米花町パンツ一丁忍法帖。   作:ひつまぶし太郎

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タイトル変わりました。
この話のオチもちょっと変わりました。
ちょっとだけ。


米花町の死に装束・下

 

 

港では、二人組の男と女が向かい合っていた。

 

「最後のチャンスだ…金のありかを言え…」

 

闇にあってなお浮かび上がる不吉な黒。

鈍く光る銃口を女に向ける男もまた、黒ずくめだ。

 

「甘いわね…私を殺せば永遠にわからなくなるわよ」

 

「甘いのはお前の方だ…だいたいの目星はついている…」

 

強気で睨み返す女を、男はせせら笑った。

 

「それに言ったはずだ。いまのが最後のチャンスだと───誰だっ!」

 

そして、その銃口から銃弾が放たれる…その直前。

やけに明るい港のライトを背景に、大きな人影が現れた。

 

「大くん…!」

 

その乱入者を見て、女は顔に希望を浮かべ、男は嗤った。

久しぶりの顔だ。

つい先日までは、組織の仲間として側にいた男。

偽名は確か諸星大。

コードネームはライ。

目障りだからいつか殺したいと思っていたが、そのチャンスが目の前に転がってくるとは。

 

「ふん、昔の女を助けに暗闇の底までもう一度潜りに来たってか?案外ロマンチストな野郎だ…なにっ!?」

 

「きゃぁ!?」

 

「あの野郎女の方を撃ってきましたぜ兄貴!!」

 

だが、舌なめずりをした男の表情も女の脚をライの放った銃弾が貫いたことで、すぐに苦虫を噛み締めたようなものに変わる。

闇夜に浮かぶ緑の瞳が、冷徹に女と自分たちを見据え、再びサイレンサー付きの拳銃を構え直すのが見えた。

女を助けに来たと思っていた男は、その意図を悟って舌打ちを一つ。

 

「チッ…そういうことか。自分の情報が漏れる可能性は少しでも消しときたいらしい…」

 

「そ、そんな…」

 

「くくっ、哀れじゃねえか宮野明美。惚れた男に裏切られ、妹も救えず…!」

 

黒尽くめの男は、偽装された敵対の可能性を考えて宮野明美と諸星大に向かって銃をぶっぱなす。

それを諸星大は女を盾にするようにして防ぐと、すぐに身を翻した。

去り際に、電灯を全て撃ち抜いていったせいであたりは一瞬で暗闇になったが、それでも即死だ。

 

場が暗闇に落ちる直前で自分の銃弾が女の脳幹と心臓を貫いたのを見て、ジンは確信する。

 

「追いますかい、兄貴!」

 

「いや、やめておけ。ヘタに深追いして罠にはめられてもつまらねぇ…それにそろそろサツも来る。ずらかるぞ」

 

「へ、へい兄貴!」

 

銀髪の男は、暗順応の終わらない暗闇の中で記憶を頼りに死体に近づくと、まるで人形のようにピクリとも動かない宮野明美の首に触れて脈がないことを確かめると、もう一度その心臓と顔に銃弾を叩き込む。

 

「ふん…あっけねえ最期だ」

 

黒尽くめの男は、暗闇にようやく慣れてきた視界の中で、鮮血を撒き散らす女を見て酷薄に笑った。

死体を海に蹴り落とし、その場に明美の指紋のついた拳銃をわざとらしく置いてから、二人の男たちはその場を去る。

 

残ったのは、宮野明美の血痕と指紋のついた拳銃のみ。

死体は上がらず、遅れてたどり着いたコナンや警察たちは、間に合わなかった自分たちの無力さを噛み締めた。

 

「…裏切り者ぉ」

 

そして、雪音は痛む後頭部をさすりながら自分の迂闊さと作戦の失敗の悔しさを噛み締めていた。

その胸の内に、協力者のはずだった男に対する恨みを抱きながら。

 

 

 

 

「ぶっちゃけ素直にその人らって妹さん解放してくれんの?」

 

それは、毛利探偵事務所に依頼を持ち込む前のこと。

明美さんに向かって俺が告げた何気ない質問だった。

 

「それは…正直、わからないわ。十億円って組織の人材って意味じゃこれ以上ない引き抜きの条件だと思うし…」

 

「えー絶対殺されるやつじゃんそれ。サスペンス物の映画で見た」

 

「………やっぱり無駄よね、こんなこと」

 

うーん、たまにこの人ネガティブになるんだよな。

普段明るい人のこういう顔苦手なんだけど。

でもそうか。

強盗はゴールではないんだもんな、この人にとって。

こちとら家族とか死んだ姉くらいしかいなかったもんで、あんまり身内を人質に取られるって感覚もわからないが、『姉』のためならまぁもう一肌脱いだっていいかもしれない。

 

「なんかさぁ、明美さんを助けに来てくれる人とかいないの?物語の必然性がある人」

 

「…うううん。ごめんなさい…いないわ」

 

「はい嘘」

 

「え?」

 

「助けに来てくれるかわからないけど助けに来て欲しい人はいると見た」

 

いい流れが見えてきたな、と。

ニヤリと笑う俺を、明美さんは疑問符を浮かべながら見つめていた。

 

───罠を警戒して頑なに話を聞かないFBIたちが、単身アメリカへと飛んだ俺に雑にぶっ飛ばされるという一幕はあったものの、俺お手製の変装によって難なく日本へと来た諸星大改め、赤井秀一さんを交えての作戦会議はとてつもなくスムーズだった。

 

会議中ちょくちょく意味深な目線の絡まり合いが発生していたが、まぁそこは好きにしてくれって感じ。

 

とりあえず、闇に完全に潜む俺が明美さんに放たれた銃弾を切り裂くのと同時に血糊で出血を偽装。

さらには通常より明るくしていた電灯を壊して突如暗闇にし、その隙に本人の血を大量に仕込んだ身代わり人形と入れ替えることで敵に死亡の確信を持たせるという作戦は成功した。

 

だが。

 

「あぁ〜!ひっさびさにたんこぶ出来た!いてぇ…つーか普通に気絶したんだけど!先に帰りやがって裏切り者ぉ!」

 

「あーほら動かないで!ほんとに結構しっかりしたたんこぶなんだから!」

 

「いやすまない。だが、待っていると俺も死にかねないからな…」

 

「ムカつくぅ〜!こいつ絶対誰かに恨まれてるって!だってそういう顔してるもん!マジで!アンチコメントいっぱいつくね!男とかに粘着されてそう!」

 

「ひどいな…」

 

「というかほんとに心配したんだからね!?秀くんだって何回も戻ろうとしてたくらいなんだから!」

 

「………ああくっそ、最後の最後で失敗した!コナン来たのに普通にびっくりしたんだけど!あれ何、超能力!?」

 

───正史と異なり明美が十億円を取り返してからの準備をしていたのもあって、明美より先に腕っぷしを買われた大男が広田健三を見つけていたこの世界において、発信機もなく本当によく追いつけたものである。

 

げに恐ろしきは天才小学生探偵と言うべきか。

恋愛ベタなガキだと舐めてたけど、ちょっと頭が良すぎるかもしれない。

割と犯罪者側の俺からすれば、恐怖しかないんだが?

 

「正直、彼もそうだがやはり君のほうが不可思議だよ。わかっていても、あのジンの銃弾は当たっているようにしか見えなかった」

 

「…うーん、あれに関しては普通に斬っただけだしなぁ。血糊とか、その後暗闇に乗じて入れ替わった身代わり人形くんだって、元から持ってたものを効果的に使っただけだし…」

 

「やはり忍者か…」

 

失敗がなかったわけではない。

最後の最後で港にコナンがたどり着いて、それに驚いた俺が隠れていたコンテナに頭をぶつけて気絶するという一幕で、残された大人二人はかなり肝を冷やしていたくらいだし、他にも広田健三や暴力担当ケツアゴおじさんの命だって失われている。

便利な身代わり人形も海の底で、二度と使うことはできないだろうし、赤井さんの今後は決して平穏なものにはならないだろう。

 

あと、全て俺のお陰というわけでもない。

組織に対してずっと自分の有用性を悟らせず、1週間毎日限界ギリギリまで血を抜き続け、最後は俺を信じて銃弾の前に身を晒した明美さん。

そして、恋人のためとは言え素顔で死地に飛び込んだ赤井の行動がなければ、この作戦は成功していない。

それに普通に赤井さんのペイント弾で打たれた明美さんの演技が普通に迫真すぎたのもある。

 

「本当にありがとう雪音くん」

 

「君には返し切れない恩ができた。命に代えてもこの恩は返させてもらう」

 

「君の実力なら二人組の捕獲くらい簡単のはずだろう?とかFBIが言い出した時はこいつらほんまってなったけどな」

 

「すまない。反省しているよ。たしかに君ならジンとウォッカを捕らえられていたかもしれないが、明美はずっと命を狙われ続け、妹の方はまず間違いなく今以上に厳しい状況になっていた…俺は、組織の壊滅よりも明美を優先して…」

 

「や、当たり前だろそんなの。むしろ無理矢理にでも捕らえようとかしてたら裏切ってもっかいFBI全員ぶちのめしてたから」

 

ようするに。

ひとまずのところ、たぶんではあるが。

一件落着と言えるのだろう。

今度は『姉』を助けれたようで何より何より。

 

俺は頭を下げる二人に手を振りながら、肩の力を抜く。

…妹さんのために手を出せないという縛りに対するフラストレーションの発散のために、嫌がらせで黒尽くめの男たちのズボンのベルトを切ったのは内緒にしておこう。

追加でお説教されそうだし。

 

 

 

「…!兄貴、パンツが!」

 

「なに…?ちっ、港で引っ掛けたか?」

 

「お、俺のも!?」

 

「このズボンは、あの方直々に選んでくれたものなんだぜ…?」

 

「このあと仕立て屋に行きましょう兄貴」

 

黒尽くめの男たちが、一度パンツ丸出しになり、すぐにその真っ白なもっさりブリーフを隠すようにズボンのウェストを必死に掴んで、無駄にスタイリッシュに走り去る姿を目撃した小学生がいたかもしれないが、もっとちゃんとした邂逅はしばらくあとである。

 

「まさかあいつらは…!あの黒いコートは!?…いや違うか…パンツ丸出しなわけねーしな…」

 

少なくとも、今はまだ。

ただすれ違っただけだった。

 

 

 




十億円強盗事件これにて完結です。
パンツの下り以外は特に変えてません。
あと、1週間毎日投稿頑張ったので評価や感想たくさん頂けると嬉しいです(懲りない乞食作者)。
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