に居場所を把握していたのだろうか。
「――ふふっ」
やってやったと言わんばかりのドヤ顔を浮かべながら、アイは舞台裏へと向かっていった。
「――それで、どうだったかしら? 私のダンスは?」
「まあ、よかったんじゃないか?」
「雑ね……本当にそう思っているのかしら」
ダンスについてなんて知らないんだから仕方がないじゃないか……
「と言うか。あれ一回で満足できるようなアイじゃないだろ?」
「――ええ。あんなのは前座。私があなたに見せたいウイニングライブはもっとあるのよ」
「レパートリーあるのか……全部覚えているのか?」
「当然でしょ?」
1つのダンスを覚えるのでもかなり時間を使うだろうに。
トレーニングと並行してそこまでできるとは。
相変わらずアイの努力家っぷりはとんでもない。
「おかげさまでアイのファンになるのも2度目だな」
「ふふっ、何度でもファンにさせてあげるわ」
「ファンクラブの会員番号も1番から値が上がる上がる」
「それは止めて。ユグは0001番のカードを何枚も持っているのがお似合いなのよ」
「それって不正じゃ?」
そんなくだらないことを話しながら、僕たちは次のレースに対してのスケジュールを組んでいく。
……のだが。
「ユグ、良いことを思いついたのだけど」
「いやなよかん」
「阪神ジュベナイルフィリーズってあるじゃない。あれで勝てばひょっとしなくても私、10冠になれると思うのよね?」
「……そっかー」
「前哨戦を含めたスケジュール設定、よろしくね?」
「はいよー」
――前人未到の高みを目指すアーモンドアイ、阪神ジュベナイルフィリーズに出走予定。
何かに使うかもしれないアンケートを設置しています。
何に使うのかは……ふふふ
番外編 追加するなら どれにする? ※あくまで参考程度です
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18年皐月賞
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18年日本ダービー
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18年菊花賞
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19年天皇賞春
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19年宝塚記念
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20年京都記念
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20年ドバイシーマクラシック
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20年天皇賞秋
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20年ジャパンカップ
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21年ドバイシーマクラシック
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21年宝塚記念
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21年有馬記念
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その他