デアリングタクトは一狩りしたい   作:じゅぺっと

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デアリングタクトは畑も耕せるし土も食べられる

 

 

「デアリングタクト、これから来年のデビュー戦……芝1600を中心にトレーニングしていく形でいいか?」

「はい、よろしくお願いいたします。トレーナーさん」

 

 狩人ウマ娘、デアリングタクトの目標はティアラウマ娘として歴史に残る存在になること。

 本格化を迎え、来年のデビューに向けて去年の皐月賞ウマ娘のトレーナーと仮契約をして指導を受け始めていた。

 タクトは己のトレーナーに、マイルを中心にする意義を語る。

 

「オークスや秋華賞は中距離ですが、最初のティアラたる桜花賞は1600。それにデビュー戦や未勝利戦はマイルが多い。そもそも桜花賞に出走するためにも、マイルレースの基礎を固めたいと思います」

 

 前提として、G1レースは出走すること自体が難しい。歴史に残るティアラウマ娘になるためには、まず最初の一戦一戦を確実に狩りたいというのがタクトの考えだ。

 

「うん、地に足をつけた堅実な判断だ。やはり君には、あのトレーニングが合いそうだな」

「あのトレーニング?」

 

 トレーナーは頷き、続きを口にしようとする。

 その直前に、トレーナー室のドアが勢いよく開いた。

 

「今マイルの話しました!?」

「グラン先輩!?」

 

 マイルと聞いてすっ飛んで来たのは若き天才マイラー、グランアレグリア。

 今年のデビュー戦、GⅢのサウジアラビアRCのマイルレースを勝利している。

 タクトの1つ上の世代で、タクトが強く尊敬するシンボリクリスエスと同じチームに所属しているので面識はあった。

 タクトのトレーナーはさして動じることもなく、グランに話しかける。

 

「丁度よかった。グランアレグリア、タクトに大豊食祭の畑トレーニングを教えてあげてくれないか?」

「喜んで!! タクトちゃんもマイラーになってくれるなら嬉しさ120マイルです!! さぁいこう、タクトちゃん!」

「はい、トレーナーさん。行って参ります」

 

 グランはタクトを担ぎ上げんばかりの勢いで畑に連れていく。トレーナーの指示でもあるのでタクトは大人しくついていった。

 大豊食祭。かつて理事長の発案で行われた美味しい野菜を育てるプロジェクトであり、現在もスペシャルウィークやカツラギエースが地元の農場でその野菜を大量に育ててトレセン学園に供給している他、学園内でも短距離マイルトレーニングに有効であるとして畑が用意されている。

 

「みんなー、おはマイル!」

「グランさん、おはマイルです!」

「おは哩!」

 

 グランはマイラーとして去年から畑トレーニングを行っているらしく、彼女が畑を耕すウマ娘に挨拶すると慣れた様子の挨拶が帰ってきた。すっかりこの場に溶け込んでいる。

 

「畑の中に入るのは初めてですが、よく耕されていますね……!」

「おおっ、タクトちゃんからワクワク50マイルを感じる……お野菜好きなんだね!」

 

 丁寧に植えられた野菜達、丹念に耕された土を見てテンションが上がるタクト。

 学園内ではとても礼儀正しく落ち着きのあるタクトだが、自然を感じる場所では子供らしさが出る。

 

「野菜も好きですし、何より……この畑からは良い匂いがしますから。ちょっと『味見』をしてもいいですか?」

「もちろんいいよ! 今はいちごがよく実ってるから、ちょっとくらい摘まんでも大丈夫!」

 

 許可を取り、タクトはしゃがみこむ。そしていちごの苗ではなく━━その下の土を軽く摘まみ、口の中に放り込んだ。

 

「わっー!? タクトちゃんそれいちごじゃなくて土!! ぺっしよぺっ!!」

 

 突然の奇行に驚くグランアレグリア。タクトは平然と、慈しみすら漂う仕草で両手で口を抑え、口の中の土を戻した。

 

「うん、本当に良い土で……栄養たっぷり。まるまるとしたミミズも見えましたし、ここなら美味しい野菜か育てられますね」

「寸評もいいけどまずは口洗おう!?」

「……あれ、皆さんは土の状態を確認したりしないんですか?」

「検査キットはあるけど食べないよ! 念のため先輩に知らせてくるから、タクトちゃんもしっかり口を洗ってね」

 

 タクトはきょとんとした。彼女の地元では農家の人が土の状態を確認するために口に含むのは何ら珍しくもなかったからだ。

 ともかく、言われたとおり近くの水場で口をゆすいでいると。グランは先輩を連れて戻ってきた。

 

「よぉ、畑の土食べちゃったんだって?」

「カツラギエース先輩……!」

「昔スペがおんなじことしてライスが腰抜かしちまってさ。多分慣れてるんだろうが、ここは都会育ちのウマ娘も多い。これからは遠慮しといてくれ」

 

 やってきたのは、畑全体の管理をしているカツラギエースだった。

 まだ日本のウマ娘が外国のウマ娘に勝つこと自体が難しかった時代に、世界から強豪が集うジャパンカップでクラシック三冠ウマ娘たるシンボリルドルフとミスターシービーもいるなか逃げ切り勝利を果たした日本のエース。学園の記録でも語られる紛れもない事実だ。

 

(でも、私の記憶では……)

 

 ただ、タクトの記憶ではそのジャパンカップを制したのはカツラギエースではなく初代トリプルティアラのメジロラモーヌ。

 シンボリルドルフとミスターシービー相手に堂々たる先行勝利を決めたのを幼いタクトが見た日の脳裏に焼き付いている。

 なのでタクトはエースに苦手意識というか、自分との記憶のギャップをどう処理していいかわからないままになっていた。

 

「タクトちゃんって意外とわんぱく10マイル……どうしましょう、保健室に連れていきましょうか?」

「タクト……?」

「デアリングタクトと申します。すみません、お手数をかけてしまって……でも、保健室は大丈夫です。エース先輩のお言葉どおり、慣れておりますから」

 

 エースに恭しく頭を下げるタクト。エースはその名前を聞いてハッとした表情になった。

 

「そうか、あんたがラモーヌが話してた子か! ジャパンカップであたしじゃなくてラモーヌが勝ったレースの話をしたっていう!」

「ええっ!? なにそれ、どういうことタクトちゃん!!」

「う、それは、その……」

 

 よりによってカツラギエースからその話を切り出されてしまった。動揺するグランと困ってしまうタクト。

 タクトはラモーヌのことを心より尊敬しているが、今ばかりはエースに話したことを恨めしく思った。

 

「ああいや、あんたをウソつきとか責めようってんじゃないぜ。あたしも詳しいことはわかんねぇが……別の世界の記憶ってやつを見たウマ娘はたまにいるんだ」

「別世界の、記憶……」

「畑仕事しながら思い出のレースの話になるとさ。たまに結果が食い違うんだ。記憶違いなんてチャチなもんじゃあ断じてねぇ、脳裏に焼き付いて離れないあたしたちの歴史とは違うレースの記憶ってやつ。ラモーヌのジャパンカップもそうなんだろ?」

 

 エースはこの畑のまとめ役として色んな話を聞いてきたのだろう。その言葉にはみんなのエースたる説得力と重みがあった。

 タクトも、エースの言葉に向き合って頷いた。

 たとえ大先輩が相手であれ、学園の歴史に反する記憶であれ、自分の心に焼き付いたレース結果に嘘はつきたくない。

 

「……はい、忘れられません。あのジャパンカップを制したラモーヌさんの愛に溢れる姿を」

「いい目だ。あんた、いいアスリートになれるぜ。これから畑をよろしくな!」

「ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いいたします。グラン先輩、エース先輩!」

 

 エースが手を差し出す。毎日農作業をして来たよく使い込まれた力強い手とタクトは握手を交わした。

 グランは、それをニコニコ笑顔で見つめて上機嫌に体を揺らしている。

 

「一時はビックリしたけどこれで仲良し20マイル! でも別世界の記憶か~タイキ先輩が三階級制覇した世界はあたしも見てみたいかも!」

「おう、なんかワクワクするよな! あたしももう一度、いや何度だってシービーと対決し続けた世界もあるかもしれねぇし……それに、これからのレース結果だってなにかが変わるかもしれねぇんだからよ」

「はい。例え歴史に定められた結末があるのだとしても……より良い結果を出して歴史に残るために。私、頑張ります」

 

 こうしてタクトはいちご畑の一部を任されることになった。グランと畑を耕したり、とうがらし畑で農作業をするステイゴールドと再会したりしながら。マイラーとしての基礎であるスピードとパワーを鍛えていくのだった。

 

 




どこかでやりたいなと思ってたエースとグランとタクトのお話です。農家の人が土パクっていくやつエースとスペとタクトは普通にやって周囲を驚かせていそう。
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