デアリングタクトは一狩りしたい   作:じゅぺっと

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デアリングタクトはダチョウとも仲良し

「タクト~! Where are you? 」

「ハートさ~ん! こっちです!」

「WAO! もうそんなところに!?」

「タッカーさん! 頼まれた資材の運搬と雑草の撤去、完了いたしましたよ!」

 

 狩人ウマ娘、デアリングタクトは偶然にもトレセン島にて本格化を迎えた。

 目的はかつてタマモクロスらが開拓したここを最新のトレーニング施設として建て直すためだったのだが。

 タクト生来の自然好きと知識、本格化による急激な身体能力の向上で毎日獅子奮迅の活躍を見せており、先輩であり保護者として着いてきたデアリングハートがもはや追い付けないほどの成長を見せている。

 トレセン島の管理者であるタッカーブラインもこれには予想外のようで少し驚いた顔をしたあと取り繕うように大笑いをした。

 

「ダッハッハ! えらいハリキリガールがやってきたじゃないかァ! ご苦労、君たちのお陰でとても助かっている!」

「次は何をしますか? まだまだいくらでもいけますよ!」

「ふむ……いや、今日は復旧はここまでにしよう! 君とハートのお陰で予定以上に復旧は進んでいるしな!」

「わかりました! じゃあトレーニングしてきます! ダチョウの餌やりもしてきますね!」

 

 タクトは一仕事終えたばかりだというのに勢いよく走っていった。元気があり余って仕方ないのだろう。

 走り去ってしばらくしてハートがようやく戻ってくる。まだ疲れた様子でタッカーに話しかけた。

 タクトとハートがトレセン島にやって来て約二週間。毎日タクトのペースに合わせていたハートはさすがに疲労の色が濃い。

 

「Oh, well.クイーンである私も衰えたものね……おばあちゃんになった気分だわ……」

「君だって私に比べればまだまだ若いだろう? とはいえ、本格化を迎えたばかりの子は動きの勢いが違う。本格化による心身の影響は現代の物理学や人体構造学でも説明がつかないとされており……」

「それよりタッカーさん、タクトはどこに?」

「おっとそうだ。海岸に向かったが、君は少し休んでいるといい。今の彼女のペースに合わせ続けていたら体がもたないだろう」

「そうね。歯がゆいけれど……今のあの子に私ではついていけない。復旧も、トレーニングも……もっと、ふさわしい相手でなければ」

 

 学園にいたときは、本格化するまでは、トレーニングも作業も十分教えてあげることができていた。

 しかし今では、勢いよく走り出すタクトを止めることもできない。

 タッカーはハートにお茶を出しつつ、励ますように言った。

 

「なぁに、心配いらないさ! 今日はまた新しいウマ娘がやってくる。それもかつて開拓リーダーを勤めてくれたあのウマ娘がな!」

「あの子が本格化して、嬉しいはずなのに……ふふっ、私もアスリートね。私より速いのが悔しいし、寂しい」

 

 そんなハートの複雑な親心は露知らず、タクトはトレーニングのアスレチックにやって来た。

 数年前まではトレーニングとしてダチョウと一緒に走ることができたそうだが、年月と共にダチョウの調教のコストが割に合わず半ば放置されている。

 

「トレセンの最新マシーンも設備もいいけど、やっぱりトレーニングといえば丸太よね……ふふっ、昔はおじさんたちとみんなで丸太をもって害獣駆除をしたこともあったっけ」

 

 せめてアスレチック要素だけでも復活させようとタクトはこの二週間丸太を切り出し、加工して余った部分は施設の修繕に当てるという狩人ウマ娘の面目躍如によってピカピカの丸太が並んでいた。

 自分の仕事ぶりに満足していると、この島で耳慣れない声が聞こえてきた。

 

「いやー、久しぶりやなトレセン島! ウチが現役すぐ後に開発したからもう何年……怖いから数えんとこ。流石に丸太もうボロボロで……めっちゃ綺麗やんけー!?」

 

 小気味のよい関西弁。複数の足音。

 タクトが意識を向けると、そこには葦毛の小さなウマ娘と、大きなカメラを持った男がいた。

 関西弁の小さな葦毛ウマ娘は、タクトを見るなり手を上げて話しかけてくる。

 

「なぁそこのお嬢ちゃん! ちょっとお話聞かせてもろてええか?」

「はい、なんでしょうか? 初めまして、デアリングタクトと申します」

 

 タクトは丁寧にお辞儀をした。本格化で元気一杯であっても、本来の礼儀正しさは忘れていない。

 

「タクトちゃんな。いやー気品のある感じでウチとそっくりやなぁ!」

『さすがに無理があると思います』

「うっさい! まぁ事実やけども」

 

 カメラを持った男が茶々を入れると関西弁のウマ娘は即座にツッコミで返した。

 多分よく一緒にいるのだろう。タクトはそう思った。

 

「んでウチ、この島の修復で呼ばれたんやけどな。もうずいぶん綺麗になっとるやん? もしかして結構大人数で修復しとる?」

「いえ、今は私とハートさんだけで……ここにある丸太の切り出しや加工は私が一人でやりました」

「一人で!? なぁちょっと詳しく聞かせてくれへんか?」

 

 男たちのカメラがタクトの方に向けられる。慣れない自体にタクトは流石に困惑した。

 目の前の関西弁の葦毛ウマ娘に質問する。

 

「えっと……ところであなたは? 私と同じ、デビュー前の生徒ですよね?」

「ずこっー!! ウチのこと知らんのかい!?」

 

 関西弁の葦毛ウマ娘が、盛大にずっこけた。堂に入った転び方だった。

 カメラマンの方が、丁寧にタクトに頭を下げる。

 

『すみません、勝手にカメラ向けて。タマモ姐さん、今時の若い子はあまりテレビ見ませんからね、芸人の顔なんかわかりませんよ』

「そうかーウチも芸人としてまだまだやなぁ……ってちがーう! タマモクロスや! オグリキャップと一緒に走った白い稲妻や!」

「えっ!? タマモクロスさん!?」

 

 タマモクロスといえばウマ娘たちの中では伝説の物語ともされるオグリキャップのライバルとして有名だ。

 タクトは基本テレビ番組を見ない(ハートの映画には付き合う)のもあるがトレセンの大先輩の顔がわからなかったことに顔を赤くして恥じた。

 

「すみませんでした、そうとは知らず……後輩として、お恥ずかしい限りです」

「あーいや、ウチが悪いウチが。もう昔の話やからな。ハハハ……」

『すっかり芸人生活が板に着きましたからね。今じゃ関西ローカルの顔ですよ。まぁその顔も通じませんでしたが』

「ほっとけ! んでタクトちゃん、デビュー前なのに大したもんやなぁ。ウチかて開拓には最初は戸惑いの連続やったのに」

 

 カメラマンと仲の良い会話をするタマモ。もしかしたら現役時代からの付き合いのある人なのかもしれないとタクトは思ったが、それを聞く前にタマモが話題を戻した。

 

「自然の中は子供の頃から慣れていて……今日の再開拓は終わりとタッカーさんに言われて、これからトレーニングをするところなんです」

「へえ……じゃあせっかくやしウチとやろーや! 久しぶりにがっつり体も動かしたいしな」

「はい、喜んで! 開拓したときのお話も是非聞かせてください。これから再開拓する参考にもなると思うので」

「殊勝な子やな~なんかチヨを思い出すわ! 今どうしとるんかなアイツ……シチーは今でもモデルやっとるけど」

 

 二人で丸太をもってスクワットをしたりしながら、お互いのことを話す。タクトはデビュー前でちょうどこの島で本格化が始まったこと。

 タマモはこの島の再開拓が決まったと聞き元開拓リーダーとして取材もかねてこの島にやってきたことを話した。隣のカメラマンは実は元担当トレーナーらしく今でも仕事とプライベート両方で仲が良いらしい。

 

「さて、準備運動も出来たし走ろか! じゃあ久しぶりに出走の合図は頼むでダーリン!」

『はいはい、あんまり無理はしないでね。タクトちゃんもワガママに付き合ってくれてありがとう』

「いえ! 伝説のオグリキャップ世代の方と走れる機会をいただけるなんて、光栄の至りです。よろしくお願いいたします」

『では位置について、よーい……ドン!』

 

 タクトとタマモが横に並び、カメラマンの合図によって走り出す。

 先行したのはタクトだ。タマモは後ろから追いかけてくる。

 本格化を迎えたタクトの加速力は、生半可なデビューウマ娘を既に凌駕していた。

 

(タマモ先輩の現役時代からは随分経っている。本来ならまともな走りが出来なくなってて当然。けどさっきの準備運動は、今でもトレーニングを怠ってない人の動き。きっと脚をためている。ここは一気に突き放す!)

 

 中盤で、タクトは再びスパートをかける。

 それと同時、タクトの後方で雷が地面に落ちたような轟音がした。

 タマモクロスがスパートをかけるために踏み込んだ音だ。

 

「大したもんや。もう本格化した体を使いこなしとる。けど……レースは体だけで勝てるほど甘くないで!」

 

 遠雷がどんどん近づいてくるような追込。振り替えるまでもなくドンドン近づいてくるのがわかる。

 ……本格化を迎えるまでのタクトなら、たまらず追い抜かれていただろう。

 しかしタクトは狩人だからこその、ウマ娘としての本能を理解していた。

 

「ウマ娘としての走りの本能は、追う側ではなく追われる側。肉食獣の補食、人間の狩り、あるいは山火事や雷から……なんとしてでも、命からがらでも逃げきるもの! このレースは━━逃げきらせてもらいます!」

「なぁ!? こっからトップスピードやと!?」

 

 タクトの体が、雷に追われる危機によって更に加速する。

 本格化した体に本能による危機回避が加わったその速さは、白い稲妻を上回った。

 二人の距離は縮まらず、このままタクトの勝ち……その時、今度は遠くからたくさんの足音がこちらにやってくるのが聞こえた。

 タマモが、驚いてすっとんきょうな声を上げる。

 

「ウワッー!? ダチョウの群れ!?」

『こっちに突っ込んでくるー!?』

「アンタ! 逃げるんや!」

 

 スタート位置にいるタマモの元トレーナーへ、ダチョウが突っ込んでいく。

 きっとタマモの走る音に驚いて走り出したはいいが途中でなぜ走っているか忘れてしまったのだろう。ダチョウはそういう生き物だ。

 ゴールに着いたタクトとタマモは、流石に今からスタート地点のトレーナーを直接助けられない。

 顔面蒼白のタマモに対し━━タクトは、冷静な表情でその場で思い切り手を叩いて大きな音を出した。

 

 

「そこまで!! ダチョウの皆さん、お座り!!」

 

 

 ダチョウたちの動きが、まるで機械のようにピタッと止まった。腰を抜かしたタマモの元トレーナーのほんの10m前で。後少し遅ければ、ダチョウに轢かれていただろう。

 

「ふう……危ないところでした。言うことを聞いてくれるようになったのはいいですけど、まだまだトレーニングで使えるように再調教するのは時間がかかりそうですね」

 

 平然と言うタクト。ダチョウたちは完全に動きを止めてタクトの命令を待っている。

 タマモとそのトレーナーは礼儀正しい少女がダチョウの群れを支配していることに唖然としていた。

 

「そうだタマモ先輩。せっかくだからご飯にしましょう」

「ダチョウ捌くんか!?」

「いえいえそんな。ダチョウの餌やりですよ。でも……あんまり言うことを聞かないダチョウは、捌いちゃうかもしれませんね?」

 

 タクトはダチョウ達に微笑んだ。言うことがわかるのか、ダチョウ達が震え上がったような気がした。

 タマモが冷や汗をかきながら、タクトにお礼をする。

 

「ほんまありがとうなタクトちゃん。しかしトレセン島再開拓の軽い取材に来たつもりが……これはとんでもない大物を見つけてしもたで……」

「いえそんな……まだほんの若輩の身。先輩方には教わることばかりです。ですが狩人としての知識と、本格化でわかったウマ娘の狩られる側の本能……この2つをもって、もっともっと武者修行に励んで見せます。そしていつか……トリプルティアラに!」

 

 トレセン島を再開拓し、ダチョウの支配者となったタクトのエピソードは、後々タマモクロスのトーク番組で大きな話題を呼ぶことになった。

 

「Just like.今のタクトの走りは、もう私じゃ参考にならない……あの子の夢、トリプルティアラに至るために必要な先輩を呼ばないとね……」

 

 その走りを影で見届けたデアリングハートは、島に用意されたトレセンへの無線通話である人物を呼ぶことにした。

 その夜、トレセン島へ向かう船に3人のウマ娘が乗ることになった。

 

「ネオユニヴァースは……『CORONA』の到来を察知。あと二年もしないうち……学園は、トレーニングがネガティブになる。『最新の隔離施設』……必要性を提言した」

「お日様が元気すぎて年々暑くなってるもんね~わたしもうアイスとクーラーがないと生きていけないよ~。無人島なら避暑地になっていいよね」

「やはりトレセン島ですか……いつ出発します? 私も同行いたします」

「『Still IN』」

 

 トレセン島の再開拓とタクトの十全なトレーニングのために、新しいウマ娘達がやってくる。




ちょっと時間が空いてしまいしたがタクトの夏合宿編スタートです。タクトならきっとダチョウとも仲良くなれるに違いありません。
8月終わりまで二週間置きに書ければいいなと考えてます。
タマモの関西弁はプレーンだからこそエミュが難しいですが多目に見てくださると助かります。
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