ワートリ〜顔が良い内弁慶〜   作:Mr.♟️

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今回の話はダメだぁ。最初の構想からねってた話なのに、全然上手くいかんかった。ぴえん


10話

 

那須の両親という包囲網から逃れることが出来た神園は、今度はまた別の窮地へと陥っていた。

 

「神園くんは寝相いい?悪いなら、壁側の方がいいよね?」

 

(君はもっと拒否してくれ。壁側とかそういう問題ではなく、年頃の男女が一緒のベッドで寝ることが問題なんだよ。そんな当たり前みたいに言われるとツッコミにくいし、自分の方がおかしいのかと疑ってしまう。......いや、こうなったら意地でも完徹(オール)するしかない)

 

「まさか、寝れると思ってるの?那須、1日くらい寝なくても体調は問題ないよね」

 

一応那須の体調を気遣いつつ、「当然、一晩中付き合うよね」と言質を取りにいった神園。対して、その言葉に那須の肩が跳ねる。

 

「え、そ、それって......」

 

(そ、そういうことだよね?婚前交渉は、いや、そもそも、私たちまだ付き合ってない。それに、1階にはお父さんとお母さんも!)

 

顔を真っ赤に染める那須。彼女はリビングでの褒め殺しによる精神的ダメージをまだ吸収しきれていない。そこへ神園が追い打ちをかけた。

 

「君の考えている通りだよ。寝かせないからね」

 

(拒否しないってことは、徹夜自体は問題なさそうだ。よし、これで気まずい就寝は回避できる)

 

「そ、そ、そういうことは、もう少し時間を。で、でも、神園くんが本気で責任をとってくれるなら......」

 

まったく意思疎通がとれていない二人。かろうじて会話の表面だけが噛み合っているのが、なおさら質が悪い。

 

(責任?まさか、夜更かししたら倒れるくらい身体が弱いのか?いや、無理無理。身体を壊した責任をとれなんて言われても困る。徹夜できないなら、素直にそう言ってほしい)

 

「いや、ごめん。責任はとりたくないから、那須は付き合わなくていいよ。僕が勝手に1人でやるから」

 

「え?」

 

「え、おかしなこと言った?言ってないよね。うん、責任とかまったく全然取りたくないから、那須は寝ていいよ」

 

「や、でも、それって、私が見てる中で『そういうこと』をするということになるわけで。それなら......」

 

モニョモニョと話す那須。那須の反応がまったく解せない神園。「最低」と罵られていることにも気づかない。

 

「なんか、またすれ違ってる気がする。那須はオールできないんだよね?それとも、付き合ってくれるの?」

 

二度と同じミスは繰り返すまいと、神園が言葉を噛み砕いたことで那須もようやく理解した。彼女は顔をパタパタと手で扇ぐ。

 

「......大丈夫だよ。付き合うわ」

 

神園は那須が持ってきた映画の山を確認し、これだけの量があれば朝まで問題ないと判断した。那須は頬を赤くしながら、静かに頷いた。

 

(那須にどれだけ徹夜耐性があるかは知らないけど、僕が寝なければいいだけの話。オールなんて造作もない)

 


 

午前2時。3本目の映画にディスクを入れ替えようと動いた那須は気づいた。神園が一向に感想を言わないことに。

 

「あれ、神園くん?」

 

カーペットに座っている神園の顔を、ベッドに腰掛けている那須からは伺い知れない。那須はベッドから立ち上がり、床に座る彼の顔を覗き込んだ。

 

「寝ちゃったの?」

 

すぅすぅと規則正しい寝息をたてている神園。那須が試しに頬をぷにぷにと突いてみるが、反応はない。

 

(自分から「寝かせない」って言ったのに。神園くん、意外と健康的な生活をしてるんだね。でも、普段しない徹夜をしようって誘ってくれたのは、それだけ私といてテンションが上がってたからだよね?)

 

神園の誤算は、自身の疲労を計算に入れていなかったことだ。普段の彼なら涼しい顔で徹夜できただろう。だが、今の神園は「綾辻遥の歌唱」という特級戦災のダメージを負い、その上で徹夜してお菓子を作っていたのだ。

 

薄暗い部屋、心地よい静寂、溜まりに溜まった疲労。彼が起きていられるはずがなかった。

 

「ベッドに運んであげるね。身体、触るね」

 

座ったまま眠る神園を横に倒し、那須は彼を持ち上げようと力を込める。

 

(あ、上がらない)

 

改善傾向にあるとはいえ、依然として病弱な那須の腕力では、健康体である175cmの男子を持ち上げることは叶わなかった。

 

那須はしばし悩み、とりあえず眠っている神園とのツーショットをスマホに収めてから、持ち上げることを諦めた。

 

彼女はベッドから掛け布団を下ろし、神園の横に寝転がって、二人を包むように布団を被せた。

 

(カーペットで寝るなんて、いつぶりだろう。小さい頃に寝落ちして、お姉ちゃんに怒られたなぁ)

 


 

(──綾辻さんのせいだ。昨日のカラオケのダメージが残ってたから寝てしまったんだ。......待って、僕の腕を枕にしないでくれ那須。腕が痺れてるんだけど)

 

翌朝、那須よりも先に目覚めた神園は、至近距離にある彼女の寝顔に心底驚愕した。瞬時に状況を把握し、脳内で責任転嫁を完了させる。彼は枕にされている腕をゆっくりと引き抜いた。

 

「那須、僕は帰らせてもらうね」

 

(一緒に寝たなんて気まずすぎて、今は顔を合わせたくない。よし、帰る旨はボソッと言ったからセーフだ。帰ろう)

 

眠っている那須への「挨拶」という名の生存報告を済ませ、神園はこっそりと部屋から脱出した。

 

「昨夜はお楽しみだったみたいね」

 

階段を降りきったところで、那須母に見つかった。神園は逃走コマンドを選択しようとしたが、先を越された。

 

「あ、いや、はい。僕も玲さんも映画の途中で寝てしまって。あ、玲さんは僕より遅く寝たと思うので、まだ起きないと思います。お邪魔しました」

 

「あら、朝食ができてるから食べましょう?急ぎの用があるなら仕方ないけど、あるのかしら?」

 

ニコニコとしている那須母の圧倒的な迫力に押され、神園はリビングへと連行された。そこには既に那須父が待ち構えており、神園の前に丁寧な動作でコーヒーが差し出された。

 

「......美味しいです」

 

「分かるかね。コーヒーにはこだわっていてね。玲も妻も紅茶派で、家では肩身が狭かったんだ」

 

「細かいことは分かりませんが、善し悪しくらいは。お菓子に飲み物は欠かせませんから」

 

「そうかそうか、いいことだ。神園くんが持ってきてくれたタルト、私と妻もいただいたがとても美味しかったよ。料理が好きなのかね?」

 

「料理は嫌いですし、やりません。でも、お菓子作りは好きです。お口に合ったのなら良かったです」

 

「妻がいたく気に入ってな、半分近く彼女が平らげてしまったよ」

 

「あなた?」

 

「アッハッハッハ!......さて、妻の味噌汁は絶品なんだ。神園くん、普段は朝食を食べるかね?」

 

神園の前に置かれたのは、炊きたての白米、脂の乗った焼き魚、ほうれん草のおひたし、納豆、そして熱い味噌汁。完璧な和朝食だ。

 

「まちまちですけど、大抵はコンビニのパンです。こんなに美味しそうな朝食、初めてですよ」

 

「あら、そんな風に言ってもらえるなんて嬉しいわ。おかわりもあるから、遠慮しないでね」

 

(冗談抜きで美味しい。コンビニパンとは次元が違う。比べること自体が失礼な味だ)

 

「ハッハッハ、いい食べっぷりだ。どれ、私がおかわりをよそってあげよう」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「ふふ、ちなみに玲もこのお味噌汁を作ることができるのよ」

 

「そうなんですね。玲さんの旦那さんは幸せになりますね」

 

「えぇ、神園くんがいい子を紹介してくれるって保証してくれたから安心だわ。玲好みの、ね?」

 

(──絶対に勘違いされてる。初日に「友人だ」と言ったのに、1ミリも信じてもらえてない。しかも保証内容がアップグレードされてる。笑ってるのにプレッシャーがすごい。......だから、見つかる前に帰りたかったんだ)

 

そこへ那須も起きてきて、もじもじする彼女、温かい視線を送る両親、そして1人冷や汗を流しながら味のしなくなった飯を口に運ぶ神園。

 

こうして神園は、生涯初の「お泊まり会」を終えた。

 


 

数日後。神園隊の隊室には、刺すような緊張感が漂っていた。

 

普段の神園隊で、これほど空気がピリつくことはない。神園の不遜な言動に花緒が噛み付くことはあっても、それは信頼ゆえのじゃれ合いだった。だが、今は違う。

 

「あまり気持ちのいい冗談じゃないね。まさか、本気で言ってるのかな?」

 

神園は静かに、だが明確な怒りを含んだ声で問いかけた。

 

「本気よ」

 

花緒の言葉に、神園は表情を険しくする。

 

「正気を疑う。もしかして何か変な薬でもやってる?......いや、今のは撤回する。まずは理由を聞こうか。今さんは知っているみたいだけど、僕にも教えてもらえるよね?」

 

事の始まりは、花緒の突拍子もない一言だった。

──『神園隊を抜けて、佐伯隊に入隊したい』

 

「その話が、影浦隊や太刀川隊に誘われたというなら、不本意ながら理解はできる。でも、君が選んだのは遥か下にいる佐伯隊だ。僕の記憶にすら残らない有象無象の部隊だ」

 

「神園の言う通り、佐伯隊は弱い。でも、だからこそ価値があるの」

 

「なるほど、道端の石ころをパワーストーンだと思い込んでるわけだ。だいたい、今の隊に不満でもあるの?酷い扱いをした覚えはないけど」

 

「待遇に不満なんてない。佐伯隊が『弱い』こと自体が目的なの」

 

神園は鼻を鳴らし、花緒に続きを促した。

 

「私は強くなった。攻撃手ランキング10位に入るくらいには。それは神園の特訓と、今さんのサポートがあったから」

 

(その通りだ。僕と今さんがどれだけ君の強化に心血を注いだか。今さんは戦闘ログを精密に分析し、僕はそれに基づいた、君を最短で鍛え上げるための地獄の特訓メニューを組んだ)

 

「一緒にいるうちに、ランク戦を重ねるうちに思ったの。共に戦うんじゃなくて、私は敵として、2人を越えたいって」

 

「......そこまでは、理解できる。共にA級を目指すのではなく、ライバルとして僕たちを越えたい、と」

 

「佐伯隊からは前から声をかけてもらってた。弱い隊を私の力で押し上げて、神園隊の順位を追い越す。そして直接対決で勝つ。それが、今の私が一番やりたいことなの」

 

神園は静かに頷き、視線を今に向けた。

 

「今さん、今のうちの隊の状態を説明して。花緒に齟齬なく伝わるように」

 

今は神園の意図を汲み、淡々と事実を口にする。

 

「神園隊は現在、B級暫定1位。次のランク戦が今シーズン最後で、対戦相手は『生駒隊』と『那須隊』。ここで一人負けさえしなければ、A級昇格はほぼ確実な状態よ」

 

「ありがとう。それで花緒、君は本当に、この圧倒的な好条件を捨ててまで、名もなき雑魚部隊に移りたいと思っているの?」

 

「うん」

 

「僕の隊にいた方が強くなれる。攻撃手1位は無理でも、5位以内には入れるプランを僕は立てていた。だが、君が隊を抜けるなら、僕がそれをサポートしてあげる義理はない」

 

「わかってる。自分の力で頑張るわ」

 

(神園くん、花緒ちゃんを引き留めようとしてる。私も話したけど、彼女の意思は固かったわね)

 

「なるほど。......なるほど」

 

「......引き止めてくれるのは嬉しいけど、もう決めたの。頼み込んで入れてもらったのに、本当にごめんなさい」

 

「勘違いしないでよ。引き止めてなんていないさ」

 

神園の声から温度が消えた。

 

「僕は来る者を拒まず、去る者を追わない。入隊の経緯なんて気にする必要はない。最後には僕が認めたんだ、なら君をスカウトしたのは僕だ。隊を抜けるのは君の権利だ。好きにすればいい」

 

「......ありがとう。次の、最後のランク戦までは、しっかりと神園隊の一員として──」

 

「いらない」

 

神園は冷たく遮った。

 

「他の隊に思いを馳せている人間と共闘するつもりはない。次のランク戦は、僕と今さんだけで十分だ」

 

「でも、流石にそれは無謀よ!」

 

「問題ない。花緒、君は自分の力で僕を越えるために隊を変えるんだよね?なら、見せてあげるよ。君と僕の間に、どれだけの埋められない差があるのかを」

 

神園は立ち上がり、扉を指差した。

 

「話が終わりなら、荷物をまとめて出ていってくれるかな。僕がこの部屋に戻ってくる前に。......今さん、ついてきて」

 


 

二人が去った静かな隊室で、月見花緒は深く、深く頭を下げた。

 

「今まで、本当にありがとう。神園、今さん」

 

そこへ、神園から連絡を受けた小佐野と仁礼がやってきた。

 

「月見さん、荷物まとめてるんだって?手伝うよー」

 

「まあ、アタシも丁度暇してたしな。手伝ってやるかー!」

 

突然の助っ人に驚きつつ、花緒は神園の不器用な優しさを察して、それを受け入れた。

 

(本当に......ありがとう。絶対に、すぐに追い越してやるんだから)

 

一方、廊下を歩く神園。

 

「──今さんは、抜けたりしないよね」

 

「うん。約束するわ」

 

「そっか。ならよかった。......次のランク戦、『韋駄天』を使うよ。いつも通り、完璧なサポートをお願い」

 

「いいの?B級ではまだ使わないって言ってたのに」

 

「気が変わった。目標の高さが分かった方が、花緒も頑張りがいがあるだろうからね。......まあ、越えられることはないだろうけど」

 


 

B級ランク戦最終日。1位『神園隊』、2位『那須隊』、3位『生駒隊』。

 

激戦が予想された三つ巴戦は、開始からわずか10分で幕を閉じた。スコアは9:0:0。神園隊の独走勝利。

 

ランク戦終了後の廊下、神園は生駒と遭遇した。

 

「おまっ、自分......あれなんなん?気づいたら首飛んでたで。自分、射手ちゃうかったんかいな」

 

「僕は万能手。ごめんね、見せ場もなく終わらせちゃって。バッグワームを起動してなかったから、真っ先に落としたんだ」

 

「いや、それはええねんけどな。韋駄天ってあんな動きできるもんなん?事前に軌道を登録せなあかんはずやろ?」

 

「動きながらリアルタイムで設定してるだけだよ。生駒さんも真似していいよ。......できるならね」

 

「無理やろ!あかんわ。イケメンで強くて性格アレとか、アカンやつやん。せやけどな、うちには隠岐がおる。隠岐ならイケメン度で負けへんやろ!」

 

「でも僕、美少女の幼馴染み(三上ちゃん)がいるよ?」

 

「あかん、隠岐が負けた!」

 

(面白いな、この人......)

 

「勝手に負けさせないでください。神園くん、サンキューな。イコさん、バッグワーム忘れるのが癖になってんねん。今回の首チョンパはええ薬や」

 

「この後メシでもどや?ナスカレー奢るで。もっと話聞かせてぇな」

 

「いいよ。うちのオペレーターも一緒でいいよね?」

 

「うちの可愛いマリオも一緒やからええよ!」

 

「人前でそういうこと言わないで!」

 

「可愛いマリオね。なら、うちのオペレーターは才色兼備の大和撫子だよ」

 

「もう、褒めすぎよ神園くん」

 

「!」

 

「マリオが......赤面した......やと......」

 

「たむろってると邪魔だし、食堂に行──」

 

「いた、神園くん」

 

那須と熊谷がやってきた。二人の顔には複雑な色が混ざっている。

 

「那須、熊谷。どうしたの?二人は韋駄天、初見じゃないよね」

 

「うん。模擬戦で散々やられたから。......体中、傷だらけにされたからね」

 

「熊谷、お宅のリーダーが、人の顔面を躊躇なく殴ってくる人間がおかしなこと言ってる」

 

「......そんなことより、なんで今日は一人だったの?」

 

「くまちゃん、「そんなこと」って言った?気のせいだよね?」

 

神園は、花緒が脱退した事情を簡潔に説明した。

 

「これから生駒隊とメシに行くけど、二宮さんも誘ったし那須たちもどう?ナスカレー奢ってあげるよ。僕と今さんの分は、生駒さんが奢ってくれるらしいから」

 

「隠岐、隠岐!」

 

「はいはい。イコさんが、別嬪さん二人の分も奢ったるから安心しぃ、言うてます」

 

(なぜ通訳?)

(どうして通訳なんだ......。それにしてもナスカレー、絶対ナスとカレーは合わないと思うんだよね)

 


 

A級昇格を決めた数日後。神園は加古から誘いを受けた。

 

『神園くん、お祝いにご飯でもどう?』

 

彼は10分ほど悩み抜き、返信した。

 

『なら、僕の家に来ませんか。いつも炒飯をご馳走になってるお礼をさせてください』

 

というわけで、二人は神園宅近くの小さなスーパーにいた。

 

「加古さん、カゴは僕が持ちます」

 

「あら、そう?......それで、何をご馳走してくれるのかしら?」

 

「白米、焼き魚、卵焼き、肉じゃが、味噌汁。これでどうですか?希望があるなら聞きますけど、僕に作れる範囲で」

 

「いいえ、素敵な献立ね。楽しみだわ」

 

買い出し中の二人の姿は、傍目には仲睦まじい姉弟、あるいは......。この様子をレジで見ていた神園ファンの女子高生バイトは静かに撃沈した。

 


 

「ご馳走様。美味しかったわ。料理が嫌いなんて信じられない」

 

「苦手じゃなくて、嫌いなだけですから。......あ、デザート食べます?いちご大福です。明日、歌歩に渡そうと思ってたやつですけど」

 

「いただくわ。神園くんのお菓子、すっごく美味しいもの。真衣(黒江)なんて離さないんだから」

 

食後。手製のいちご大福を頬張る加古。温かい紅茶が注がれる。

 

「神園くん、どうして料理が嫌いなの?お菓子作りは好きなのに」

 

和やかな空気の中、加古がずっと気になっていたことを尋ねた。

 

「嫌いな理由......歌歩以外に話すのは初めてです。まあ、加古さんならいいですよ。言いふらさないでしょうし」

 

神園はいつもの淡々とした口調で話し始めた。

 

「僕の両親、共働きで忙しい人たちだったんです。物心ついた時からテーブルには金が置いてあって、それでコンビニ弁当を買う毎日でした。一緒に何かをした記憶も、食卓を囲んだ記憶もありません」

 

加古の脳裏に「虐待」という言葉がよぎる。だが、彼女はまだ口を挟まない。

 

「サイドエフェクトが発症して苦しんでいた時も、『仮病だ』と言われて看病すらされませんでした。......脱線しましたね。そんな、顔も声もよく知らない親でも、当時の僕は構って欲しかった。一緒にいたかった」

 

「それで思いついたのが、料理。僕が好きだったハンバーグを必死に調べて、一生懸命作りました。帰ってくる親のために、冷蔵庫に入れてメモを添えて」

 

「翌朝、顔を洗うより先に冷蔵庫を確認しました。食べたかな、美味しかったかなって。......でも、冷蔵庫にはなかった。食べたんだと思って喜んだのも束の間、キッチンの三角コーナーに、僕が作ったハンバーグとメモが捨てられていました」

 

神園は自嘲気味に笑う。

 

「初めての料理でしたから、今思えば不味かったでしょう。でも、料理をすると、生ゴミを漁っていた自分を思い出すんです。......お菓子作りは思い出さないから好きですけどね。両親を恨んではいませんよ。金は遺してくれましたし、恨めるほど知りませんから」

 

「......今となっては、どうでもいいことです。過去に囚われるのは格好悪いし、どうでもいい人たちに振り回されるのは馬鹿らしい。那須家を見て、愛されるということが分かったからこそ、吹っ切れました」

 

「神園くん。......一回、外に出てくれる?」

 

「え?」

 

唐突な加古の指示。彼は戸惑いながらも家から出された。

1分もしないうちに、LINEで『入ってきて』と届く。

 

「入ります......」

 

扉を開けた瞬間、声が響いた。

 

「おかえりなさい」

 

「え、」

 

その言葉には、今まで彼が受けてきたどの「いらっしゃい」とも違う感情がこもっていた。

 

神園冬は、泣いた。

玄関で、子供のようにポロポロと涙を流した。

 

加古は何も言わず、彼を抱きしめた。幼い子供を慈しむように。

お祝いなのに、まだ何もしてあげられていなかったから。彼が一番欲しかったものを、この場所で。

 

 


 

 

 

月見花緒←勘違いしないで。引き止めたんじゃなくて事実確認しただけだから。1度去った隊員を受け入れるほど、僕は優しくないよ。本当にいいの?後悔しない?なんの価値もない石ころの元に行くのなんてやめた方がいいんじゃない?いやまあ、別に君が決めたことなら口出ししないけど。でも、なに?僕を越える?僕の隊より強くなる?やってみなよ、できるものならね

 

今結花←君はいなくならないでね

 

那須玲←良い家族だったね。あと、君もしかして僕とお母さんの話聞いてた?

 

熊谷友子←うちの隊に来る?

 

加古望←好感度急上昇中

 

佐伯竜司←石ころの分際で僕の隊から引き抜きを成功させるなんてやるじゃないか。人の隊の人間をスカウトするなんて、恥を知れ恥を。僕は君のこと全く知らないけど、きっとすごい人なんだろーなー!!あーーあー!僕の前に現れるな

 

 

 

 

月見花緒→ごめんなさい、ありがとう

 

今結花→うん

 

那須玲→き、聞いてないし、録音もしてないよ

 

熊谷友子→行かない。私は那須隊だから。最近玲が傷物になれば..,って呟くんだけど、何か知ってる?

 

加古望→お気に入り。泣き顔を見たら、少しクラっときたかも。年齢差はそこまでじゃないし....

 

佐伯竜司→来たのは本人の意思。どうこう言われる筋合いはない

 

 

 

 

 

載せる機会がなかった花緒

 

 

 

 

 

 

 

 

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