米花町パンツ一丁忍法帖。   作:ひつまぶし太郎

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評価をくださった皆様、誠にありがとうございます床を舐めます(土下座)。
オリジナル主人公の過去はどれだけ悲惨にしてもいいと思ってる作者です。


米花町からは遠いかもしれない里帰り・上

 

 

赤井さんは一度アメリカに帰り、てっきり明美さんもそれについていくのかと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。

妹が日本にいて、組織の支配下に置かれている。

そのような状況で自分だけが逃げ出す事はできないのだとか。

 

心意気は立派なことだ。

だが、死亡を偽装して隠れた以上、必要な手続きは数多い。

住居に仕事、連絡手段、新しい口座。

それらを手にするために必要な大事なアイテム。

 

「明美さんの新しい身分証がいるってことで」

 

「そうね…それか、疑われないように細心の注意を払うかだけど…」

 

「いや無理無理。そういうのってどっかしらでボロが出るもんだから。劇場版とかお正月スペシャルとか、そんな感じのピンチになるから」

 

「それは…たしかに。私も組織に対してあんまり隙を見せたくはないっていうのは同感かな。あと雪音くんのそれはなんかあれでしょ?スパイアニメとかそういう類の」

 

知らないけど。

所詮ネットで聞きかじった程度なのであやふやだ。

それに、隙を見せた諜報員(忍者)の末路なんてものは、嫌と言うほど知っている。

 

飛び散る血。

燃え盛る里。

蜂の巣にされ体の一部が引きちぎれた誰か。

体温が徐々に消えて、もう動かない───

 

「…雪音くん?」

 

「ん?ああ…そうそう。で、赤井さんに作ってもらっても良かったんだけど、アメリカ国籍の日本在住ってやっぱ目立つし、時間もかかるし。カバーストーリーゼロから作って補強するのもめんどくさいし」

 

あとFBIの中にも組織のスパイって居そうだし。

 

「既にある身分証使ったほうが手っ取り早いってことよね」

 

「しょうゆうこと」

 

とりあえず現在俺と明美さんは、米花町にあるそこそこのセキュリティがあるホテルに仮宿を構えていた。

当面の金なら親戚(偽物)一同の遺産があるし、普通に忍者してた頃の稼ぎもあるとは言え、金はいつだって有限だ。

いつまでもこのままで、なんて気楽なホテル暮らしは貧乏性的にはあまり好ましくない。

なにより6歳の子どもにお金払ってもらってのホテル暮らしはほんとに勘弁してくださいと明美さんが本当に泣きそうな顔で言ってきたのもある。

 

「あの十億円さえあればなぁ!」

 

「コナン君に回収されちゃったしね。あいつらに奪われるよりはいいし、妹を返してもらえないならどのみち返すつもりだったけど…」

 

「無欲の化身か?十億円だぜ?」

 

「でも盗んだお金よ」

 

「…くっ、これだから一般通過強盗才能ウーマンは…」

 

「その呼び方はあまりにも不名誉だからやめてほしいかなって」

 

事実陳列罪。

それはいつだって人を傷つける。

 

「まぁそんな訳で、長野に行きます」

 

「長野…?」

 

「そう、俺の地元。明美さんってバイク運転できる?」

 

「できるよ?」

 

「じゃ、お願いします。いちいち関節外して大人に化けるのめんどくさくて…」

 

いやほんと、大人に化けるって結構面倒なのよ。

運転するだけとは言え、関節を入れたり外したり。

休憩するのも一苦労だ。

なので明美さんには今後お世話になります。

身分証手に入れたら部屋も借りてもらいます。

 

「傷なし。くすみなし。エンジンの調子よし」

 

うん、ピカピカの新品同様の中古のままだ。

借りパクしてるけど、別にあの人いっぱいバイク持ってるし許されるだろ。

それに裏切りをアクセサリーとしてジャラジャラぶら下げてるのだから、子どものかわいい悪戯くらい笑って流してくれるに違いない。

 

俺は、米花町に来た時に倉庫街に隠したハーレーを物陰から引きずり出してから状態確認を行い、明美さんに向かってヘルメットを放り投げる。

 

「雪音くんって6歳だよね…?」

 

「バレなきゃセーフ。あと俺の住民票も欲しいんだよね。そろそろ生活基盤安定してきたから小学校通いたいし」

 

「…ごめん頭痛くなってきた」

 

「バファリンいる?それともロキソニン?」

 

「とりあえず優しさだけ…」

 

「じゃバファリン半分に切るね」

 

「そういうことじゃなくてね?」

 

親なし家なし、不登校児。

でも言葉は流暢で斬った張ったも得意で、悪事に明るく、犯罪にためらいがない。

師匠たちが保護しなければそのまま生きる気力を無くして死んでいたであろう限界集落出身。

ギャグみたいな戦闘能力のせいで全てが霞むが、ちょっと大人が真面目に心配する要素しかない情報の塊な子ども。

それが雪音だった。

 

 

 

 

長野に入り、諸々の手続きを済ませた俺と明美さん(変装済)は、気がつけばいつの間にか古い屋敷で蕎麦をご馳走になっていた。

それもこれも知り合いに捕まったからであり、変装して身分を偽ってるのもあってか、明美さんは少しだけぎこちなかった。

 

まぁ、設定的にも長い間意識不明の重体だった事になっているので、多少人馴れしていなくてもそんなに突っ込まれることはない…はず。

 

もしかしたら俺の死んだ姉の使っていた従姉妹設定の身分証(ややこしい)だと教えたのが不味かったかもしれないが、一緒に行動してて違和感のない距離感の人ってあとはうちの祖母設定の老婆くらいなものなので、我慢してほしい。

 

何故か身分証はたくさん余ってるので、他にも20代のもあるにはあるが、だいたい無関係な設定のやつだったりするしなぁ。

流石にそんな人と暮らしたりしてるとなんで?ってなるし。

 

設定って言葉が出てくる時点で、まぁ察してほしい。

孤児ばかりのあの世界で、本物の身分証持ってるやつなんていたのだろうか。

偽りだとしても身分証があるだけまし、なのかもしれない。

 

『雪音くん?』

 

『…げっ、上原刑事…はやめたんだっけ。寿退社おめ。今何してんの?というか名前なんだっけ?とらっきー?』

 

『それ、お義父さんの前で言わないでちょうだいね。虎田よ虎田…ほんと、私何してるんだろ』

 

なんて会話から始まった再会は、しかしどことなく陰を纏ったその女性のせいで、すぐにはいさよならとは行きがたい空気だった。

 

再会はたぶん1年半ぶりとかだろうか。

里が滅んで師匠に拾われて、死んだように生きていた状態から、師匠風に言うなら『一本の刀として打ち直し』てもらっていたので、里から出たのは本当に久しぶりなのだ。

久しぶりの外出が都会に放り出されるのは、今でも絶対どうかと思うけど。

 

「ごっそさん」

 

「いい食べっぷりで気持ちよかったわ。それにしても、雪音くんとまた会うなんてね…正直急に全然見かけなくなったし、座敷わらしとかそういう類いかと思ってた」

 

「まぁ、ここ1年半くらい里にこもってたしなぁ」

 

「里?」

 

「忍者の隠れ里的な」

 

「はいはい、相変わらず忍者ごっこはしてるのね…」

 

「ごっこって思われてるんだね雪音くん…」

 

「むしろ堂々としてりゃバレないってもんよ。子どもって便利」

 

刑事としてたまに街で聞き込みをしていた上原結衣刑事改め、虎田結衣さん。

聞けば最近旦那さんをなくしたのだとか。

…あんた好きな人いなかったっけ?と思わないでもないが、みんながみんな好きな人と結婚するわけでもないし。

いや、語れるほど別に恋愛しらんけど。

 

「───邪魔するぜ、奥さん」

 

ようやく空気がゆるくなってきた食卓に、まるで熊のような動きで乱入してくる男性が一人。

隻眼に杖という、俺の記憶とは少し離れた見た目ではあるものの、これまた懐かしい人が来たもんだ。

その人の登場に、結衣さんの顔が再び強張る。

 

「邪魔するなら帰って〜?」

 

「何言ってんだ?…って坊主かよ、久しぶりだな」

 

「おひさ。なんか悪人面に磨きかかってんね」

 

「うるせえよ…ったく、子どもに聞かせる話でもねえ。場所を変えるぞ」

 

「えぇ…そうね」

 

「じゃ、俺達そろそろお暇するよ」

 

「あ、うん。久しぶりに話せて嬉しかったわ…ありがとね」

 

「いいってことよ」

 

ていうかご馳走になってるし、お礼を言うのはこっちな気がする。

 

「じゃ、幽さん。雪音くんのことよろしくね?雪音くんも、お姉さんの言う事ちゃんと聞くのよ?」

 

「母親かな?」

 

「…ああ?なんだお前、姉なんかいたのか?」

 

「んー、従姉妹。親のいねー俺のこと引き取ってくれんだって」

 

「ええ。灰原幽です。こないだまで火事の後遺症で入院してたんですが…また縁があればよろしくお願いします。この子の昔の話とかも聞いてみたいですし」

 

「…そうか」

 

鋭い眼光が明美さんのことを貫くが、明美さんはさらっと流す。

どうやらようやく覚悟が決まったらしい。

それに、ただ強面なだけの善人に怖がるような胆力もしていない。

 

「ま、ほどほどにな」

 

数秒明美さんを睨みつけた後(たぶん見てるだけ)に鼻を鳴らす大和警部は、こちらに背を向けると結衣さんを伴ってこの場を後にするのだった。

 

「おっかねぇ。あの人絶対嘘に気がついてただろ」

 

「そうね…」

 

「火傷する前に早く帰ろうそうしよう」

 

その後姿を最後まで見送ることなく、嘘つき二人組は逃げるように玄関へと駆け出した。

 

 

 

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