米花町パンツ一丁忍法帖。   作:ひつまぶし太郎

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日常パート。


米花町の平和かもしれない暮らし方

 

 

困り事、解決し〼

───米花町忍者

 

 

 

 

「…あーこのあとどうっすかなぁ…あそこ居心地良かったんだけど。誰か俺の代わりに俺の困り事解決してくれねーかなほんと」

 

ため息とともに諦観を吐き出す先は、絵の具をひっくり返したような青空だ。

その隣では、すっかり一緒にいることが当たり前になった白猫の小太郎が我関せずと丸まっていて、そのさらに隣では、おじいさんが新聞を読みながらうつらうつらと船を漕いでいる。

 

穏やかな昼下がり。

写真に撮って題名を考えるとしたら、まずはそんな言葉が思いつくであろう平和な光景。

 

「お前はいいねぇ呑気で」

 

「ふにゃ…」

 

「たしかに…俺も呑気か。どう思う、爺さん?」

 

「さぁねぇ…わしにはなんとも」

 

「まぁ、そりゃそうだ」

 

思い返すのは、昨晩まで(無断で)寝泊まりしていた図書館。

あそこは雨風がしのげるし、ソファーもあるし、近くに銭湯もある。

しかもなぜか猿顔の館長が従業員を早く帰してくれるので、夜歩き回ってても見つかることもないという神物件だったのだけど。

 

「まさか館長が薬の売人で見られたら目撃者を殺そうとするヤベー奴だったとは…どう思う、爺さん?」

 

「さぁねぇ…わしにはなんとも」

 

「まぁ、そりゃそうだ」

 

あの日、誰だよ寝てるのにうるせーなと寝床にしている天井から廊下を覗き込んだ俺が見たのは、今にも殺されそうな図書館の職員と襲いかかる猿顔の館長。

咄嗟に枕にしていた辞書を投げたところ、狙い通り頭を撃ち抜いて館長は気絶。

一つの尊い命は救われた。

 

…なんか首が曲がっちゃいけない方向に一瞬曲がった気がしたが、米花町ではきっとよくあることだ。

知らないけど。

実際何事もなかったように駆けつけた警察に捕まって連行されていたし、治療とかいらなかったのだろう。

 

そして、悪党が逮捕されてめでたしめでたしとなればよかったのだけど、その助けられた職員の証言のせいで、図書館には座敷童がいるという噂が流れるようになってしまったのが最大の誤算だった。

 

お陰でテレビはくるし、夜中に張り込んでる記者もいるし、昼間も多くの利用者が訪れるようになって賑やかになり。

挙げ句、噂の真相を確かめに来たコナンやら少年探偵団やらが図書館に来るようになったことで、俺は引っ越しを決めた。

 

「また爆発されても困るしな…」

 

「にゃ」

 

「えー…俺の考えすぎ?どう思う、爺さん?」

 

「さぁねぇ…わしにはなんとも」

 

「まぁ、そりゃそうだ」

 

とはいえ、引っ越しを決めたはいいが、引っ越し先は決まっていないのが問題だった。

 

「やっぱ適当に大人に化けて部屋借りるか、大人の弱み握って部屋を借りてもらうかしないとだな…どう思う、爺さん?」

 

「………」

 

「え、爺さん?おおい!え、死んだ!?…って、なんだ寝ただけか。びっくりしたぁ」

 

「なぁご」

 

「…え?うわ、ほんとだコナンだ。隠れろ隠れろ」

 

 

 

 

(オレ…このままアホになったらどーしよ)

 

江戸川コナン。

本名工藤新一。

謎の男たちの取り引き現場を目撃した彼は、黒尽くめの男たちに毒薬を飲まされ、目が覚めたら子どもになっていた、という。

既存の科学に真正面から喧嘩を売るびっくり体験をした現役高校生である。

なお、現在不本意ながら小学生生活を満喫中であり、そんな日常の一環でかくれんぼの最中だった。

 

(やべー…早く隠れねーと。…ム?)

 

鬼が百数えるという割と鬼畜なルールのかくれんぼにおいて、数え間違えることによって時間を短縮する元太に焦ったコナンが目をつけたのは、新聞を広げたまま眠りこける老人の懐。

 

すかさずそこに隠れこんだコナンは、そこに身を潜めていた先客に目を丸くした。

 

「あ、お前!」

 

「……あれぇ、コナンじゃん。久しぶり!いい天気だね元気してた?俺は超元気。最近はうるせぇ師匠もいないし、無理にきのこ食べなくてもいいし最高。じゃ、そういうことで…」

 

目があった雪音は、一瞬気まずそうな顔をしたあとすぐに嘘くさい笑顔になり、コナンの肩を叩くと、自然な動作で新聞の隠れ場所から立ち去ろうとする。

 

「いや逃さねーよ!お前今までどこで何してたんだ!?全然見つからないし!なんか図書館の裏に貼られてたよくわかんねービラだけは見たけど!」

 

それを阻止するのは、もちろんコナンだ。

慌てて雪音の腕を引っ掴むと、新聞の中へと引き込んだ。

 

「ビラ?ああ、あの渾身のやつ。え、で?何したって…普通に暮らしてたけど」

 

ビラとは。

雪音が図書館の廃棄倉庫から勝手に裏紙としてパクった用紙に筆と墨で宣伝文句を書いた広告のことだ。

 

『困り事、解決し〼───米花町忍者』

 

図書館の裏手に貼られたそれは、末尾に記されたポケベルの番号に連絡すれば実際に困り事を解決してくれることから、図書館の座敷童以前から米花町でも少しずつ噂になっていたりする。

もっとも、トラブルが起こっても困るので知り合いの魔女に頼んで一つ呪いをかけてもらっていたりするので、そこだけは普通じゃないかもしれない。

 

偽物だとか偽依頼だとか。

悪意を持ってこのチラシに目をつけた人間は、しばらくの間やることなすこと全て失敗するようになるという、雪音が思わずそこまでしなくてよくない?と呟いたほど結構えげつない呪いのお陰なのか、今のところなにか目立ったトラブルは起こっていない。

 

「普通に?」

 

「とりあえず図書館にすんでた。あと殺人未遂を阻止したり、座敷童扱いされてた。食事は稼いだ小銭で適当に取ってたし、銭湯で体も綺麗にしてたし。普通じゃない?」

 

「それは普通って言わないんだが…?というかやっぱ座敷童ってお前かよ」

 

「あー雪音君だ!久しぶり!」

 

「おー歩美ちゃんじゃん。おひさ」

 

「ふふっ、おひさ!」

 

呆れるコナンの傍らで、雪音は後ろからの声に反応して振り返る。

話しかけてきた歩美とは普通に話す雪音を見て、自分に対して一瞬気まずそうな顔をしていたことに思い至った高校生は人知れず若干傷ついていたが、それに雪音が気づくことはなかった。

 

ちなみに、嫌われているわけではない。

単に雪音が犯罪者側だから、正義の探偵が苦手なだけである。

 

 

 

 

 

 

「でもわたし、心配なんかしてないよ……いざとなったら、コナン君が守ってくれるもんね!」

 

「え?」

 

時はお昼。

天気は晴れ。

空に広がる青空同様、小太郎を頭に乗せる俺の隣では、もう5月だというのに青い春が満開だった。

 

「だってわたし達、結ばれる運命だもの!」

 

「はい?」

 

「いやぁ無理だろ。コナンってホモだし」

 

「…おおい、なんでそうなった!?」

 

美少女誘拐殺人事件。

隠れ場所にしている新聞紙に書かれていた、不謹慎なタイトルの記事の話になり、歩美が危ないかもという話になり。

そして、なぜか必ず助けてくれると確信しているその言葉にたじろいだコナンは、しかしその言葉よりも俺が言い放った言葉に驚愕していた。

 

なんだバレてないと思ってたのか。

所詮探偵と言ってもガキはガキ。

その程度の謎、俺はスルッとまるっとお見通しだぜ。

 

「ほも…ってなに?」

 

「男の人が好きってこと」

 

「えー!コナン君ってそうなの!?」

 

「いやいやいや!オレは普通に女の人が好きで…!」

 

「でもこないだ、シンイチのために必死に嘘ついてたじゃん。いもしないやつの恋応援してなんの意味あんの?好きじゃなきゃなんだよ」

 

「いや、それは!オレが新一───」

 

「?」

 

「…兄ちゃんのことが大好きだからだけど…!」

 

「ほら!」

 

「恋愛的な意味じゃねーよ!そもそも恋愛的に好きなら、蘭との関係も応援しないし!」

 

「…たしかに。なら好きなのはランネーチャンの方か」

 

「…ばっ、おま!ちげーよ!!!」

 

「なんだよ照れてんのか?ひひっ、ガキだねぇー」

 

「ガキに言われたくねーよ!」

 

さて。

言い合いに夢中でコナンはすっかり忘れているが、現在かくれんぼ中であるらしい。

新聞の中から様子をうかがっていた感じ、多分そうだ。

そんな最中に、絶好の隠れ場所とは言え騒げばどうなるか。

俺は近づいて来る気配を前に、移動のための準備を始める。

 

「コナンめーーっけ!」

 

「……あ」

 

呆気なく、元太に隠れ場所にしていた新聞紙をむしり取られ、コナンの姿があらわになる。

気まずそうな顔をするコナンに向かって、元太は笑った。

 

「オメー見つけるのはうまいけど、隠れるのはヘタくそだな!」

 

「オレは逃げ隠れするのが嫌いなんだよ!」

 

ハハハ、なんて愛想笑いをして誤魔化すコナンは、自分と同時に見つかったはずの俺がいないことに気がついたらしい。

辺りをキョロキョロ見渡しているコナンに見つからないように、俺は咄嗟に飛び乗った木からさらに移動を開始する。

 

「ふぁぁ…」

 

さすがに新聞紙を奪われれば起きるのか、眠りこけていたおじいさんが伸びをする。

その懐に、俺の貼り付けた『ばいちゃ♡』と書かれたチラ紙が貼り付けられているのを見つけたコナンが思わず渋い顔になったのを尻目に、俺は公園を後にするのだった。

 

「あんにゃろめ…」

 

望月雪音。

子どもながらに師匠から免許皆伝を言い渡される程度には天才な、現役?忍者である。

 

「───たこ焼きにイカ焼き、焼きそば、クレープ、チョコバナナ!ひゃっほう、お祭りだ!」

 

「ねぇ君、迷子?お母さん一緒に探そうか?」

 

「それよりチョコバナナってどこ?」

 

「ええっと」

 

「…おいそこで車が事故ったって!」

 

「事故?…あ、あれ、ついさっきまで私の眼の前にいた子は?」

 

その後、勝手に他人の車に乗り込んで眠っていた歩美がきっかけで勘違いによる一騒動が起こったらしいが、さっさと公園を立ち去って途中でレモンの匂いのする美人に話しかけられたりしながら学祭を楽しんでいた雪音には関係のない話だった。

 

 




TIPS。今回の事件
・図書館殺人事件。
・歩美ちゃん誘拐事件。

卑しい作者のために評価と感想くださいどうかよろしくお願いします(床ペロクソ乞食)。
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