デアリングタクトは一狩りしたい   作:じゅぺっと

16 / 19
ステイゴールドは温厚と激昂を区別しない

 

 

「私、ステイゴールドはもう海外には出ない。世界の旅はやめて日本に骨を埋める」

 

 世界を旅し世界に愛されたウマ娘、ステイゴールドがトレセン学園に帰ってきた。

 狩人ウマ娘、デアリングタクトはトレセン入学前に山の中で偶然出会ったことがあり、その時ステイゴールドは熊沢と名乗ったため『熊のお姉ちゃん』と呼んで慕っていた。

 そんなステイゴールドからファミリーの話し合いを覗いていかないかと誘われ、タクトは木箱の中にこっそり入り混んだのだった。

 

「やだいやだい! 金色オヤジがもう世界旅行しないなんて嫌だい! ゴルシちゃんともう一度2人でエジプトに行って千年アイテム探すんだい!」

「ゴルシさん、ステイゴールドさんとエジプト行ったことあるんです?」

 

 そしてステイゴールドが放った言葉に、真っ先に反応したのはゴールドシップだった。

 オルフェーヴルの秘蔵っ子、ラッキーライラックは初耳だったようで聞く。

 

「ない」

「ない」

「ありません」

 

 ゴルシ、ステゴ、それにドリームジャーニーが続けて答え、3人でビシガシグッグッと手を合わせる。困惑するララ。

 

「ふざけるな。余は認めぬ」

 

 楽しげな雰囲気を中断させたのは、ソファを玉座のように堂々と腰かけていた暴君オルフェーヴルだ。

 踵を机に勢いよくおろし、机に罅が入るがお構いなしに続ける。

 

「ステイゴールド。貴様の強さはレースそのものでなく日本と世界を股に掛け走り付けた諦めの悪さだ。世界を渡ることを諦めた貴様などもはやステイゴールドではない。余が王を止めるようなものだぞ。冗談ではすまさぬ」

 

 静かな怒りでステイゴールドを睨むオルフェーヴル。

 警察ウマ娘、フェノーメノも続いて発言した。

 

「旅をするかはステイゴールドさんの自由……誰にも咎める権利はありません。日本に留まるのなら直接顔を会わせる機会も増えるでしょう。しかし……何故でしょうね、無性に寂しいと感じてしまうのは」

 

 規則を重んじる彼女は反対こそしていないが、本心では旅を続けてほしいと思っているのだろう。帽子を目深に抑えている。

 

「まァ、2人の言い分もわかる……ただ、ステイゴールドだってもういい年だろ。あの走りに大なり小なり憧れてトレセンに来た私たちもすっかり公式レースを走りきって、次の代を見守る立場になるくらい時間が経ったんだからよ」

 

 ナカヤマフェスタが、ラッキーライラックに視線を投げて言う。オルフェが血を分け与えた彼女は現在クラシック真っ盛りだ。

 しかし、オルフェは簡単に意見を曲げるウマ娘ではない。まるで銃口のような威圧的な視線をナカヤマに向ける。

 

「ナカヤマ。王たる余に意見か?」

「事実だよ、王様。玉座に座るだけなら耄碌した老バにだって出来るが、世界旅行はそうもいかねぇ。

別に旅なんかしなくても、身体が動かせなって縁側で茶を啜っててもステイゴールドであることに変わりはねぇ。そういう幸せもあるじゃねぇか……!」

 

 勝負事以外ではいつも冷静沈着なナカヤマも、感情を滲ませて口にする。

 意見はさまざまだが、共通しているのは全員がステイゴールドというウマ娘を心から愛して、愛さずにはいられないということだ。それはこっそり眺めているタクトにもありありと伝わってきた。

 

(やっぱり、熊のお姉ちゃんは優しくて愛されてるのね……!)

 

 タクトが小学生の時に偶然出会って旅立つまでたくさん遊んでくれた熊のお姉ちゃんがステイゴールドというウマ娘であることは知っていた。たくさん愛されている話も聞いていたが、こうして間近で想われているのを見ると嬉しくなるタクト。

 そのステイゴールド本人は、照れ臭そうに頬をかく。

 

「うん、みんなありがとう。ナカヤマのいうことも半分は当たってる。最近は身体も少しずつ衰えてるし……コイツ頼りになっちまうことも多い」

 

 ステイゴールドは、腰に下げた銃を見せる。タクトの見立てでは実銃ではないはずだが、脅しに使うのだろうか。

 

「食える飯の量も随分減っちまってな。今じゃ熊ちゃんと同じ量しか食べてないんだ」

 

 ステイゴールドが、小さな体の小さなお腹をさする。それを見て、この場にいるタクトとララ以外のウマ娘がハッとした。

 一番反対していたオルフェも、机から足を降ろして目を閉じる。

 

「……なら仕方あるまい。後に祝辞を用意する」

「めでたいであります。どうか熊さんと健やかにお過ごしください」

「ははははは、何を想像したかは見当がつくが違うからな? まぁ、細かい理由はジャーニーに伝えてあるから興味があれば聞いといてくれ」

 

 ジャーニーが軽く頷く。既に話は通してあったのだろう。

 

「さて、私の話はもういいだろう。なんでも、オルフェの秘蔵っ子たるララが秋華賞を前に随分落ち込んでるそうじゃないか」

 

 ステゴは、勝負服姿のラッキーライラックに目を向ける。ララはぎゅっと拳を握って俯いた。

 口に出すのは、ライバルであるアーモンドアイのこと。

 

「うちは……夏合宿で強くなったはずなのに、アイさんに秋華賞で勝てるビジョンが全く見えなくて……」

 

 桜花賞の時点では無敗だったラッキーライラックが一番人気だった。勝ったのはアーモンドアイだが、人気で負けたのを悔しがっていたのはタクトも覚えている。

 

「アイさんも、秋華賞やなくてもう次のジャパンカップを見据えてて……もう、うちのことなんて、眼中にもないんやなって……」

 

 それは違う、とタクトは思わず飛び出したくなった。アイは昨日もララのことを意識していたから。だが、自分がここにいることは秘密。

 それに、デビュー前の自分が口を出してもなんの慰めにもならないくらいララが苦しんでいることはタクトにもわかった。

 ステイゴールドは、何年もあらゆる場所を走った小さな体でゆっくり大きな体のララに歩み寄る。

 

「私も昨日アーモンドアイが走ってるのを直接見たんだが、あれは確かにとんでもない。全盛期のテイエムオペラオーと同等か、それ以上かもな。少なくとも、今の調子を落としたララには厳しそうだ」

「……っ!!」

 

 突き放すようなステゴの言葉。ララの体が強張る。

 ララの大きな体の肩を、ステゴは手を伸ばして軽く叩いた。

 

「アイがジャパンカップを見据えてるって? そりゃあそうだろ。オルフェだって三冠すら通過点って考えてたんだ。三冠取れるようなやつは三冠で満足しないさ」

「無論だ。余にとってあのレースはただ所有物を取り戻したにすぎぬ」

 

 オルフェが目を閉じたまま頷く。だがそれ以上ララに言葉を掛けなかった。

 三冠を取ったオルフェには、今のララにかける言葉がないのだろう。

 そのまま、ステゴは続ける。

 

「いやむしろ、別に三冠ウマ娘じゃなくても三冠なんて所詮クラシックの通過点に過ぎないんだよ。ジャーニーやナカヤマだって三冠とは縁もゆかりもないけど立派なもんじゃないか。秋華賞には拘らず、これからのレースで━━」

「そんな簡単に諦めきれるなら!! 最初からティアラに興味なんか持ってません!!」

 

 部屋の中に、ララの悲痛な叫びが響く。

 

「デビュー戦からずっと無敗で桜花賞までたどり着いて……オルフェさんの血を分けてもらったウマ娘として、ティアラの舞台で冠を手にするためにずっと走ってきた……忘れられるものなら、必要さも感じません……それやのに……それやのに……」

 

 とうとうララは嗚咽をこぼし始めた。無敗のトリプルティアラを目指して走ってきた夢を打ち砕かれる苦しみは、見ているタクトにもなんら他人事ではない。

 『歴史に残るウマ娘』を夢に掲げるタクトも、いざ桜花賞に挑むとなってアーモンドアイのようは怪物じみた強さのウマ娘が立ちはだからない保証はどこにもないのだから。

 

「ああ、そうだよな。安心したよ、心が折れていてもお前の目の輝きは消えちゃいない。オルと同じ、そして私たちに連なる光だ」

 

 ララの叫びを、間近でステゴは平然と受け止めた。絶望して、涙ににじんで、それでも消えないララの瞳の冠を見つめている。

 

「いいかララ。レースに出走しちまえば、ただ誰が先頭か決めるだけだ。最終直線で自分の前を走るやつは、たとえどれだけ自分よりでかかろうが強かろうが。自分にとって友人だろうが親だろうが。

その足引きちぎるつもりで、噛みついてやれ」

「ひっ……!?」

 

 一瞬、ステゴから殺気が放たれたような気がした。ララの大きな体がのけ反る。しかし表情は親戚との何気ないお喋りのように穏やかで飄々としたままだ。

 

「それに秋華賞がどうなろうと、これからはアイがいないレースも走るだろう。もし『アイツさえいなければ勝てる』なんて舐めた走りをするやつがいたら、そいつのことも噛み砕いてやれ。ララの気位の高さならできるさ。お前はオルが血を分けた中で唯一供を許した王女様なんだから」

 

 な、オルフェ。そうステゴが声をかけるとオルフェは忌々しげに舌打ちした。

 

「余の血を多く与えたものはいるが、余が連れ歩くに足る気品があるのはララのみよ。だいたい昨日もあやつらと来たら……」

「オルが『余の血族として相応しくレース界を総攬せよ』と命じたらメロディさんがソーラン節を踊れと解釈してその場で踊り始めてしまったからね」

「レーンちゃん……何しとるんや」

(メロディ、レーン……? かわいい名前)

 

 涙を拭いながら、恥ずかしそうに言うララ。メロディレーン、という名前らしい。なんとなくタクトは気になった。縁がありそうな気がしたのだ。

 

「ククッ……遠くで見てたがウシュバも悪ノリして真似し始めたのは笑ったなぁ。ソーラン、ソーランってよ」

「ウシュバ……! あのアホ……!!」

「その粗末な頭と尻尾疾くぶち抜いてやろうかと思ったわ」

 

 オルフェも自分の血を引く後輩には手を焼いているらしい。だが心底嫌っているわけではないのだろう、口の端を歪めて笑い、ララに王として告げた。

 

「ララ、王命である。王たる気品をレース界に示し続けよ。貴様にこそ任す。……投げ出すことは許さぬ」

「っ……! はい、必ず……!」

 

 ララが深く頭を垂れる。アイの絶対的な強さの対策が取れたわけではない。いわば気の持ちようの話だったが、ステイゴールドのレース感、どれだけ勝てなくてもどんな相手でも食らいつく気持ちとオルフェの命令は今のララに必要なものだった。

 涙をぬぐい、真っ赤な瞳の中にはやはりオルフェの王冠のような輝きを宿していた。

 

「さて、他に話したいことがあるやつはいるか? ないなら今日はここで解散に━━」

「ちょ~~~っと待ったぁ!」

 

 シリアスな雰囲気をぶち壊すように、わざとらしく歌舞伎のような溜めボイスを上げたのはゴルシだった。

 

「旅を止めて丸くなった金色オヤジはもうファミリーのボスに相応しくねぇ! 今日ここでゴルシちゃんがアンタを倒して、この集まりの名前はゴルシファミリーに改名してもらう!!」

「ゴルシさん! 危険なものを先輩に向けてはいけません!!」

「うるせえ! ファミリーのトップに立ってこの学園を裏から牛耳って牛串を売り捌くんだい!」

「牛耳るとはそういうことではないと思いますが!?」

 

 ゴルシはソファの裏側から大きな水鉄砲を取り出してステゴに向ける。風紀委員のメノが止めるがお構いなしだ。

 銃を向けられたステゴは、少し困り顔だが相変わらず穏やかに飄々と返す。

 

「おいおいゴルシ、鉄砲は威しの道具じゃないんだぞ?」

「その澄まし顔も今日までだい! さぁ避けなければ当たる! 避ければ当」

 

 ドンッ!!

 一発の銃声が響き、一人のウマ娘の体が倒れる。

 倒れたのは……ゴルシだった。

 ステゴは、自分の腰の銃を引き抜いてゴルシに一発撃ったのだった。

 ジェンティルドンナの怪力を受けてもピンピンしているゴルシが、ピクリとも動かない。倒れた衝撃で赤い液体がドクドクと流れ始めた。

 

「あー……すまんジャーニー。床を汚しちまった。掃除しといてくれ」

「ええ。ゴルシさんにも困ったものです。アネゴに反旗を翻すなんて」

 

 倒れたゴルシを、まるで潰れたハエでもつまむようにジャーニーがゴルシの服を掴んで持ち上げる。ゴルシは白目を向いて気絶していた。生きてはいるようだ。

 

「いやいや、これゴルシさん大丈夫なんです!?」

「狼狽えるなララ。この程度で死ぬやつがジェンティルに立ち向かえるはずなかろう」

「ククッ……よかったなぁララ。ゴルシが水鉄砲じゃなくエアガンとか構えてたら私達も連帯責任で撃ち殺されてたぜ」

「そーなん!? ……です!?」

 

 ララは青ざめているが、他のステゴファミリーたちもなんら気にしていないようだった。

 ステゴは、風紀委員であるメノに尋ねた。

 

「さてメノ、象とか熊とか気絶させるゴム弾でゴルシを撃っちまったが……これは暴力行為かな?」

「━━いえ。ゴルシさんの水鉄砲には大豊食祭畑とうがらしの匂いがします。もし撃たれて目に入れば危険だったかもしれません。事件は事件ですが、正当防衛の範疇で処理させていただきます」

「ははぁ。マックイーンがメジロ当主で忙しいもんで構ってほしかったんだな? こうなるとわかってただろうに」

 

 やれやれ、と笑うステゴからはゴルシを銃で気絶させた罪悪感が全く感じられない。

 タクトはいてもたってもいられず、木箱の中から飛び出してしまった。

 

「熊のお姉ちゃん。なんで……ゴルシ先輩を撃ったんですか?」

「え、タクトちゃん!? なんでそこに!? まさか、ステイゴールドさんに拉致られたんか!?」

「熊の……おい貴様。ステイゴールドとどういう関係だ」

 

 ララが驚くが、これにはステゴファミリーの面々も驚いたらしい。オルフェが詰問する。

 ステゴは銃を持っていない左手をひらひら振り、タクトの代わりに答える。

 

「数年前にちょいと旅先で会ってな。トレセンでは初めて再会したんで私が無理やり連れてきたんだ。ララに伝えたことは多分タクトにも伝えた方がいい気がしたし……何より、私がトレセン学園でどういうウマ娘なのか。ちゃんとわからせておきたくて。ちょうどゴルシが突っかかってくれて助かったよ」

「それだけのために……明らかに撃つ気のないゴルシさんをその銃で撃ったんですか? あなたは本当に、私と遊んでくれた優しい熊のお姉ちゃんですか?」

 

 今のタクトの目には、ステゴしか映っていない。ゴルシに殺気はなかった。ただの戯れだったはずだ。それをステゴもわかっていてなお銃で気絶させた。

 タクトはその真意を問いたださずにはいられなかった。ゴム弾とはいえ、銃を人やウマ娘に向ける危険さはよくわかっているから。

 ステゴはやはり、静かにタクトの言葉を受け止めている。

 

「私は熊沢のステイゴールドに決まっているだろう? タクト、出会った時はまだお前は小学生のポニーちゃんだった。山の中で熊が襲ってきたから蹴りとばして銃でぶち抜いたはいいが後始末どうしようか途方に暮れてたところに助けてくれた恩もある。

 ただ、トレセン学園に入学してきた以上……私がどういうウマ娘なのか、なんでこいつらが慕ってくれてるのか教えておきたかったんだ」

 

 そう口にするステゴには、明確な優しさがある。穏やかで、飄々と。旅先では人々に愛され、レースをみるものを魅了してやまない走りの根底にあるのは━━自分に迂闊に近づき侮るものを許せない性根。

 ララにも語った、自分の前を走るものは噛み千切ることすら厭わない狂気を間近で感じるタクト。

 タクトはすっと腰に手を据える。

 

「……わかりました。それが、熊のお姉ちゃんなのですね」

「わかってくれて嬉しいよ。タクト」

 

 ドンッ!! 

 一発の銃声が、タクトの頭上を掠める。

 ステゴが外したのではなく、タクトがしゃがみつつ手刀でステゴの銃を撃つ右手を跳ね上げたのだ。それがなければタクトも撃たれて気絶していただろう。

 タクトは腰のナイフをまっすぐステゴの喉元に突き付け、ステゴはもう一丁の銃をタクトの眉間に突き付けようとして━━

 

 

「そ こ ま で !!」

 

 

 風紀委員のフェノーメノが、怪物じみた力で2人の手を掴んで止めた。

 

「何をしているでありますか2人とも!! ここはトレセン学園、銃刀法違反で逮捕するであ゛り゛ま゛す゛!!」

「今更過ぎるだろ、薙刀とかピストル持ってるやつがいるのに」

「気安く他人に向けるな、という話をしているのですよ! 2人とも、理由を説明しなさい!」

 

 メノの規範意識は、タクト相手でもステゴ相手でも揺るがない。

 ナイフを取り上げられ、タクトははっと我に返った。

 

「すみません……熊のお姉ちゃんから殺気を感じてつい……」

「タクトが腰のナイフを構えようとしたらつい、な?」

「つい、じゃあありません! この事は風紀委員会でも報告します。2人とも明日反省文を提出するように! それまでナイフと銃は没収であります」

「やれやれ、メノの真面目さには敵わないな」

 

 メノは今回の件の書類を作ると言って部屋から出ていった。

 ナカヤマも、気絶したゴルシを俵のように担いで出口に向かう。

 

「今回の集まりもヒリついた。ララにアーモンドアイ、クロノジェネシスと最近のティアラは見応えあるなと思っちゃいたが……あんたのことも楽しみにしとくぜ、デアリングタクト。ステイゴールドが日本に留まるならまた集まる機会も増えそうだ」

 

 クックッと笑ってナカヤマは出ていった。

 残ったのはタクトにステゴ。ララにオルフェ、そしてこの部屋の主のジャーニーだ。

 

「メノさんからお叱りもあったことですし、今回は私からはなにもしないことにしましょう。クリスエスさんと揉めたくはありませんし……何より、アネゴが望んで連れてきたようですからね」

「いつもすまないなジャーニー。ついでに、喉が乾いたから紅茶入れてくれないか?」

「余も飲む。……で、貴様はいつまでいるつもりだ、狩人。ララ、こやつを連れ出せ」

「タクトちゃん……」

 

 オルフェがタクトを睨む。ララは心配そうに見つめている。

 タクトにとって、ステゴは優しいお姉さんだった。トレセン学園でいつか会えればまた遊んでもらえると。

 しかし、ステゴは他人に噛みつき、銃で撃つことすら厭わない獰猛さを併せ持つ。

 それでも━━タクトは深呼吸して、丁寧に礼をした。

 

「お邪魔してすみませんでした。今日はお暇させていただきます。でも……やっぱり私にとって、ステゴ先輩が熊のお姉ちゃんであることは変わりません。銃を持った相手を怖がっていて山の狩人はできませんから。また、遊んでくれますよね?」

 

 少し躊躇いながらも、真っ直ぐな気持ちを伝える。山に入れば、熊を撃ち殺せる猟銃を持った相手と出くわすこともあるし、もしそんな銃で撃たれればウマ娘だろうと命に関わる。だがそれは相手を恐れ遠ざける理由にはならない。

 ステゴも、これには驚いたらしくぽかんとしていたが……そっと手を伸ばし、タクトの頭を撫でた。

 

「そっか。熊をぶっ飛ばした私に平然と近づいてくるから怖いもの知らずのポニーちゃんと思ってたが、ちゃんとわかってたんだな」

「はい。山の怖さ、獣の怖さ、銃の怖さ。それは、わかっているつもりです。ただ、レースの怖さはまだあまり知りませんから。色々教えてくれると嬉しいです。……熊のお姉ちゃん」

「わかった。約束だ。また今度山で熊と鬼ごっこでもしよう。……タクトのレースは、ゆっくり日本で見れそうだ」

 

 もう一度礼をして、タクトはオルフェやジャーニーの機嫌を損ねないよう部屋を出た。一緒に帰るよう命じられたララと一緒に。

 

「すみませんララ先輩。人に見られたくないところを私のような若輩者がお邪魔してしまって……」

「ええんよ。ステゴさんがその方がええと思ったんやろし……みっともないとこ見せてもたな?」

 

 その言葉を、タクトは首を振って否定した。

 

「そんなことありません。桜花賞まで無敗、アイ先輩の強さにも挫けず最後まで立ち向かうララ先輩も私の憧れです」

 

 その言葉に嘘がないことは明らかだった。ここまではっきり言われると自嘲するわけにもいかないララ。

 代わりに、ちょっとからかうことにした。

 

「ええ子なんやねぇ、すぐナイフ持ち出すことを除けばやけど」

「はうっ。それは……目の前で殺意を感じたらまずナイフで喉を狙えと教わったので……」

「全自動首斬りマシーンかあんたは?」

 

 赤面するタクトに、思わずツッコミを入れる。

 一方ステゴとジャーニー、オルフェは紅茶を飲みながらタクトやララの前では出来ない話をしていた。

 

「……アネゴ、世界がヒトの疫病に閉ざされるから世界旅行を止めるというのは本当なのですね?」

「具体的なタイミングはわからないけど、そのはずさ。私は行って帰ってこれない旅はしたくない。熊ちゃんにこれ以上心配させるわけにもいかないしな」

「我らはあくまで日本のウマ娘だ。どんな旅程も、日本に帰ってくるのが前提。……余の時の震災も、なぜか予見していたな」

「ジャーニー、オルフェ。これから現役を走る子たちはかつてない危機の中へ向かうだろう。……旅の知恵と、王の輝きで。助けてやってくれ」

「━━御意」

「無論だ。病如きに王の輝きは打ち消せぬ」

 

 後日、山の中で熊を追いかけ走り回るタクトとステゴの姿が発見され山中が大騒ぎになるのはまた別の話。

 

 

 

 




ウマ娘ステイゴールドは今のところ飄々として穏やかだけどサポカで恐れられていることが仄めかされてたりするので多分あの穏やかさのままえらいことするんだろうな、と思って書きました。
メロディレーンちゃんもオルフェ娘でラッキーライラックの後輩でタクトの友達の19世代として実装待ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。