双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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すみっコぐらしならトカゲさんが好き。
設定があるタイプのマスコットは可愛いので初投稿です。



10駅目 臆病

 

4月22日(金)

 

 

 今日は雨宮先輩たちがパレスに入るという話をリャナンシーから聞いた。

 先輩たちはオタカラを奪うためのルートを確保しに行くのだとか。見つけ次第さっさと盗っていけばいいだろうに。

 

 それにしても、ようやくだ。

 双葉にメッセージを送って、スマホの電源を落とす。

 今日は体育館からパレスに入ってみることになっている。鴨志田先生の精神の中核に近いだろう場所だから、パレスの奥に出られるかもしれない。

 

 先輩たちは今日も学校前の路地に集まるらしい。

 安全そうな部屋をいくつか見つけていたことだし、はじめから内部に出ればいいのに、校門前から入らなければいけない理由でもあるのだろうか。

 

『道を入り口と結んでいるのよ』

「ここから入れるって認知があるから?

 なら、入り口を通らずにはパレスに入れないことになりそうだけど?」

 

 初回は図書室からパレスに入ったし、先週の今日は廊下からだった。

 

『駅にはイセカイナビなしで行けるじゃない』

「そりゃまあ」

『私が思うに、それとさして変わらないわ』

「だいぶ違うと思うけど」

 

 駅は外のだれかと共有しているだけで、僕の認知世界でもある。対して、パレスはあくまで別の人間の認知世界だ。

 それに、望んで入るのと巻き込まれるのでは天と地ほどの差がある。帰りだってナビの終了タイミングに左右される様だし。

 

『イセカイナビは要因であって原因じゃないの。

 単にあなたが異界に行きやすいだけ。たまにいるのよ、現世との結びつきが弱いニンゲン』

「まって、初耳だよ」

『ええ。言った覚えないもの』

 

 はじめから駅には行けたからそれが当然と思っていたけれど、そうでもなかったらしい。

 たとえ存在を認知していたとしても、普通あんなところには行けないのだろう。もし条件がそれだけなら、研究をしていた母も行けたことになってしまうし、ほかにも迷い込む人間が出て、早くからその存在が人々に知られているはずだ。

 

「現世との結びつき…」

 

 前世があるから。

 思いあたることはそれくらい。

 

『幼い頃に会ったのが私でよかったわね。巣に引きずり込まれて丸かじり、なんてつまらない終わりもあったはずよ』

 

 リャナンシーは楽しげに笑う。

 化物たちは明確な格上から逃げ出す性質がある。リャナンシーの今の話が正しいなら、普段は彼女が弾除けになって平穏無事な生活をしていることになる。

 

「……二度と単独行動で駅に行かないで」

『あら、怒られてしまったわ』

 

 あの煙玉を渡された理由はこれか。

 気まぐれで渡してきたものかと思っていたけれど、普通に命綱だった。使い方まで説明してくれたあたり、妖精なりの心配はしていたのだろう。そこまでは汲み取れなかったけど。

 

 

 放課後の体育館は、バレー部が練習で使っている。

 鴨志田先生やバレー部の生徒を眺めに来る生徒たちに紛れこんだ。背丈が足りないおかげで、後ろの方につけていれば目立つこともない。時折湧く歓声さえなければ言う事なし。

 

 ややあって、視界がぐにゃりと歪んで、城にたどり着く。何度経験しても変な感覚だ。

 ぱちぱちと瞬きして、体育館とダブる視界を、城の景色に合わせる。

 

「なにこの……なに?」

 

 像だった。

 それはそれは巨体で、ギラギラしたオーラを放っていて、偉そうに指なんか指してる像が、体育館だった場所の奥にそびえていた。

 

『自画像ね』

 

 周りの景色からして、聖堂かなにかを模しているのだろうが、それにしても酷い。

 普通、特別大きいものには畏敬の念を抱くものだ。奈良の大仏しかり、建ったばかりのスカイツリーしかり。

 

「すごい、こんなにありがたくないことあるんだ…」

『同感よ。コレに見合うほどの才はなさそうだもの』

 

 珍しくリャナンシーと意見が一致した。

 あまり長々眺めていると頭が痛くなってきそうなので、さっさとそれを視界から外して作戦会議を始める。

 

『それで、今日はどうするの?』

「パレス散歩かな。こないだの件で先輩たちの後をつけて行くのは無理そうって分かったし」

 

 行けるかぎり色々なところに行ってみよう。できれば最奥部まで。

 パレスが現実の空間とどう繋がっているか分かればよし、そうでなくても内部からオタカラのある場所に行く道筋が分かればいい。

 

『あなたも飛べばいいのに』

「無理」

 

 妖精の発想定期。

 いつもふわふわ宙に浮いているのは、思考回路もだった。

 

『なら道を作るわ。マハムド』

 

 聖堂(仮)の警邏をしている怪物たちを薙ぎ払いながらリャナンシーは進む。相変わらず強引だ。

 あまり派手な行動をしたら敵が集まってきそうだけど、全員始末しているから報告も上がらないのだろう。寄ってたかって襲われたとて、返り討ちにしそうな勢いだ。

 本当に味方でよかった。

 

 

 目指すは城の中央部。

 リャナンシーと探索をしていたら、真ん中にそびえる塔の内部と思しき場所に何とか入り込むことに成功した。

 まさか入り口付近の鴨志田先生の偉そうな絵の裏側が、中央の塔に繋がっているとは思わなかった。

 

 まったく、あちこち歩かされてしまった。

 リャナンシーに僕でも通れるよう道を整えてもらったり、敵を始末してもらったりしたのに。こんな仕掛けがあるなら、はじめから大人しく入り口から入ったほうが近かったことになる。今さらだけど。

 

 ほかにも、こんな仕掛けがあるのかもしれない。城だし。

 仮に仕掛けがなくても、開かない場所や壁なんかは強引に突破すれば、たぶん道を作れる。人の心の内部構造を破壊すると考えると結構恐ろしいからやりたくない。

 非破壊検査と称して、大人しく塔の内部の仕掛けを弄ったり動かしてみたりしているうちに、気になる場所を見つけた。

 

『あの部屋、なにかしら?』

「誰も入れたくない感じの部屋か……」

 

 すごく見慣れた雰囲気の扉だ。

 いや、見慣れているのは雰囲気だけ。掲げられた立ち入り禁止の文字から、絶対に誰も入れないという意識がにじみ出ている。

 見た目は蔦の葉に覆われている真っ赤な扉。光源のない地下室の扉に蔦が茂っているのは、どこかちぐはぐな感じがする。

 

「なんか門番いるね」

『雑魚ね。殺す?』

「うーん……」

 

 何が起こるか分からない。罠かもしれないけれど、こうもあからさまに隠されている場所には何があるはずだ。

 躊躇する僕を置いて、リャナンシーは一歩前に出る。

 

『いいじゃない、開けてしまいましょう?』

「ヤバそうだったらそっ閉じしよう」

 

 門番は緑のドロドロした怪物だ。よく見かけるスライムみたいな見た目をしているけど、それよりはたぶん強い。

 

『ナルカミ!』

「わあ瞬殺」

 

 こちらを認識する暇も与えられなかった哀れなスライムもどきは、塵も残さずに消え去った。リャナンシーお得意のだいたい全部やっつける電撃の威力はいつ見ても凄まじい。

 

『やられる前にやるのよ、基本でしょう?』

 

 絡まる蔦を引き千切って、リャナンシーは扉を開ける。中は小部屋、幸いにも中には敵がいないようだ。

 

「オタカラ、ではなさそう?」

『そうね。力あるものでしょうけど、ここまでして守るものかしら?』

 

 部屋の中央には、髑髏が鎮座していた。

 奇妙な光を放つ宝石みたいなもので頭蓋内部が満たされているのが眼窩から窺える。やや萎れた葉が頭頂部から生えていた。

 

「この気色悪い血管もどき、駅にあったやつだよね」

 

 台座は、蔦というより血管のような、赤黒い管の集合体だ。今にも脈打ちそうなぬらぬらとした質感が悍ましい。

 

「これを通して駅と繋がっているのかな」

『さあ?』

 

 リャナンシーはすでに興味を失ったようで、気のない返事を返す。

 表面的に見える景色は駅との類似性が極端までに薄いのがパレスではあるけれど、全くの無関係という訳ではないらしい。

 

『そのしゃれこうべ、持って行くの?』

「やだよ。呪われそうじゃん」

 

 見るからに禍々しい髑髏だ。持っていってどうするというのか。

 第一、ひとかかえもある髑髏をもって歩き回るのは邪魔だ。

 

『なら別の場所に行きましょう』

「あ、うん」

 

 なんとなく後ろ髪引かれるような感覚があったけれど、その正体は掴めないまま部屋を後にした。

 

 

 

「オタカラは地下じゃなくて、上層っぽいね」

『そうね、いかにもな場所だもの』

 

 まだ行っていなくて、それっぽい場所と言えばそこくらいだ。塔の下層は一通り見て回ったつもりだけど、上層はまだこれから。

 らしき階段は見かけたし、それで上に行けるはずだ。

 

「これ、絵の仕掛けに気づかなかったら詰んでたね」

『外から登れば行けるかしら? 窓から入ればきっと何とかなるわよ』

 

 塔の外壁は煉瓦造りで、地震でも起きたらすぐに倒壊しそう。

 でこぼこしているから、クライマーなら軽く登れるかもしれないけれど、僕には逆立ちしてもできないだろう。

 

「無理でしょ。映画じゃあるまいし」

 

 などと言った直後。

 窓の外、たなびく外套を着込んだシルエットが、ばびゅーんとかっ飛んでいった。

 スタントマン並のワイヤーアクションを披露したのは、もしかしなくても雨宮先輩だ。

 

『ほら、ニンゲンもやればできるじゃない』

「そうかな…そうかも」

 

 あれは上澄みも上澄みなのは間違いないが、認知世界ではできると思い込めばできるのかもしれない。

 ちょっと想像力が足りなくて成功イメージが湧かないけど。

 

『彼ら、上の階に入ったわね』

「先輩たちに見つからずに上までは行けなさそうかな。多分、今日は警戒されてる」

 

 あれだけ言ったのだ、警戒してくれなきゃ困る。

 

『別に出くわしたっていいじゃない。敵ではないのでしょう』

「やだよ。信用できない」

 

 特に人ではないものは。

 思考回路が理解できないものはダメだ。長年一緒にいるリャナンシーでさえ感覚のズレが一向に狭まらないというのに。

 彼らを導くあの猫がいるかぎり、好んで近づきたくない。

 

『あなた、怖がりね』

「わざわざ口に出さないで」

 

 昔からそうと知ってるでしょうに。

 

 

 

 

 一葉からやや遅れて、三人と一匹も、深紅の扉の前にたどり着いた。

 

「これ見て、イシの部屋だけど……入り口の蔦が切られてる?」

「力任せに引き千切ったって感じだろ、これ」

 

 モルガナは杏が持ち上げた蔦の端をぐいと引っ張る。しっかり扉に食い込んでいて、とても簡単にちぎれそうなものには思えない。

 

「イシの気配はビンビンしているが……ワガハイたちより前に、誰かが荒らしに来たのか?」

「一葉か?」

「さあな。まったく別の第三者かもしれないが……」

 

 蓮の言葉をモルガナは軽く流したが、残り二人は引っかかったようで、待ったをかける。

 

「一葉って、前の作戦会議で言ってた子だよね」

「おい、それおかしいよな。だってソイツ、イセカイナビもなければペルソナも使えないんだろ?」

「そう本人は言ってた」

「ナビに関しては、ワガハイもスマホを見せてもらったが本当になかったぞ」

 

 作戦会議で、一葉と蓮とモルガナが話した内容は二人にも共有されている。

 一葉の母親の件は、勝手に人に話すのは憚られるような内容ではあったけれど、そこを伏せては話が通らない。そのくらい想定して話しているはずだ、とのモルガナの言葉に後押しされる形で、蓮は仲間に事情を伝えていた。

 

「リュージにしては鋭いな。戦えないやつは、こんなに奥に行けるはずがない」

「一言余計だっての」

 

 モルガナは落ち着かない様子でしきりに尻尾を動かしている。

 

「今日は誰も巻き込まないか、周囲の確認をした」

「ワガハイたちを止める気はないっていう発言も、やろうと思えばこっちでも止められるって意味に思えてくるぜ……」

 

 考え込む蓮とモルガナをよそに、竜司は扉を開ける。

 

「おいモナ。お前の言う通り、中にイシあったぞ」

「誰かが入ったところに警戒なく入るな!」

「誰もいなさそうだったし、実際いなかったからいいじゃねえか」

「そういう問題じゃねー!」

 

 杏はじゃれ合いをはじめた二人に割って入り、別の部屋で見つけたイシを見せる。見事に赤、青、緑と中の宝石の色が分かれている。

 

「でもほらこれで3色集まって…って、わわっ!」

 

 突如、髑髏が浮かび上がる。

 杏の手を離れた髑髏は、ぐるぐると弧を描き、やがて一つの大きな塊に変貌した。

 

「合体した?」

「気味わりー」

 

 それぞれの髑髏を無理やり一つに合わせたために、後頭部が融合して外向きに顔が三つある不気味な物体と化している。

 色鮮やかだった中の宝石は水晶玉のように透き通った球体になった。

 

「貰っていこう」

 

 宙に浮かぶ髑髏を回収して、蓮は扉をくぐる。モルガナたちもリーダーの後を追って走り出す。

 真っ赤な台座と、髑髏から抜け落ちた蔦の葉だけが部屋に残されていた。

 

 

 

 

『本当にもう帰るの? あの塔の上に行けば、多分オタカラよ?』

「それだけ分かれば充分。すんでのところで止めるのも、メインプランの保険だし」

 

 道を最後まで確認したいとは思うけれど、ここまで来れば迷うこともないだろう。

 普通に階段を使って上がっていけばいいだけだし。

 

 城は建物という体裁を保っているおかげで、施錠された扉や隠し部屋の類こそあれ、構造上行けない場所はない。

 端の方は階段が崩れていたり、道がふさがっていたりすることもあるけれど、中央部は手入れが行き届いている。調度品も無駄にピカピカだ。

 

『いいならいいのよ。でも少し物足りないの、分かるでしょう?』

「あー……。つまみ食いしたいならここで済ませて」

『分かってるじゃない』

 

 リャナンシーには、弾切れという概念がほぼない。吸血、吸精といったドレイン系の技を完備しているので。昔、継戦能力には自信があると彼女も言っていたのを覚えている。

 あらゆるエネルギーを吸い取られたあげく、金を毟られて、終いには消滅させられていく城の兵士たちに黙祷。

 

 

 そんな一方的な蹂躙も、時間切れで強制終了した。

 雨宮先輩たちがパレスから出たのだろう。水面から顔を出すみたいに、世界が深度を変え、視界が現実に切り替わった。

 景色がまともなカラーリングにもどってほっと一息つく。

 

『予想どおり校舎裏ね』

 

 リャナンシーのつまみ食いがてら、城の裏手に回っていたので、多分校舎裏に出るだろうと思っていた。

 パレス内部に入ってから時間が経っていたのもあって、周囲には人っ子ひとりいない。

 

『軽く盗み聞きしてくるわ。解散前に何か話すでしょうし』

 

 リャナンシーは僕に小銭を押し付けて、すばやく飛び去っていった。単独行動しないでくれと……ああ、駅に行くなとしか言わなかったか。

 

 彼女に握らされたお金は、化物たちから命乞いのために差し出されたもの。命も取られてたけど。

 人情を妖精に求めてはいけない。

 

 

 ややあって、校舎裏にとんぼ返りしてきたリャナンシーは報告を始める。

 

『塔の上でオタカラを見つけたらしいわよ。で、予告状を出すんですって』

「予告状?」

 

 そんな一昔前の怪盗アニメみたいな。

 

『オタカラの実体化に必要と言っていたわ』

 

 盗まれるかもしれないという認知がオタカラの形を強固にする、のだろう。たぶん。

 ただ無くなっているだけなら、自分で無くしたのと見分けがつかない。無くなったことに落ち込みこそするだろうが、精神性が変わるほど劇的な刺激になるとは思えない。

 だから、いきなり本番ではなくルート確保なんて手間をかけたらしい。

 

「でもそれ要はパワーで叩きのめすってことでは?」

『城主は色々と準備して待ち構えているでしょうね。戦いは避けられないわ』

 

 世の中、最終的には腕力。

 是、世界の真理なり。

 

 

 

 泡銭はさっさと処分するに限る。何らかの怨念とかこもってそうだし。

 

「おー、ご当地カップ麺セット!」

 

 帰宅前に購入した貢ぎ物は、双葉のお気に召したらしい。どれから食べようかな、と中身を物色している。

 佐倉さんからしたらあまり喜ばしくはないことだろうけど、カップ麺は双葉の好物の一つだ。

 

「うふふ、ありがと」

「どういたしまして」

 

 この笑顔のために犠牲になったなら、化物たちも浮かばれるだろう。知らんけど。

 双葉はご機嫌に鼻歌なんか歌っている。数年前に流行ったアニメの主題歌だ。僕と違って音程が合っているので分かる。

 

「そうだ、今期の春アニメ、なかなか面白そうなのが揃ってるぞ。明日、鑑賞会しよう」

「まず掃除ね」

「あー、そういうイベントもあったな」

 

 双葉は完全に忘れ去っていたようだけど、ここはすっかり物とゴミで溢れかえっている。

 自室の惨状をもう少し気にして欲しい。蓋のしてあるペットボトルとかは踏むと転ぶから。双葉は器用に猫の額ほどの安全地帯を踏んで生活している。

 

「来週でもいいぞ。一葉は最近忙しくしてるし」

「もう一週間経ったら、怪我なく生活できる自信ないんだけど」

「それもそうだな。あ、わたしが一葉の部屋に行けばいいのか」

「何の解決にもなってないからね、それ」

 

 その勢いで外に出られればいいのだけど。

 思っても、言葉にはしない。ずっと昔に定められた暗黙のルールだ。互いに傷つくだけだから。

 

「それじゃ、また明日」

「おやすみー」

 

 そうやって今日も何も変わらない一日を終えた。

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
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