デアリングタクトは一狩りしたい   作:じゅぺっと

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デアリングタクト、南の島の大王に出会う

 

 

 

 狩人ウマ娘、デアリングタクトとその先輩であり保護者のデアリングハートは船上で嵐に巻き込まれていた。

 

「大雨で前も後ろも見えませんね……」

「これは……Hard luckとDanceしちゃったみたいね……!」

 

 本来の行き先は、かつてタマモクロスやゴールドシチー、サクラチヨノオーらが開拓した無人島のトレーニング施設。

 時の流れにより知る人ぞ知る場所となっていたが、とある理由により再開拓メンバーが募集されることになった。

 自然の開拓やサバイバルならタクトの最も得意とするところであり、先輩達の役に立つためにも自分の今後のトレーニングのためにも是非参加したいと船で向かったのだが途中で大嵐に巻き込まれてしまったのだ。

 

「現在地もよくわかりませんし、どうしましょうか……」

「No worries! タクト、あなたのことは私が何に代えても守って上げるから……!」

 

 タクトの狩人スキルも船上では発揮できない。さすがに不安になるタクトをハートはしっかりと抱き締めて安心させようとしたが、現実は非情にも嵐はひどくなる一方で……大波が、タクト達の船を襲った。

 

「きゃあああ!」

「タクト!」

 

 ハートが咄嗟にタクトを抱き寄せるが、二人の体は船上から放り出されてしまう。

 海に着地した衝撃と共に、タクトの意識は一旦途切れた。

 

 

「ここは……?」

 

 タクトが目を覚ますと、どこかの海岸だった。どうやら幸運にも島に流れ着いたらしいのだが、少なくとも目的地の無人島とは違った。

 時間は経っていてもトレセンの再新技術が投資された無人島とは違い、明らかに前時代的と言うか、今時映画の中でしか見ないような家屋がいくつか見えた。

 

「そうだ、ハートさんは……!」

 

 自分を抱き締めてくれたハートは、隣でぐったりと倒れている。もしかしたら、海に放り出されたあとここまで自分を連れて泳いできてくれたのかもしれないとタクトは思った。

 

「幸い島にはたどり着けた、私が何とかしないと……!」

 

 ここがトレセンの無人島ではなく、船も見あたらない以上帰るアテもないが、落ち込んでいてはハートに申し訳ない。自分を奮い立たせて立ち上がるタクト。

 そこで、タクトは自分達を遠巻きに見つめる褐色のウマ娘達がいることに気がついた。

 やはりトレセンのものとは違う、簡素な布を繋げて穴を空けた昔ながらの島暮らしに見える。

「こんにちは! この島の方ですか? 私たち、遭難してしまって……」

 

 褐色のウマ娘たちは、ひそひそ話をした後こちらに歩み寄ってきてくれた。遭難したタクト達が珍しいのか、緊張が伝わってくる。

 

「ようこそ、南の島へ。私の名前は、カメハメハ。あなた達、名前は?」

「私はトレセン学園のデアリングタクトと申します。こちらで倒れてるハートさんをせめて何処かで休ませてあげたくて……近くに寝かせてあげられる場所はありませんか?」

 

 食料は自力で確保するとしてそれまでハートを休ませてあげたい。そう思って提案したが、カメハメハと名乗った褐色のウマ娘はものすごく驚いた顔をした。突然ダッシュで遠巻きに見守るウマ娘達のところに戻り、早口でなにかを話している。

 本来盗み聞きはよくないが、状況が状況なのでタクトは聞き耳を立てた。

 

「デアリングって言った……」

「大王さまの予言は本当だった……」

「トレセンガクエンの出身ってホントだったんだ……」

 

 どうやら彼女達には大王さまと呼ばれるリーダーがいるらしい。

 褐色のウマ娘達が揃ってやってきて、タクトに膝をついた。

 

「えっ、どうされたのですか……?」

「デアリングタクト、デアリングハート。あなた達を、偉大な大王さまの宮殿に連れていく」

「宮殿!? いえ、そこまでしていただかなくとも……」

 

 いきなり宮殿に招かれて驚くタクトだが褐色のウマ娘達にとっては決定事項らしい。

 

「大王さまは、あなたに会えるのをお待ちしていた。会ってくれないと、あなた達をトレセンガクエンに帰せない」

「わかりました……そこまで仰るなら、ご厚意に甘えます」

 

 帰せない、とまで言うあたりただの親切心でもなさそうだし、ハートの状態を考えれば揉めている場合ではない。

 

「あの、皆さんの名前を聞いても構いませんか? せっかくお世話になる身ですし、後でお礼もしたいですから」

 

 せめて、ここにいる褐色のウマ娘達の名前を尋ねるタクト。しかしそこで驚くべき返事が返ってきた。

 

「私たちの名前、みんなカメハメハ。偉大な南の島の大王、キングカメハメハから名前を貰った」

「そんな……ここ、日本海ですよね……?」

 

 いくら海上で遭難したとはいえ、海外に出ることなどあり得ない。大王が統治するみんな同じ名前の島民など、あまりに現実離れしている。

 

「急ごう、大王さま夕日の前に寝てしまう」

 

 島民に促されるままハートを背負って宮殿に連れていかれる。これまたハートの好きな映画でしか見ないようなあからさまな白い石で作られた宮殿の中に入り、あれよあれという間に大王さまとやらの居場所に案内されてしまった。

 

「朕がこの南の島の大王、その名も偉大なキングカメハメハである。そなたがデアリングタクトで間違いないか?」

 

 キングカメハメハというウマ娘は、大王というだけあって紫と金の豪奢な装飾を纏っていた。紛れもなくハートと同じくらいの年のウマ娘であるが、玉座に腰掛けこちらを見る眼差しはまるで遥か遠くを見通すような貫禄があった。

 タクトはできるだけ丁寧にお辞儀をしつつも正直に口にした。

 

「はい。デアリングタクトと申します。突然流れ着いた私たちを歓迎してくださり誠に感謝いたします。あの、ハートさんを休ませてあげたいのですが……」

「デアリングハート、懐かしい顔だ。シーザリオも息災だな? そなたの顔には面影がある。女王ならばもう間もなく目覚めよう」

「ご存知なのですか……?」

 

 その時、背中のハートの体がピクリと動いた。キングカメハメハの言う通り目を覚まし、ゆっくり回りを見渡す。

 

「ハートさん……! 目が覚めたのですね……!」

「タクト……? よかった、あなたが無事で……」

 

 お互いの無事に安堵するタクトとハート。

 

「久しいな、デアリングハート。良き子をもったようで何よりだ」

「この声……まさか、カメハメハ!?」

「やっぱり、ハートさんのお知り合いですか?」

 

 この島については分からないことだらけだが、ハートの知り合いなのは間違いなさそうで安堵するタクト。

 ハートは苦々しげにカメハメハに言う。

 

「あなたは、Ambitionを叶えるためにトレセンを去ったはず……こんなところで会うなんてね」

「朕の夢、全てのウマ娘の因果に我が名を刻むことはトレセンでは叶わぬと知った。サンデー、ゴールドのような競合……いや、そもそも因果を渡せる相手には限度がある。ゆえに今はこの島の大王として全てのウマ娘に我が名を与えることにした」

「そんな無茶な……!?」

 

 あまりに荒唐無稽だ。だが目の前のキングカメハメハは紛れもなくこの島の大王として君臨している。

 

「さてデアリングタクト。そなたを招いたのは他でもない朕の因果を渡すためだ。ハート、今一度朕の手を取れ。それが終わればそなたらをトレセンに帰すと約束しよう」

「OK……分かったわよ。久しぶりに付き合ってあげる。タクトのためだもの」

「因果を渡す……?」

 

 ハートはゆっくりとタクトの背から降り、少しふらつきながらもカメハメハの玉座に近づく。二人の手がそっと重なると、そこから光が溢れ始めた。

 

「光の鳥……綺麗……!」

 

 その光は一定の形を取り、タクトの頭上へ舞い降りる。光の鳥が羽ばたく度にその光がタクトに力を与えてくれるような感覚がした。

 

「すごい……どんな武者修行の後よりも、力が溢れてくる……!」

「デアリングタクト、そなたの世代にはウマ娘の歴史の中でも特異な困難が待ち受ける。故に人から隔離された空間でも十全なトレーニングを可能な準備を整えるべくあの無人島が再開拓されることになったのだろう。朕でなくともネオユニヴァースやタニノギムレットなら予見できようさ」

 

 キングカメハメハとデアリングハートから産まれた鳥から与えられた力に興奮していると、そう言われた。何のことかタクトにはさっぱり分からないが、嘘はついていないことは態度から伝わってきた。

 

「それで、本当にトレセンに帰してくれるんでしょうね? 私たちにまでカメハメハと名乗れとか言わないわよね?」

「疑り深い女王よな。心配せずとも━━もう、タクトは目を覚ますだろう。目を開ければ、ちゃんと現に帰るさ」

 

 キングカメハメハがそう言うや否や、タクトの意識が急激に微睡み始まる。

 

(眠い……ずっとハートさんを背負っていたから? いや違う、これは今から眠るんじゃなくて)

 

 南の島の大王の姿も、映画のような宮殿も、カメハメハと名乗った褐色のウマ娘たちも霞のように消えていく。ただ隣のハートの存在と、自分に力を与えた光の鳥だけが確かな存在だった。

 

(ここが、夢、だったんだ……)

 

 タクトの意識が、ゆっくりと浮かんでいく。目蓋をゆっくりと開けると、目の前に瞳に涙を浮かべたデアリングハートがいた。

 

「タクト!? 目が覚めたのね、よかった……! あなたにもしものことがあったら私……私は……!」

 

 ハートが目一杯タクトを抱き締める。

 タクトがさっきまでのことを思い出そうとしたが、夏の夜の夢のようにどんどん頭の中からこぼれ落ちていく。

 

「ここは……まだ南の島ですか?」

「南の島? いいえ、運良くトレセンの無人島に流れ着いたみたい。それより体に怪我はない?」

 

 ハートはタクトの体をぺたぺたと触って確認している。デビュー前の大事な体が海上に放り出されたのだ、無理もないだろう。

 タクトが自分の体調に意識を向けると……今まで感じたことのない力が漲っているのがわかった。

 

「……ハートさん、私は大丈夫です。あなたと……大王さんのおかげです」

 

 タクトはすっと立ち上がって、軽くジャンプしてみる。驚くほど体が軽いのに足に信じられないほど力が入る。

 動き出したらもう止まらない。ウマ娘の本能のままに、タクトは走り出した。

 

「私……今から走って、ちょっと一狩してきます! 美味しいご飯取ってきますね!」

「Wait! ちょっと待ちなさい、よく確かめてから……速っ!?」

 

 今までのタクトとは比べ物にならないほどの加速力だった。ハートも走って追いかけようとしたが、消耗もあるし万全の状態でも今のタクトには追い付けないだろう。

 ウマ娘としての全盛期の始まりを告げる本格化。それがタクトにも起こったことをハートは理解した。

 

「とんだHard luckだったけどタクトにとってはGood Luckの始まりみたいね……確か日本ではサイオウがウマ娘、というのだったかしら?」

 

 タクトは一時間も経たずに山ほど食料を抱えて帰ってきた。ハートに本格化したウマ娘としての注意事項を聞きつつ、沸き上がる力に胸を弾ませて宣言する。

 

「今本格化が始まったなら来年にはデビューができる……この夏で目一杯力をつけるといいわ」

「私、今ならどんな相手だって狩れそうな気がします……この無人島を再開拓しながら、挑める相手にはどんどん挑みます!」

 

 こうしてタクトの本格化と無人島での武者修行が幕を開けたのだった。

 




無人島シナリオ、面白かったです。シナリオリンクの面子的にタクトの世代より大分前、オグリ世代くらいの出来事な気がしたので再開拓ということにしつつタクトの祖父、南の島の大王に出会って貰うことにしました。

大王と世代の近いネオユニヴァースやタニノギムレットはこちらの運命みたいなものが見えてるので感染症による無観客状態なんかも予見できるんじゃないかなと思う次第です。
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