ワートリ〜顔が良い内弁慶〜   作:Mr.♟️

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閑話1

 

〔TRIGGERSET〕

 

木虎藍

 

主トリガー

 

孤月

 

旋空

 

グラスホッパー

 

シールド

 

 

 

副トリガー

 

スコーピオン

 

スパイダー

 

シールド

 

バッグワーム

 

 

 


 

神園先輩。隊の隊長で、お世辞にもトリオン量が多くない私を入隊当日にスカウトした人。偶にナチュラルな上から目線発言はあるけど、顔はいいし、基本的には優しくて非の打ち所がない。でも──特訓になると別人のように厳しい。口調が悪くなるとかはないけれど、いつも通りのテンションのままスパルタになるから最初は驚いた

 

「いい動きだったよ。最後まで諦めることなく、考えながら戦ってるのがよくわかった。でも、まだ甘いね。考えてから動くんじゃない。考えながら動くんだ」

 

私が神園先輩指導のもと行っているのは『サドンデスモールモッド』だ。神園先輩が考案した特訓内容で、それを今先輩が形にしたものらしい。最初は一体のモールモッドが敵。次に二体、次に三体とどんどん増えていく。私は三体になったモールモッドの壁に阻まれている。当然ながら、他の隊員の特訓内容と比べてスパルタなのは言うまでもない

 

「でも、悪くないよ。入隊してからの短期間でモールモッドを倒せる時点ですごいんだから。木虎の能力の高さと努力がよくわかる」

 

これだ。神園先輩はスパルタ特訓をしてくるし、改善点とかも容赦なく指摘してくるけど、それと同じくらい褒めてくれる。マッチポンプだけど、この人に褒められるのは認められた気がして嬉しい。スパルタなのは、私も望んでいるところではあるので問題はない

 

「まだまだです。私はもっと出来ますから」

 

「期待してるよ。でも、一旦休憩にしようか。大福を作ってきたから、僕と一緒に食べてくれないかな?」

 

「仕方ないですね、付き合ってあげますよ」

 

私は最初の頃、神園先輩の休憩する指示を断りまくっていた。速く強くなりたかったし、10月から行われるランク戦で足を引っ張りたくなかったから。期待された分、結果で答えたかったから

 

それが、トリオン量が少ない私を見出してくれた先輩に対しての恩返しになると思ったから

 

でも、神園先輩の考え方は違った。『闇雲にやればいいってわけじゃない』と諭すように言われた。そう言われても素直に休憩を受け入れなかった私に対して先輩がとった方法が、一緒に休もうと誘ってくれることだった。断りにくいようにわざわざ手作りのお菓子を持参してくれた先輩の善意を無下にはできず、1度付き合ったらそれからも同じ方法が使われてる。断じて、お菓子が美味しいから誘いを断れないわけではない

 

「草壁もまだ3体はクリアしてないですよね?」

 

「してないよ。2人とも3体の壁にハマってる」

 

よかった。それなら、焦ることなく休めそう。もし草壁が私よりも先にクリアしてるなら、先輩の誘いと言えど断らないといけない。お菓子は惜しいけども

 

「神園先輩は私と草壁、どっちが先にモールモッド3体を倒せるようになると思いますか?」

 

「草壁かな」

 

私の質問に対して、先輩は迷うことなく答えた。その答えは、少なくとも私が求めていたものではなかった。何故、どうして。私は自分が草壁に劣っているとは思っていない。事実、私の方が強いはず

 

「──トリオン量。草壁のトリオンは僕や二宮さんほどでは無いけどかなり多い。トリオン量の多さが戦略の多様性に繋がる」

 

「それじゃあ、神園先輩は──私が草壁に実力が劣っていると思っているってことですね」

 

自分でもわかるくらい声に怒気がこもっている。神園先輩は私の質問に答えてくれただけで、それに怒るのは筋違いかもしれないけど、感情が言うことを聞いてくれない。認めてもらえていると思っていたから。トリオン量が少ない私でも、実力をかってもらえてると思っていたから

 

「いや、現時点で戦ったら木虎が勝つと思うよ。ただ、モールモーッド3体を同時に相手取るのは、戦術の選択肢が多い草壁の方が早いと思う」

 

「私の方が強いなら、私が先に3体倒せるようになるはずでは?」

 

──なるほど。私が勝手に考えすぎていたみたいね。でも、だとしたら納得できない。私>草壁なら、サドンデスモールモッドで先のステージに進めるのが私じゃないとおかしい

 

少しの沈黙の後、神園先輩は口を開いた

 

「木虎」

 

「....なんですか」

 

「君は、自分に足りないものがトリオン量だけだと思ってる?」

 

「思ってません。トリオン量以外の部分でも、まだ私には足りない部分があります──でも、草壁よりは強い自負があります」

 

神園先輩は私の言葉を聞いて、手元に置いたタッパーの蓋を閉じながら、静かに言った

 

「僕が言いたいのはね、戦闘の優劣と訓練の突破速度は必ずしも一致しないってこと」

 

「その2つはイコールのはずでは?」

 

どちらも必要なのは実力だ。一致していないとおかしい

 

「違うよ。例えば木虎、君は冷静で判断力がある。でも、そのぶん一手一手が慎重になりやすい。判断してから動くタイプだ。対して草壁は、動きながら考えている。今はまだ、動きも考えも甘くて明らかに無茶な動きの時もあるけど──続けていけば伸びる戦い方だ。失敗を恐れていない」

 

その言葉には、妙に説得力があった。神園先輩の人となりなのか、今まで残してきた結果があるからか。説得力の源がどちらにせよ、私は言葉に詰まった

 

「現時点の実力は君の方が上。それは間違いない。だからって、全ての課題で勝てるとは限らない」

 

私は唇を噛む。たしかに私は、馬鹿みたいな失敗をしたくないと思っている。失敗するのが嫌だから、1度止まって考えてから動いている

 

「....そういうものなんですね」

 

でも、それがダメなことだとは思っていない。失敗する可能性を、リスクを抑えるために必要なことだと思っている

 

「考えてから動く、考えながら動く。似ているようで、難易度は全く違う。前者が木虎で後者が草壁だよ」

 

「ですが、考えてから動くことが悪いことなんですか。私にはそうは思えません」

 

「悪くないよ。状況次第ではその方がいいこともある。でも、考えながら動くができる人間は考えてから動くこともできるけど、反対は必ずしもできるわけじゃない。なにより、戦闘中に思考と行動を並行できないのは危険だからね」

 

「木虎、今のままだと君はB級上位の実力者になれても、A級上位にはなれない。最初は出来なくてもいい。失敗を繰り返せばいい。君の実力なら──近いうちに結果もついてくる」

 

「トリオン量も大きな問題じゃない。必ず向上する、僕が保証するよ」

 

「君が諦めない限り、僕は何時までも指導するよ。だからさ木虎、殻を破ろう。失敗を恐れず、挑戦しよう」

 

「──はい!」

 

草壁に、ライバルに負けたくない。ここまで言ってくれる神園先輩の期待に応えたい。先輩の言葉を信じたい──やってやる、やってやるわよ

 

「考えながら動くことに関しては、草壁が1歩リードしているかもしれないけど、君ならすぐにその差を埋めることができるよ」

 

そう言って私に微笑んでくれた先輩の横顔は──絵になるくらい美しかった

 

 

 


 

〔TRIGGERSET〕

 

草壁早紀

 

主トリガー

 

スコーピオン

 

テレポーター

 

グラスホッパー

 

シールド

 

 

 

副トリガー

 

スコーピオン

 

ハウンド

 

シールド

 

バッグワーム

 


 

 

《トリガーオン》

 

『トリオン反応確認。この反応は──モールモッドです。確認できた個体は3隊!神園隊長、草壁隊員、移動を開始してください』

 

『了解』

『了解』

 

私と神園先輩は、今先輩の通じに短くそう返した。防衛任務、今日は木虎は都合が合わずいない。私と先輩だけだ──私にとって、初めての防衛任務

 

「行こうか」

 

神園先輩が私の隣で静かに声をかけてくれる。先輩の目は戦闘前にもかかわらず、まるで何気ない散歩でも始めるような落ち着きを保っていた

 

私は小さく頷いた。訓練とは違う、初めての実戦──本物の任務だ。失敗はできない。足を引っ張るわけにはいかない

 

そしてなにより、この人に、神園先輩に失望されたくない

 

グラスホッパーで跳躍し、先輩の後を追って屋根の上を駆ける。風の冷たさが火照った頬をなでていく

 

「もしかして、緊張してる?」

 

前を走る神園先輩の声。振り返らずとも、私の様子を察したのだろう

 

「いえ、してません」

 

咄嗟に出た言葉は、自分でもわかるくらい嘘だった

 

「──無理はしなくていいよ。大丈夫、僕がいるから」

 

その一言が、肩に入っていた力を少しだけほどけた

 

 

 

 

数分後、私たちは現場に到着していた

 

「固まってくれてるなんて、好都合だね。向かってくる、ここで迎え撃とう。草壁、こっちへ」

 

「はい!」

 

先輩の指示で遮蔽物の陰へと身を沈める。私はスコーピオンを両手に構え、気配を研ぎ澄ました。これが実践、訓練とは空気が違う。緊張感が違う

 

やがて地面を這うような音とともに、モールモッドの姿が現れる

 

「撃つよ」

 

神園先輩の声と同時に、右手上にあるキューブから伸びたバイパーが、くねるような軌道を描いて飛ぶ。それはモールモッドのコアを正確に射抜き、モールモッドは活動を停止した

 

「....すごい」

 

私は思わず息を呑んだ。弾道の軌跡が、視線に残像のように焼き付いて離れない。それ程までに美しい軌道だった

 

「あと2体。切り替えていこう。草壁、一体は任せてもいいかな?もう片方は僕が処理するから」

 

「はい!」

 

先輩に任せてもらえた。始まった時に感じていた緊張はもうない。ただ、先輩の期待に応えるだけ。私は跳躍し、2体目へと距離を詰める。それと同時に、神園先輩のメテオラがモールモッドの腕装甲に当たり、モールモッドは守りに必要な盾でもあり攻撃にも必要な牙を失った

 

 

「やあっ!」

 

武装解除されてるといっても過言ではないモールモッドを倒し、視線を最後のモールモッドへと向ける

 

「いい動きだよ、草壁」

 

──残りの最後の一体も倒せば、先輩にもっと褒めてもらえるかも。そんな考えが、頭をよぎった

 

「ラストも私が倒します!」

 

返事を聞く前に私はグラスホッパーを連続して踏み、モールモッドの攻撃に当たらないよう気をつけながら接近する

 

 

 

 

 

 

──そして、私は見えた。モールモッドがこちらに気づき、振りかぶった腕をこちらへと振り下ろす予兆を。

 

(速い....でも、いける!)

 

モールモッドの攻撃が始まる直前、神園先輩のバイパーが私の横を抜けて飛ぶ。軌道はまるで私を守るように曲線を描き、モールモッドの足元──ちょうど動き出そうとした膝を撃ち抜いた

 

「──っ!」

 

モールモッドの体勢が崩れ、攻撃のタイミングがずれる。その一瞬が、私にとって十分すぎる隙だった。テレポーターを発動

 

瞬間移動でモールモッドの背後に回り込み、刹那、背中からスコーピオンを突き立てる。モールモッドが振り返るより早く、私は跳び退いて距離を取った

 

「これで──!」

 

モールモッドのコアが砕けた。最後の一体がその場に崩れ落ちる

 

『3体目の反応消失、確認。任務完了です。神園くん、草壁さんお疲れ様』

 

私の心臓は高鳴っていた。息は少しだけ乱れている。どこか、満たされた気持ちだった

 

「初めての動きとは思えないよ。お疲れ様」

 

神園先輩が私の元に歩いてくる。いつもと変わらない口調。でも、少しだけ、口元がほころんで見えた

 

「先輩の援護があったからです」

 

本心だった。私ひとりではあのタイミングで仕留めきれなかった。神園先輩が私の動きとモールモッドの動きを同時に見ていたからこそ、あのバイパーの一撃が成り立ったのだ

 

(私ひとりで倒したわけじゃない。だけど──)

 

それでも、私は今はっきりと任務を果たしたと胸を張れる。先輩に背中を任せ、信頼され、そのうえで力を発揮できた

 

(神園先輩は、ちゃんと私を見てくれてる)

 

訓練でも、ミスをした時も、今回のように張り切って前のめりになった時も。先輩は見てくれている。間違いなく支えてくれている。だから私は、目の前のことに集中できる。失敗を怖がらずに動ける

 

それが、こんなに心強いなんて──ボーダーに入ってから初めて知った

 

(──それと)

 

同時に思い出す。木虎藍の存在

 

(木虎だったら....全部、1人でやってのけたんだろうか)

 

木虎は私と同じように新入りだ。でも彼女は、初めから同期の他の誰より実力があった。誰より速く結果を出していた。木虎の初めての防衛任務は、先輩が同行しているものの、援護なしでバムスターとモールモッドを倒したと話を聞いた

 

(私は──まだ、そこには届かない)

 

先輩のフォローがある前提だから自由に、好きに動ける。先輩は、木虎と違う私を見てくれて、私にできるやり方で初めての防衛任務をいい経験で終わらせてくれた。その事は嬉しい

 

 

 

でも、木虎に負けたくない。木虎に追いつきたい。1番になりたい

 

(──同じ隊だけど、負けたくない)

 

木虎は強い。才能があって努力家で。でも、それでもなお、私にも意地がある。先輩に認めてもらった自分で、木虎と並びたい。追い越したい。誰よりも早く、強く──先輩に、私を選んでよかったと思ってもらえるように

 

「──ありがとうございました、神園先輩」

 

「え、うん。僕は何もしてないよ?」

 

「いえ。ただ、今日のこと、絶対忘れません」

 

私の言葉に、神園先輩は少し困惑した様子を見せた。そして、それから静かに頷いた

 

「よく分からないけど、何かを掴んだみたいだね。焦らなくていい、1歩ずつ前に進んでいけばいいんだから」

 

──私の中にあった恐怖も、焦りも、重圧も、少しずつ形を変えていく。今はただ、悔しさも嬉しさも全部含めて

 

 

──もっと強くなりたいと、期待に応えたいと、負けたくないと、心の底から思った

 

(私を選んだこと、後悔させません...!絶対に)

 


 

 

 

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