双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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メイドインアビスならナナチが好き。
一期エンディングのナナチVerがたまらなく好きなので初投稿です。




11駅目 罪悪感

 

 

4月23日(土)

 

 

 片付けと掃除をするときのコツは、家主の機嫌を損ねないことだ。

 これは冗談でもなんでもない。

 

 お気に入りのものを勝手に処分されたとあっては、二度と掃除などさせないだろう。

 そして、自分では片付けも掃除もしない(本人なりにはしているらしいのだが、前後で一切見分けがつかない)ので、立派な汚部屋が完成するというわけだ。

 

 双葉の部屋の乱雑さは、主に物とゴミで構成されている。

 物に関しては手出し無用。とりあえずまとめておいて、選別は双葉に任せる。そうすると、だいたい全部要るものに分類される。

 ゴミは捨てればいいのだが……ゴミは判断が容易なゴミと、難しいゴミに分かれる。食べ物の空容器なんかは真っ先に捨てていいけれど、何かのコラボパッケージなどは要注意。迂闊に捨てると機嫌が一気に地の底だ。

 

 そんな訳で細心の注意を払って、このイベントに臨まなければならない。いや、好きでやってるんだけどさ。

 今回は、前回の掃除から三週間程度しか期間が空いていないので、表層雪崩は起こりそうにないし、表面に積もった埃を取る作業はしなくても良さそうだ。

 

「この辺のもの、いったん廊下に出すからね」

「おー」

 

 今までどうやって収まっていたのか分からない量の物が出てくる。

 お菓子のオマケ、脱ぎ捨てた衣服、コード類に似たようなラジオが複数、それから数年前に壊れたゲーム機。

 

「これ一回仕舞ったよね」

「うん、出した」

「そっか」

 

 おおかた、いい感じの部品を見つけたか何かで引っ張り出したのだろう。

 修理をしても使うわけではないけれど、動く状態で取っておきたいというのはよくわかる。

 

「わたしの宝物入れに入れといて」

「了解」

 

 宝物入れだなんて、大層な名前がついているけれど、さして大きくもないごく普通の段ボール箱だ。

 とうの昔に引き払った昔の家からの物が詰まっている。叔父のところにいた時に、大部分は処分されてしまった。おかげで、ここに越してきた時には荷解きが随分楽だった。今の双葉の部屋を見ていると、全くそんな気がしないけど。

 

「母さんのノートまで入ってる…」

 

 廊下に出された双葉の宝物入れを開けると、母との約束事のノートが入っているのが見えた。

 懐かしい。

 双葉は律儀に約束事を守っていた。嘘をついて守ったことにしていた約束事もあったと思ったけど。さてはそのあたりの罪悪感で、ゲーム機を僕に仕舞わせたな。

 

「一葉、要るもの分類できたぞ」

「そっち行く」

 

 宝物入れの段ボール箱を閉じて、双葉の元に戻る。

 自信満々な声からして、仕分けは完璧に完了したと思っているのだろう。いったん外に出しておいた衣装ケースを抱えて、双葉の部屋に戻る。

 

 

「知ってた」

 

 要るもの9割以上。

 安定のスコアだ。

 

「それ本当に要る?」

「要る」

「そっか」

 

 古ぼけた雑誌の付属品まで取っておく必要はないと思う。けれど、双葉が要るというなら要るのだろう。

 

 無理やり取り上げるようなことはしない。

 双葉がここまで物を溜め込むようになったのは、ここに来てからのことだ。佐倉さんは、なんだかんだと理由をつけていろいろ買ってくれるし、僕らに管理を任せてくれる。幼い頃も、叔父の家にいた頃もなかったこと。

 いつか物を持つことに満足したら、そのうち手放せるものも増えるだろう。

 

「全部大事なものだから捨てないで」

「分かってるって」

 

 相変わらず物は多いけれど、少しは整理された気がする。各所に散らばっていた物もそれぞれの定位置についている。

 

 やりたかったところまでは済んだ。これでしばらくは大丈夫。2週間もすれば元通りなことには目をつむる。

 午前中を丸々消費しただけあって、なかなかの成果だ。

 

 満足して部屋を眺めていたら、双葉がちょいちょいと指先だけで手招きしてきた。

 

「一葉、こっちきて」

「なに?」

「ありがとうございました」

「どういたしまして」

 

 これまた律儀に、双葉は母の教えを守っている。

 毎回丁寧にお礼をするのは、半ば儀式みたいなもので、端から見たらちょっと大袈裟だけど双葉が大事にしていることだ。

 

 良いことだ、間違いなく。けれど。

 

 双葉は、母の言うことをきちんと守ることに執着している節がある。

 囚われていると言ってもいい。原因は明白だ。大人たちに歪められた過去の記憶、強い思い込み。

 母に好かれるようないい子でなければならない、そんな強迫観念は時を経るごとに薄れるどころか、年々強くなっていく。

 

 双葉の前で、胸に渦巻く悪感情を顔に出したくなくて、話題を変える。

 

「ところで、もういい時間だけど夕飯何にする?」

「ご当地カップ麺。今日の気分は信州そば」

「僕も食べていい?」

「うん、もともと一葉のだもん。しばし待たれよ、腕によりをかけてお湯入れるから」

 

 お湯入れるだけなんだよな。

 わたしが作ってあげる、と意気込んでいるので黙っておいた。そういうネタだし。

 

 双葉が台所に行っている間に、不要品とゴミの袋をまとめて廊下に出した。

 通行の邪魔だけど、ゴミの日になるまでは部屋の外に置いておく。中に置きっぱなしだと、双葉の機嫌次第では捨てられなくなるから。

 

 部屋に戻って、ご当地カップ麺の詰め合わせ袋から、信州そばとほうとうを取り出す。

 粉末スープとかやくの封を切って、準備ができたあたりで双葉が戻ってきた。

 

「お湯沸いたぞ」

「準備できてるよ」

「至れり尽くせりだな」

 

 双葉は慣れた手つきでお湯を注いで、蓋に箸を置いた。

 掃除の途中にあれだけ見つけた蓋止め用マスコットは使われることがない。油でベタつくから嫌、とのことだ。哀れにも存在意義を否定されてしまったマスコットたちは、不平を述べることもなくフィギュア棚に並べられている。

 

「一葉のやつもちょっとちょうだい」

「うん」

 

 しっかり乾燥かぼちゃを回収していった。

 ちょっとって言ったのに。

 ほうとうのアイデンティティを失っておっ切り込みと化した幅広の麺をすする。もちもちしていて美味しい。

 

 

「お腹いっぱい胸いっぱい。まったりする……」

 

 と言いつつ、双葉は珍しく食べ終わったあとの容器を持って台所に向かった。

 目の前で片付けと掃除をした成果だと信じたい。この調子で部屋をきれいに保ってくれればいいのだけど、経験上、次の容器は部屋に放置される。

 進んだようで進んでいないのは、残念ながらいつものこと。一喜一憂しても仕方ないとはいえ、毎回少し期待してしまう。こればかりは性分だ。

 

 

 

 双葉の部屋の掃除ついでに、自分の部屋もざっと整えておこう。あまり放置しておくと、佐倉さんに手間を掛けさせることになる。

 双葉の部屋と違って、こっちは気楽だ。比較的物も少ないから、片付けパートが丸々カットできる。適当にほこりを取って掃除機をかければおしまいだ。

 

 宝物入れを退かそうとしたら、段ボールの端から日焼けしたビニールテープがパラパラ落ちた。

 双葉の方は、ほぼ暗室だからさして劣化していなかったけれど、こっちはもうダメそうだ。段ボール自体も寿命を迎えているらしく、引っ張ったら折り目部分で破けそう。

 そろそろ別の段ボールに引っ越したほうがいいかもしれない。

 

「双葉、余った段ボール貰っていい?」

「いいぞ。もってけどろぼー」

 

 首尾よくいい感じの箱を手に入れた。

 

 旧宝物入れから、思い出とガラクタを取り出して床に並べていく。

 こういうのはパズルだ。段ボール箱のサイズは変わらなくても、うまくやらないと入っていたのに入らなくなる。

 

 僕の宝物入れに約束ノートは入っていない。双葉ほど大事にとっておかなかったから。なくしたか、捨てられたか。今となっては覚えていない。

 僕が取っておいたのは本ばかり。絵本やら昆虫図鑑やら、出るわ出るわ。小さい頃は母の真似をして、隣で本を読んでいた。双葉はすぐに飽きて、数字を弄って遊んでいたっけ。

 

 不思議なもので、当時はそんなことが楽しかった。親のことを慕って真似をするのは、本能的な行動なのだろう。

 だからこそ、今の双葉が亡き母に従うのは、見ていて気持ちのいいものではない。あの日から一歩も進んでいないのだと、見せつけられるみたいだ。

 

「はぁ」

 

 ベッドに寝転がって伸びをする。布団に潜り込んで体を縮めた。

 

「……ねむ」

 

 来週中には、雨宮先輩たちの盗みの本番もあるだろうし、気が抜けない日が続くだろう。いつも通りの長期戦だ。体力は取っておかなくては。

 片付けでの疲労感も相まって、温かい布団の中でうつらうつらする。このまま少し眠ってしまおうか。

 

 

 

4月24日(日)

 

 

「今日こそアニメ見るぞ。

 こっちで良さげなのピックアップしといた」

「そういえばそんなイベントもあったね」

「うふふ、一葉は忘れっぽいな」

 

 翌朝。

 身一つで部屋に飛び込んできた双葉は、するりと側を通って、我が物顔でベッドの上に陣取る。手慣れた犯行だ。

 てっきり双葉の部屋で見るのかと思っていたけれど、そんなつもりはさらさらない様で、ベッドの上でぺたんと座ってにこにこ笑っている。

 

「モニターこっちのでいいの?」

「うん」

 

 PCの電源を入れて、NASに繋ぐ。

 ここには双葉が録画したアニメがたくさん詰まっている。まだ始まったばかりの春アニメのフォルダには、オヌヌメと括られたアニメが数本あった。

 ひとまず上から見ていくことにする。

 

「はじまった」

「はじまったね」

 

 1話と最終話のオープニングとエンディングは飛ばさないのが僕たちの流儀だ。

 モニターに映るのは、可愛らしくデフォルメが効いたキャラがわちゃわちゃしているアニメ。

 

 モニターの向きを変えて、双葉同様ベッドに座ると、猫か何かみたいにすり寄ってくる。ぎゅうっと圧力がかかって、右腕は双葉に拘束されてしまった。

 

「あ、アニメCMは切れてないんじゃないぞ、それもほんへ」

「青盤買わないのに?」

「自炊してるからな。お小遣いでグッズは買うぞ」

 

 普通のCMはカットされている。多分販促のアニメCMも、選んでカットしているのだろうが、元の録画データを知らないから分からない。

 アニメはBパートの中盤、佳境に差し掛かる。

 

「ねえこれ本当に地上波でいいやつ?」

「深夜だからギリ許された。かわいい絵柄で残酷なやつが今の流行りだぞ」

「ええ……」

 

 とんでもない見た目詐欺だった。

 

「でも作りが丁寧。一葉はこういうの好きでしょ」

「そりゃ、まあ。視聴決定かな」

 

 作り手の情熱が感じられるものは、よいものだと思う。それ目当てで本を読んでいるわけで。

 にしてもシナリオが暗すぎた。

 直接的に描写されてないから問題ないというものではないと思う。もっとも、真面目に見ないとエグさに気づかない様に作って、一般層からの批判を躱すのは上手いやり方ではある。あるけれど。

 

「ちょっと前にこれ系で優秀な作品があったから、今は似たような作品が雨後の筍みたく湧いてでてる」

「飽きるでしょ」

「うん。そのうち、ジャンルの最終回答が出れば次のに移るんじゃないか?」

 

 満場一致でこれを超えられないと思わせられる怪物が現れれば、当然別ジャンルに流れる。

 けれど、そんなものが現れるまでどれだけかかることか。それより先に、絶妙に超えられそうなラインの作品が出て、流行が移り変わるほうが早そう。

 

「次はなんだろうな。ネット小説で転生モノが流行ってるからそれかな?」

「転生モノねぇ……」

 

 今まさにその最中にいるようなものだ。

 なんとも言えない気持ちになって微妙な反応になったのをどう思ったのか、双葉は説明を追加する。

 

「転生モノは古来からあるんだぞ。平安時代とか」

「それ今生で叶わなかった恋を来世に託すやつじゃん」

 

 そんなような話を、つい最近古文で習った。

 双葉はにやにやしながら顔を寄せる。誰も聞いていないのに、わざわざ声をひそめて耳打ちした。

 

「前世で結ばれなかった駆け落ちカップルが今生で双子として生まれる、なんてのもあるぞ」

「一応聞くけど、何が言いたいのさ」

「言わせたいんだ?」

 

 双葉はいたずらっぽく笑う。

 何を言ってもいいように扱われそうな、無敵の台詞が飛び出してきた。向こうから言い出したのに、僕が悪いことにされそうな流れだ。

 

「や、やめれー!」

 

 ひっ捕らえて、くすぐりの刑に処した。

 

 

 

「…まあ今の転生モノは、ご都合主義的異世界に行くけどな」

 

 話題の強制リセット後、明らかに落ちたトーンで双葉は現状を語る。冷静さを取り戻してくれて何よりだ。

 

 転生モノは、読者の認知の枠組みを変えさせないまま、別世界の話を展開できる。ネット小説を漁って活字欲を満たす怠惰な読者にぴったりで、互いに楽なのだろう。

 けれど、その手軽さは暇を持て余した双葉にとっては簡単すぎて、面白みのない話になる。双葉の好きそうな一昔前のSFは、最近見かけない気がする。

 

「放送分で面白そうなのはこれで全部」

「おー」

 

 完全にだっこちゃん状態だった双葉は、僕に絡めていた腕をほどいて、モニターを切った。

 

 用は済んだのに、双葉は部屋に戻る気にはまだなっていないようで、ベッドの上に戻ってくる。何をするわけでもなく近くに座った。

 撫でろという要請もない。携帯ゲーム機も持ち込んでいない。お喋りをご所望だろうか。

 

「…そういえば、双葉って小さい頃はアニメとか見なかったよね」

「うん? うん。つまんなかったし」

 

 不正解ではない、と思う。たぶん。

 双葉には子どもだましが一切通じなかったから、子ども向けのアニメを尽くスルーしていた。国民的アニメとかも通らずに来ている。

 

「今の双葉が夢中になってるのは、どうしてなのかなって思ってさ」

「一緒に見ているうちに、見方がわかったから?」

「見方って?」

「いつも作品を見ながら、その向こうの人を見てるでしょ」

「そうだね」

 

 人と繋がりたい、集団に帰属したいというのは人の本能だ。弱い生き物が群れから外れることはそれすなわち死を意味する。

 そして、人との繋がりは必ずしも直接的な対話だけで成り立つわけではない。

 

「それで、さみしくても平気なのかなって仮説を立てた」

 

 幼い頃の僕は、本能的に孤独を忌避した結果、創作物に込められた愛を読みとって擬似的に安全な愛を受け取ることにした。

 それを観察していた双葉が、僕を真似たというなら、それは。

 

「だからね、わたし、ちゃんと一葉のこと待ってられるの」

 

 嬉しい、と素直に思う。

 それと同時に、何かいけないことをしてしまった時のような、空恐ろしい気分にもなる。

 今の双葉を形成するピースが僕でもあるのだ。だから、この言葉を僕は軽く流せない。

 

 何を言ったらいいんだろう。

 

 うまい返しが咄嗟に出なくて、会話が途切れる。沈黙が気まずい。常より少し早い心拍が更に焦りを生む。

 ぱっと答えれば、それが正解でなくてもよかったのに。時間経過とともに言葉の選択肢が減っていって、身動きが取れなくなった。

 

「…というわけで、心置きなく他の女の子を攻略してくれ」

「それはダウト」

「バレたか」

「双葉検定1級だからね」

 

 結局、双葉に気を使わせてしまった。

 

 





※土日が休みだと勘違いしていた件で台詞を修正しました

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
  • その他(感想へ)
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