デアリングタクトは一狩りしたい   作:じゅぺっと

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デアリングタクトは狩り尽くしたい

 

 

 トリプルティアラの一人、スティルインラブに勝負を挑みにいったアーモンドアイとデアリングタクト。

 その場にいたスティルの友人であるヒシミラクルの提案によってハチャメチャ大障害レースで勝負をすることに。

 妨害、障害、なんでもありのルールとはいえ図らずもGⅠウマ娘3人相手にレースをすることになったタクトの勝算は……

 

【今ゲートが開きました、スタートです!】

「先手は取らせてもらうわ!」

 

 アーモンドアイがスタートダッシュから加速して一気に先頭に出る。残り3人はそれを追う形となった。

 2番手の位置についたヒシミラクルが、アイに声をかける。

 

「はや~い。けど、それで障害物を越えれるかな?」

「もちろん……対策に抜かりはないわ!」

 

 アイは用意されたハードルを軽快なステップで越えていく。アイもタクトも障害レースについてしっかり学んできた。

 このレースでは途中でアイテムを拾って妨害やスピードアップを図ることもできるが、アイはそちらには目もくれない。

 その速度はクラシック期のウマ娘としては凄まじく、デビュー前のタクトには見失わないようついていくのがやっとなほどだ。

 

「アイテムには頼らない。この足でどんな障害も一番はやく駆け抜ける!」

「それじゃあわたしは~遠慮なくアイテムを使わせてもらおっと。くらえアイちゃん!」

 

 しかしヒシミラクルがアイテムを拾い、前方を走るアイに投げつける。ピンク色の粘体がアイの体にまとわりつき、その速度を減少させた。

 

「うわっ、ベトベトする! 走りづらいわこれ!」

「そりゃー妨害用のアイテムですから。さぁ、どんどんいくよ?」

 

 ヒシミラクルは拾ったアイテムを片っ端からアイに投げる。バナナの皮、ドッジボール、風船、イカスミ。この手のイベントには慣れっこのミラクルは平気で使いこなしている。

 集中砲火を受けるアイはたまらず振り向いて後ろについているミラクルに文句を言った。

 

「ああもう邪魔ばかり! ミラクルさん、あなたそれでもアスリートですか!」

「リアリストだ! ほら、前見ないと危ないよ~?」

「へっ? ━━きゃん!?」

 

 アイが、目の前に迫った壁に正面衝突した。大障害におけるハードルや壁はウマ娘を傷つけないよう配慮されているが、痛いものは痛い。

 

「お先に失礼っ~♪」

「このっ……! 待ちなさい!」

 

 これ見よがしに手を振って先に進むヒシミラクルを追いかけようとする。掛かってしまっているのは明らかだった。

 そこで、最後方につけていたタクトが声をあげた。

 

「アイ先輩! 落ち着きましょう。ヒシミラクル先輩も前にいればアイ先輩を妨害するのは難しいはず。ここは体力を温存すべきです!」

「~~~っ! わかったわ、ありがとうタクトちゃん!」

 

 超×9の負けず嫌いであるアイは一瞬納得できない素振りを見せたが、タクトの言い分が正論だったので一度ペースを落とした。

 これは障害レース。前から迫る障害物を躱しながら後ろにいるウマ娘をアイテムで妨害するのはいくらイベント慣れしていても至難の技だ。

 事実、アイがペースを落としたことを確認したミラクルもちょっと速度を緩めてアイに近づいてきた。

 

「ありゃりゃ、バレちゃった。デビュー前の子なのに冷静だね」

「タクトちゃんを見くびらないほうがいいですよ! 私ばかりに気を取られていていいんですか?」

「ふっふっふ。タクトちゃんも大物の気配はすれど、UFAも大運動会も知らない子相手ならまだわたしの方が先輩面できると見た……!」

「そのスタンスで先輩面する資格ないわよ!?」

 

 ミラクルがニヤリとドヤ顔をきめるので思わず突っ込みをいれるアイ。

 

【現桜花賞ウマ娘に先輩ウマ娘から執拗な妨害が飛び交う! しかしこれが大障害レースの醍醐味! アーモンドアイ、掛かってしまっているようです!】

 

 実況も2人の応酬に注目し、客席もどっと笑う。

 その様子に、タクトは違和感を覚えた。

 

(ヒシミラクル先輩の事も調べたけど相手を挑発したり目立つのが好きなタイプじゃないはず……イベント慣れしてない私たちのことを考えて盛り上げるために振る舞ってくれてるのか、それとも……)

 

 最後方で先輩たちを追うタクトの視界に、少し前を走るスティルの姿がちらりと移る。

 淡々と静かに、ミラクルとアイの間に入らないような位置取りをキープしていた。

 

【さぁ先頭が商店街へと入っていく。ここから順位はどう動くか!】

 

 レースは後半に差し掛かった。建物の屋上を走り大砲で飛んでいったりしながらも、レース展開は大きく動かない。

 アーモンドアイを妨害するため少し後ろにつきたいヒシミラクル。

 ヒシミラクルからの妨害を見きれる程度に付かず離れずの距離を保つアーモンドアイ。

 その2人の邪魔をしない位置を静かに走るスティルインラブ。

 そして、まだ本格化前で3人の走りに着いていくので精一杯なデアリングタクト。

 4人の利害は一致していた。最終曲線前、妨害アイテムが拾える最後のタイミングまでは。

 

「ここでかわせば、もう妨害はできない……ヒシミラクルさん、勝負です!」

 

 アーモンドアイが真っ先に飛び出した。ヒシミラクルが持っているアイテムをちらりと見ながらも、溜めていた足を使っていく。

 

「えーい、なんとかなれっー!!」

 

 ヒシミラクルが最後に拾ったアイテム、当たった相手を宙に浮かべる風船を投げつける。

 しかしアイにもそれはお見通し、全速力を出しながらも強引に横に身体を振ってかわす。

 勝利を確信したアイがラストスパートをかける。全盛期を迎えたウマ娘の全力疾走が爆発する。

 

「やった! これでミラクルさんに勝っ……」

 

 しかし、ここでようやくアイは思い出した。

 そもそも、自分は誰に勝ちたくてこのレースに臨んだのだったか?

 気付いたときには━━今まで理性で隠されていた獰猛な狂気が、アイの背中に迫っていた。

 

「嗚呼ッ! 素晴らしいわその気迫、今まさに開花を迎え熟すはずの果実……私のこの双牙で! この両足で! 喰らわせてぇ!!」

「スティルちゃんがんばれ~♪」

 

 アイの背中にかぶりつくような勢いでスティルの猛追が迫る。

 それを見てミラクルが役目は果たしたと言わんばかりに速度を落としたのを見て、アイはミラクルの作戦に気付いた。

 

「まさか……今までスティルさんに注意を向けさせないためにわざと!?」

「その通り、現役桜花賞ウマ娘のアイちゃん相手じゃわたしもスティルちゃんも分が悪い……なのでスティルちゃんに温存してもらいつつアイちゃんの体力を削らせてもらったよ」

「ふふ……今宵のミラクルさんはワタシの勝利のために尽くす眷属! 一緒に血の盃を交わしましょう!」

「うん、あとでのんびりクランベリージュース飲もうね」

 

 テンションの上がりきったスティルとゆるっとしたミラクル。

 今まで3番目につけて足を溜めに溜めていたスティルと、ミラクルの妨害や挑発に掛かりに掛かってスタミナを消費したアイではさすがにスティルの方が速い。

 

「イヤ……私、負けたくないのにっ……!!」

「さぁ、あなたの走りを! 勝利への渇望を、全て晒して……喰らわせっきゃあ!?」

「わっ、危なっ……!」

 

 まさにスティルがアイを躱して追い抜こうとしたとき。スティルの足が、狙いすまされたかのように置かれたバナナの皮を踏んで盛大に転び、アイもぶつかってよろけた。

 当然、それはスティルを勝たせたいミラクルやアイテムに頼らず全力疾走を貫こうとするアイによるものではない。思わず3人が後ろを振り向く。

 バナナの皮を投げたのは━━最後方にいたタクトだ。

 

(……本格化前の私じゃ先輩たちの速さには届かない。でも獲物を仕留める方法は速さだけじゃない。ヒシミラクル先輩がアイ先輩を消耗させて、スティル先輩が全力を出したのを見て油断してくれれば……私のアイテムでスティル先輩の足を止めて、3人まとめて狩り尽くせる!!)

 

 最後方で獲物たちを観察していたタクトはミラクルとスティルの作戦に気付いていた。 

 まだ未熟なタクトに、レース中に口を開きながら全力疾走をする余裕はない。

 無言でラストスパートをかける、今のタクトにできる精一杯の走り。まだ拙くも幼くもある。

 しかし、GⅠレースを走りウマ娘達の全力を感じてきた3人にはタクトがアイを勝たせるためではなく、己の勝利のためにスティルを妨害したとはっきり伝わった。

 

「そっ、そんな~! この大障害レースを初めて走りきるのは現役ウマ娘でも辛いはず!なのにデビュー前のタクトちゃんにどうしてそんな足がっ~!?」

 

 ミラクルはやられ役にでもなったかのよう大仰に驚く。おそらく、アイを執拗に妨害したのはイベントを盛り上げるつもりでもあったのだろう。

 アイがスティルにぶつかりよろめきながらも体勢を立て直し、走りながら笑った。

 

「山育ちのタクトちゃんにとって障害物だらけの道を走るのは日常茶飯事……これくらいの障害はあってないようなもの! さぁ、ここからが本当の勝負よ!」

「ついてくるだけで必死かと思えばなんて激しい勝利への執念ッ……! 嗚呼っ、貴女のこと、もっと味あわせて!! 全てぶつけ合いましょうッ!」

「もうやだティアラこわぁい……」

 

 三者三様、己の勝利に食らい付き狩り尽くすための走りにミラクルがちょっと引く。

 彼女に勝つ気はなさそうだったが、最終直線を迎え観客席から応援する声が聞こえてくる。

 

『頑張れヒシミラクル! 君ならたとえトリプルティアラ3人相手だろうと勝てる!』

「そんな無茶な。もう筋肉だって落ちてるのに……でも、せっかくだしちゃんとやりますか~」

 

 トレーナーの声なのだろう。奇跡のロングスパートと言われたヒシミラクルの足が着実に加速する。

 

『スティル、例え君の走りが朽ちゆく光だとしても俺の目には眩しくて堪らない……だから俺の事を思って走り続けてくれ!』

「嗚呼……トレーナーさん……理性に縛られる私も狂喜に浸るワタシも愛してくれる貴方のためなら……いつまでも、お側に……!」

 

 理性と狂喜の狭間に揺れながらも、スティルインラブが獰猛に、しかしトレーナーとの愛のために走る。

 

『アーイー! 君はどうしようもないくらいの負けず嫌いで、僕はどうしようもないくらいの君のファンだ! だから、勝ってくれ!』

「言われるまでもないわ、せんせ……トレーナーさん! 勝つのは私よ!」

 

 アイの瞳はただ勝利だけを見つめている。しかしトレーナーの声援で消耗した身体に想いが漲った。

 

(これが声援を受けるG Ⅰウマ娘の本気の走り……なんて気迫! 熊よりずっと怖い! この狩場で走れること……光栄に思います!)

 

 タクトには、志を同じくするトレーナーはまだいない。一言も発する余裕などなく我武者羅に走る。

 しかし、障害レースというタクトにとって有利な条件と、ミラクルがアイを妨害し続けると読みきった大胆な戦略をもって最終曲線まで体力を温存できたアドバンテージは確かにある。

 

【いよいよ最終直線だ! 各ウマ娘にほとんど差はない、デビュー前の子も必死に食らい付いています! 最初にゴール板を駆け抜けるのは誰なのか、目が離せません!】

 

「「「「やああああああっ!!」」」」

 

 タクトは最後まで全力でゴール板を駆け抜けた。G Ⅰウマ娘3人を相手に一歩も譲らずに並んで走り抜けたのだ。

 写真判定が行われたあと、実況のアナウンスが響いた。

 

【見事1着に輝いたのは桜花賞ウマ娘アーモンドアイ! 2着はハナ差でトリプルティアラウマ娘スティルインラブ! そして3着はデビュー前ながら1着にクビ差まで迫ったデアリングタクト! 4着のヒシミラクルも1バ身差以内の大接戦でした! 皆様、全員に盛大な拍手をお送りください!】

 

 割れんばかりの喝采が4人に贈られる。アイは満足げに手を振ったあと、タクトに歩み寄った。

 

「タクトちゃん、貴女のおかげで良い勝負ができたわ。貴女に助けられなかったら、きっと悪戯に体力を消費してスティルさんにもミラクルさんにも勝てなかった……反省しないとね」

「いえ……私は、アイ先輩もまとめて仕留めるために動いただけ。悔しいです、すごく……」

 

 もう息が整い始めているアイに対して、タクトはまだ肩を上下させて息苦しくしている。頬に伝う水滴が、限界を超えた汗なのか勝てなかった悔しさの涙か判別できないほどだ。

 そんなタクトを、アイは抱き締めた。完璧主義で究極の負けず嫌いでありながら、ティアラ路線のウマ娘として後輩を愛する優しい抱擁だった。

 

「わかってるわ。タクトちゃんが私にも本気で勝とうとしたこと。そんな貴女だからこそ、一緒にトリプルティアラの先輩に挑みにいったの。……私、クラシック三冠ウマ娘にもG Ⅰ七冠バにも勝ちたいの。これからもついてきてくれる?」

「はい、喜んで……次こそは、アイ先輩もろとも仕留めて見せます……!」

【新世代のウマ娘同士の熱い友情だ! なんだか物騒なワードも聞こえた気がしましたが彼女たちのこれからにも目が離せなさそうです!】

 

 実況が2人の会話を良い感じにまとめてくれた。アイとの抱擁を終えてスティルとミラクルの方を見ていると、あっちはあっちでそれぞれのトレーナーと言葉を交わしていた。声をかけるのが野暮と思うくらいに幸せそうだ。

 

「そういえば、アイ先輩はトレーナーさんとお話ししなくていいんですか?」

「今はいいわ。私が伝説を超えるまではあくまでトレーナーとアスリートの関係……そう決めてあるから」

 

 アイがちらりと自身のトレーナーを見ると、トレーナーは親指をたてて頷いた。

 アイのトレーナーは決して前に出てこず仲良しこよしではないが、全てはアイの求める勝利のために動く姿勢を信頼しているのは見て取れた。

 

「……悔しいのもありますけど、羨ましいです。私にも、志を同じくして心が通じ合うトレーナーさんがいたらと」

「ふふっ。タクトちゃんなら絶対見つけて……捕まえられるわ、トリプルティアラだって狙えるような人をね」

「はい……必ずいい人、狩ってみせます。そしていつかは……トリプルティアラに!」

 

 デアリングタクトのトゥインクルシリーズはまだ始まってもいない。それでもいつかティアラの冠を抱いて、クラシック三冠や伝説となったアーモンドアイを狩り尽くす日を夢見て、走り続ける。

 




初めて真面目にレース展開を書きました。
スティルインラブやアーモンドアイの物語も気になりますが、トレーナーがどんな人物になるのかも楽しみです。
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