双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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川の光ならチッチが好き。
白くて小さいふわふわは全人類好きだと信じているので初投稿です。



25駅目 遺跡

 

 

5月15日(日)

 

 

 今日も今日とて、双葉の部屋にお邪魔している。

 別に何をする用があるわけでもない。双葉はネトゲ、僕はスマホで読書、同じ空間でそれぞれ違うことをしている。

 

 ある時、双葉がヘッドフォンを外して、クッションの上にやってきた。一人用で満杯なのに、無理やり隣に収まる。

 

「もうそっちはいいの?」

「うん」

 

 いつものネトゲからはもうログアウトしたらしく、先ほどまで賑やかだった画面はいつものデスクトップに変わっている。

 モニターが唯一の光源なので、寝ているとき以外は消されることはない。

 

「よく一緒になるフレンドが、別のフレンドと友達になって楽しそうにしてた」

「あー…」

 

 気まずいやつだ。

 ゲーム上でも、双葉が誰かと一緒に遊ぶ約束をしているところは見たことがない。どうも、そのとき一緒になったフレンドと遊んでいるみたいだ。

 基本ソロプレイで生きている双葉は、同好の人間相手でも友人関係を築こうとしないので、たまにこういう場面に遭遇する。1対1の関係なら問題なくても、人数が増えるとあっという間に距離をとる。

 

 双葉がまともに友人関係を築けたのは、転校したカナちゃんくらいなもので、確かあの子とも最後は仲違いをして別れたはず。僕とは別のクラスだったから、詳しいことはよく知らないけれど。

 

「嫌いな学校行事の話で盛り上がってる。わたし、そういうのない」

「いくつか参加してなかったっけ?」

「行事自体は別に嫌いじゃない」

 

 どちらかといえば、何をやるかより誰とやるかということなのだろう。

 対人関係を除けば、双葉が極端に苦手とすることは思い当たらない。少し羨ましい。

 

「一葉は運動会でしょ」

「うん。あとハイキングとか」

「置いてかれるもんね」

「追いつくと休憩が終わるんだよ、ああいうの」

 

 どうしてああいうイベントでは、全員で頂上に向かうのだろうか。習熟度別にして欲しい。道中でうろうろしながら近所にいない虫を観察していたい。

 

 双葉はハイキングもそつなくこなすんだろうなと思う。

 今でこそ引きこもりを極めているとはいえ、順当に成長していたら、平気で踏破していそうだ。体力がどこまで伸びるかは未知数だけど、運動神経は間違いなく双葉の方がいいし。

 

「一葉はできないくせに人に合わせようとする。しなくていいのに」

「ダメでしょ、バスの時間決まってるし。あと一言多くない?」

「多くない。できないの、一葉は」

「ええ……」

 

 まったく信用がない。

 

「朱に交わっても赤くなれないから、隠れてるか目になるかしかない」

「スイミー?」

「うん」

 

 急に何を言い出したかと思ったら。奇跡的にうまく拾えて、双葉が頷いたのでほっと一息つく。

 確か、スイミーは国語の教科書に出てきた。あきらかに学校の話題に引っ張られている。

 

「ネットの海に潜れば、変な色のやつはいっぱいいる。でも、同じ黒は一葉だけ」

「新手の告白?」

「わたしのこと好きだからそう聞こえるんだよ」

 

 むふふ、と笑って双葉は体重をかけてくる。

 羽のように軽いので問題ないと言いたかったけれど、しっかり端に追いやられた。

 仕方ないのでクッションを譲ろうとしたら、腕に絡みつかれて阻止される。じゃれついてくるのを抵抗したりしなかったりしている内に、ご満足いただけたようで、ぱっと離れた。

 

「知らない人とより、一葉と遊ぶほうが楽しい。考えてること分かるし。一葉も同じ?」

「同じ」

「ならばよし。ちょっと待ってて」

「何かやるの?」

 

 鼻歌交じりにパソコンを弄り始めた双葉は、慣れた手つきでゲームを立ち上げて、元の場所に戻ってくる。

 

「続き、次のボスまで。2人プレイできるのいくつか溜まってるから。はい」

 

 コントローラーを渡される。

 やるのは王道のRPGだ。2人プレイなら相棒キャラを操作できる。

 発売されてからかなり時間が経っているけれど、たまにしか遊ばないので、まだ中盤だ。のめり込むほど面白いわけでもなく、他のゲームやアニメが優先されて結局遊ばないというのを繰り返している。

 

 自機は当然のように相棒キャラだ。

 双葉がお小遣いで買ったゲームなので。それと、アクションゲーで足を引っ張った記憶から、レベルを上げれば何とかなるものでも、サブキャラでないといけない気がしてしまって。

 

「ダンジョンだね」

「ギミック多そうな予感」

「うん。ここから実績の開放率がガクッと下がってる」

 

 塔にのぼるらしい。

 しかも、見るからに崩れかかっている。好き嫌いが分かれそう。

 

「面倒くさい系かも。レバー倒したらどこかで仕掛けが動くに一票」

「ありそう。後は、マップが立体に対応してなくて見にくいに一票」

 

 塔の内部は全体的に薄暗い。明かりは上の方から漏れている日光と謎の光る草くらいだ。

 この部屋の遮光カーテンがなければ、画面の光量を上げないとちゃんと見えないだろうなと思う。

 

「それじゃ攻略開始」

 

 入って2分もしない内に、離脱者が続出した原因が分かった。

 

「あー……柱の角に引っかかって、操作性が終わるタイプか……」

「何気に人工物ダンジョン初だったね」

 

 今までそんなに引っかかる機会がなかったので気づかなかったけれど、妙に狭い通路と曲がり角の多さで凶悪さが出てしまっている。あと妙に硬い割に経験値が貰えない敵がいる。

 脱落者の多さにも納得だ。

 

「崩れる足場発見」

「よし、落ちよう」

「うん。たぶんいい感じのアイテム隠してある」

「1、2個先の街で売ってるやつね」

 

 セオリー通りに出来ているダンジョンだから安心感がある。

 予想通りミニマップは見にくいけれど、記憶力で補えるので無問題。双葉とふたり、迷わずマップを埋めていく。

 

「ここ宝箱多くない?」

「右がミミックと見た」

「倒す?」

「サポート任せる」

「任される」

 

 予想通り、ミミックが紛れていた。お決まり通り先制を取られる。

 

「強くない? 一撃で死にかけてるんだけど。これ回復間に合わないよね」

「今バフのってるから、次は耐えられる。防御と回復で、3ターンくらい持ちこたえて」

「了解」

 

 双葉がそう言うならそうだ。ダメージ計算は双葉の十八番、RPGなら基本的に事故はない。

 双葉とやると、ゲームで遊ぶというより読み物として楽しむ感じになる。話を読むのは好きなので、僕は満足だけど、人によっては楽しくないだろうなと想像できる。

 

「風耐性の指輪…鳥ボス?」

「かな? 塔だし」

 

 特にシナリオでも、塔の上で何が待ち構えているか明かされていない。重要アイテムを持って帰ってこいと、よくあるおつかいクエストの流れの延長線上でのボス戦になる。

 

「頂上決戦、の前にセーブ」

 

 いかにも何かありそうな大部屋の前に、都合よく配置されているセーブポイントでセーブする。しなくても問題ない親切設計だけど、ボス前セーブは義務なので。

 

「風耐性装備ヨシ!」

「じゃ、殴り込むぞー」

 

 ボスのお出ましだ。

 風属性らしく青緑のカラーリングをしている。ボスらしく巨大、主人公に比べて数倍はある。鋭い目、立派な爪、長い翼…スピードタイプなのだろう細身な体つきをしている。

 そんなボスが、長い尻尾を振って優雅に伸びをした。

 

「……何で猫なの?」

「かわいいから? きっと制作陣の趣味だよ」

 

 羽の生えたネコチャーンがなんか飛んでいる。なんの脈絡もなく登場したので、本当に制作陣の趣味な気がしてくる。

 

「まあ風属性ではあるから…なんで? 猫なら炎とかでは??」

「それだと前のホラーステージと被る」

「墓場だったし、あそこで猫を出せばいいのに」

 

 心臓部分に炎のともっているタイプの骨怪獣も出したかったのだろうか。…出したかったんだろうな。骨がばらばらになるシーンにやたら気合が入っていた。

 

 ネコチャーンも飛んだり跳ねたりとモーションが可愛らしい。

 嘘、飛ぶのはやめて欲しい。こちらの攻撃が当たらなくなる。アクションゲームだったら死んでいた。

 

「飛んだから防御」

「魔法使えればなぁ」

「このゲームの魔法使い、基本役立たずじゃん」

「それはそう」

 

 全体的に物理が強い設計なので、魔法キャラは早々に諦めた。

 

「あ、でも大昔になんか魔法覚えたよね?」

「使ってもいいけど、多分ダメージ通らないぞ」

 

 双葉の言う通り、弱点を突いてもダメージはほぼ通らない。当然だ。魔法使いに育てていないから。

 

「ん?」

 

 見慣れないエフェクトが出た。

 

「……こいつなんか麻痺通る」

「嘘でしょ。ボスの風格どこ…ここ?」

 

 前ボスだって状態異常は通らなかったのに。当然対策されていると思いこんでいた。

 調べられるところは全部調べてから進んだから、そんな特大のヒントがどこかに隠されていたのに見落とした、なんてことはないはず。わざわざ魔法を撃たないと気づかないなんて。

 

「いけ! 麻痺連打!」

「麻痺ってるから飛ばないぞ」

「多分今後使わないし、MP回復アイテム使っちゃえ」

「これ完封まであるって」

 

 やいのやいの言いながら、ネコチャーン討伐を進めていく。

 麻痺が効くとわかってからは、攻略が簡単に進む。ネコチャーンはあっという間に体力バーを削り取られて、伸びてしまった。

 

「ミミックの方が強かった」

「かわいそう」

 

 ボスに状態異常が効いちゃダメだなって。

 

 

 

 

5月16日(月)

 

 

 今日の双葉は不機嫌モードだ。

 

 朝も、学校から帰ってきてからも、双葉は部屋から出てこなかった。寝ているだけかと思ったけれど、冷蔵庫の中には佐倉さんが用意しただろう食事がそのまま入っていた。

 この時間まで起きていないことはないから、本当に一歩もでていないのだろう。

 

 一応持っていってみようか。

 部屋の前で一度お盆を下に置く。前に片手で持ってひっくり返した前科があるので。

 ……ラップがかかっているとはいえ、あまり食べ物を床に置きたくないから、今度何か台でも置こうか。近所のリサイクルショップにちょうどいいものがあるかもしれない。

 そんなことを考えながら、閉め切られているドアを叩く。

 

「双葉、起きてる? まだお昼食べてないよね、食べる?」

 

 ごそごそと中で動く音がして……けれど、扉は開かなかった。視界に入り込む“DO NOT ENTER”の文字が虚しい。

 しばらくして、小さな声が返ってきた。

 

「いらない」

「そっか」

 

 この調子だと、部屋の前に置いておいたところで食べない。いつもそうだ。

 仕方ないからもう一度冷蔵庫にしまっておこう。

 

「わっ」

 

 屈んでお盆に手を伸ばしたところで、強烈な目眩がして、そのまま床に手をついた。

 フローリングの手触りではなく、ザラリとした感触が指に触れて困惑する。揺れる感覚が収まるのを待って、知らず閉じていた目をおずおずと開けた。

 

「……は?」

 

 景色が一変していた。

 

 昨日ゲームで見たような建物の中、だろうか。

 驚くほど長い、幅広の階段の踊り場にいるようで、見下ろした先、遠くに出口の光が見える。

 あちこち崩れかかっていて、古代の遺跡のような見た目をしているのに、石造りの壁には所々、電子回路のように整然と並んだ青緑の線が光っている。

 

『異界だわ』

 

 リャナンシーが姿を現して、分かりきっていることを口にした。

 鴨志田先生の城同様、ここは普通の空間ではない。あのときは学校に重なって存在していたけれど、ここは佐倉家だ。

 

「……なんで今になって」

 

 もしやと思って、振り返ると巨大な扉があった。先ほどまで見ていた部屋の扉と寸分違わぬ装飾、いや、装飾というか、とても見覚えのある斜めに傾いた“DO NOT ENTER”の板などが貼られている。

 これを見せられて、誰の認知世界か分からないわけがない。

 

 行きたいと思ったときには行けないくせに、行くのを諦めたらこれだ。もうこちらには関わらないようにと思っていたのに。

 金髪の妖精は、お気に入りの歌でも歌うかのように、言葉を紡ぐ。

 

『遠くで世界の境が揺らいで、同時にあなた、異界へ落ちたのよ』

「イセカイナビが使われた?」

『そうとも言うわ。

 でも、怪盗はここにはいないみたい。きっと目的地が違ったのね』

 

 それで、双葉の認知世界に来た、と?

 ナビが起動した場所との距離は関係なく、あくまで自分のいる場所に近い認知世界に出るということだろうか。

 前にリャナンシーは、僕は現実世界との結びつきが弱いと言っていた。だから、ナビの起動をきっかけにして認知世界…鴨志田先生のパレスに迷い込んでしまったのだと。

 あのときは学校にいたから、学校と重なったパレスに出た。今回は、佐倉家にいたから、佐倉家に重なった双葉のパレスに出た。

 

「ナビって本当になんなの…?」

『あくまで予想としか言えないけれど、異界との接近事象を恣意的に起こすもの、かしら。世界と世界が接触したときの波がここまで来たのを感じたわ』

 

 自分の予想とリャナンシーの見解が一致した。正解の保証にはならないけれど、納得はいく。

 異界との接近事象、お彼岸とかハロウィンみたいなものだろう。あの世とこの世を近づけて、境をあいまいにして、その隙に向こうへ侵入する。

 

「それ逆流しないの?」

 

 さらっととんでもないことを言っていないだろうか。つまり、イセカイナビを使えば、異界側のものが現実側に来られるということでは?

 僕を軛にして現実に来ているリャナンシーとは違って、何の制限もなく。

 

『何度も説明させないで。登るより落ちる方がずっと簡単よ。

 本当に力あるものなら、ナビなんてなくても自力で上がってくるわ』

 

 つまり、位置関係としては、現実世界の下にパレス、パレスの下にメメントスがあるらしい。もし、途中のパレスに引っかからなかったら、メメントスまで落ちていたのだろうか。

 

『いい機会じゃない。もともとここに来たかったのでしょう? あなたの妹ならその扉の向こうよ』

「これどうみても双葉の部屋の扉だよね」

 

 大扉はびくともしない。

 現実の双葉の部屋に鍵がかかっているみたいに、この扉も開かないようになっているようだ。

 

『こちらの声は聞こえているんじゃなくて? トーチョーキといったかしら』

 

 城の内部を大まかにしか知らない様子だった鴨志田先生と違って、双葉なら遺跡内部の情報はしっかり把握していそうだと思う。

 

「双葉?」

 

 声をかけても返事はない。

 どうしたものかと思っていると、下の方から化物の群れが階段を登ってくるのが見えた。

 

『こっちよ』

 

 リャナンシーに促されるまま、近くの小部屋に入った。

 景色がうっすら佐倉家とダブって見える。この中なら安全そうだ。

 

『ここは呪いが効かない相手が多いのよ。電撃は疲れるし、長期戦は避けたいわ』

「詳しくない?」

『あなたが寝ていた時に一度来ているの』

 

 ……初登校前日のことか。

 あの日、雨宮先輩が初めて城に行ったという。つまり、その時もナビは起動していたわけで。

 

「聞いてないんだけど」

『言ってないもの。それにあなた、いつも私の話に聞く耳持たないじゃない』

 

 ああ言えばこう言う。

 

『その時はこの部屋に出たわ。ここは普通私たちが気づけない場所だから、私、あなたを置いてあちこち歩いてみたのよ』

「こわ…僕が起きて歩き回ってたら死んでたよね」

『そうならないように少しばかり眠ってもらったの』

「活動資金を吸い取ったと」

『ええ、親切でしょう』

 

 リャナンシーは眠らせる技なんて覚えていない。

 あるのは吸血と吸精。眠ってもらうというのは、生命力や精神力を吸いとって、戦闘不能状態にするということ。

 つまり、損耗がある程度回復するまで強制的に眠らせるという極めて暴力的な行為だ。

 

「ここについて分かったこと、一通り教えて」

『そうねぇ……建物の上に翼の生えた大きい猫がいたわ』

「なんて?」

 

 いよいよゲームじみてきた。

 話だけで想像しているから、外見が脳内で昨日のゲームのボスに変換されてしまう。麻痺が通りそう。

 

『猫よ、多分。この上を悠々と飛んでいたわ。ニンゲンかもしれないけれど』

「ごめん分からない。そもそもここってどういう建物?」

 

 下の方が広いのは階段を見た時に分かったけれど、中からでは全体像が掴めない。この遺跡(仮)から、双葉が佐倉家を何と思い込んでいるか分かるはずだから、その情報は重要だ。

 

『そう言うと思って、絵に描いて起こしたわ』

「絵とか描けるんだ」

『ニンゲンが描くのをよく見ていたもの』

 

 破り取られたページのような、一辺がギザギザした紙を渡された。

 絵というか図だった。簡単な外観図が、錆びた単色の線だけで描かれている。インクが何かは聞かないでおこう。

 

「エジプトだこれ」

 

 特徴的な四角錐、翼の生えた人面猫……ピラミッドとスフィンクスが描かれていた。

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
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