ワートリ〜顔が良い内弁慶〜   作:Mr.♟️

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12話

 

10月上旬。六頴館高等学校学園祭──

 

「神園くん!また指名だよ!イケメンと可愛い女の子の席!」

 

「あのさ、僕もう充分働いたと思うんだけど。奈良坂でよくない?」

 

神園が所属するクラスの出し物は執事喫茶。文化祭開始後1時間で神園は既に6組対応している。ちなみに、神園が押し付けようとしている奈良坂も現在6組目の対応中である

 

「奈良坂くんも対応中だからお願い!それに、うちのクラス指名料とってるから指名された人が行かないとダメなの」

 

「100円の指名料が憎くて仕方ないよ」

 

思うことはあれど、これ以上決まったことに文句を言っても仕方ないのは神園も重々承知している。渋々ながら指名された席へと向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──浪人生って、やっぱり暇なんですね」

 

神園が指名された席に移動すれば、そこには見慣れた顔ぶれが座っていた

 

「おいおい、勝手に俺を浪人させるな」

 

ハッハッハと笑いながら浪人生であることを否定する太刀川

 

「いいんじゃないですか、太刀川さんは浪人生ってことで。言われるのが早いか遅いかの違いだけですよ」

 

神園の話に乗っかった烏丸

 

「うわっ、辛辣すぎて笑える。まあ、確かに京介の言う通りだな」

 

そんな2人の辛辣さを笑って見ている出水

 

「わ〜、普段は白スーツだから燕尾服?は新鮮だねー」

 

感想を伝えてくれる国近

 

「んなことより、挨拶はどうした挨拶は。あるんだろ?奈良坂はやったぞ」

 

「え、ないですよ。そんなの。奈良坂が勝手に作ってやってるだけじゃないですか?」

 

嘘である。ゴリゴリにある。キャッチコピーという名の恥ずかしい挨拶が決められている。それをあろう事か、神園は奈良坂のテンションが上がった末の独断だと切り捨てた

 

「俺も聞きたいです、神園先輩のかっこいい挨拶」

 

「ほらほら、可愛い後輩がこう言ってるぞ」

 

「さっさとやった方がいいぞ、ためれば溜めるだけ恥ずかしさ倍増だからな。奈良坂もごねてたが、ちゃんとやったぞ」

 

「奈良坂くんのも良かったよね〜、『君のハートにズッキュン。白馬の王子、奈良坂。ご指名ありがとうございます。麗しの姫君』」

 

「あー、奈良坂はクジでハズレ引きましたからね。知り合い相手にやらされるなんて可哀想に」

 

可哀想といいながらも、その声色に同情の色はない。このままの話の流れで自身の挨拶を無かったことにしようと神園は目論む

 

「なんだ、それじゃあ、お前のはまともだったのか?まあ、それでも早くやってくれよ」

 

それを逃さない出水。他の3人も視線で訴えかける。神園の目論見は既に崩れている。残念ながら彼に逃げ場はない

 

ようやく観念し、軽くため息をついてから神園は口を開いた

 

「──口説いた女は推しの数、女に刺された数も星の数。百戦錬磨のナンパ師、神園です。子猫ちゃん、よろしくね」

 

太刀川、出水大爆笑。烏丸はキャラ崩壊が過ぎる言葉に笑いよりも驚きが勝り、国近はわ〜っと軽く拍手をしている

 

言わされた神園は恨みがましい視線を出水へと向けている

 

「なるほど、だから神園先輩の背中には刺し傷があったんですね」

 

冷静になった烏丸の言葉に太刀川と出水は更に笑う。当然ながら、神園の背中に刺し傷はない

 

「くじ引きなんて悪しき文化を作った罪人と、このセリフを考えたクラスメイトを撃ち抜きたい」

 

大ハズレを引いた神園は奈良坂よりも酷くキザなセリフを言う羽目になっていた

 

「いいじゃないですか、神園先輩に似合ってますよ。ボーダーでも名乗ったらどうですか?」

 

「烏丸が奈良坂のキャッチコピーを名乗るなら検討するよ」

 

ふるふると烏丸は首を横に振った

 

「キャッチコピーいいな、俺もなんか考えるか?」

 

「『俺を見ろ、人生なんとかなる!』とかでいいんじゃないですか?」

 

「どことなく嫌味に聞こえるのは気のせいだよな?」

 

太刀川の抗議の視線を無視して説明を始める

 

「あ、そうだ。メニューの中に『執事さんと一緒に♡』がありますけど、間違っても頼まないでくださいね。指名されたせいで、この席には僕が来ることになるんで」

 

「お、そんなのあるのか。後で頼んでみるか」

 

「聞いてましたか?たった今、頼むなって言ったじゃないですか。本当にこの調子だと、昼になっても休憩入らせてもらえないレベルで忙しいんですよ」

 

 

「神園くん!別の席で指名入ったからお願い!」

 

「え、じゃあ、この席まだ注文聞いてないからよろしく」

 


 

「今のもう一回言ってくれよ。カッケーな、おい!」

 

「ふゆふゆ、ホスト崩れみた〜い」

 

「諏訪さんぶん殴りますよ。気が合うね、小佐野。僕もそう思う」

 

神園はからかってくる諏訪に軽くツッコミを入れ、比較的まともなコメントをした小佐野には同意を示した

 

「ついでに録音もさせてくれ」

 

「盗聴ですか?」

 

「こんな堂々とした盗聴あるかよ!」

 

軽快なやり取りをくりひろげたあと、神園はメニュー表を渡した

 

「それで、メニューは何にします?残念ながら僕、人気執事なんで他の席に呼ばれたら秒で消えますよ」

 

「あ?そうだな、それじゃあ....」

 

諏訪と小佐野はメニュー表をじっくりとみる。じっくりと見たところで、メニューは片面にしか記載されていない。文化祭なのだからメニューが少ないのは当然と言えば当然だ

 

●メニュー

 

・愛情盛りだくさんのちゅきちゅきオムライス

・愛情大盛りラブ特盛の贅沢焼きそば

・激甘ロシアンたこ焼き

・激辛ロシアンたこ焼き

・カリカリフライドポテト

・ホクホクフライドポテト

・りんごジュース

 

 

●執事さんと一緒に♡

 

・一緒に写真撮影(無料サービス!)

・似顔絵サービス(執事さんがあなたの似顔絵を描きます!)

・腕相撲対決(力自慢さんにおすすめ!)

・愛してるゲーム(※録音・動画撮影禁止です!)

 

 

「俺はオムライス」

 

「私も同じのー」

 

「諏訪さん、正式名称でお願いします。ルールなんで」

 

「はぁ?いいだろ、伝わってんだから。ってか、小佐野もだろうが」

 

「いやいや、小佐野は諏訪さんと同じのって言ってますから。諏訪さんが注文する料理が分かれば自動的に判明するんですよ。すいませんね、お店のルールなんで」

 

嘘である。神園の自己紹介を笑い、そしてからかった仕返しである

 

「チッ、言ったやらァ!──愛情盛りだくさんのちゅきちゅきオムライスだ!」

 

「はい、オムライス2つですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

 

誰もが1度は経験する、少し言い難いメニュー名を言ったのに店員が復唱しない例のアレである

 

「うぉぉいっ!この野郎、人で遊びやがって。てめぇがそうくるなら──愛してるゲームと一緒に写真撮影も注文だ!」

 

一見仕返しのような流れで諏訪が『執事さんと一緒』メニューを注文したように見えるが、その実違う。このメニューを見た瞬間から、隠れ神園派である小佐野のために注文するタイミングを見計らっていた

 

「うげっ、諏訪さん。勘弁してくださいよ。今のところ僕、指名された全部の席で写真撮影と愛してるゲームやらされてるんですよ」

 

「知るか。ほれ、写真撮ってやるから並べ。神園、おサの」

 

「すわさん、ありがとー」

 

「あれ、諏訪さんは入らないんですか?撮影係なら誰か適当なクラスメイトに頼みますよ」

 

「あ?ああ、あれだ!今日は髪型決まってねぇから写真に写りたくねぇんだよ!」

 

「そんな性格してましたっけ?まあ、別にいいですけど。小佐野、一応ポーズの指定ができるんだけど──ピースか、2人でハート作るか、サムズアップ。どれがいい?」

 

「バカか、んなもんハートに決まってんだろ」

 

「諏訪さん?もしかして、道端に落ちてる大福でも拾い食いした?」

 

「どんな状況だ!?」

 


 

 

「はい、それじゃ撮るぞ──ポーズは2人でハートな。早く並べ」

 

諏訪の素っ気ない声がけに、小佐野はわずかに息を吸い込むと、神園の隣へと歩み寄った。目を合わせないまま、そっと差し出された指先に神園が静かに手を添える

 

二人の指先が合わさり形づくられたハートは、美しく綺麗な形をしていた

 

「──はい、チーズ」

 

シャッター音が一つ。諏訪は画面をちらりと確認したあと、特に何も言わず、スマホをポケットにしまった

 

「写りは悪くねぇ。あとで送っとく」

 

 

 

 

「さて、次は──愛してるゲーム、ですね」

 

神園は軽く咳払いして向き直る。仕事とはいえ人に愛してるなんてことを言うのは緊張する。他人であれば恥ずかしさはあまりないが、知り合いであれば話は別である

 

「僕、今のところ全席でやらされてて可哀想だと思いませんか?」

 

「うっせぇ、やれ」

 

「はぁ、はいはい、分かりましたよ」

 

神園が向き直ると、小佐野はまっすぐ立っていた。目が少しだけ泳いでいるが、しっかりと神園を見据えていた

 

「普通のと少しルールが違うから、一応ルール説明するね。交互に愛してるって言って、先に照れた方の負け。愛してるゲームを考案した人間に天罰下ればいいのに」

 

「ん」

 

小佐野が息を整える。神園は不意打ち気味に言葉を紡いだ

 

「──愛してる」

 

演技とは思えないほど、本気に聞こえる愛している。当たり前だ、神園は今日だけで何回もやらされているのだから

 

「....愛してる」

 

小佐野も返す。すぐに言葉が出た。けれど、声はほんの少しだけ掠れていた

 

「愛してる」

 

「...愛してる」

 

「──小佐野、愛してる」

 

「うっ...」

 

「終了。僕の勝ちだね」

 

神園がやんわりと笑う

 

「今のズルい、絶対反則」

 

「まあ、ズルしてもペナルティないからね」

 

「開き直った....」

 

言い返しながらも、小佐野の頬はほんのりと赤く染まっている。神園

 

 

 

 

 

「神園くん!担当席、執事と一緒の注文入ってる!」

 

「──これだけ働かされて無料サービスって嘘みたいだ。わかったよ。というわけで、別の席に行くね」

 

「おー、頑張れよ」

 

「またね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神園がいなくなったあと、小佐野は小声で諏訪に話しかけた

 

「....すわさん、ありがと」

 

「ハッ、なんのことだよ。礼を言われることなんてしてねぇ」

 

「なら、私もなんとなくお礼言っただけ」

 

「なんだよそれ」

 

諏訪はフっと短く笑い、それを見た小佐野の口元が少し緩んだ。諏訪洸太郎が隊員達から好かれる要因の一つに、気遣い上手な面があるのかもしれない

 


 

「嫌がらせですか?何が悲しくて腕相撲を4回もしないといけないんですか」

 

神園の口調はすでにうんざりを通り越して、諦念の色すら滲んでいる。歓迎の「か」の字も消え失せていた。常に動き回っているせいで疲労は蓄積し、サービスメニューの中でも最も避けたいのがこの腕相撲だった

 

「ハッハッハ、知らん。言い出したのは京介だ」

 

「それに悪ノリしたのは俺らですけどね」

 

「そうですよ、俺に責任押し付けないでください」

 

完全なる共犯者集団である

 

 

 

 

「まずは俺からだ、本気で来いよ」

 

太刀川が満面の笑みで名乗り出た。神園はため息をつきながら椅子を引いて席につく

 

「わかりました。言っておきますけど、1回勝負ですからね。今日だけで一生分の腕相撲をやらされたので、手加減してくれてもいいですよ」

 

「誰が手加減するかよ、本気でやるぞ。よしっ、じゃあいくぞ」

 

二人の腕がテーブルの上でガシッと組まれた、その直後──

 

「せーのっ!」

 

 

 

──バン!

 

 

 

 

 

豪快な音とともに、太刀川の手がテーブルに叩きつけられた

 

「.....マジか、お前」

 

 

呆気なく負けてしまったことに驚く太刀川。神園は勝ち誇ったような薄い笑みを浮かべた

 

「これでも鍛えてるんですよ。太刀川さんも、少しは筋トレでもしたらどうですか?」

 

「筋トレをする暇があるなら、ランク戦するに決まってるだろ」

 

 

 

「次は誰がやります?」

 

 

 

「俺がやります、太刀川さんみたいに簡単に負けませんよ」

 

「俺を引き合いに出すなよ...」

 

「太刀川さんよりも早く終わらせてあげるよ」

 

烏丸が手を差し出す。神園が小さく頷いてから、互いに手を握る

 

2人の手が静かに組まれた

 

「いきます」

 

「全力でね」

 

「せーのっ」

 

 

 

 

 

「....烏丸、先輩に華を持たせてくれてもいいんじゃないかな」

「勝てる時に勝てって教えてもらったんで....負けませんよ」

 

 

 

 

 

──バン。

 

 

 

「悪いね、烏丸。僕の方が強いみたいだ」

 

「いえ、楽しかったです」

 

勝負が終わった烏丸の背中を出水がポンと叩き、軽く笑った

 

「どうよ、流石にもう力入らないんじゃないか?悪いね、太刀川さん、京介。俺が美味しいとこもらっちゃって」

 

「いや、太刀川さんと同類だと思うけどね。準備はいいかな?」

 

神園と出水は互いに手を握る

 

「おう。ま、同じ弾バカの好で手加減──」

 

 

 

 

 

──バン!

 

終わった。太刀川同様、瞬殺である。最も、今回のは不意打ちに近いものだったが

 

「ちょ、ちょっと待った!?構える前だったろ!?」

 

「おうって返事したよね?勝負中に油断する方が悪い」

 

「うわっ、この隠れ負けず嫌いが!」

 

出水が悔しげに笑うと、席の雰囲気はさらに明るく盛り上がった

 

「そんなことないよ」

 

シンプルに同い年の人間相手に負けるのは、神園も嫌だったりする。時と場合、その時のテンションにもよるだろう

 

 

 

「最後は国近さんですよね。本当にやるんですか?」

 

神園が今日一困惑した表情を浮かべたのは、このときだった

 

「これもゲームだからね、もしかしたら勝てるかも?」

 

国近が苦笑しつつ席に座る。神園の手に、自分の手を重ねながら呟く

 

「──優しくして、ね」

 

「....舐めプしてほしいってことでいいですか?」

 

国近の言葉に神園は一瞬だけ固まり、すぐに答えた

 

 

 

「せーのっ」

 

 

 

──トン

 

 

 

国近の手がゆっくりと、だが確実にテーブルへと倒れる

 

「あー、やっぱ負けた〜。でも、太刀川さんと出水くんより長く耐えたよ?」

 

「2人よりも強かったですよ」

 

神園は努めて冷静に答えるが、その目は少し泳いでいた

 

「神園、女子に手を抜くのはよくないよな?な?今は男女平等社会だぞ」

「いやいや、神園が女子に甘いのは知ってたけど、まさか──ハッ、柚宇さんの手を長く握って」

「負け犬がキャンキャンうるさい」

 

 

 

 

 

「とりあえず、注文内容終わったんで他の席いきますね。クラスメイトが早くしろって催促してるんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その背中を見送りながら、出水が小声で呟く

 

「.....アイツって、意外と顔にでますよね」

 

「確かにな。女性耐性、あるようでないからな。いっその事、次のランク戦で女装してみるか?」

 

「容赦なく撃ち抜かれますよ」

 

三者三様に笑いながら、騒がしくも温かい空気が、彼らの間を満たしていた

 


 

なんとか休憩時間に入ることが出来た神園は、別クラスの氷見と屋上に来ていた。大半の人間は各クラスの出し物を回っているのか、屋上にいる人間は少ない

 

「──もしかして僕、警戒されてたりする?」

 

僅かにショックそうな声色で神園は問いかけた。神園が誘ったのは氷見だけだったはずが、何故か影浦が同席している

 

「いや、そういうわけじゃない」

 

「....チッ、そうじゃねぇってよ」

 

影浦がここにいるのは完全に巻き込み事故である。元々仁礼光の付き添いできていたが、疲れたので人の少ない屋上で休んでいたら氷見に見つかり同席させられていた

 

「..................まあ、とりあえず置いておこう。単刀直入に聞くけどさ、氷見さん。僕と烏丸の事嫌いだったりする?」

 

あまり理解できていないが、神園はそれは諦めて本題を切り出した。そう、自身と烏丸が嫌われているのではないかという話だ

 

「違う。嫌いとかじゃない。それは全然違う」

「違ぇってよ」

 

影浦が氷見の通訳を行っているのは『神園派、烏丸派』両方に所属しているにもかかわらず、この扱いは流石に不憫だからである。影浦でも知っているくらい有名な話だ。それと、助けて助けてと感情が刺さるからというのも理由の一つだ

 

「僕と烏丸だけ露骨に避けられてる気がするし、直接話してくれないし。他の人にはそんなことないのに」

 

「それはそう。他の人と烏丸くんと神園くんは違うから」

「──あー」

 

影浦はなんて略すかを迷った。直訳すれば拗れそうな気がしたからである

 

「カゲさん、氷見さんはなんて?」

 

迷った末に、影浦は結論を出した

 

「烏丸くんと神園くんは顔がいいから直接話すと緊張する。ごめんなさい」

 

「!!!!!!!??」

 

味方だと思っていた影浦に刺されて氷見はパニックである

 

「───あ、ん........嫌われてないなら良かったよ」

 

神園は反応に困りながらも納得した。辻の女性verのようなものなのだと。自身の顔がいいのも多少の自覚はある。もちろん、烏丸の顔がいいことも

 

「こんな変なことに俺を巻き込むな」

 

意外な優しさを見せた影浦はそう言い残し、また屋上の隅へと移動した

 

 

 

 

「氷見さん、気遣いで来てなくてごめん。でもさ、氷見さんに嫌われるのは嫌だったんだ」

 

神園の言葉に氷見の顔はみるみる赤くなっていく。突如現れたサービスタイムに脳内はパニック、キャパオーバー寸前だ

 

「──二宮さんにはお世話になってるから。だから、二宮隊のオペレーターの氷見さんとも仲良くしたかったんだ」

 

氷見は二宮に感謝した。今までは鳩原に対するデリカシーのない発言を注意することが多かったが、今後は少し優しくしてあげようと心の中で誓った

 

「でもさ、今のままだと烏丸が傷つくかもしれないし──少しずつでいいから、僕たちとも話してくれると嬉しい」

 

壊れたロボットのような挙動で、ギギギギギギと首を縦に振る

 

「僕で良かったら慣れるための練習?に付き合うから。だからさ、僕と烏丸にも──氷見さんの声をきかせてよ」

 

「───ヒュッ」

 

「氷見さん!!?」

 

その瞬間、氷見はふらりと後ろに倒れかける。反射的に手を伸ばした神園が、なんとかその身体を抱きとめた。そして、屋上の隅で目を瞑っている影浦に視線を向け助けを求める

 

 

 

 

 

 

 

 

「──貸しだぞ。そのうちランク戦付き合えよ」

 

その後も執事喫茶で指名されまくった神園は、来年の学園祭は防衛任務を入れようと心に誓った

 

 


 

10月、10月といえばランク戦の開始時期である。神園隊は前回のランク戦でB級1位だったため、今回からはA級のランク戦に参加することになる

 

「合流優先、出会った相手を3分以内に落とす自信があるなら単独で戦ってもいいけどね」

 

2人は返事をしながらも軽く身体を動かしている。木虎と草壁にとっては初めてのチームランク戦。平成を装ってはいるが、2人の顔からは緊張の色がみてとれる

 

「木虎、今日のランク戦の相手はどこか覚えてる?」

 

「今日は片桐隊、三輪隊、私たちの隊の三つ巴です。片桐隊は対スナイパーに特化しているチームです。特に一条先輩はメインサブどちらにもレイガストを装備しているので、防御が硬く厄介です。一条先輩が引き付けて他の隊員がそれを狩る。片桐隊の必勝パターンですね」

 

「うん、そうだね。草壁、三輪隊の特徴は覚えてる?」

 

問いかけられた草壁はすぐに口を開く

 

「三輪隊は近中遠全てにおいてバランスのいいチームです。個々の強さもことながら、特に厄介なのが三輪先輩の鉛弾ですね。あとは米屋先輩の幻踊弧月。とにかく、三輪先輩と米屋先輩が合流した後では撃破数が1.5倍近く変わってくるので単独で動いてる時に叩くべきです」

 

「うん、そうだね。うんうん──今さんどうしよう、2人とも緊張しすぎてるからやらかすかもしれない」

 

木虎と草壁の目元には薄っすらと隈が出来ている。前日夜更かしして今日のランク戦の事を考えていたのは間違いないだろう。神園は少し軽めのテンションで今に話を振った

 

「なっ!」

「してません!」

 

「いや、してるよ。ね、今さん」

 

抗議してくる2人を軽く流し、今に助けを求める。神園とて嫌味で言っているわけではない。緊張するのは仕方ないし、ダメなことではない。だが、緊張していることを自覚していない、入れこみすぎているのは問題である。自分だけでは良いフォローの言葉が思いつかなかったため、今に助けを求めているのだ

 

 

 

 

 

微笑んだ今が、口を開いた

 

「──2人の後ろには、神園くんがついてる」

 

「自信を持って。いつも通り戦えば、絶対に勝てるから」

 

その言葉が、2人の肩にまとわりついていた霧のような緊張を、すっと晴らしていくのが分かった。木虎の眉間の皺がほどけ、草壁が短く息を吐く。今は神園へ視線を向けた。それを受け、神園も口を開く

 

「──木虎、草壁。君たちは僕がスカウトした。誰よりも将来性があると思ったから。指導すれば伸びると思ったから....いや、それだけじゃない。背中を預けたいと思ったからだ」

 

木虎が少し目を見開く。草壁はまっすぐ神園を見つめていた

 

「僕たちは今季のランク戦でA級の頂点に立つ──これは目標なんて不確かなものじゃない。確定事項だ。今日のこの一戦は、その道の途中。勝って当たり前。だから、必要以上に緊張する必要はない」

 

言葉のひとつひとつに、重圧が混じる。けれどそれは、仲間を追い詰めるための圧ではない。2人への本心からの期待だ。それが意図せず重圧を与えたことには変わりないが──

 

 

 

 

木虎が拳を握る。草壁が真剣な表情で頷く。緊張感はある。だが、それ以上に2人の瞳には覚悟が宿っていた

 

「了解です。全力を尽くします」

 

「──期待に、必ず応えます」

 

2人の声からは不安の色が消えている。その声を聞いて、神園と今は優しく微笑んだ

 

 

 

 

「こんな真面目なことを言わせるのは、今回だけにさせてよ。今さんもよろしくね。今さんだって、僕がスカウトした貴重な人材なんだから」

 

「えぇ、わかってるわ」

 


 

小佐野さん

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

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