艦これなら時雨が好き。
ゲームはやるのが辛くて数年放置しているので初投稿です。
5月27日(金)
「おはよう」
「おはよ…う…?」
登校してきた矢嶋の鞄に奇妙な星形がぶら下がっていた。
すごく見覚えがある。全体的に赤くて、真ん中に目がついている。ただのストラップで動かないはずなのに、ぐるぐる回っているような気がしてきた。あと何かストラップにしては妙に大きい。
「その、星みたいなのなに?」
「アキバのガチャガチャで出た。なんかいいよな、絶妙なデザイン」
どう見ても向こうの存在がモチーフなのだけど、本当にただのストラップみたいだし、似ているだけと考えるべきか…。
そんなマニアックなガチャガチャがあるとは思わなかった。
「誰向けなのさ」
「噂だと集めてるやつが居るらしいぞ」
「ええ…」
蓼食う虫も好き好きとは言うけれど、もっと他に集めるものがあるだろう。
「それ、最近流行ってるやつですよね」
隣で様子を見ていた芳澤さんが、興味を惹かれたのか聞き捨てならないことを言って話に加わってきた。
「流行ってるの…!?」
「あれ? 違いましたっけ。先輩がこういうのを付けてたので、てっきりそうなのかと」
誰とは入っていないのに、約1名つけていそうな人物が頭に浮かぶ。今度見かけたらよく見ておこう。
「あーそうそう、チョー流行ってる、めちゃ流行ってる」
「適当に話合わせないで」
「でも、よく見るとかわいいですね」
こんなのが流行ってたまるか。
女子高生の使う“かわいい”はヤバいと同義語だから全く信用ならない。
「だよな、芳澤さん話わかるー」
「僕がおかしいの、これ」
などと思っていたら、矢嶋もそっち側だったらしく、なぜか盛り上がっている。普段は特にストラップの類をジャラジャラつけている訳ではないのに、目玉つき星形に限ってつけてきた時点で、何からの魅了状態とかにされていたのかもしれない。
『これには何の力もこもってないわ』
勝手に思考を読むな。
呼ばれた気になったのか、リャナンシーも姿を現した。
この赤い星形は純粋な魅力?で“かわいい”と評価されているらしい。むしろ何かの超常的な現象であってほしかった。
『私のチャームもあるのかしら』
楽しそうにしているところ悪いけれど、こういうのは大体全6種とかだと思う。
いや、それならもう少し見た目が万人受けしそうなやつを入れるはず……いや、なんとなく、この星形は全6種でも狭き門を突破しそうな気がする。
とはいえ、ラインナップは少し気になる。今度双葉のお使いとかで行く時にでも見てみようか。
「つぎ体育か」
午後の体育は全部滅んでほしい。できれば午前も。
ロッカーから体育着を引っ張り出しながら適当なことを考えていたら、矢嶋に声をかけられた。
「本当に体育嫌いだよな。
今日は鉄棒の続きだろ。ほら、更衣室行くぞ」
できないことを見せつけられるだけの時間を逆にどうやって好きになれと。
少しでも得意分野があればマシだろうけど、ただの一つもないので救いはなかった。
「でも、鉄棒はそこまで嫌いじゃないよ」
「そうなん? てっきり全部嫌いなのかと」
「だいたいそうだけど、鉄棒と水泳は平均点取れるから」
「お前の上限値がみんなの平均点かー」
事実だけど悲しくなるから言葉にしないでほしい。
「お前なりの得意分野はあるのな。そういや、新体力テストでも……やっぱいいや」
「うん、放っといて」
得意分野、とカウントしていいのかそれは。すべて平均点未満のものを評価するって難しい。
新体力テストも目に見える形でできないと示してこなくていいのに。そんなの言われずとも知ってるし。
まだ結果は返ってきていないけれど、毎年のことだから見ずとも結果が想像できる。長座体前屈が平均に一番近くて、反復横跳びやシャトルランが低い。
特にシャトルランは音だけでうっすら気分が悪くなるレベルでできないし嫌いだ。
「お前、肩どうした?」
「ぶつけた」
「ほーん」
そういえば、昨夜佐倉さんに掴まれたところがアザになっていた。
そんなに強く掴まれた気はしていなかったのだけど。甘んじて受け入れなければいけない。とっさの力加減ができないほど心配をかけたこちらが十割悪いので。
「ちょいまち。お前、今日ヒマ?」
放課後、帰ろうとしたら後ろの席から声を掛けられた。
「まあ、ヒマだけど帰る」
「ビッグバンチャレンジしようぜ」
「話聞いてた?」
ビッグバンチャレンジ…特大サイズのバーガーを時間内に食べ切れるか、という特別メニューのことだ。
冗談抜きに巨大なので、真っ当な神経と胃袋を持っているなら注文できない。絶対残すものを注文するとか普通にもったいないし。
「誘うなら芳澤さんでは?」
「えっ、私ですか。
ええと、今日は練習ですし、摂取カロリーと栄養バランスの管理があるので……楽しそうですけど。ごめんなさい」
間違いなく断られるだろうと思っていたけれど、思ったより丁寧に拒否されてしまった。お先に失礼します、なんていって去っていった。
食べようと思えば、芳澤さんなら多分余裕だろうな。毎日あの重箱弁当を平然と平らげてるし。下手したらビッグバンチャレンジより量が多いかもしれない。
「じゃ樋口は普通のやつでいいから。で、俺の勇姿を見届ける役やれ」
「そんなにバーガー好きだったっけ。急にどうしたの?」
「ほら、男児たるもの箔をつけないといけないだろ」
「そんなのでつく箔に価値ある?」
第一、大食いならお台場で痛い目を見ただろうに。何とか全員で処理しきったものの、さすがに2度目はないなと思う。
普通に食べきれなくてこっちに回される流れじゃないか。
「うえーん、いつになく冷たい。ひどい、いじめだー」
全く悲しんでいなさそうに泣き真似を始めた。
ここまで纏わりついてくるとなると、振り切って帰るほうが面倒か。
絶対に断らなければならない理由もないし、さっさとビッグバンチャレンジを済ませて帰ろう。
「やめなよ、みっともない。……分かった。行けばいいんでしょ、行けば」
「よっしゃ!」
そんな訳で、渋谷のビッグバンバーガーにやってきた。
ビッグバンバーガーに入るのは随分久しぶりな気がする。
ど田舎以外の駅前なら大体どこにでもある規模のチェーン店だけど、同価格帯ならファミレスを選択することが多いので、遭遇頻度のわりに入店しない店ランキング上位を維持し続けている。
いつも混んでいる印象だったけど、待ち時間は特に書かれていない。
宇宙船みたいな装飾が目に痛い店内をざっと見渡すと、狭い二人席が空いているのを発見したのでそこに収まる。
「矢嶋と向かいの席って何か違和感」
「そうか?」
いつも自分の席から後ろを向いているので、正面を向いているだけで若干しっくりこない感じがある。
正面から視線が合うのが嫌で、後ろめたいことがあるわけでもないけど何となく目を伏せた。
「じゃ、ビッグバンチャレンジ行くか。お前は?」
「ドリンクバー」
「腹減らね?」
「夕飯入らなくなる」
食べきれなかった分を押し付けられるのだろうし、普通に自分の分を注文したら酷い目にあいそう。
一応メッセージアプリで佐倉さんに事情を伝えておく。昨日の時点で一度夕飯をすっぽかしているので、今日もというのは申し訳ない。
「おまたせしましたー!」
「すげーでけー!」
「ボックス席空くの待ったほうがよかったかな」
盛れるだけ盛ったバーガーが出てきた。
大皿に巨大なバンズとハンバーグ、レタス等が挟まっている。トマトに至っては、一般的なバーガーとサイズが違いすぎたためか、輪切りが3つ挟まっているらしい。これでもまだ初級レベルだというから驚きだ。
テーブルがこれ一つでほぼ占領されたので、ジュースを避難させなければならなかった。
「計測開始しますねー」
店員さんの合図でタイマーの数字が動き始める。まあ多分無理だろうなという生ぬるい視線が別の席から向けられている。
申し訳程度に写真を1枚だけ撮って、矢嶋は巨大バーガーに挑み始めた。
「がんばれー」
「棒読みすぎだろ。もっとこう、魂とか込めてくれよ」
巨大すぎてかぶりつくのにも、相当な器用さが求められそうだ。
矢嶋は具材が零れ落ちそうになったのを見て早々に持つのを諦め、フォークで切り崩すことにした。が、多分レタスをめくったまま、切らずに乗せているせいで、繊維を切るのに苦労している。これではタイムアップするだろう。
「すでにもういいかなって思ってきてるんだが」
「まだいっぱい残ってるけど」
「一般的ビッグサイズくらいはもう食べてるって」
はじめの方は喜んで食べていた矢嶋も途中からげんなりした顔になってきた。
食べ始めてから15分ほど経過したところで、食べるスピードも落ちてきた。テレビで見かけるような大食いはなかなかできたものではない。
「小さい頃にさ、懸賞か何かで当たったバケツプリンキットを思い出すわ」
「喋ってないで食べなよ」
「なんかこう、大きすぎて平べったく形が崩れたんだけどさ。すごい嬉しかったんだよな。最初は」
「なんで同じ轍を踏むかな…」
ジュースをちまちま飲みながら、悪戦苦闘している矢嶋を眺める。勇姿か、これが。強制参加させられなくてよかった。
「でもさ、でっかい食べ物が目の前にあるのって幸せじゃん」
「全然幸せそうに見えない」
注文直後くらいが幸せの頂点だった気がする。
やがて、バーガーを口に運ぶ手が止まり、無言の時間が過ぎる。こちら側から見るかぎり、巨大バーガーは全く同じ見た目を維持しているように見える。
「……ギブ」
「残念、チャレンジ失敗ですねー」
あっさりギブアップした。
まだ皿の上にはかなりの量が残っているけれど。店員さんが、まだ残り時間の残っているタイマーを回収していった。
「粘らなくてよかったの?」
「時間を追うごとに腹の中で膨れるんだよ」
バンズが主にダメだったらしい。
「たすけて樋口えもん」
案の定、チャレンジ終了後の処理要員にされた。そんなことだろうと思っていたので、参戦すべく巨大バーガーをよく確認した。
「半分くらい残ってるじゃん」
「三分の二は食べたし」
「そうかなぁ」
本人的には三分の二は食べたことになっている。矢嶋は以降、言葉にならないうめき声をあげて、お腹を擦っている。
一般的な胃袋の持ち主でこれなら、残り全部を片付けるのは到底無理なので、手伝うのは少しだけにした。
もう冷めているかと思いきや、まだ中の方はほんのり温かい。
「それで、本題は?」
「ん? たった今敗北したビッグバンチャレンジだろ」
早々にギブアップしてヘラヘラしている時点で、そこまでビッグバンチャレンジに執着している感じではない。
「いつも真っ先に帰る矢嶋が、そんなことで人を誘うとは思えない。何か頼み事があるとかじゃないの?」
「俺だってたまにゃダチを誘って飯くらい行くわ。友情を深めるためのミッション的な? 必要だろ、そういうの」
「友情ねぇ…」
学校外でも継続するような関係だったっけ。
いや、前にも一回こんなことがあった。送ってもらったときだ。あの時と同じ意味なら、矢嶋は勘違いしていることになる。
「んで、ダチに何かあったっぽかったら話を聞くだろ?」
つまり、今は自分が矢嶋のフォロー対象と。眼鏡ちゃんの時とは違って人を使わずにストレートに来た。
「ありがとう。でもさ、」
「肩の、ぶつけたって場所じゃないだろ」
話を終わらせようとしたら、遮られてしまった。
「俺んとこの中学な、治安悪くてさ。怖え先輩に引っ掴まれたやつがそういうアザ作ってたの知ってんだよ」
本当によく見ている。
アザになったのは力が加わったところ…指先の部分だ。普通ぶつけるような、肩の骨があるところじゃない。
「そういうのじゃないよ」
「じゃ、マジでぶつけただけか?」
「掴まれたってところは合ってる。でも、脅されてとかそういう方向じゃないから」
いつもから帰っているだろう時間に付き合わせて、ビッグバンチャレンジ代も込みで心配して話を聞いてくれている。
この状況で、何も答えないなんて。自分でもそう思うけれど、説明のための前提情報が多すぎて要領を得ない発言になってしまった。
「それはそれで意味わかんね。どゆこと?」
「突っ込んでくるね」
「気になるだろ、普通」
いつになく押しが強い。
「それに、何ていうかさ、余計な嘘をつかなくて済むようになるだろ? その方が気が楽じゃねって話」
好奇心だけで聞いてくるなら、その方が突っぱねやすかった。
放っておいてくれとも思うけれど、芳澤さんへのいじめの件で問題が見えたら放っておくなと矢嶋を焚き付けた手前、何も言えなくなってしまう。
矢嶋はしばらく唸ったあと、思いついた、というように手を打った。
「親か?」
「…矢嶋が聞いて何になるの?」
ほとんど反射的に棘だらけの言葉が出た。
仮に、虐待だ、などと騒がれて佐倉さんから引き離されたら、次こそ普通の暮らしができるところに行けるか分かったものではない。それだけは避けなければ。
「知ってたよ。お前、そういうやつだもんな」
呆れて立ち去ってくれればいいとさえ思っていたのに、矢嶋はにやにや笑って全く意に介していない。
わかった顔をされたのに苛立って、苛立っていることに不快感を抱いた。
「親はいないんだ。小さい頃に死んじゃったから」
これには矢嶋も動揺したらしく、僅かに目を見開いた。すぐに表情を引っ込めたけど、この近距離で真正面から見ていたら流石に分かる。
「今は母さんの知り合いの人の家で暮らしてる。でも、佐倉さんはそういうことしない人だから。憶測でも二度と言わないで」
「悪い、俺」
「謝らせたいわけじゃなくて」
謝罪は必要ない。
こちらが情報を開示しなかったことまで想像しろと強要した様なものだから、そんなもの受け取れるはずもない。
「……ごめん。頭に血が上ってた。
とにかく、気にかけてくれるのはありがたいけど、矢嶋が心配することじゃない」
「何の解決もできないからか?」
そうといえばそうだし、違うといえば違う。
今回に関しては事件性がないので、本当に気にすることではない。
矢嶋がこう言ったのは、こっちの失言を受けてのことだろう。
解決できないなら聞くなと思うのは、聞く工程にコストがかかるからだ。矢嶋はすでに時間とビッグバンチャレンジ代をかけている。それに。
「心配ってさ、重いよ。
それを向けられる度に、大丈夫じゃないんじゃないかって疑わないといけなくなる」
相手にそういう意図がないのは分かっていても、人と比べてしまう。足りていないことを自覚させられる。すると臆病さが前に出て、不安になる。
贅沢な話だ。気に掛けてもらえているのだから、それに報いられるだけの成果や感謝を見せなければいけないのに。
「アザに関しては本当にアホみたいな話だからさ、黙秘させて」
「悪い、俺の気にし過ぎだったわ。
…件の中学のやつはさ、しれっと転校したんだよ。高校なら自主退学もあるだろ」
劇団なんてものを作ったのは、それがあったからか。
楽しければ何でもよくて、危機感などが全くなかったら、クラスに馴染めていなかった芳澤さんにも自分にも声をかけたりしない。
「勝手なことばっかり言ってごめん」
「逆に何か安心したわ。お前が宇宙人じゃなくて」
「意味分かんないんだけど」
宇宙人って。店内の雰囲気に飲まれすぎじゃないだろうか。
自分から株を下げるターンに入ったな。真面目な話が好きでないだけか、照れ隠しか。
「ま、これで親愛イベントは済んだし、好感度上昇のロックも外れただろ」
「そんな面倒なシステムだったの?」
「おう。お前は面倒」
「悪かったね」
面倒だと言いつつも、面倒な相手に付き合ってくれるやつなんて、そういないと思う。
赤い星形が付いた鞄の中で携帯が鳴った。矢嶋は画面をチラッと見て、また鞄の中に戻す。
「姉ちゃんから。そろそろ帰れってさ」
「じゃ解散する?」
「おう」
食べられる限りは食べたけれど、巨大バーガーは未だ健在。残り四分の一は、どうしようもないので残していくことにした。
「またどっか行こうぜ」
「次は大食い禁止ね」
一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします
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