その後、子供がものすごい勢いで車の上を飛び越えていったという通報を受けて駆けつけたお巡りさんに話を通して、呼び出された目暮警部達。
彼らはまず直前の爆発騒ぎどころか新たな爆弾事件が発生していたことに驚き、話を聞くにつれて爆弾の解体についてあれやこれやと聞かれ、その子供はどこに行っただのという話にはなったものの、結局のところ今問題なのは連続爆弾犯だという形に落ち着いた。
道徳的にも探偵の知的好奇心的にも、是非もう一度あの子供に会いたいところだが、それでもやはり彼は本筋ではない。
米花町に住むと行っていたし、そう遠くないうちに会えるだろう。
むしろちょっと現実離れしすぎてて一旦後回しにしたい、などとコナンが考えていた頃。
───少年は、米花町で長い付き合いになる3人組と顔を合わせていた。
「はぁ〜クソだな米花町。まさかセンタッキーねえとは…」
警察から無事逃げおおせた俺は、街で拾ったよれよれの地図を眺めながらそう呟いた。
センタッキー。
フライドチキンが大人気で全国チェーン展開中であり、俺が都会にでたら食べてみたいものリストの一つだったのたけど、当然出店していない街もある。
その一つが米花町であり、センタッキーを食べたければ隣街までいかなくてはならないという現状だった。
「なお?」
「んー、まぁそこまで焼き鳥に執着してるわけでもねえからカエル捕まえて焼いてもいいんだけど」
「なーご」
「なんだよカエルは嫌いか?」
というか東都って田んぼあるのかな?なんて考えるのはさすがに6歳にしては野生児がすぎるだろうか。
真っ当な大人が聞いたら卒倒しそうな思考回路かもしれないが、別に金がないというわけでもないのだ。
ついこないだまでしていた限界集落生活が抜けきっていないだけで。
荷物だってとある場所に隠してきているし、やろうと思えばいくらでも贅沢できる。
性に合ってないからしないけど。
「にゃぁ」
「可愛いなぁお前…」
そんなひとり寂しく猫と戯れる俺に近づく、子供の集団が一つ。
本来ならコナンが爆発に巻き込まれて怪我をして、そのお見舞いと事情聴取を兼ねて一緒に病院に行き、緑台駅から米花駅に戻る途中で事件に巻き込まれるはずだったとある子どもたち。
「にしても飛行機のおもちゃが爆発するなんて驚いたよなぁ」
「そうですね…僕達にできることってないんでしょうか…」
「コナン君が危ないから絶対犯人探したりするなって言ってたよ?」
「じゃあ犯人探し以外でなにかするとかどうだ?」
「犯人探し以外でって、例えば?」
「さぁ?」
「もう、元太くん!真面目に考えてよね!」
「なんだあいつら」
俺は物騒な話を呑気にする彼らを見て、ドン引きした。
●
「えーっ、田舎から東京に一人ででてきたんですか!?」
「大丈夫?怖くなかった?」
「腹減ってねえか?」
「…個性重視なセリフどーも。ところでおたくら誰?あまりにも自然に同伴が始まって俺びっくりしたんだけど」
「私歩美!」
「僕光彦!」
「オレ元太。3人合わせて」
「「「少年探偵団!」」」
「おーけいわかった。とりあえず電車では静かにするものらしいぜ陽キャコミュ強どもが」
目があってからたったの5分。
俺が公園のベンチでたそがれていた理由を知り、ならオレ達が案内してやるよ!とその3人組は快く道案内を開始。
流れるような展開に減らず口を忘れていた俺は、気がつけば東都環状線を走る電車の車両の中にいた。
「何だこのスピード感」
「これ普通電車だよ?」
「知ってるけど?」
「やっぱ田舎って電車ねえのか?」
「別に見栄で知ったかぶりしたわけじゃねーから。電車くらい地元になくても乗ったことあるんだよ!」
「そうですよ元太くん失礼ですよ!確かに普通に見栄っ張りそうですけど!」
「お前が一番失礼だからな?見栄っ張りなの否定しないけどさぁ!」
おにぎりみたいな顔の縦にも横にもでかい元太。
チビな俺と目線の高さが同じくらいの歩美ちゃん。
コナンほどじゃないが賢しらな雰囲気と面構えの光彦。
そんな面々に向かってようやく俺の口から減らず口が出るものの、正直悪い気はしていなかった。
なにせ、同年代との平和な交流なんてのは、師匠やそのお仲間では絶対満たせない部分だし。
そういう意味では師匠の言い分はさておき、たしかに地元から出てきてよかった。
ちなみに隠れ里には電車どころかバスもないが、自家用ジェットとかヘリとか本命の予備らしいフィアットとか、クルーザーとかならあったりする。
そんでもって、運転もできたりする。
「というか探偵団ってなに?二十面相とか捕まえんの?」
「まぁ、現代の二十面相とも呼ばれる(呼ばれてない)怪盗キッドなら追い詰めたよな…コナンのやつが」
「こわーい強盗さんも捕まえたことあるんだよ!…コナン君が」
「誘拐事件だって解決したんですから!…コナン君が」
「全部コナンのお陰じゃねえか」
───もちろん、少年探偵団たちも活躍はしているのだけど、それでも華々しい活躍を持っていくのはいつだってコナンだった。
さて。
そんな雑談をしながらも、隣街ともなればあっという間にたどり着けるというもので。
少しの慣性と共に電車が減速を始め、これってお礼にジュースくらい奢ったほうがいいんだろうか、なんて俺が考えたあたりでそのアナウンスは全ての乗客へと非情な現実を叩きつけた。
「───お客様にお知らせいたします。緊急事態発生のため、この電車は次の緑台駅を通過いたします」
「は?」
「「「えーーっ!?」」」
電車は加速する。
忍者と悪意に振り回される普通の人達を乗せたままに。
「…おい、非常事態ってどういう意味だ?」
「ハァ…」
「元太くん…」
「…いつからここはダイ・ハードの世界になったんだおい」
「にゃご…」
その非常事態とやらに心当たりのある俺は一人、元太の言葉に呆れる二人の子どもや周りに聞こえないように愚痴をこぼした。
電車に乗る際に言い含めていたからか、ずっとぬいぐるみのふりをしている小太郎だけは、俺の言葉に反応して耳を動かしていたが。
というか賢いなお前。
後で煮干し買ってしんぜよう。
●
「そうですか…わかりました!」
所変わって、警察署。
どこからか電話を受けていた目暮警部がほっと胸を撫で下ろしたのを見て、それを見守っていたコナンたちもまた少し気を緩める。
「とりあえず、爆発した電車はなかったようだ…」
東都環状線の電車に伝えられた非常事態。
それは、電車が減速したら爆発する爆弾を仕掛けた、というもの。
少年が先程少し関わった爆弾にまつわる一連の事件は、犯人がより過激になってきたことで、多くの人が危険に晒される事態へと進展していた。
「分かりましたよ、目暮警部!ホシの言っていた爆弾の隠し場所のヒント『××の×』は座席の下…あるいは網棚の上…ですよ!そこに爆弾が仕掛けられているはずです!」
「車体の下というのも考えられるぞ…」
「ええ…まぁ…」
そんな毛利小五郎と目暮警部の会話を聞きながら、コナンもまた考えていた。
なぜ減速したら爆発するのか。
なぜ日没とともに爆発するのか。
そこにヒントがあるはず、とコナンが思考を開始した直後、警察署内で流れていたテレビの声を耳が拾った。
『東都環状線の全ての車両がノンストップで走り出して十分が経過しました。ご覧ください、我々のすぐ下で電車が一つ残らず走り続け───あ、あれは!?子どもでしょうか!?』
「子ども?」
嫌な予感とともに思考の海から戻ってきたコナンが見たのは、カメラが捉える電車のうちの1両から重力を感じさせない軽やかさで窓から車両の上へと飛び移る着物の子ども。
あと、頭の上に載せられた白猫。
『この異常事態に対し東都鉄道と警視庁は明確な答えを我々に聞かせてはくれませんが…今はそれどころではないのではないでしょうか!?一つの幼い命がこの異常事態で失われてしまうのかもしれません!…我々は救助隊の邪魔をしないよう、彼らの到着次第高度を上げたいと思います!それまでは!我々だけでも目を離さないように…、』
「…何やってんだあいつ!?」
コナンの今日何度目かわからない叫び声が、警察署内に響き渡った。