『神園、最近調子はどうだ?チーム選びでまだ迷っているようだが、相談に』
『二宮さん、お疲れ様です。すいません、ちょっとした用事があるんでまた今度お願いします』
『前もそう言って断られたんだが』
『神園くん、これから炒飯を作るんだけど、よかったら』
『あ、ありがとうございます。でも、すみません。これからやることがあるんで、また今度の機会にお願いします』
『最近いつ誘っても用事が入ってるわね。毎回大きな荷物抱えてるし、なにかあったのかしら?』
『む、神園。最近ランク戦をしてる様子は見ないが、調子でも悪いのか?困り事があるなら相談に』
『風間さん、心配かけてすいません。ちょっとやらないといけないことがあるんで。失礼します』
『また謎の用事か。最近お前をボーダーで見かけないって菊地原が心配しているみたいなんだが』
『お、神園。時間あるなら、うちの隊室でゲームでもどうだ?マリパリベンジさせてくれよ』
『すいません、今は少しだけ忙しくて。また今度遊びに行きますね』
『あ、っと、いっちまったか。最近の真木ちゃん、明らかに元気ねぇんだよな。会わせようにも神園は、用事用事忙しいみたいだしよ』
『おい、最近随分と忙しそうじゃねぇか。ちょっと付き合え。ランク戦する時間くらいあ』
『ごめん、カゲさん。今急いでるから、また今度ね』
『──つまんねぇ』
『神園くん、また私たちの連携見て欲しいんだけど。これから時間』
『ごめん、まだ忙しいんだ。また今度気が向いたらね』
『──熊ちゃん、茜ちゃん。神園くん、私たちとほんの少し話す時間も惜しいみたい。LINEの返信も遅いし』
『あ、神園先輩。どこ行くんですか?これから暇ですよね?可愛い後輩にジュース奢ってください。あと、LINE返してください』
『香取、また今度ね。あんまりLINE確認してなくて、返信遅くてごめんね』
『またフラれた.....。最近ずっと紙袋荷物抱えてるけど、どこにいってるんだろ?』
『神園ォ!おめぇ、いつになったらうちの隊に』
『ごめんなさい、弓場さん。やむにやまれぬ用事があって、また今度話を聞きます』
『用事、用事か。用事なら仕方ねぇ』
(確かこっち側に向かってたと思うんだけど。こんなところで何してるんだろ)
香取が神園の後をつけて辿り着いたのは空き部屋だった。使う人がおらず、不用品置き場のようなものだが、別の場所に備品庫があるため滅多に人が来ることはない。
(空き部屋のどこかに隠れてる?なんで?あ、あの紙袋の中を置きに来たとか?いや、わざわざ空き部屋に置きに来る理由がない)
空き部屋は4部屋。一部屋ずつ確認すれば、神園がどの部屋にいるのかはすぐに分かる。
香取は静かに近くの部屋から確認していく。
(いない)
一部屋目はハズレ。電気もついてなく、ホコリっぽい部屋。
二部屋目、三部屋目と確認するが一部屋目同様だ。最後、残りの一部屋の扉を開く。タッチパネルに触れ、問題なく開いたその扉の向こうには不思議な光景が広がっていた。
「神園先輩?」
その部屋はその前までに見た3部屋とは異なっていた。掃除がされているのかホコリっぽさなく、部屋を見渡せばぬいぐるみだらけ。神園は地べたにブランケットを敷き、その上に寝っ転がりながらイヤホンをしてパソコンを眺めている。紙パックのジュースと大福が見える。
香取は声をかけても気づかない神園に近づき、軽く肩を叩いた。一瞬ビクッと身体が飛び跳ね、ギギギと首を動かし背後を確認する。
「──香取か」
緊張感のある表情が、香取を認識した瞬間ホッとした安心したような表情に切り替わる。
「何してるんですか、神園先輩?」
もっともな疑問を香取はぶつける。神園は顎に手を当て何かを考える。ポンっと答えが返ってこない暇な時間、香取は何気なくパソコンの画面を見た。
「ホラー映画?」
「あっ、いや、うん。あー、そーだね」
香取は初めて神園がしどろもどろしている姿を見た。香取が知っている神園は、顔が良くて落ち着いていて強くて格好いい。今日そこに可愛いが追加された。
「誰にも言わないなら教えてあげる」
落ち着いてどうするか決めたのか、神園は普段よりも悪戯っぽい笑みを浮かべている。香取はその笑顔に見惚れた。
「誰にも言わないですから、教えてください」
頬を染めている香取葉子を見たら、チームメイトの男子は『葉子ちゃん!!?』『お前本物か?偽物だろ?』なんて言葉を投げかけるだろう。
(え、なんでここに香取がいるの?偶然ってことはないよね?後をつけられてたとか?えー、えーーーーー!)
神園は全然混乱していた。普段浮かべないような笑みをしたのも焦っていて冷静さを保ってるふりをして笑ったらそうなっただけである。神園と香取、互いの心境を知る由はない。
「笑ったりしない?」
「笑いません」
「本当に?」
「はい」
「本当の本当に?」
「信じてくれないと周りに言いふらしますよ?神園先輩が空き部屋でなんかしてたって」
「ん、んん。そうだね、それじゃあ香取を信じて話そうじゃないか」
「お願いします」
「──地」
「はい?」
「だから、地」
「聞こえません。やっぱり言いふらし」
「秘密基地、だよ」
恥ずかしそうに顔を隠しながら子どものようなことを言う神園。その表情が香取の心を更に鷲掴みにした。
「色っぽい」
「なるほど。最初は1人になりたい時に来ていたけど、人通りがほぼないここを秘密基地みたいな快適空間にできるのでは?と考えたってことですね」
「わざわざ口に出して言わなくても。ちょっとした出来心だったんだ」
「いや、すごいですよ。ぬいぐるみこんなに持ち込んでるし、部屋は狭いけど隊室って言われたら信じますよ」
「バレないように持ち運ぶの大変だったんだ。話しかけられて何持ってるの?とか聞かれたら終わりだしね」
だから最近用事が多かったのかと香取は納得した。クマや猫のぬいぐるみなど、少なくとも大小含めて20個ほどある。1番小さいのでもクッションサイズだ。
「それで、快適になった部屋でパソコンで映画を見ようとしてたってことですね?」
「香取の言う通りだよ。あ、大福食べる?手作りが嫌じゃなかったらだけど」
「え、先輩お菓子なんて作れるんですか?食べますいただきます。全部もらいます」
「いや、僕の分も残してね?香取にはバレちゃったし、折角だから映画観る?ノーパソだから画面は小さいし、音漏れ対策でイヤホンしてもらうけど」
「ふぃます」
神園は大福を頬張っている香取を優しい目で眺め、イヤホンの片耳を渡した。ちなみに、神園はイヤホンは有線派である。
(こ、これって、すっごく恋愛漫画みたい!!)
「あ、ホラー映画大丈夫?」
「余裕ですけど?」
脊髄反射的に香取は答えたが、ホラー系統はてんでダメである。香取は好きな人との非日常的な経験に冷静に判断ができていない。
映画のオープニングが始まる。2人で狭いブランケットの上に寝っ転がっているため、距離はかなり近い。香取が神園の横顔を一瞥すると、整った顔が見える。心臓の鼓動が早くなる。
(かっこいい)
見られていることに気がついた神園が、自分じゃなくて映画を見ろと意を込めてノーパソを指さす。香取はバッと顔を逸らし、ノーパソに目を向ける。
『バンッ!!』
「ギャァァァァァァァァァッッッ!!!」
「うっさ...!香取、頼むから静かにして。誰かが来たら怒られるから」
映画上でタイミング悪くホラーシーンが流れ、耐性のない香取の悲鳴が響く。神園は誰も来るなと願うばかりである。
「誰ですか。空き部屋で何を──本当に何をしているんですか?」
偶然近くにいて声を聞いて駆けつけた根付の前に広がっている光景はメルヘンかつ、不思議なものだった。ぬいぐるみに囲まれている神園が香取にポコポコと叩かれている。
「すいません、僕が勝手にこの部屋を使ってました。ご覧の通り、香取にダメですよって怒られてたんですよ。香取、君は関係ないから出ていって」
やらかしたって顔をしている香取を神園は半ば強引に部屋の外に追い出した。残されたのは根付と神園の2人だけだ。
「ご覧いただいた通り、責任は僕だけにあります。厳重注意でも、ポイント没収でも必要であれば処罰を受けます」
「気持ちはわかりますが、空き部屋を勝手に使ってはダメですよ。処罰ですが──」
(この程度のことなら可愛いものだ。逆にこんなことで罰して下手にグレられたら困る。問題行動があるわけでもないし、見逃してもいいくらいなのだが)
「は、はい」
「このキツネ柄のクッションを1つ没収することを罰としましょう。いいですか?」
「はい!」
「大切に使わせてもらいますね」
今回の件は若干事実が捻じ曲がって広がり、他の隊室の賑やかしさが羨ましくなったことで擬似的に隊室を再現しようとしたとされ『神園寂しがり事件』は一部隊員の間ではしばらくの間ネタにされる。
ぬいぐるみ達(クッション含め)は持って帰るのが面倒なので、神園が知り合いの隊に配って回った。
神園はドキドキしていた。ときめくようなドキドキではなく、心臓を鷲掴みされているようなドキドキである。
(嘘だよね、城戸司令から呼び出されるなんて。昨日の件は根付さんが見逃してくれたはず。昨日以外問題を起こした覚えないんだけど)
不安な気持ちを胸いっぱいに秘めつつも、覚悟を決めて司令室に入室する。
「失礼します」
「──かけたまえ」
「はい」
(城戸司令と2人っきり。え、本当になにかやらかした感じ?まったく心当たりがない)
司令室には城戸司令以外には誰もおらず、2人っきりの空間。いくら記憶を遡っても神園に問題を起こした覚えはない。
「孤月とバイパーのマスタークラスを達成したようだが、完璧万能手を目指すのか?」
「あ、いえ、狙撃手はやるつもりないです。今のスタイルの方が強いと思うので」
(進路面談みたいなものなのか?いやでも、忙しいであろう城戸司令がやることではない。ってことは、やっぱり知らないうちに僕自身がなにかやらかしてたとしか思えない)
「そうか。コーヒーは飲めるか?」
「あ、はい。いただきます」
微糖のコーヒー缶が目の前に置かれる。
(さっきから、あんまり威圧的じゃない?若干優しい気さえしてきた)
問題を起こした隊員に対して城戸は腰かけるように誘導したりはしない。神園が気づいた通り、今回の呼び出しはお叱りの呼び出しではない。
「本題に入るが、これから伝えることは強制ではない。その事を念頭に置いて話を聞いてほしい」
「はい」
くぴりとコーヒーを1口飲む。恐らく怒られないと分かっただけでも、神園の気分は上々である。
「君を隊に入れたい隊が非常に多いと報告を受けている。私もランク戦のログを見せてもらい、その理由がよく分かった」
「ありがとうございます」
(褒められてる?え、まさか、褒めるために呼ばれたとか?だったらすごいよね?後で歌歩に自慢しよーっと)
「神園隊員。我々上層部としては、君には既存の部隊には入隊しないでほしい」
「?ソロで活動しろ、した方がいいってことですかね?」
神園からすれば、奇想天外な出来事だった。自身の入隊話なんて、本部が首を突っ込むような話ではないからだ。
「いや、新しく隊を立ち上げてほしいと考えている」
「どうしてですか?どの隊の誘いを受けるかはまだ決めてませんが、自身で隊を立ち上げる気はないです。自信もありませんし」
「勿体ない、その一言に尽きる。君が冬島隊若しくは別の隊に入れば、その隊は強くなるだろう。だが、有事の際の防衛範囲が広くなるわけではない。君が新しく隊を持つことで、既存の隊への下からの突き上げ、ひいては防衛力の強化に繋がる」
「僕1人の決断がそんなに壮大な話になるんですか?あまり実感は湧きませんが、城戸司令がそう仰るなら考えてみます」
「ああ、君の隊と那須隊には下からの突き上げを期待している。話は以上だ」
「検討します。失礼します」
「迅、これでいいのか」
城戸は神園が去った司令室で、1人そう呟く。
城戸から呼び出された日から数日、神園はとある部屋の前にいた。
(はぁ、城戸司令から言われたら断れないって)
タッチパネルに触れ、扉が開く。殺風景な部屋が視界に広がる。
「ここが今日から僕の隊室になるのか」
誰もいない隊室でポツリと呟く。メンバーは神園1人。不安な気持ちを押し殺しながらも、部屋に入る。
「隊に入ってくれるメンバーを探さないとなぁ」
「へー、そっちの未来を選んだか」
城戸司令←怖くなかった。まだどの隊に入るか決めていなかったし、司令に言われたら断れないなぁ
熊谷友子←僕はコミュ障じゃない。必要が無い相手には話しかけないだけだから!
城戸→期待の若手
弓場拓磨→敵になるのかよ。いいぜ、ランク戦でタイマンしてやらァ
諏訪洸太郎→おまっ、大人しくA級隊に入っとけよ。対策めんどくせぇ
風間蒼也→そうか。お前に荒らされるB級ランク戦が可哀想だ。なに?三上を寄越せ?断る
二宮匡貴→隊服はよく考えるんだぞ。うちの隊服をパクってもいいか?本部規定で他の隊と同じ隊服は禁止されている。悪いな、黒スーツを奪ってしまって
影浦雅人→意外。敵として戦うのも面白ぇ
仁礼光→えー!うちの隊に来ないのか!?
那須玲→ふーん。来てくれないんだ。それなら、私たちライバルだよね?泣いても知らないから、おししょーさま
熊谷友子→お願いだから早くA級に駆け上がって。え、そもそもコミュ障の癖に隊員スカウト出来るの?
日浦茜→えっええーー!!
加古望→隊をまとめるのって大変なの。同じ隊長としてアドバイスしてあげるわ
真木理佐→1人で隊を立ち上げたの?無計画じゃないのよね。それならいいわ
香取葉子→なーんーでー!!うちの隊に来て!!
菊地原士郎→は?僕が君の心配をしてたって?何それ誰情報。別にしてないんだけど。自意識過剰、変な勘違いしないで。まあでも、寂しいならうちの隊に遊びに来るのは自由にすればいいんじゃない。僕がいるかは約束できないけど
主人公以外のオリキャラが隊に入ることはないから安心?してね!!
ツンツンツンデレは菊地原!!