双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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ローゼンメイデンでは、ビジュは翠星石、性格は蒼星石が好き。好きな見た目と性格が一致することが極稀なので初投稿です。


3駅目 友情か同情

 

4月14日(木)

 

 今日も今日とて学校だ。

 ルブランで雨宮先輩に声をかけて、一緒に四件茶屋を歩くのにも慣れてきた。どうも歩く速度を合わせてもらっているみたいで、僕は快適だけれど、雨宮先輩は歩きにくくないのだろうか。

 

「一葉、調子でも悪いのか?」

「?」

「顔色が良くない」

「あー、夢見が悪かったもので」

 

 それと昨日の疲れが若干残っている。これだからスポーツ系行事は嫌いなんだ。

 もともと体力があまりないのとリャナンシーへの生命力の供給で、割といつも体力バーの管理はカツカツだ。人生はリソースゲーである。

 

「先輩は確か屋根裏で寝泊まりしてるんでしたっけ?」

「そうだ」

「今はいいですけど、夏は死ぬほど暑いので気をつけてくださいね」

「そんなにか?」

「そんなにです」

 

 ルブランの屋根裏は確か今は完全に物置になっていたはずだ。佐倉さんも特に片付けとかしてなかったし。ということは、自分で片付けと荷解きをした訳だ。

 まあ僕も放っておくと地層が形成される双葉の部屋まで何とかしているのだが。

 

「屋根裏に行ったことがあるのか?」

「行ったも何も、昔秘密基地にしてましたね。もしかしたらどこかに落書きとか残ってるかもしれませんよ」

 

 そんなのを残した覚えはないけど。

 

「探してみる」

「えらく真面目にとるんですね」

 

 純粋無垢、というか、騙されやすそう?

 違うな。

 双葉と似ているのだ。

 

「雨宮先輩ってもしかして、誰かに嵌められました? ここに来た件です」

 

 なんとなく、ろくでもないものの思惑に踊らされてそうな感じがある。

 

「それは分からない。でも、間違ったことをしたつもりはない」

「詳しく聞いても? 嫌なら構いませんが」

 

 雨宮先輩は特に拒むこともなく事情を話してくれた。

 要約するとこうなる。知らない酔っぱらいが女に絡んでいたのを止めたら、勝手に転んで、暴力事件ということになった。

 

「……筋書きがあったって感じですね。

 勝手に転んだ傷と殴られた傷は素人だって見分けがつきます。ろくに調べてももらえなかったのでしょう?」

「信じるのか?」

「そういうやり口に心当たりがありまして

。……先輩にだけ話させるのも悪いですから、僕の方も一つ」

 

 よく知っているとも。

 信じたくはないが、この国の警察や司法は独立を保てていない。なにか大きな力を持つ誰かに支配されている。なんて言うと陰謀論者みたいだけど。

 

「僕の本当の名前、一色一葉と言うんです。佐倉さんは養父ってやつで、立場だけなら先輩と似たようなものですね。

 佐倉さんに引き取られる前、母が他界した時も、そういう筋書きのある処理がされました」

 

 僕と佐倉さんの関係については予想くらいしていたのだろう。先輩はいつものすました顔で頷いた。

 

「あまり派手なことはしないほうがいい、と思います。鴨志田先生と対立してるんですって?

 長いものには巻かれておく、少なくとも平穏に過ごすなら、そう見えるようには振る舞わなければならない」

「同じようなことを佐倉さんにも言われた。一葉はそうしているのか?」

 

 そうせざるを得なかったというのが近い。僕には双葉がいた。

 幼い双葉を置いて無茶はできなかったし、この先もするつもりはない。

 

「そう見えるならそうなんじゃないですか?」

 

 少なくとも認知世界では、それが真実になる。

 

 

 

 昨日の球技大会のおかげか、いい意味でも悪い意味でも、新学期の緊張感は消え去ったらしい。耳に届くゴシップの類は正直胸焼けしてくるレベルだ。

 

 雨宮先輩の前歴、5割。

 鴨志田先生のセクハラ、3割。

 芳澤さんの特待生関係、2割。

 

 比率で言えばこんなものだが、内容的にはみんな違ってみんな酷い。明らかな誇張も紛れているにしても、当人が聞いたらと思うと頭を抱える噂ばかり。

 どこに首を突っ込んでも火傷しそうではあるものの、捨て置くわけにはいかない。

 単純に見ていて不快だからとか、いじめを許さない正義感とか、そういうのがないわけじゃないけれど、これを見過ごしたら双葉は安心して外に出られないと思うから。

 

 

 雨宮先輩の前歴の件については、今のところ自然鎮火待ちでいい気がする。

 雨宮先輩自体は、あの何考えているんだかわからない顔でうまく躱すだろうし、今後投下される予定の燃料もない。それに、ルブランで生活しているのだから、何かあったとしても僕や双葉や佐倉さんが動向を追える。

 

 鴨志田先生のセクハラについては、どう手を打ったものか悩むところ。実際そういう事があったのかどうかも僕みたいな外野は知り得ないし、いたずらに場を引っ掻き回すだけな気もする。

 学校の権力構造が主に悪いので、保護者クレームやメディアの砲撃で何とか? ネットで死ぬほど炎上させるのもできなくはないだろうけど、生徒の実名とか挙がりそうで嫌だ。

 一旦保留。最悪リャナンシーの魅了で片付ける。

 

 芳澤さんに関しては、女子グループから完全に浮いている件を何とかしない限り厳しい気がする。

 双葉の時もそうだったけれど、女子の場合は特に群れの同調圧力が強い。才をうまく隠して擬態するか、強い群れの庇護を受けるか、どちらかが戦略になる。芳澤さんの場合、学校によって前者を選べないので、強い群れに所属させるしかないのだが、つるんでいる相手は僕と矢嶋、つまり男だけ。完全にターゲティングされる条件が揃っているのだ。

 

 

「特待生の芳澤さんってさ、ウチらみたいな入学前の課題出されなかったらしいよ」

「えー、ずるい!」

「声大きいって。ほら、こっち見た」

 

 小学生女子かな?

 しかし驚くべきことに、都内の私立のそこそこ進学校の高校生の姿である。世も末だ。

 そういう訳で、芳澤さんのクラス内の立場は非常に不安定なものになっている。

 

「隣のクラスにさ、特待生の子がいるんだって。でもすごい性格悪いらしいよ」

 

 お前がな。

 他クラスにも飛び火しそうな勢いだ。

 廊下でもこんな話が聞こえてきて、こりゃまずいと思ったものの、芳澤さんは状況を分かってるんだか分かってないんだか平常運転である。

 けれど、ああいうのは精神にスリップダメージを与えててくるものだ。今は大丈夫でも、それが1週間、1カ月、1年と続いて平気でいられるやつは多くない。

 

 

「というわけで、矢嶋。なんかいい案ある?」

「お前、芳澤さん√狙いかよ」

 

 とはいえ、僕も別にクラスに馴染んでいるわけではないので、そういうのがうまそうな専門家を、女子と別れる体育中に捕まえて、軽く掻い摘んで事情を話したのだが。

 

「茶化すな、真面目な話。

 このままじゃ絶対にどこかで潰れる。人はそんなに頑丈にできてないんだから」

「なんだよ、急に。俺たちは俺たちで楽しくやればいいんじゃないの?」

 

 危機感というものは特にないのである。まあ僕も双葉の件がなければさほど深刻にとらえなかっただろうし、それはいい。

 一番の不満点としては、双葉の思考回路と矢嶋の思考回路が似通っていることである。

 

「別に矢嶋の意見がだめってわけじゃない。大事なことだ。けど」

 

 それだけで守り切れるなら、そんなに簡単なことはない。

 

「一つ聞かせて。矢嶋は球技大会のとき、どうして僕と芳澤さんのところに来たの? 矢嶋は他のやつらともうまくやれたでしょ?」

「そんなに深い意味はねえよ。お前らとのほうが面白そうって思っただけだ」

 

 完全な嘘ではないだろうけれど、それが主目的とは思えない。芳澤さんはともかく、僕みたいな性格のひん曲がった陰キャとつるんで楽しい訳ないだろ。

 

「僕はさ、矢嶋が繋ぎ止めようとしてくれるように思ったよ」

「考えすぎだろ」

 

 正直あの場面で、僕と芳澤さんの側に来る必要なんてなかった。

 入学して1週間以内の友人関係なんて、そこらに落ちている鳥の羽より軽いもの。楽しく生活したいなら、早々に合わないやつは切り捨てて自分のしたいようにするべきだ。

 

「違うね。だって、最初からそういうムーブしてただろ。

 最初に来た日、僕が陽キャに紛れればよし、そうでなければ芳澤さんを巻き込んでグループ形成、って考えてたんじゃない?」

 

 矢嶋が何を考えてその役割を選んだのかはしらないけれど、中抜けさせるつもりはない。中途半端は一番いけないことだから。

 にこにこ笑って矢嶋の目を見続けて2秒。彼は白旗を揚げた。

 

「俺、お前のこと苦手だわ」

「あいにく男に好かれる趣味はないし。じゃ、作戦会議な」

 

 ひとまず、協力者は一人確保できた。

 矢嶋はムスッとした顔で頷く。

 

「てか、お前に策ないのかよ。普通なんか出すのは言い出しっぺだろ」

「ごもっとも。っていっても、僕そういうのに疎いからさ。主犯格とっちめて、つるし上げるとかならやれると思うけど」

「次そいつの番になるから却下。

 つーか、お前そのレベルの大雑把頭で、なんで芳澤さんのことそう断言できるんだよ」

「勘だね」

「勘かよ」

 

 勘を馬鹿にしてはいけない。

 僕自体はアホでも、肉体は優秀なので、意外と勘で正解を引き当てるのだ。おかげで勘だけで生きているみたいなところはあるけど、あまり困っていない。

 

「経験に基づいた言語化の難しい推論ともいう。見たことあるんだよ、そういうの。矢嶋はないの?」

「ないやつなんていねぇだろ。

 お前の言いたいことは分かった。だけど、俺らにゃ荷が重いとは思いませんかね?」

 

 矢嶋は往生際悪く、まだ逃げようとしているらしい。

 もう一押ししてみようか。

 

「ま、結局のところ全部変えるのは厳しい。だから、火元を押さえるのが一番だと思う。

 裏掲示板のコメント消して回るだけで、ある程度マシになるはず。ネットの海と違って、消したら増えるなんてこともないでしょ。みんなそこまで芳澤さんに興味ないし」

「案あるじゃねえか。最初から言えよ」

 

 最初から穏便な案を言ったら、じゃあお前一人でいいよねって逃げるだろ。矢嶋との関わりがそんなにあるわけじゃないけど、それだけは容易に想像がつく。

 

「裏掲示板の火消しは僕がやるとして、リアルに持ち込まれると弱い。戸をたてるべき口の数が多すぎるから。

 で、数が足りないなら周りを巻き込めばいいと思った。そこで矢嶋ってわけ」

「俺そういうつもりで交友関係広げたつもりないんだけど。まあいいや、やってみるから期待せずに待ってろ」

「まかせた」

 

 そんな流れで、矢嶋はクラスのほんわか言論統制、僕は裏掲示板の火消し業に勤しむことになった。

 

 昔取った杵柄というやつで、ネットの海での戦いは心得がある。

 そういうのは双葉のほうが得意だけど、物覚えのいい頭のおかげで双葉の趣味に付き合ううちに身に着いたのだ。

 一時期の双葉は正義の味方ごっこにハマっていた。厨二病というやつだ。何をしたかといえば、炎上仕掛人。クラッキング等で悪事の証拠を集めては、ネットの海に大公開。真っ当に考えて止めなければいけなかったことだけど、双葉にやりたいことができたならまあいいかと放置……どころか、がっつり加担した。どうかしていたのだ、僕も。

 そのうち、偽物が雨後の竹の子のごとく湧いて出てきて、きりがなかったので萎えてやめたけど。

 

 

 目に見える効果があるものは結構楽しい。暇な時間はアレなコメント蔓延る裏掲示板の魚拓を取ってからコメ消しする作業をしている。

 芳澤さん関連だけでなく、誹謗中傷やら個人情報やらのコメントは消して回る。割れている窓は更に割られるので。

 やや、きれいなインターネットに近づいているからか、最近の投稿はペースが落ちている。この分なら、数日程度、そう遠くないうちに一掃できるかもしれない。

 

 通知が点滅した。

 ポップアップを見ると『手伝うか?』なんて双葉からメッセージが届いていた。

 双葉の手を借りるほどのことでもないけれど、協力してくれるというのなら素直に嬉しい。『感謝。やりすぎないで』とだけ打つ。

 

「佐倉くん、お昼ご一緒しませんか?」

「あれ、矢嶋は?」

「今日はあっちみたいです」

 

 芳澤さんの視線の先を目で追うと、数人の男子に交じる矢嶋が見えた。右から運動できるやつ、顔のいい奴、運動できるやつ、現時点で一番モテてるやつ……つまりまあ、見事にクラスのカースト上位勢だ。よく物怖じせずに話しかけられるな、焚きつけておきながらそんなことを思う。

 

「佐倉くん、今日はお弁当なんですね」

「うん、時間あったから。あいかわらず芳澤さんのお弁当は、その、圧倒されるね」

 

 いくら新体操をやっているとはいえ、お重サイズの弁当が三段は到底消費できるエネルギー量とは思えない。栄養バランスやらカロリーやらを計算しているというが、それにしても目を疑う光景だ。

 芳澤さんと比べたら完全に小鳥の餌だ。

 

「お料理得意なんですか?」

「得意ではないかな。できはするけど」

 

 記憶の中にある、母の味を再現しようとしている。

 もっとも、うまくできた試しはない。近いものはできても、どこか違う。同じ人が作らないとだめなのかもしれない。佐倉さんのカレーは、思い出と寸分たがわぬものが出てくるのだから頭が上がらない。

 

「だから練習も兼ねて、なるべく作るようにはしてる」

「わあ、偉いですね」

「僕で偉けりゃ、芳澤さんの方がもっと偉いでしょ」

「私は両親に手伝ってもらってますし」

 

 スポーツをやっている優秀な子は大体の場合、親の情熱も凄いものがある。芳澤家も多分そうなんだろうな、と思う。

 頼れる両親がいるというのは、精神的な支柱がしっかりしているということだと思う。今世はともかく僕はそれを知っていて、双葉は知らない。

 いけない、明らかに思考が良くない方に寄っている。

 

「それでもだよ。練習もあるんでしょ? 芳澤さんってどうしてそんなに頑張れるの?」

「約束をしたんです。一緒に世界を獲ろうって。もちろん、私がやりたいことだからっていうのもありますけど」

 

 約束。

 一緒に世界を取る。

 

「なんとなく、分かる気がする」

 

 別の人種だと思っていた芳澤さんに、ここにきて初めて親近感を抱いた。

 その感覚は、とても馴染みのあるものだ。自分のためではないから頑張れる、なんて綺麗なものじゃないかもしれないけれど。

 

「頑張ってね」

「はい!」

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

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  • イチヨウ
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