10月~12月の冬シーズン。A級ランク戦は、昇格直後から暴れ回る神園隊の存在によって荒れに荒れていた。
だが、波乱が起きているのはA級だけではない。同時期に行われているB級ランク戦でも、ある大番狂わせが起きていた。
「私たちは今回のランク戦で、A級昇格を確定させたよ」
「佐伯隊なんて石ころの集団で何をするかと思えば、隊を乗っ取るなんてね。正直驚いたよ」
本部基地の通路。A級ランク戦で現在暫定3位につける神園隊隊長、神園冬と、B級ランク戦暫定1位である月見隊隊長、月見花緒が向かい合っていた。
「次の2月~4月のシーズンで、やっと戦うことができる。あんたの隊を抜けてから、そこまで月日は経ってないのに不思議だね。もう戦えるなんてさ」
他の隊を大きく引き離している月見隊が、残る1試合で昇格圏内から落ちることはまずない。すでに1位当確と言っていい状況だ。
つまりそれは──来季、月見の念願であった神園隊に勝利するための挑戦権を得たことを意味する。
「戦うことはできるだろうね。でも、勝つことと戦うことは意味が全く違う」
神園の言葉に、花緒は一瞬ピクリと眉を動かしたが、すぐに呆れたようなため息をついた。
「あんたは謙遜って言葉を知らなすぎ。戦えばわかるよ。私の隊がどれだけ強いか」
胸を張り、怯むことなく堂々と宣言する花緒。対する神園は、今度は彼の方が深く、深いため息を吐き出した。
「石を幾ら磨いても宝石になることはない。前回の君のランク戦を見たけど.......花緒、君の選択は愚かだったと、今なら自信をもって言えるよ」
その言葉は、純粋な事実の指摘か、それとも失望か。神園の揺るぎない態度に、花緒も顔をしかめる。いくら神園の傲慢な性格を熟知しているとはいえ、ここまで言われて受け流せるほど、彼女は寛容ではない。
「戦ってみないと分からないでしょ。1対1なら、確かに私が勝つのは難しいかもしれないけど──チーム戦なら、勝つのは私たちだから」
「『朱に交われば赤くなる』って言葉、知ってるかな。君のチームが僕たちに勝つことは絶対にない。まあ、来季になれば嫌でも分かるよ」
かつて同じ隊に所属していた元チームメイトとは思えない、ヒリつくような空気が二人の間に流れる。険悪ではないが、決して良くはない雰囲気。花緒が相手でなければ、神園がここまで語ることはなかっただろう。
神園は、ただ自身が客観的に分析した事実をそのまま伝えているだけだった。悲しいことにその評価に私情は入っていない。
月見隊の直近のランク戦を見て神園が抱いた感想──それは、月見花緒が成長するどころか『劣化』しているという残酷な評価。
もし今季のB級ランク戦に、本格的な治療のため休戦中の那須隊が参加していれば、月見隊は確実に負けていたはずだとすら、神園は確信していた。
「心が折れなければ、来季以降も挑んでくるといい。個人でも、ランク戦でも、好きな方でね」
「やる意味はないだろうけど、元チームメイトの好で受けてあげるからさ」
そのまま2人はすれ違う。片方はつまらなそうな表情を浮かべ、片方はすれ違った背中を好戦的に見つめている。
私は今、神園先輩に一対一の模擬戦で直接指導してもらっている。
ただし、それは通常の模擬戦ではない。訓練室の設備に依存したトリオン体ではなく、私自身のトリオンを限界まで消費して戦いを続けるという、極めて特殊な特訓だ。
自前のトリオンを限界まで使い切ることで、自身のトリオン器官を刺激し、総量を底上げする。これは上層部と、それに気づいた神園先輩など、ごく一部の人間しか知らないトップシークレットらしい。
上層部がこの事実を公表しない理由は明白だ。多くの隊員がトリオン量底上げのためにこの手法を取り入れれば、防衛任務や有事が発生した際、トリオン切れで出撃できない隊員が続出してしまうからだ。
にもかかわらず、私がこの特訓を特別に許されているのは、他でもない神園先輩のおかげだった。
『もし彼女が有事に戦力外状態であっても、隊長である自分が全てカバーする』と、上層部に対し強気に主張してくれたのと忍田さんから聞いた。
私はその信頼と期待に応えるためにも、誰よりも強くならなければならない。自分のためにも、信じてくれている先輩のためにも、チームのためにも。
そんな神園先輩との模擬戦日である今日。本来であれば喜ばしい時間のはずなんだけど.....今日の先輩は、明らかに少し様子がおかしい。
「──あの、神園先輩。何かありましたか?」
「え?どうして?いつも通りだけど」
「いつもはもっと、なんというか....その.....」
(いつもはもっと私の動きを褒めてくれるじゃないですか、なんて口が裂けても言えない....!)
入隊当初の指導は本当に厳しくて、全く褒めてもらえなかった。でも最近は、私の成長を認めてくれたのか、称賛の言葉をくれるようになっていた。
それなのに、今日は開始から一度も褒められていない。
それどころか、今日の神園先輩の動きには、いつもなら絶対にあり得ない意図的ではない隙が散見される。
もし私がその隙を突いて一撃でも攻撃を当てられていれば、『今日は動きが鈍いですよ』と得意げに指摘できたかもしれない。
でも、そんな上の空の先輩を相手にしても、私はかすり傷一つ負わせられていないのだ。圧倒的な実力差の前に、何も言えなくなってしまう。
(もしかして、私....見限られた?何か失望されるようなこと、したかしら?)
嫌な想像が頭をよぎる。いや、そんなはずはない。普段の訓練も任務も一切手を抜いていないし、今日の模擬戦だって決して悪い動きではないはずだ。
「実は、少し悲しいことがあってね。それで多少いつもと違ったかもしれない」
私の不安を察知したのか、神園先輩がぽつりとこぼした。
「そうだったんですか。私でよければ、話を聞きますけど」
よかった。いや、悲しいことがあったと聞いて安堵するのは不謹慎極まりないが、私が見捨てられたわけではなかったことにホッとしてしまった。
それと同時に、胸の奥が少しだけ高鳴る。
先輩が後輩の私に対して、個人的な感情や弱みを見せるのは非常に珍しいことだ。いつも完璧で、私たちを導いてくれる先輩の力に、今度は私がなりたい。
それに、この相談に乗ることで.....先輩との距離が、今よりもっと近づくかもしれない。
「いや、それはいいかな。木虎には次のランク戦に集中してほしいしね」
「あ、はい。でも、誰かに話すと楽になることもあるかもしれませんし....」
勇気を出して差し伸べた私の手は、無情にもあっさりと払いのけられてしまった。
神園先輩の瞳に冷たさはない。本当に悪気はなく、『わざわざ後輩の木虎に話して気を揉ませるような内容ではない』と気を遣ってくれたのかもしれない。あくまで私の憶測でしかないけれど。
「その気持ちだけもらっておくよ。ありがとう。さて、休憩は充分だよね?次行くよ」
「あっ──はい!」
再び構えを取る先輩の背中を見つめながら、私はギュッと唇を噛み締めた。
今の私では、先輩に寄りかかってもらうには頼りなさすぎる。だから相談してもらえない。話してもらえない。私は、気を遣われるだけの後輩ではなく、対等に話し合える存在として認めて欲しい。
──頼られるには、そのためには、もっと強くならないと。もっと、もっと頑張らないと。
スコーピオンを構えて先輩に向き合う。今の状態の先輩からなら、一撃入れられるかもしれない。
「.....ああ、そういえば今日はいい動きをしても褒めてなかった。それで様子がおかしいと思われたのか」
(かつてのチームメイトが弱くなっていて悲しかったなんて、誰かに話す内容じゃない)
「この後は草壁との模擬戦か。いつも通りを心掛けよう」
今日は神園先輩がマンツーマンで指導してくれる日なんだけど....明らかに様子が変だ。いつもと全然違う。
「──あの、私、何かやらかしましたか?それとも、先輩に何か心境の変化でもあったんですか?」
「え?いや、ないけど。草壁が何かしたとかもないよ」
私が無意識に迷惑をかけたわけではないらしい。でも、先輩自身の心境の変化でもないとすると、それはそれで今日の先輩はおかしい。
──すごく褒められるのだ。
よく分からないけれど、とにかく褒められる。
正直に言えば、先輩に褒めてもらえるのは嬉しい。でも、なんて言えばいいのか...今日みたいに過剰に褒めちぎられると、素直に喜べない自分がいる。
普段、先輩が褒めてくれる時は、心から私の成長を認めてくれている気がする。でも今日の先輩は、まるで『褒めるためのチェックリスト』を埋めるかのように、必死に褒める場所を探して、褒めてくれているような雰囲気がある。
私の動きをしっかり見てくれている、と考えれば嬉しいことかもしれない。けれど、普段なら必ずセットで飛んでくる指摘が、今日は一切ない。本当に何をしてもただただ肯定されるだけだから──やっぱり嬉しくない。
どうしていきなり指摘がなくなり、甘やかすだけになってしまったんだろう。私は先輩のことが大好きで尊敬しているけれど、今までの厳しくてもちゃんと見てもらえてるとわかるやり方の方がずっと好きだった。
無理に褒める部分を探して取り繕ってもらうより、先輩が心から良いと思った時にだけ褒めてもらえる方が、たとえ回数が少なくなったとしても、何倍も価値がある。
「なんだかその、今日は.....全然ダメなところを指摘してもらえないので。無理に褒めるところを探されているみたいで、少し不安になります」
「.........確かに」
「先輩、何か悩み事ですか?私で解決できるかは分かりませんが、もしよければお話を聞かせてください」
数秒の沈黙の後、先輩は小さく息を吐いた。
指摘されて『確かに』と返したということは、先輩自身も思い当たる節があるということ。つまり、先輩は意識的に普段とやり方を変えているにもかかわらず、変えていないと自分では思っている。
無意識的に普段と違うことを行ってるのに気がつかないのは、普段と精神状態が異なるからに違いない。多分、きっと。
私で役に立てることがあるなら、こういう時くらいは役に立ちたい。普段は先輩にお世話になって守られてばかりなのだから。
「いや、それは大丈夫かな」
あっさりと断られてしまった。
確かに、先輩から見たら私はまだまだ頼りない後輩だ。でも、もし悩み事を打ち明けてくれたら、一緒に考えることはできる。気の利いた解決策は出せなくても、心寄り添うことならできるはずだ。
「でも、誰かに話すだけで楽になることもありますよ」
「木虎とまったく同じことを言うんだね」
先輩がふっと目を細め、苦笑するようにつぶやいた。
「んー、そうだね。それなら──草壁が僕から一本でも取れたら、聞いてもらおうかな」
ああ、これは完全に遠回しな断り文句だ。私が先輩から正面切って一本取るなんて、現時点ではほぼ不可能に近い。先輩が重たいハンデでも背負ってくれない限りは──いや、違う。
今の先輩から一本取るからこそ、意味があるのだ。
なにより今、先輩は約束してくれた。一本取れば、相談してくれると。
「──頑張って、一本取ります」
両手にスコーピオンを構え、強く握り直す。
今日先輩になら、もしかしたら手が届くかもしれない。普段の立ち回りに比べて、今日の先輩には明確な隙があるのだから。
「──いつも通りって、意識したら難しい」
(それにしても、木虎も草壁も鋭い。そんなに分かりやすいのかな、僕は)
「今さん。僕って、何か悩んでるように見える?」
「見えるわね。とても」
即答した私に、神園くんは少しだけ目を丸くした。
正直、今日の彼は誰の目から見ても悩んでいるようにしか見えなかった。2人への指導中も、私と話している時も上の空になることが多く、まったく誤魔化しきれていないからだ。
「ふーん。見えるんだ」
「えぇ」
「......」
「.........」
「...........」
沈黙。てっきりこのまま悩みを打ち明けてくれるのかと待っていたが、神園くんは無言のまま、ポケットから取り出したイヤホンを耳にはめようとし始めた。
「相談、してくれないのかしら?」
思わず私から問いかける。この流れで自己完結して外部情報を遮断しようとするとは思わなかった。
不器用な子だ。本人が歩み寄るのを待っていたら、いつまで経っても頼ってくれない。悩み事とかを一人で抱えてしまうタイプだから、私の方からできるだけ歩み寄る必要がある。
「え、んー......そうだね。なら、話を聞いてくれるかな?」
少しバツの悪そうな素振りを見せながら、神園くんはイヤホンをはめようとしていた手を止め、こちらへ向き直った。
「実はさ、さっき廊下で花緒と偶然会ってね。来季のランク戦で僕たちに勝つって息巻いてたんだよ」
「花緒ちゃん、頑張ってるわよね。B級の中なら一番強いんじゃないかしら?」
A級にいてもおかしくないくらい、月見隊の戦術は成熟している。連携の精度も高いし、何より隊長である花緒ちゃんの統率力がひときわ目立っている。
「『頑張る』のと『強い』のとでは話が別だよ。それに、今のB級で一番強いのは間違いなく那須隊だから。まあ、話を戻すと──花緒のチームが僕たちに勝つことはあり得ない」
....それはそうね。
私たちの隊は、手前味噌だけれど本当に強い。3人全員が単体でエースとして活躍でき、3人全員の陣形が整った時は、誰が相手であってもそうそう崩されることはない。
「来季、僕は月見隊を叩き潰す。一切の容赦も慈悲もなく、完膚無きまでにね。それが、僕を越えようと息巻いている彼女に対しての誠意だと思うから」
「そうね。変に手加減なんてしたら、むしろ怒られるわよ」
その光景が容易に想像できて、少し笑みがこぼれる。
なるほど、今回の悩み事は花緒ちゃん絡みなのね。チームから彼女が抜けたあとも、神園くんは普段は見ないB級ランク戦のログをわざわざチェックしたりと、彼なりにずっと気にかけていた。
「だから.....心配なんだよ。努力して積み重ねてきたものが全部無駄だったと突きつけられた時、花緒はまた立ち上がって頑張れるか。心が折れて、ボーダーを辞めることになっちゃうんじゃないかってね」
神園くんにしては珍しく、ひどく臆病な本音。相手に寄り添った、相手の気持ちを考えての発言。
私は神園くんを安心させるように、はっきりと首を横に振った。
「それは、彼女を甘く見すぎだわ。花緒ちゃんは、神園くんに認められるために、あなたに勝つために何度も何度も挑み続けてきた子よ。そんな彼女の執念をあなたが過小評価したら、それこそ可哀想よ」
「......なるほど」
真剣な顔つきで、神園くんは深く頷いた。
「確かに。鬱陶しいほど僕に絡んできた花緒の心が、そう簡単に折れるわけないか。納得できたよ」
憑き物が落ちたように、神園くんの表情はスッキリとしていた。よかった。これで少しでも悩みが解消できたのなら何よりだ。
「まあ、冷静に考えればそうだ。いくら劣化して弱くなったとはいえ、一時は僕の隊にいたんだ。僕の隊に一度負けた程度で折れるメンタルなはずがない」
「そうよ」
「まあ、勿体ないことをしたとは今でも思うけどね。ただの石ころだと思っていた花緒が、磨いてみれば多少は光る原石の可能性を秘めていたのに。開花させる前に、わざわざ石ころの群れに自ら移動するなんて」
「そうかしら?」
先ほどの沈黙が嘘のように、神園くんの饒舌が止まらなくなった。不安が解消されて安心したのか、口数が普段の倍近くに増え出している。
「そうだよ。彼女は僕を越えると言いながら、才能のない連中が集まる隊に移動した。対して僕は、才能のある人間を集めて、そこから更に伸ばす指導をした」
「石ころは、結局原石にはなり得ない。花緒には原石の可能性があったけど、彼女の隊の人間はそうじゃない」
いつもの不遜な自信家に戻った神園くんは、楽しげに笑う。
「来季が楽しみだよ。彼女の考えと僕の考え──どちらが正しいものか、証明出来るんだから」
「来季のこともいいけれど、今は今季のことを考えましょう? 次のランク戦の結果次第で、神園くんが言っていた『A級1位』に本当になれるかもしれないんだから」
私が手元のスケジュール表を叩いて釘を刺すと、神園くんは肩をすくめて不敵な笑みを浮かべた。
「違うよ、今さん。『なれるかもしれない』じゃなくて、なるんだ。これはもう決まってることだよ──僕たちが負けるはずないんだから」
「あら、どこ行くの?」
「個人戦してくる。無駄なことで悩まされたから、その分暴れてストレス発散してくるよ」
数時間後。神園は激しく後悔していた。
ストレス発散のために個人戦で暴れようと考えた、数時間前の己の愚かさを。
「おい、まさか勝ち逃げするつもりじゃねーだろうな?」
絶対に逃がさないと言わんばかりの凄まじい迫力で、神園の右肩をガッチリと掴んでいるのは影浦だった。
「さっきは俺が勝ったわけだが、やり返したいとは思わないのか?お前が望むなら、リベンジの機会を与えてやろう」
座っている神園が立ち上がれないよう、正面に立ち塞がって見下ろしてくるのは風間。誰がどう見ても、再戦を望んでいるのは風間の方である。
「次回のランク戦で当たるからって、俺と戦らないのは面白くないんじゃないの?ケチケチすんなよ、やろーぜ」
空いている左肩をバンバンと遠慮なく叩き、早くブースに入れと急かしてくるのは太刀川だ。
「──まさか、これ以上俺を待たせるつもりか?」
そして、少し離れた壁際で腕を組み、順番が回ってこないことにあからさまな苛立ちを放っている二宮。
「もう勘弁してください。1人10本×3セットも戦いましたよ、太刀川さんと二宮さん以外は」
つい先程までは生駒や熊谷、その他弓場などのメンバーもいたのだ。今残ってるのはまだ満足できていないメンバーになる。
神園が太刀川と二宮とだけは戦わないのには理由がある。次回のA級ランク戦の組み合わせが、『神園隊』『二宮隊』『太刀川隊』の三つ巴だからだ。
次は誰が神園の相手をするか。当の神園の意思など端から存在しないかのように、A級トップ層の男たちによる熱い協議が頭上で始まってしまった。
神園は縋るような思いで、誰か助けてくれる人がいないかと周囲に視線を巡らせる。しかし、面識のない人間に自分から助けを求めることなど、コミュ障である神園にできるはずもない。
今の彼にできるのは、この恐ろしい猛獣たちから逃れられるよう、ただ天に祈ることだけだった。
──神園の悲痛な願いは、奇跡的に天へ届いた。
「──ちょっと。彼は私と約束があるんだけど」
凛とした冷たい声が、騒がしい男たちの間に割って入った。救世主、冬島隊のオペレーター、真木理佐の登場である。
先程まで言い争っていた男たちは、真木の冷ややかな一瞥を受けると、多少の不満を口にしながらも渋々といった様子で引き下がった。
ボーダー屈指の隊員たちを睨み一つで大人しくさせるその手腕に、神園は思わず感動して拍手を送ってしまい──結果、真横にいた影浦から理不尽なゲンコツを食らった。
「痛っ...」
頭を押さえる神園をよそに、男たちは哀愁漂わせながら散っていく。その場に残されたのは真木と神園だけだ。
「助かったよ、真木さん。流石にあのメンバーと連戦は疲れたから」
「そう、それなら良かったわ。神園くん、これから時間は空いてるかしら?」
「え、うん」
「──それなら、少し付き合ってくれない?」
「別にいいよ。なにをすればいいのかな?」
「一緒に来てくれるだけでいいわ」
1本取れなかった木虎
花緒さん