嘘つきみーくんと壊れたまーちゃんならみーくんが好き。でも一切お近づきにはなりたくないので初投稿です。
5月5日(木)
待ち合わせ場所には、既に見慣れた顔ぶれがあった。
「はよっす。あとは我らが劇団長…も来たな。同じ電車だったか」
「よーし、全員揃ったし一旦外出るぞ」
「おー」
ぞろぞろと列をなしてエスカレーターに乗って外へ。
矢嶋、劇団長こと飯塚さん、陽キャ2人組、眼鏡2人……よく考えると、ここまで大人数で出かけるのは初めてだ。
「暑すぎない? まだ5月上旬だよね?」
「温暖化だな多分」
行楽日和といえば聞こえはいいが、日向はじりじりと焦がされるような暑さだ。梅雨の気配がまだないのが救いか。
「休みの間、何してた?」
矢嶋が話を振ると、陽キャ2人組がさっそく食いついた。
「俺らはずっとバイト。ビッグバンバーガー」
「あそこブラックって噂じゃん」
「バイト仲間は優しいんだよ」
「バイト仲間“は”ね…」
闇が深そう。
今2人が元気そうだから、深く考えないことにする。ルブランは間違いなく優良バイト先だった。
「眼鏡くんは何してた?」
「母ちゃんの実家行ってた」
劇団長の適当なネーミングで定着してしまったらしい。話を振られた眼鏡くんは特にあだ名に不満はないらしく、さらっと流した。本人がいいならいいか。
「へー、どこ?」
「群馬」
「地の果てじゃん」
「関東だよ」
「嘘だぁ、5時間くらいかかるでしょ」
「渋滞でもなければ2時間くらい」
「またまたぁ」
ダル絡みだ、しかも2対1。
ただ、誰ひとりとして群馬の擁護ができる人員がいなかったので、哀れな眼鏡くんは犠牲になった。
「なんだか沢山イベントやっているようだね」
「音楽フェスとか、食べ物系、博物館とかの催し物もあるみたいです…! 場所は、ええと…」
眼鏡ちゃんは鞄からスマホを出した。一通りイベント情報は収集していたらしい。案内図のスクリーンショットを拡大してまじまじと見ている。
「眼鏡ちゃん、めっちゃ調べてきてるじゃん。そんなに楽しみだった?」
「あ…えっと……はい。お招きいただいて光栄です…?」
「ちょっと飯塚ウム入ってない?」
「私を何だと思っているんだね」
謎の新物質が発見されていた。
多分こう、陽と陰の濃度勾配を利用して抽出できる感じの物質だ。知らんけど。
「とりあえず適当に歩いて、面白そうなの覗くのでいい?」
そういうことになった。
ゴールデンウィークということもあって、少し歩けば何らかのイベントに当たる。屋台もののいい匂いがしてくるし、音楽と歓声が響いている。
少し歩いたところで矢嶋がイベントエリアを指さした。
「あれ見ろよ、縁日風の何かやってるぞ」
「非日常の演出がいいね、実に楽しそうだ」
ビルやら橋やら近代的なものに囲まれて、ここだけ少し浮いている。
屋台が軒を連ね、その辺りの人口密度は都内の通勤電車並み。上を見上げると、光源としての役割は一切果たしていない提灯が並んでぶら下がっていた。
「飯塚センサー的にはアリなんだな、こういうの」
「勿論だとも。矢嶋は分かっていないな。まず、日本において祭りというのは……」
「なるほど、村社会における境界の概念が…勉強になります!」
「あーあー呪文詠唱始まっちゃったよ」
「しかも眼鏡ちゃんとの二重詠唱」
すごいマシンガンっぷりだ。しかも2対1。
ただ、誰一人としてヒートアップするオタクトークを止めようと思う人員がいなかったので哀れな矢嶋は犠牲になった。
「金魚すくいの屋台があるね」
「流石に生き物系は持ち帰れないからなぁ。途中で弱るだろうし」
「それな。てか、ちっちゃい頃にカブトムシ死なせてから、お前みたいな奴に生き物は飼えないって親に飼育禁止された」
遠出して金魚すくいは厳しいものがある。というか、こんなところで出店して無事に連れて帰ることができる人のほうが少数だと思う。
「金魚すくいでとれたことないなぁ」
「わかる」
うんうんと頷く。
これは運動音痴だからとかではなくて、みんなとれていないらしい。多分ポイの問題だ。破れやすい6号を使っているに違いない。などと思っていたら、飯塚さんだけが首をひねっている。
「そうかい? 昔すくって、家の池で巨大化したのが数匹いるよ」
「家に池あるのかよ…」
「以前は祖父の趣味で鯉を飼っていてね。うちは代々一人は趣味人が生まれるんだ」
その遺伝子の結晶が飯塚さんか。なんだかすごく納得感がある。
「射的やろう」
「眼鏡くんがんばえー」
「パパー、あれとってー!」
カランカランと鐘が鳴る。
一抱えもあるアザラシのぬいぐるみは見事撃ち落とされ、スタッフさんの手で梱包が剥がされた。
「こういう系の景品って取れることあるんだ…」
高校生男子がアザラシのぬいぐるみをもちもちしている姿は結構面白い。
「どうやって持って帰るの、このクソデカぬいぐるみ」
「魔法の飯塚ポケットに収納すればなんとか」
「私を何だと思っているんだね」
別世界の人かな。
飯塚さんの不思議収納術によって、ぬいぐるみは無事に眼鏡くんのリュックに収まった。
「眼鏡くん、ちょーすげー…!」
「ガンナバウトで鍛えたから」
「あーシューティングゲーだっけ? よかったよ、父親にアメリカで習ってなくて」
そんな漫画みたいなことがあってたまるか。
縁日風のエリアを一通り遊び歩いたら、大分日が高くなってきた。
「そろそろ昼にする?」
「あっ、それならあっちの建物のお店は、種類も価格帯も丁度いいかも…」
シュバッと取り出したスマホで飲食店の情報を調べだした眼鏡ちゃんに待ったをかけて、陽キャ2人組が何やら目配せした。
「あー、それなんだが、とっておきのサプライズ!」
「はいこれ受けとって!」
謎の紙切れを渡される。よく見ると、肉フェスの食券だった。
「えっ…? あっ、ありがとうございます…??」
「諸君! ありがとう! 私は感動したぞ! タダ肉!! 素晴らしい響きじゃないか!!」
女子2人から困惑と興奮の声があがる。慎ましやかに感謝を述べる眼鏡ちゃんとは対照的に、肉じゃなくてタダの部分に反応しているだろう飯塚さんは、くるくる回って喜びを表現していた。要らない衆目を集めているから止まってほしい。
「打ち上げの話が出る前にさ、俺らで肉フェスに行こうって話があったんだわ。で、そこに矢嶋が打ち上げするぞって言うんで、じゃあお台場でって」
「ピンとくるのなかったら別のとこ行ってもいいし、とりま入場だけしようぜ。奢りだ」
「1枚だけな。もっと食いたきゃ各自買ってくれ」
会場こっちだから、と陽キャ2人組は歩き始めた。案内されずとも香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「行き先だけ確定してたのってそういう…てっきり何も考えてないのかと…てかそのためのバイト……はぇぇ」
「おーい、眼鏡ちゃん先行くぞ」
「肉だ肉だー!」
各自、目当ての肉料理を購入して会場を離れ、ほっと一息つく。
昼時のフェス会場はものすごい人手だった。何日かに分けて開催されて、客が分散しているはずなのにこれだ。肉の吸引力には恐れ入る。
「フィレ肉うま!」
「ステーキやば…ステーキ…」
「カツうめー」
「おにくおいしい」
「お前ら語彙力足りてないぞ」
美味しい物を前にすると、理性とか知性は失われるので。目の前の肉を食べなさい、と本能が囁いている気がする。
何をするのも、お腹が満たされて相応の賢さを取り戻したあとだ。眼鏡くんがぽつりと言った。
「奢ってもらっておいてなんだけど、肉フェス行くって最初から言ってくれてよかったのに。お金も払うし」
「んー別にいいよ。俺らはともかく、肉のためだけに出かけるってメンバーじゃないって思ってたし」
「実際、浮かれ気分の街をぶらぶらするのが目的でもあるからな」
陽キャ2人組の言いたいことはもっともだ。
肉が嫌いな人は少数派だ。好きな人と普通の人だったら、好きな人のほうが多い。それでも、肉を目当てに出かけてそれなりの金額を払うのを喜ぶ人が多数派かと言われると大いに疑問だ。
「てか、暑いしそろそろ屋内入る?」
「賛成、冷たいものほしい」
適当な商業施設に入る。中はひんやり涼しい。何気に今シーズン初の冷房かもしれない。
微妙に納得いっていなさそうな顔をしながらも眼鏡くんは大人しくついてきた。
「おい、あれ見ろよ。すっげー頭悪そう」
「何食ったらドリンクの蓋代わりに綿あめ乗っけようって考えつくんだよ」
「綿あめでしょ」
「脳みそまで綿あめに侵食されたんだ」
糖分×糖分=幸せ
カツカレー理論と同じ、馬鹿の数式によって生まれてしまった飲み物がデカデカとポスターに描かれている。案の定というか、社名が海外のそれだ。
「連休限定でジャンボサイズ販売中だって」
「よし、買おう」
だが、高校生という生き物は馬鹿だった。
「おまちどうさまです! こちら、ジャンボサイズ3つですね〜」
それは巨大すぎた。
まず飲み物の容器が明らかに別規格。氷によって、ある程度かさ増しがされているとはいえ、ちょっとしたバケツぐらいのサイズ感。
その上に鎮座するのは、その辺りの町内会のイベントで百円で買える綿あめなどとは訳が違う、単品でも五百円くらい取られそうな色付きの巨大綿あめである。
「……買わずに後悔するより、買って後悔するほうがいいよな!」
「絶対に肉フェスでお腹いっぱいにしたあとに買うものじゃなかったよね」
「いけるって、7人もいるし」
「じゃあ、なんで5倍サイズを3つも買ったんですか」
「だって3種類あったし」
「うーん、この」
「全部ほぼ味一緒でしょうに」
「馬鹿じゃん」
「深刻な算数ちからの不足を感じる」
散々な言われそうだ。僕も追撃したけど。
しげしげとドリンクを名乗るカロリー爆弾を眺める。綿あめで隠れて見えないけれど、中身はタピオカドリンクだという。これを3つなんて本当に消費しきれるのだろうか。
しれっと戦力に数えられていたのは聞かなかったことにしたい。飯塚さんがそっと手を挙げた。
「あー……私は今すぐそこのキャラクターショップに行かねばならないのだが」
「わ、私も…お台場限定ステッカー買わないと…」
「アザラシに水槽の魚見せたい」
「僕も魚見たいし、ついていこうかな」
「お前らも協力するんだよ!!」
しかし回り込まれてしまった!
人間、大きな声にはつい従ってしまうものだ。椅子から腰を浮かせていた眼鏡ちゃんがうっかり着席してしまったのを見て、観念した僕らは、過酷な挑戦に臨むことになったのだった。
長く苦しい戦いだった……。
「もう1年は綿あめ見たくない」
「飲み物まで甘いの何かの暴力でしょ」
「最後の薄まったタピオカミルクティーほんま」
途方もない敵を相手にして、なんだか度胸がついた気がする。
「気づいたらもう夕方じゃん」
「おみやげでも買う?」
土産物店ならいくらでもある。
フェザーマンの御当地ストラップを見つけた。レインボーブリッジを背にそれぞれ決めポーズを取っている。
手に取ったら後ろから矢嶋が声をかけてきてびっくりした。
「うわ懐かしい、昔見てたわ。そういうの好きなの?」
「うん、まあ」
別に好きというわけではないけれど、双葉は気に入っている。
フェザーマンは今も子ども人気の高い長寿シリーズだ。双葉は全作追っているし、なんならフィギュアも収集している。楽しそうにあれこれ語る双葉は可愛いから、話を聞くうちに知識は自然にたまっていく。
「意外だな」
「そう?」
「おう、今日はみんなの知られざる一面を大発見? 眼鏡くんが射的得意なんて知らなかったし。樋口はあんま自分のこと話さないだろ?」
自分の話をするのでは、他の人達みたいに聞いていて愉快な話はできそうにない。
基本的に用でもなければ出かけないし、歩かないので棒にも当たらない。家の中でのことを話すのは…理解を得らえるとも思わないし、わざわざ話すこともない。
「好きなものとか、本以外しらないし」
「虫はわりと好きだよ」
「つまり小学生男子が好きそうなものが好きということでファイナルアンサー?」
断定するにはサンプル数が少なすぎやしないだろうか。今のところ反証できないけど。
双葉へのお土産にストラップを、佐倉さんにはコーヒーに合いそうなチョコレート菓子を買う。
他のメンバーもあれこれと思い思いのおみやげを買っている。リュックがアザラシぬいぐるみでみっちみちな眼鏡くん以外は。
「楽しかった〜!」
「縁日よかったよね。一足早い夏祭りって感じで」
「肉美味しかったし」
「タピオカ……綿あめ…うっ頭が」
「ま、まあ、団結ぱぅわーがさ、ほら、いい感じに高まった的な? な?」
「いや、さすがにアレをいい話風に済ませるのは…」
「か、解散!! 楽しかったね!!!」
声のデカさで全てを解決して、解散の流れになった。
視界の端で金髪が揺れ、それとなくスマホの電源を落とす。別に異界にはいかないだろうけれど、気兼ねなく話をするにはその方が良い。
「あれ、樋口は帰らないの?」
「もう少し歩こうかなって」
「ふーん。じゃ、また明日」
「うん、また明日」
矢嶋が去っていったのを見計らって、リャナンシーが隣に寄った。
潮風になびく長い髪を尖った耳にかけて穏やかに微笑む様子は、恐ろしいほどに美しく見える。素で魅了を入れてくるあたり妖精だ。
『とても賑やかだったわね』
「連休なんてこんなもんじゃない?」
『ええ、あなたの言う通りかも知れないわ。ねえ、少し歩きましょう』
ふわふわ飛ぶくせに、人間みたいな言い回しをするものだ。
この辺りを懐かしいと評したわりに、リャナンシーは真新しいおもちゃを与えられた子どもみたいに街を眺めている。ゆかりのある土地ではなかったのか。
「満足した?」
『ええ、この目で見られたもの』
特に言葉を交わすことはなかった。ただ街を眺めるリャナンシーは、僕の知らない誰かみたいだ。街を、人を、彼女はただ見ていた。
ふと、工事現場の前でリャナンシーが止まる。
『これは何を作っているのかしら?』
「確か競技場じゃなかったっけ……ん?」
真っ白な仕切りの前で、見慣れた赤髪がひょこっと揺れる。こちらに気づいたらしい少女は大きく手を振って、サインを送ってくる。
それを見たリャナンシーは、どうせ余人には見えやしないのに、たちまち姿を隠してしまった。
「佐倉くん。奇遇ですね」
芳澤さんがにっこり笑う。珍しい場所で会ったものだ。
「本当に奇遇だね」
「あはは……。その節はごめんなさい」
きっちりした動作で、ペコリと頭を下げた。
そんなふうに謝られるようなことをされた覚えはなくて、困惑していると、芳澤さんは困ったように笑った。
「差し出がましいことを言ったかな、と思いまして」
「そんなことないよ。むしろ、謝るならこっちの方」
直接的に何か言った訳ではないにせよ、善意を無下にしたようなものだ。
少なくとも、芳澤さんが望んでいた受け答えはしなかったと思う。
「……あの、少しお時間ありますか?」
「あるけど、芳澤さんこそいいの?」
「はい。今日はもう練習は終わりましたから」
芳澤さんとふたり、街路樹の縁に座る。視界は工事の仕切りにふさがれている。
上を見上げても建物らしきものはまだ何もない。背の高いクレーン車がいくつか見えるだけだ。
「ここ、私たちにとって特別な場所なんです」
たち。
以前に言っていた、二人で世界を取ると誓った相手のことだろう。
「スタジアムができたら、ここで新体操の大会も開かれますから」
「一緒に世界を取るんだよね」
「はい。
……でも、本当の意味で、それは叶いません」
唇がきゅっと結ばれる。
それだけで、このあとに続く言葉が予想できた。
「亡くなったんです。交通事故で、少し前に」
「そう、なんだ」
「あの子の分まで頑張らないとって思うほど、練習も上手くいかなくて。ここに来たのは、原点を思い出すため、でしょうか」
視線は、仕切りに貼られた競技場の完成予想図に向けられている。
僕には大きな競技場だ、としか感じられないけれど、彼女には大切な約束が見えているのだろう。
「私、無意識に佐倉くんを、あの子と重ねていたのかもしれません」
言葉にした後も形が掴めない、といったような言い方だった。いつも、はきはきと話す彼女らしくない。
「姿形は違いますけど、どこか似てるんです。
佐倉くんを見ていると、あの子が今もいるような気がして……つい、出過ぎたようなことをしてしまいました。佐倉くんは佐倉くんなのに」
芳澤さんは言葉を重ねる度に、いつもの調子を取り戻していった。
「すみません。こんなこと言っても、もっと困らせるだけでした」
言いにくいことを言わせてしまった。少なくとも僕は、そういうことを人に話したくないし、触れられたくない。
けれど、芳澤さんはそれよりも自分の行動の真意を伝えることを選んだ。その真っ直ぐさは、いっそ鋭利と言えるほど。
「それを言うならお互い様だよ」
「え?」
「僕も芳澤さんを通して別の人を見てたってこと」
以前、芳澤さんが僕のことを不思議だと言った。行動の理由が分からないから、と。
芳澤さんがクラスに溶け込めるようにと思ったのは、双葉にしてあげたいことだから。代償行為、あるいは予行演習として。
予想できる成果が良いことであるなら、何の問題もないと僕は今でも思っている。
「良くなろうとする人は良い人、でしょ。なら、動機は重要じゃないんじゃないかな?」
「それは、ちょっとズルいです」
正しさが人を守るとは限らない。
芳澤さんの真っ直ぐさは、いつか破綻する。双葉がそうだったように。けれど、すでに破綻していてもおかしくないのに、どうしてか保っている。
僕に似ているというその子が守りおおせたのか、溢れんばかりの才能で弾き返してきたのか……けれど、今の芳澤さんには少しのズルさが必要だ。それが彼女の純真さを鈍らせるとしても。
「…もう少し、自分なりに考えてみます」
「うん」
一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします
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カズハ
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ヒトハ
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イチヨウ
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