「…あ」
「げっ」
「お前なんでここに!?」
「あー!こないだの!」
御暇しようと玄関からそそくさと外に出た俺達は、今一番会いたくない相手に遭遇していた。
毛利探偵事務所御一行だ。
しかもコナンがセットの。
思いっきり顔をしかめる俺と顔を引きつらせる明美さんとは対象的に、コナンの表情が瞬く間にいたずらっ子のような満面の笑みに変化していく。
…うわぁ、嫌な予感。
「なんだぁ?蘭とコナンの知り合いか?」
「知り合いも何も、この子が爆弾止めてくれたのよ!」
「何ぃ?こんなガキがぁ?」
「ほんとなんだよ、おじさん!こいつすっごいんだ!お礼もまだだったし、おじさんがご馳走してあげたら?」
「い、いやー!別に大したことしてないんで!里帰りってか墓参りしてただけだし僕らそろそろ、ね?帰るんで、ほんと。大丈夫です!」
「そんなこと言わずにさ、今度サッカーする約束もしてたじゃん!」
「そうなのコナン君?」
「してません」
「…ま、蘭の命の恩人ってなら無下にはできねぇな。むしろ一飯じゃ足りねえが」
「いいえ私は遠慮しておきます」
「遠慮しないで、ね?」
「ぬぇへへへのへ」
あくまで辞退したい俺に対して、乗り気な蘭さんがめっちゃニコニコしながら距離を詰めてくる。
陰キャからすると苦手なんだよな、明るい人。
浄化されそう。
いやーにしても、なぁんで長野にコナンがいるんですかね。
米花町に引きこもってろよ。
油断してた。
まだ明美さんに声の大きい変化は教えてないんだよなぁ。
見た目が結構違うのもあって、今のところ勘のいい知り合いから以外はバレないんだけど、逆に言えばコナンとかにはバレそう。
勘のいいガキことコナンから戦略的撤退を選ぶためにも、明美さんに目配せしてバイクを取ってきてもらおうとするが、それすらもコナンに先回りされる。
「というかお姉さん初めまして!雪音と一緒にいるってことは、姉弟だったり?」
「え、えっと」
「従姉妹だよ従姉妹。親が死んでる俺の保護者になってくれる人」
「………」
でもそこはあくまで阻止させてもらうぜ。
突っ込みづらかろう?
人の生死に関わる話はタブー感強いからな。
「…そう言えば、こないだ広田雅美さんって人が依頼に来たんだけどね?」
「へ、へぇ…」
「なんか、その人の借りてたアパートに和服の子どもが出入りしてたんだって」
「ふ、ふぅん…」
バレテーラ。
なんだこの子ども。
「…ご馳走させてくれるよね、二人とも?」
「あい…」
「…はい」
ニコリと笑うコナンを前に、俺と明美さんは頭を垂れる。
気分はさながら連行される容疑者だ。
あと、ご馳走してくれるのはお前じゃなくて毛利探偵だろ、と思ったけど。
結構キレてる感じのコナンを前に、俺は口をつぐむのだった。
●
そもそもなんで毛利探偵御一行が長野にいるのか、といえば。
殺人事件があったからだ。
事件があるから探偵が来るのか。
探偵がいるから事件が来るのか。
それはわからないが、現在長野のとあるお屋敷は毛利探偵、コナン、関西弁の高校生探偵という超探偵過密状態となっていた。
そこに長野県警が誇るキレ者の一人までいるともなれば、殺人事件なんてあっという間に解決間違いなしだ。
たぶん。
知らないけど。
「ほんならちょっと行ってくるよって、和葉はその姉ちゃんとお留守番や!」
「えー!」
「アタシらも連れてってーな!」
「雪音はどうする?」
「いや行かねーけど。むしろ行くわけなくね?殺人事件興味ないんだけど」
色黒の高校生がガールフレンドらしき人とじゃれてるのを眺めていた俺は、いつの間にやら隣に来たコナンの質問を雑に返す。
「ま、そうだよな」
「むしろ宝探しの穴ってやつのが気になるけど…」
「あれか…」
あくまで気になる程度でわざわざ出向くほどでもない。
「とりあえずなる早で解決してくれよ。連続殺人なんだろ?地元であんま人死ぬの気分悪いし…」
「わーってるよ。俺も早く事情聞きてぇーし」
「…ほんとに聞くぅ?興味本位で首突っ込むのよくないぜ?」
「はっ、そんなことよく知ってるよ。だけど、あんな危険な奴らほっとけるかってんだ!必ず闇から引きずり出してやる…あいつらをな!」
どうやら、あの現場から立ち去る黒の組織の二人組みをコナンは目撃していたらしい。
そして、俺の目撃情報と、今日の変装した明美さんを見て俺達が奴らに関わってることを確信したらしい。
…いや、そもそも俺の目撃情報があるってだけで明美さんの生存をかなり確信してんのなに?
そんな信用あるの怖いんだけど…。
「まぁ、うん。好きにしたら?」
「あとなんかあいつらパンツ丸出しになってたんだけどなんか知らねーか?」
「知らない」
子どもの俺が言うのもなんだけど、子どもって何考えてるかよくわかんねーな。
パンツ?
何いってんだこいつ。
「…どう思う?幽さん。何食って育ったらそんな正義感養われんだろうね?あとパンツってなに?」
「さぁ…私はもう、正義なんて。あとパンツはほんとに何の話?」
「まぁ正義なんて信じるだけで救われるもんじゃないか」
「なんの話ししてるのよ…」
「え、正しさとはみたいな。あとパンツとはみたいな」
「ちょっとなに言ってるのかわからないわね」
「えー?じゃああれだ、こないだ山歩いてたらでっかいうんこ見つけてさぁ」
「やめなさい」
「結衣さんがわかりやすい話しろっていうから話したのに!」
「あ、あははは…」
「蘭ちゃんの愛想笑い初めて見たわ、アタシ。強烈やなぁこの子。コナン君とはまた違った方向で」
「魅力的でしょ?結婚しとく?」
「うーん遠慮しとくかな。将来ごっつイケメンになってお金持ちになったら考えたげるわ!」
「いけめんってあの服部平次とか言う人くらい?」
「な、わ、そんなんけないやん!?」
「和葉ちゃん思いっきりからかわれてるよ!」
夜中。
図々しくも屋敷にお邪魔する、というのを丁重に辞退したかったけど断り切れなかった俺達は、虎田家のお屋敷にお邪魔していた。
まぁ、取ってたホテルも昨日の夜までだったし。
お屋敷の主人による龍尾家のネガティブキャンペーンを軽く聞き流し、事件の話をかいつまんで聞いたところ、どうやら両家の人間が同時期に連続で殺されているらしい。
そして、それぞれの遺体の側にはムカデが置いてあるんだとか。
「ふーん、犯人ってば信玄公のファンなんだな」
「信玄公って武田信玄?」
「うん?長野でムカデと言えば、そりゃ武田信玄公の百足衆でしょーよ」
「ああそうか!どこかでムカデの絵を見たことがあると思ってたけど…祭りでやる戦で誰かがその旗を刺してるのを見たんだ…」
「そんな事も知らず宝探しをやっておったのか繁次!」
俺の言葉に反応して、宝探しを仕事にしている要は無職のおっさんが声を上げ、それをたしなめるように当主らしき爺さんが声を荒げる。
「へーじゃあ探してんのって信玄公のお宝なんだ」
「えぇ…うちの蔵からそれらしい書物や地図が出てきて以来繁次さんは夢中になってて…」
「ふぅん」
ま、出ないな。
武田信玄公の埋蔵金は。
俺は猿顔の泥棒を思い浮かべながら、興味の矛先を変える。
「それより後でその地図とか本見せてよ。事件よりそっちのが興味あるし」
───さて。
そんな訳で、解決編である。
俺は俺で思わぬ収穫はあったものの、事件に関係する発見は一つもしていない。
当たり前だ、忍者だもの。
殺人事件の推理は俺の出る幕の範疇を超えている。
風林火山になぞらえて、キレ者たちが名乗りを上げる中に登場するのだし、天井裏で様子をうかがっていた俺も何かを言うべきか。
「えー、侵略すること火の如く。…なんだろ。寝てたから侵略するまでの待ち時間もあっという間だったぜ、みたいな」
「坊主、それはどっちかと言うと山だろたぶん…」
「大和警部が先に山取るからじゃん!」
「ははっ、やっぱいやがった…」
「寝てたから出遅れたんちゃうか…?」
「…いいもんね!今から雷霆みたいに動くから!───怪我したくなきゃ頭伏せなァ!」
俺、頭のいい人って嫌い。
そんな思いを刀に乗せて、俺はやられ役たちを一撃で沈めるのだった。
え、描写?
常人が瞬きする間に、十人近くの男性がパンツ一丁になった、みたいな無意味な描写いらないでしょ。
流石に主犯は女性だったので、持ってた銃をバラバラにするだけにして、代わりに近くにいた服部平次さんをパンツ一丁にしておいた。
「雪音くんってもしかしてほんとに忍者?」
「忍者になりたくないなぁとは思ってるかな」
「なりたくないんだ…」
「このガキ忍者ちゃうやろ!ただの変態や変態!」
はいはい解決解決。
人質取ってない相手が暴力で訴えてきた時点で終わんだからこんなの。
閉店ガラガラ!
めでたしめでたし!
「あ、こら逃げんな!」
「ひぇー探偵はもうごりごりだよー(棒読み)」
「クソガキコラァ!」
「へ、平次!?なんちゅうかっこしてんねん!」
服部って聞くと、なんとなく嫌がらせしたくなる。
そんな複雑な少年心は理解されるはずもなく、俺は死ぬほど説教されるのだった。
とりあえずここで一旦毎日投稿終わりです。
また書きたくなったら出しに来ます。