デアリングタクトは一狩りしたい   作:じゅぺっと

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ジャーニー先輩はファミリーの面子を重んじるそうです

 

「デアリングタクトさん。どうしてここに呼ばれたかお分かりになりますか?」

 

 ここは遠征支援委員会の事務室。委員長であるドリームジャーニーがタクトに問いかけた。

 まだデビュー前であるタクトに遠征の予定はない。ここに連れてこられたのには別の理由がある。

 

「はい……オルフェさんを落とし穴に嵌めたこと、大変申し訳なく思います。どんな罰もお受けします」

 

 ドリームジャーニーが妹であり王であるオルフェーヴルを溺愛しているのは有名な話。

 いつもは礼儀正しく元気の良いタクトも、今日ばかりは表情が強張っていた。

 

「いえいえ、そんなに怯えないでください。オルとスイープさんから事情は伺っていますから。悪気はなかったのでしょう?」

 

 ジャーニーは紅茶を2人分用意し、自分のを一口飲んだがタクトは口をつけない。

 いや、つけられないのだ。今のタクトの体は、縄でぐるぐる巻きにされて手も足も出なかった。

 

「おっと、丁重にお連れするよう頼んだのですが……これは失礼。では、うちのファミリーの面子を傷つけたことの……『けじめ』をつけましょうか」

 

 白々しく言いながら、縄をほどいてあげるつもりのないジャーニー。

 こんなことになったのは15分程前。タクトが寮室で狩猟道具の手入れをしていた時だった。

 

「タクト! ちょっと出掛けてくるから、いい子にお留守番してるのよ」

「はい、ハートさん。……私の行動のせいでご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」

「Don't mind! この学園じゃ生徒同士の勝負事なんて珍しくもないし、風紀委員の方と少し話をするだけだから。戻ったらタクトの好きなものを食べましょう♪」

 

 タクトがオルフェーヴルを落とし穴に嵌めた件は風紀委員にも知られ、先輩であり同室のデアリングハートも後輩にきちんと指導するようにとのことで呼び出しを受けた。

 ハートは気にしていないが、尊敬する先輩にまで注意を受ける行いをしてしまったとタクトは大いに反省していた。

 

「ピンポーン♪」

「は~い、今出ます。あれ、インターホンついてたかしら……」

 

 ハートが部屋を出てすぐ、呼び鈴らしき音がなる。

 タクトがドアを開けると、そこにはグラサンにマスクを着けて人相を隠したウマ娘が2人いた。

 

「ちわー、ステゴ便でございまーす。デアリングタクトさん、サザエの受け取りのハンコをお願いございまーす」

「この声……ゴールドシップ先輩ですよね? あの、一体なんの御用……」

 

 開口一番意味不明な発言をする白髪のウマ娘はゴールドシップ。

 皐月賞と菊花賞を含むGⅠを6勝した有名ウマ娘であり、三冠のオルフェーヴルやジェンティルドンナ相手にも一歩も引かないどころか自分のペースに巻き込む強さを持つ。

 そんなゴルシがタクトの前でおもむろに麻袋を広げてもう1人のウマ娘に呼び掛けた。

 

「くっくっくっ、バレちまっちゃーしょうがねぇ……ナカヤマ! この嬢ちゃんにうちのオルフェを無礼たお礼をしてやんな!」

「あんたに恨みはないが……ま、ちょいと付き合ってくんな。うちの若頭のジャーニーがお呼びでね」

 

 ナカヤマフェスタが、手にした縄でタクトの腰回りを腕ごとくくって身動きを封じようとする。

 タクトが咄嗟に反撃しようとするのを見越して、ゴルシが悪い顔で言った。

 

「おっと抵抗しようなんて考えんなよ~? オメーの大事な先輩がうちの怖~いフェノーメノから厳重注意をうけることになっちまうぜ~? ひっひっひ」

 

 オルフェーヴルの件でやってきたゴールドシップにナカヤマフェスタ、そして話題に出たドリームジャーニーとフェノーメノ。

 彼女たちがステイゴールドの一門としても名高いことはタクトも知っていた。

 

「わかり、ました……私が直接、ジャーニー先輩から罰を受ければ良いのですね」

「物わかりのいい嬢ちゃんだな。なぁに、この縄と麻袋はあのスペシャルウィークも受けたトレセンの洗礼ってやつさ。そう怖がるなよ」

 

 ナカヤマの縛り方は思ったより緩かった。ウマ娘パワーで脱出も可能だったが、今逆らえば風紀委員に呼び出されたハートに余計迷惑がかかってしまう。

 タクトは大人しくぐるぐる巻きにされて麻袋を被せられ遠征支援委員会の部屋まで運ばれ、今ジャーニーの前にいるというわけだ。

 

「オルの足を傷つけた不敬はあなたの身体一つで足りるようなものではありません。もし今ハートさんから遠征の申請を受けてもうっかり承認が漏れてしまうかもしれませんね」

 

 ジャーニーの物腰は穏やかだが、巣と女王を守る毒蜂のような殺気を放っているのがありありと感じられた。オルフェの全方位へ威圧感を放つオーラとは別ベクトルで怖い。

 

「私にできる償いであれば海に沈めていただいても山に埋めていただいても構いません。ですがどうか、ハートさんを巻き込むのはお止めください」

「おやおや……いけませんね、もっと命を大事にしては? 貴方を孫のように可愛がるウマ娘たちが悲しみますよ」

 

 ジャーニーは紅茶を飲み干し、ゆっくりとタクトに近づく。縄で縛られたタクトの前に立ち、そっと顎を掴んで間近で目を合わせた。

 

「オルの誕生祝いのために旅から戻ってみれば、あなたの落とし穴に嵌められて足が抜けなくなったと聞いて私がどれだけ肝を冷やしたかわかりますか? そんなしおらしいことを言われると……本当に潰してしまいそうになる」

「……っ!!」

 

 タクトと耳と尻尾が逆立つ。今すぐ逃げなければ命に関わると山育ちの本能が告げる。

 反射的に、タクトはうさぎ跳の要領で足のバネだけで飛び退いて大きく後ろに下がった。

 ドアの方を見たが、外では自分をここまで連れてきたゴルシとナカヤマが見張りをしていて逃げられそうもない。

 

「うん、いい反応速度だ。貴女のことは調べさせてもらいましたが、ハートさんだけでなくシーザリオさんやクリスエスさん、色んな方から大切にされているのも納得する」

 

 コツコツと足音を立てながら、ジャーニーはゆっくりと迫る。タクトは部屋の中を跳ねて逃げるが、いつの間にか隅に追い詰められてしまった。

 

(狩られる……!)

「……だから今日はね。私がオルとファミリーの面子を大事にするように、貴女も大切に想われていると伝えたかったんです。タクトさんの身に何かあれば、悲しむ人が大勢出る。そのためにも、危険な行いは控えていただけたらと」

 

 しかし、タクトの予想を裏切りジャーニーから殺気が消えた。それでもタクトから冷や汗が止まらない。子鹿のように足が震えていた。

 

「さて……そろそろ迎えもやってくるでしょう。縄は自分でほどけますか?」

「迎え……? それは、どういう……」

 

 タクトが真意を問おうとしたとき。

 ゴルシとナカヤマが見張りをしている廊下からゴシカァン!! という凄まじい破砕音がした。

 

「こっ、このゴリラ貴婦人殺す気かっー!

もう許さねぇ、メノに言いつけて指導室送りにしてやるからなっー! 覚悟しやがれっー!!」

「あら、フェノーメノさんに真実を告げたら指導室送りになるのはあなたでしょう? 後輩を縄で縛って拉致なんて野蛮なことをなさったのだから」

「ジェンティルさん……?」

 

 どうやらジェンティルドンナがゴールドシップを壁に叩きつけたらしい。

 そして、この部屋の前に訪れたのはジェンティルだけではなかった。

 

「ククク……ブエナ、あんたまであの後輩にお熱だったのかい? ジャーニーからそんな話は聞いてないんだがな」

「ええ、私はタクトちゃんと特に面識はありません。けどハートさんとシーザリオさんの頼みですから。それに……ナカヤマさんとジャーニーさんなら、私のお願いを聞いてくれるでしょう?」

「ハッ、言いやがる。私はともかくジャーニー相手にそんな口の利けるティアラはアンタくらいさ。だがまぁ、今日ばかりはうちの面子もかかっててね。はいそうですかと通すわけにもいかねぇ」

 

 超絶人気を誇ったティアラウマ娘、ブエナビスタも来ているようだった。優しく純朴な様子でナカヤマに話しかけているが、隣でジェンティルがゴルシをちぎっては投げちぎっては投げしている音が響いているのに平然としているあたり貫禄が伺える。

 

「いい加減気付けよ威力の問題じゃねぇってさぁ! ゴールデンな旅路を乗り越えてきたゴルシちゃん達の前じゃ力なんて意味はねぇ! コロコロ読んで出直してきな! 一冊500円でもってけドロボー!」

「そういえば、漫画出演おめでとう。ですがあなたにこの雑誌が使いこなせますか? せいぜい読んで楽しむのが関の山でしょう。ですがわたくしには……漫画雑誌をプレス機にすることさえ可能ですわ」

「コロコロで500円玉をペラペラにすんじゃねー! 小学生にとっての500円はゴルシちゃんにとっての120億に等しいんだぞオメー!」

 

 喜劇のようなやり取りがしばらく続き、タクトは震えながら、ジャーニーは薄く笑って懐かしむように聞いていた。

 それを終わらせたのは、コツコツと軍人のように規則正しいリズムで歩く音だった。

 

「おおっとクリスエスじゃねーか! オメーもタクトを取り返しに来たのか? ハートに『オメーの孫娘は預かった。返してほしけりゃ1時間後に寮室までお届けします』と書き置きした甲斐があるってもんだぜ! さぁどっからでもかかってきな!」

「━━タクトがここに居ると聞いてきた。入って良いか?」

「アッハイ」

「アッハイじゃねえよ。ここを通りたきゃ私と一勝負してから……」

「ナカヤマさん? まだ私とのゲームは終わってませんよ、途中で降りるんですか?」

「チッ……まぁ、そろそろ頃合いか」

 

 クリスエスはゴルシやナカヤマの言葉を全スルーしてドアを開けた。

 まだ縄で縛られたままのタクトを見て、ほんのわずかに耳が動く。

 

「━━タクト、無事か?」

「は、はい……クリスエス先輩にまで迷惑をかけてしまい、面目次第もありません……」

 

 クリスエスはすぐにタクトを縛る縄をほどいた。それからジャーニーを鋭い目で睨む。

 

「━━ジャーニー、オルフェーヴルの件については私からも謝罪したはず。タクトに何をした?」

「ああ、そんなに怖い顔をしないでください。私としても丁重にお連れするようお願いしたのですが、ゴルシさんが縛り上げてしまったようで……非力な私ではほどくのも難しく困っていたんです」

「おいジャーニー、アタシを魚河岸のマグロみたいに売る気か!? そうだ、縛ったのはナカヤマなんだぞ! ゴルシちゃんは悪くねぇ! ゴルシちゃんは悪くねぇ!」

「━━OK。生徒会にはそう伝えておこう」

「もうダメだぁ……おしまいだぁ……。伝説のボケ殺しに勝てるわけがないよ……」

 

 がっくりと項垂れるゴルシを横目に、クリスエスはタクトを連れて遠征支援委員会の部屋を出た。

 

「タクト。今回の件だが、regret━━悔しがる、ことはない。ただ、何か大事になったときは……私たちを頼って、ほしい。そのための━━先輩だ」

 

 悪戯をひどく叱られて落ち込む子供を宥めるように、言葉を選んでクリスエスが言う。

 

「でも……ジャーニー先輩すごくお怒りでした」

「of course。私もタクトが無理やり拉致されたとハートから聞いて━━そうなった。だがタクトは、悪いことをしていない。これからも山の中のようにのび、のび、と━━振る舞えばいい」

「はい……ありがとうございます、クリスエス先輩!」

「シーザリオとハートが、delicious foodを作って待っている。スペシャルウィークも来るそうだ。縄で縛られ麻袋で運ばれたと聞いて懐かしそうにしていた━━」

 

 食堂では言葉通りハートとシーザリオ特製の料理が並んでいた。スペシャルウィークから自分が縄と麻袋で運ばれたときの話を聞いてトレセンではこれくらいのトラブルはよくあること、タクトも少しずつその中に入れるくらい成長して嬉しいと言われすっかり元気を取り戻したのだった。

 




オルフェ誕生日のドリジャの溺愛っぷりがすごくて思わず書き上げてしまいました。
アプリ開始時に比べてゴルシやナカヤマのライバルもずいぶん登場したし平和にドンパチしてるところが見てみたいです。
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