ワートリ〜顔が良い内弁慶〜   作:Mr.♟️

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11話

 

9月1日、神園はボーダー隊員の入隊式に訪れていた。以前とは違い、オペレーターの入隊式ではなく、C級隊員の入隊式だ。隣には今結花を伴っている

 

「諏訪さん、新入隊員のレベル低くない?なーんで、あんな弱体化された仮想近界民相手に2分も3分も時間かけてるの。このままだと、僕と今さん無駄足なんですけど」

 

「うるせぇ、制御室に入れてやったんだから大人しくしてろ。」

 

入隊式の進行は嵐山隊が、裏からのサポートは諏訪隊が行っている。神園は諏訪にお願いし、同席させてもらっている

 

「どの道、神園のお眼鏡にかなう隊員はいないだろ。基準が高すぎる」

 

「そんなことないよ、堤さん。今さんと相談して30秒以内の人間をボーダーラインにしたから。このゆるゆるのラインなら、多分2.30人は隊員候補が出来るはず」

 

「アホか、妥協したみたいに言っても妥協できてねぇからな。今、お前もこのバカを止めろよ」

 

「最初は10秒以内の人を対象にするって言ってたの。神園くん、ちゃんと考えたのよ?」

 

(ダメだこいつら。今の基準が一般人から神園寄りに近づいてる。30秒以内も10秒以内でのクリア者もでねぇよ。最近の合同防衛任務で今の指示が厳しい理由がよく分かったぜ、こんちくしょう)

 

 

 

『木虎藍、9秒』

 

「木虎藍、いいね。初めて使う銃手トリガーで9秒は優秀だ」

 

「トリオン量が少ねぇが優秀だって前評判だ。嵐山隊が目をつけているらしい」

 

「流石諏訪さん、情報通だね。嵐山隊と取り合うのは分が悪い。ボーダーの顔は知名度があるからなぁ」

 

(トリオン量はなんとかなる。本人のやる気次第ではあるけど、防衛任務の時に限界までトリオンを使わせればいい。まあ、トリオン切れになった木虎をフォローしてあげる必要はあるけど)

 

『草壁早紀、28秒』

 

「また銃手トリガーで30秒切った。すごいね、優秀だね。本当にスカウト候補が増えそうだ」

 

(うげっ、目をつけやがった。うちの隊が狙ってたやつなのに。お前は嵐山隊と木虎を争っとけよ)

 

「次の人は何秒だろうか。もしかして、1秒切る隊員とか出てくるかも」

 

「今期で1番優秀なのは木虎さんって話だから、これ以上早いタイムはでないんじゃないかしら?」

 

神園の期待虚しく、今の言葉が的中。木虎のタイムどころか、30秒を切る隊員さえ出なかった

 

 

「2人か。まあでも、基準を満たしてくれた隊員がいたことを幸運に思おうかな。堤さん、諏訪さんによろしく伝えといて」

 

全員の計測が終わり、神園と今はスカウトに動く。5分ほど前に腹痛で席を外した諏訪を待つようなことはしない

 

「もう行くのか?せっかくだから、もう少しゆっくりして行ったらどうだ?」

 

「良い人材は可及的速やかに確保すること、うちの隊の方針なんだ。せっかくのお誘いだけど悪いね、堤さん」

 

「そういうことなの。ごめんなさい、堤くん」

 

(ぐっ、足止めは出来なかったか。諏訪さん、草壁のスカウト頼みます。願わくば、神園達が草壁よりも先に木虎の方に行ってくれれば)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おいおい、なんで木虎と一緒にいるんだよ。神園が来たら見つかんだろ)

 

「諏訪さんもスカウトに?俺は木虎をスカウトしにきたんだが、」

「嵐山、ここで悠長に喋っている暇はねぇ。お互いに別の場所でスカウトしようじゃねぇか。俺は空き部屋でじっくり話すから、お前は廊下で木虎を口説いて構わ」

「あれれ、おっかしいなぁ。腹痛の諏訪さんがこんな所にいるなんて。トイレ、反対ですよ」

 

(堤!足止めがザルすぎんだろ!)

 


 

「待て待て、俺とお前の仲だろ?トリガーを取り出して何をするつもりだ?なぁ、おい?」

 

「嘘つきは許すべからずと、うちのオペレーターが言っているので。諏訪さんの介錯を務めようかと。ほら、諏訪さんと僕の仲じゃないですか」

 

(今さん、分かるよね?)

 

(了解)

 

「嘘つけ、絶対言ってねぇぞ。今のやつがそんな物騒なこと言うわけねぇだろ。話せばわかる。俺は草壁をスカウトするから、その間お前は木虎をスカウトすればいい」

 

(これで神園を嵐山に押し付けることが出来れば、まだチャンスはある。B級1位とスカウト勝負なんて不利にも程がある。なんとしても、神園を向こうに押し付ける)

 

「いや、それは俺が困る。木虎はうちの隊に是非とも欲しい。神園は先に草壁さんとの交渉にあたるべきだ。そのあとに木虎と話せばいいだろ?」

 

(神園とスカウト対決なんて出来れば避けたい。隊としてはうちがA級9位で勝っているが、個人ランキングの話を出されればどちらに転ぶかはわからない)

 

「諏訪さん、嵐山さん。そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか。僕たちはお互いに見込みのある隊員をスカウトしにきた。それだけなのに、2人して僕を押し付け合うなんて、僕が傷つくとか思わないわけ?」

 

「面倒な敵を避けたいのは当たり前のことだろ。傷ついたなら、LINEでも電話でも付き合ってやる。だから、傷ついて戦意喪失してくれ」

 

「諏訪さん、最近僕に対して酷いよね。戦意喪失しろって言われたら、戦いたくなるのが思春期なんだよね。知ってた、僕って思春期真っ只中の高校生なんだよ?」

 

「めんどくせぇ」

 

(神園は諏訪さんに噛み付いたから、俺は今のうちに木虎を──)

 

「って、いなくなってる」

 

「あ?何言ってんだ、嵐山。木虎と草壁なら、、、いねぇな」

 

「諏訪さん、嵐山さん。2人とも甘いよ。僕の事なんて無視してアプローチ仕掛けないと」

 

「まさか、テメェ」

「今さんがいない。なるほど、やられたのか」

 

「数は力だよ。諏訪さんのヤンキーが猫を拾ってるギャップキュン作戦も、嵐山さんの知名度を利用した説得力のある話術も、やらせなければいいんだ。僕の作戦勝ちだね」

 

「なんだその、ギャップキュン作戦って。俺はそんなの知らねぇぞ」

 

「君に素直に褒められると照れるな。まあ、神園のスカウトが上手くいくとは限らない。失敗した時は、今度こそうちがもらうよ」

 

「ったく、出し抜くつもりがやられたな。仕方ねぇ、お前が失敗することを願うか」

 

「諏訪さん、人徳の差がでてるよ。まあ、嵐山さんも無駄な期待はしないことをおすすめしますよ。僕と今さんが失敗するはずがないですからね」

 


 

嵐山と諏訪と別れたあと、神園は自身の隊室に向かった。今が草壁と木虎を招いているからだ

 

(今さんならきっと、和やかな空気を作ってスカウトしやすい状態にしてくれているに違いない。いやむしろ、既に話が終わってる可能性もある。そうだといいなぁ)

 

タッチパネルに触れ、ドアを開く

 

「ただいま戻りまし──」

 

(なんか、バチバチしてるんだけど)

 

「神園くん、戻ってきてくれてよかった。実は」

「B級1位、射手ランキング2位、銃手ランキング1位、狙撃手ランキング10位、攻撃手ランキング4位、個人総合ランキング3位の神園先輩ですね」

「私と木虎、どっちが本命のスカウトですか。スカウトでいいんですよね、これ」

 

(全員一斉に喋らないで。なるほどなるほど、今さんが僕の紹介も済ませてくれてるみたいだね。木虎と草壁、どちらが本命のスカウトか?うわっ、まさかこの2人仲悪かったりする?)

 

「まずは自己紹介からしてもいいかな。B級1位神園隊の隊長、神園冬です。草壁さんの言う通り、2人をスカウトするために僕たちの隊室に来てもらった。来てくれてありがとう」

 

『木虎さんと草壁さん、ライバル意識があるみたい。草壁さんは表面にだしてるけど、木虎さんは気にしてない風で気にしてる。どうするの?』

 

今は神園にトリオン体での通話で現状を伝えた。神園は考えた。今の言うどうするは、ライバル意識のある2人をスカウトするのか、それとも片方に絞るのか

 

(B級1位、現時点でA級に最も近い隊。隊長はA級を差し置いて個人ランキング上位。実力は疑う余地もない。それに、入隊日当日に声をかけてくるってことは、私のことを高く評価しているはず。それとも、私のトリオン量を知らない?)

(木虎よりも私が本命って言ってくれたら、この隊に入ろう。神園先輩の実力は今先輩から見せてもらったログと話で嘘じゃないのは分かってる)

 

「今回のスカウトは私たちのトリオン能力を知った上ですか?」

 

「ある程度は。仮にトリオン能力で劣っていようと、カバー出来る潜在能力があると僕は判断した」

 

(私のトリオン量が平均より低いことを知っているのね)

 

「なるほど。ですが、私の戦いを1度見ただけでスカウトするのは早計では?」

 

「1度見ただけでスカウトしたいと思った。僕は自分の目を信じてる。それに、のんびりしてたら君たちを他の隊にとられるからね」

 

「なるほど、よく分かりました」

 

(すっごい褒められる。気分がいい。子ども扱いもしてこないし、隊長はかっこいい。この隊大当たりじゃない?いやいや、でも即答はダメね。もしかしたら、他の隊からスカウトされるかもしれないし、落ち着いて考えましょう)

 

気分よく会話をした木虎はどうするか悩み、少しの間だけ口を閉じた。その隙に草壁が口を開く

 

「あの、私の質問に答えてもらってないんですが」

 

「木虎さんと草壁さん、どっちが本命のスカウトかって話かな?」

 

「はい」

 

(私に決まってるでしょ。私は9秒、あなたは28秒。19秒も差があるんだから)

 

「どっちも優先度は変わらない。強いていえば、僕の誘いに早く快い返事をしてくれた方が本命かな。実力は木虎さんが現時点では勝っているけど、今後の訓練次第で充分ひっくり返せる」

 

(まあ、僕が指導をしたらの話だけど。木虎は確認したいことはしたみたいだけど、ここで回答するつもりはなさそう。草壁は質問を無視されたからか、不満そうだ。これは2人とも失敗したかな。ごめんね、今さん。隊員募集は難しい)

 

(はぁ?さっきまであれだけ私の事賞賛しておいて、優先度は変わらない。なにそれ。あ、もしかして、そういって私たちを焦らせてここで言質をとろうって魂胆ね。そんな詐欺師まがいな手に)

「入隊します」

 

「え?」

「は?」

 

神園と木虎は思わず、すっとんきょんな声を出してしまった。先程までの不満そうな表情は見る影もない。草壁早紀は誰が見ても明らかな程に、勝ち誇っていた。木虎藍の方を向いて

 

「これで、私の方が優先順位が高いんですよね?」

 

(はぁ?そうなるわけが──いや、なる。さっきの言葉を信じる限り、そうなる。1位の私が、2位のこの子より優先順位が低いことになる。考えなさい、仮に回答を後日に引き伸ばしたところでこの隊より上の隊からスカウトされるとは限らない。むしろ、こない可能性が高い。だって、私はまだ入隊したばかりのC級隊員。実力も顔もボーダー内で売れてない。そうなると、結局この隊からのスカウトを受けることになる。決断力、そう私が決断力で2位の草壁早紀に負けるなんてありえない)

 

「そうだね。草壁早紀、君の方が木虎藍よりも優先順位が」

「言いましたから」

 

「え?」

「は?」

 

木虎の発言に、神園と今度は草壁がすっとんきょうな声を出すことになった

 

「私も、彼女が言うのと同時、もしくは少し早いタイミングで『入隊します』って言いましたから」

 

(今さんの憶測があたってる。本当にライバル意識バチバチだ。それはそうと、この子たち将来詐欺にあったりしないよね?大丈夫そう?)

 

「なるほど。なら、やっぱり優先順位は2人とも同じくら」

「言ってないです。木虎は言ってません。言ってたとしても、私が先に言いました」

 

「同時です。同時に言いました。もしくは、私の方が少しだけ早かったです」

 

「言ってない。絶対言ってない」

 

(子どもか!って、子どもだね。中学生だもんね。うわぁ、絶対巻き込まれる。僕に最終的に振られる。今さん、あとは上手くやっといてね)

 

「「神園先輩!どっちが先でしたか!!」」

 

神園の予想通り、ジャッジは彼に求められた。しかし、既に逃亡しており、部屋にいるのは今のみ。今は適当な理由をでっち上げた

 

「神園くんなら、本部から呼び出しがあったみたい。2人が早くB級に昇格するのを待ってるって言ってたわ」

 

(隊に入れるのはB級に昇格してからだからね)

 


 

木虎と草壁をスカウトしてから1ヶ月。隊室が険悪な空気になることはなく、上手く回っている。余談だが、木虎と草壁は3日でB級へと昇格した

 

「神園先輩、明日暇ですよね?模擬戦付き合ってください」

「明日は私が見てもらうの。草壁、あなたは遠慮しなさい」

 

「わぁ、僕の予定が勝手に決められていく。僕に土曜日は存在しないのかな?」

 

「しないわね」

 

「まあ、明日は無理なんだけどね。あ、明後日も無理だよ」

 

草壁と木虎は、物の見事に神園と今に懐いた。ナチュラルに傲慢な発言はあるが、年下には基本優しい神園。そもそも、人を下さないし優しい今

 

「....」

「はぁ?」

 

「いやいや、拒否っても威圧しても無理だからね」

 

「ごめんなさい」

「用事あるんですか?ないですよね?あったとしても、キャンセルしてください」

 

両極端な反応を示した草壁と木虎。しょんぼりと悲壮感漂う草壁、キャンセルさせようとする木虎。微笑ましそうに眺める今

 

「文化祭だから、明日と明後日」

 

「文化祭、遊びに行きます」

「まあ、そこまで言うなら行ってあげてもいいですも」

 

「あら、なら皆で行きましょうか。私も行こうと思っていたし」

 

「また勝手に話が進んでる。別に来てもいいけど、うちのクラスには来ないでね。面白いことは何もしてないから」

 

「神園先輩のクラスは何するんですか?」

 

「秘密」

 

質問に答えてもらえず、ぷくっと頬を膨らませそっぽを向く草壁。出し物を知っている今が草壁と木虎に教えてあげる

 

「執事喫茶をするのよね。三上ちゃんから聞いたわ」

 

「オペレーターの情報網が憎い。そうですよ、そうです。知り合い相手に給仕とかしたくないんで、僕のクラスには来ないでください」

 

「行きます」

「指名料かかりますか?」

 

「指名料は100円。いや、だから、こないでってお願いしてるんだけど」

 

「折角行くのなら、働く神園くんを見ないと勿体ないわ」

 

「指名がなかったら働かなくてもいい約束だったのにぃ」

 

嘆く神園。指名なしで、バックヤードでサボろうという目論見は敗れた

 

 

 

今結花←いてくれるだけで、周りを上手く回してくれる。頼りになる

 

草壁早紀←真面目で正直。褒められ待ちしている時に褒めないと、1時間くらい拗ねる。年相応で可愛らしい。諏訪さんから生意気だって苦情が入った

 

木虎藍←ツンツンしてる。褒めてもツンツンしてるけど、口元が緩んでる。年相応で可愛らしい。菊地原から生意気だってクレームが入った

 

真木理佐←文化祭に来てくれるの?いや、来ないで欲しいかな。僕の仕事が増えるから

 

綾辻遥←文化祭のメニュー?オムライスとか、ロシアンたこ焼きとか。平凡なのしかないよ。自分のクラスの出し物に集中しなよ

 

月見蓮←妹さん、うまくやってるみたいですね。あ、風の噂で聞いただけですけど

 

仁礼光←影浦隊で遊びに来る?勘弁して、僕の仕事を増やさないで

 

氷見亜季←文化祭の休憩時間にでも、少し話そうか。君のクラスに行くから。僕、嫌われるようなことしたかな?避けられるようなことした覚えがないんだけど

 

小佐野瑠衣←諏訪隊で遊びに来るの?ごめん、ヤンキー入店拒否だから

 

 

 

 

今結花→アイコンタクトできる仲

 

草壁早紀→神園先輩、優しいかっこいい。今先輩、優しい可愛い。スーツ、大人っぽい。新人だからって、他の隊に舐められないよう頑張らないと!

 

木虎藍→キリッ。指導はスパルタだけど、こなしたら褒めてくれる。厳しさは期待の表れ、優しさは正当な評価報酬。何故か手作りの飴を常備してる。たまに偉そう。隊服のスーツは概ね満足。新人が2人入隊した隊って舐められないように頑張る

 

真木理佐→あ、でも、その、文化祭に、迷惑、かしら

 

綾辻遥→休憩時間に遊びに行こー

 

月見蓮→あら、妹のこと気にしてくれてるのね。佐伯くんから、隊長の座を乗っ取ったみたい

 

仁礼光→はたらけー。わくわくドキドキ

 

氷見亜季→辻くん、助けて。二宮さんでもいいから

 

小佐野瑠衣→諏訪さんは大学デビューだからだいじょーぶ

 

 

 

 

素直にスーツを着てくれた草壁ちゃん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

隊服をもらって嬉しい木虎ちゃん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は入隊直後の2人と神園の閑話
次々回に文化祭を書きまする


今回の木虎と草壁は、上手くできた方だと思う
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